第93講 「通常10万円→今だけ3万円」― 二重価格・キャンペーン表示
第Ⅹ部 医療広告・美容医療・自由診療・オンライン診療
「通常10万円、今だけ3万円」という広告では、医療広告と景品表示法の両方を確認します。医療広告等ガイドラインは、費用を前面に押し出すキャンペーン等を厳に慎むべきものとしています。景品表示法は、実態のない通常価格を使い、実際より著しく有利だと誤認させる表示を禁止します。違反の内容により、措置命令、課徴金、故意の表示に対する刑事罰等が問題となります。
料金表に10万円と書いてあるだけで、開業以来ずっと3万円で提供を募集しているなら、10万円を「通常価格」としてよいとはいえません。ただし、消費者庁の基準は、通常の販売活動としてその価格で提供していたことを問題にしており、実際に患者が購入した実績まで必須としているわけではありません。この違いを踏まえて、期間と価格の根拠を点検します。
例えば、美容皮膚科のウェブサイトに、こんなバナーを出す案が上がりました。
「シミ取りレーザー 通常10万円 → 今だけ3万円! 今月末まで」
院長は尋ねました。「10万円で売ったことは、あるのか」
スタッフは答えました。「料金表にはそう書いてあります。実際は、開業してからずっと3万円のキャンペーンです」。
1 二重価格表示の景品表示法上のルール
通常価格等と現在の販売価格を並べる二重価格表示は、それ自体が一律に禁止されるわけではありません。ただし、比較する価格や条件に根拠がなく、実際より著しく有利だと誤認させれば景品表示法違反になります。消費者庁の価格表示ガイドラインは、サービスの価格表示にも基本的に適用されます。医療広告の規制にも、別途適合する必要があります。
| 比較対照価格の種類 | 確認する条件と注意点 |
|---|---|
| 過去の自院の販売価格 | 通常価格として示す場合、原則として「最近相当期間にわたって販売されていた価格」かを確認する。一般的には直前8週間(販売期間が短ければその期間)に、その価格で販売していた期間が対象の販売期間の過半を占めることが目安。ただし、その価格の期間が通算2週間未満、又は最後の販売日から2週間以上経過していれば、この基準には当たらない。8週間の過半は「4週間を超える」であり、4週間ちょうどではない。 |
| 将来の販売価格 | 将来価格として明示し、その価格で販売する合理的で確実な計画が必要。将来の値上げをまだ決めていない、ごく短期間だけ高くする、実態のない価格を形式的に作る等の表示には問題がある。 |
| 他院の価格・市価 | 同一の役務について、代替的に購入できる事業者の最近時の価格を正確に調査して示す必要がある。自由診療は内容が医療機関ごとに異なるため「同一」の立証が難しく、医療法上は比較優良広告の問題も生じる。実務上は避ける。 |
| 希望小売価格に相当するもの | 自院の自由診療には、商品メーカーが設定する希望小売価格のような比較価格が当然に存在するわけではない。治療機器の価格等を治療費の比較に流用せず、比較する価格の意味と根拠を確認する。 |
通常の販売活動として10万円で提供を募集しておらず、すべての患者に初めから3万円を案内していたなら、10万円という料金表だけでは根拠になりません。逆に、実際の購入者がいなかったという理由だけで、直ちに比較価格が無効になるわけでもありません。提供条件、募集期間、見積りや予約の運用等を確認します。比較用の実績を作るためだけの一時的な高値設定は避けてください。
2 「今だけ」「今月末まで」の扱い
期間を限定した価格表示は、その期間が本当に限定されていることが前提です。月末が来ても同じ価格を続ける、翌月も「今月末まで」と書き換える、延長を繰り返す。こうした運用は、期間限定という取引条件についての有利誤認表示に当たりえます。「先着〇名」「残りわずか」も同じで、実際に人数や枠に限りがなければ不当表示です。
景品表示法違反は、表示全体から一般消費者が受ける印象で判断されます。大きく期限を強調し、小さく「延長する場合があります」と添えるだけでは、誤認を解消できないことがあります。医療広告でも、注釈を見落とすような表示は誇大広告等の問題となり得ます。
3 費用の強調に関するガイドライン上の注意
医療広告等ガイドラインは、費用を強調した広告を「品位を損ねる内容の広告」として、医療広告として適切ではなく厳に慎むべきものとしています。挙げられている具体例は次のとおりです。
- 今なら〇円でキャンペーン実施中!
- 「ただいまキャンペーンを実施中」
- 「期間限定で〇〇療法を50%オフで提供しています」
- 「〇〇100,000円 50,000円」(取消線の二重価格)
- 「〇〇治療し放題プラン」
「品位を損ねる広告」は、それだけで医療法6条の5の独立した禁止類型になるわけではありません。料金を太字や下線で読みやすく示すことは、Q&Aでも認められています。ガイドラインが問題とする費用の強調と、患者が判断に必要な費用を分かりやすく示すことを区別してください。
品位への配慮を欠く広告は、行政指導の対象となり得ます。さらに、割引前の価格に根拠がなければ有利誤認、回数や期間に実際の制限があるのに無制限と思わせれば誇大広告等の問題が生じます。「品位の問題にすぎない」と考えて、表示の実態を確かめずに使い続けないでください。
4 景品表示法違反の帰結
| 措置 | 内容 |
|---|---|
| 措置命令(7条) | 消費者庁または都道府県知事が、表示の差止め、再発防止、一般消費者への周知(自社サイトや新聞での公示)を命じる。事業者名と違反内容が公表される。 |
| 課徴金納付命令(8条) | 対象となる優良誤認・有利誤認表示に係る売上額の原則3%。対象期間は最長3年。違反を知らず相当の注意を尽くした場合や、算定額150万円未満等の除外がある。基準日から遡り10年以内に受けた課徴金納付命令が確定しており、その命令日以後にも対象行為をしていた場合は4.5%。基準日は、法定の調査・通知等のうち最も早い日である。単なる措置命令歴だけで加算されるわけではない。 |
| 直罰(令和6年10月施行) | 故意に優良誤認・有利誤認表示をした場合は、景品表示法48条により100万円以下の罰金の対象となる。行政の措置命令違反を経なくても適用され得る。法人等への両罰規定もある(49条)。 |
| 確約手続(令和6年10月施行) | 消費者庁から確約手続の通知を受け、所定の期間内に計画の認定を申請する。認定が有効である間は、対象行為への措置命令・課徴金納付命令の規定が適用されない。一定の過去の法的措置歴や悪質・重大な事案等は、運用基準上の対象外。認定は適法性を保証せず、不履行等で取り消され得る。 |
| 適格消費者団体 | 優良誤認・有利誤認表示等への差止請求は34条。35条の合理的根拠資料の開示要請は、優良誤認を疑う場合の制度であり、価格の有利誤認一般にそのまま適用されるものではない。 |
| 患者との関係 | 不実告知等による誤認と契約の因果関係など、消費者契約法4条の要件を満たせば取消しが問題となる。特定の美容医療では、内容・期間・金額等により特定商取引法のクーリング・オフや中途解約も適用される(第96講)。 |
調査では、料金表の履歴、広告画面、適用期間、見積書、契約書、領収書、予約・会計の記録等が重要になります。自由診療の価格の根拠は、保険請求のレセプトだけでは確認できません。なお、7条2項等の不実証広告規制は優良誤認に関する制度であり、有利誤認の価格調査とは区別します。
課徴金は、自主申告による減額や、認定された返金措置による減額等の制度があります。ただし、調査によって納付命令を予知してからの申告は50%減額の対象になりません。患者に任意で返金しただけで自動的に減額されるわけでもないため、所定の手続と期限を確認します。
5 適法で、しかも伝わる料金表示
自由診療の費用は、患者が治療を選ぶために必要な情報であり、限定解除要件でも適切な説明が求められています。料金案内や値下げがすべて禁止されるわけではありません。架空の比較価格、実態のない期限、過度な費用の強調を避け、必要な総額と条件が分かる表示にします。
自由診療の料金ページで守ること
- 価格の根拠を明確に 通常の提供価格と適用条件を示す。初回・再診、治療範囲等による区分があれば明記し、架空の比較価格を置かない。
- 総額の目安 施術料に加え、麻酔・薬剤・処置料・診察料など発生頻度の高い追加費用と、通常併用される治療を含めた総額の目安を示す。「1か所〇円」の表示は、通常必要な回数・か所数での総額と併せて示す。
- 期間・回数 通常必要な治療期間と回数。「1回で終わる」と書けるのは、実際に1回で終わる場合だけ。
- 幅がある場合 最低額から最高額の範囲で示し、何によって変わるかを書く。
- 値下げをするなら 現在の料金と適用条件を正確に示す。比較価格を使う場合は、直前の販売期間等の基準と医療広告の規制を確認する。期限付きの表示は実際の運用と一致させ、変更の経緯も記録する。
- モニター価格 写真の提供のみを条件とする割引が、当然に禁止されるわけではない。公開範囲等への同意を得て、写真と説明を広告規制に適合させる。治療内容・効果の主観的な体験談を広告に使う企画とは分ける。
- 「〇〇円〜」表示 最低価格だけを大きく出し、実際に多くの患者が払う価格を小さく書く表示は、誇大広告(医療法)と有利誤認(景表法)の両方の問題になる。
- 院内掲示と一致 ウェブサイトの料金と院内の料金表・見積書が一致していること。
6 今日やること・やってはいけないこと
今日やること
- ウェブサイト・SNS・院内の料金表示を並べ、通常価格の根拠、提供を募集していた期間、患者に案内していた条件を確認する
- 「今だけ」「今月末まで」の表示について、実際にその期間で終えているか、延長していないかを確認する
- 料金ページに総額の目安・期間回数・追加費用が載っているかを確認する
- キャンペーンをするなら、開始日・終了日・比較対照価格の根拠を記録して残す
やってはいけないこと
- 通常の販売活動として提供していない架空の価格を「通常価格」にする
- 「今月末まで」を毎月書き換える、延長を繰り返す
- 「し放題」「回数無制限」を、実際には回数が限られる治療に使う
- 治療の感想を広告に使うことや、高評価の投稿を割引の条件にする
7 よくある質問
- 開業記念で、初めから安い価格で始めたいのですが、「通常価格」を並べるにはどうすればよいですか。
- 通常の販売活動として提供していない価格を、過去の通常価格として表示することは避けてください。将来価格との比較にも、合理的で確実な販売計画等の根拠が必要です。開業時には、比較価格やキャンペーンの強調に頼らず、「自由診療・〇〇治療〇円」のように実際の料金と適用条件を明確に示す方法を検討してください。
- 「初回限定〇円」は問題ありませんか。
- 初回の適用条件、実際の料金、2回目以降の費用やコース全体の負担を正確に示す必要があります。それでも費用を前面に押し出す広告にはガイドライン上の注意が必要です。安い初回料金で誘い、対象者や追加料金を分かりにくくした表示は、誇大広告や有利誤認等の問題となり得ます。
- 保険診療の一部負担金を割り引くことはできますか。
- 集患のため、医療機関が独自に一部負担金を割り引くことはできません。療養担当規則2条の4の2第1項は患者への経済上の利益による誘引を禁じ、5条は一部負担金等の受領を定めています。保険者による法定の減免、公費負担・助成等は別の制度です。自由診療の料金設定と混同しないでください。
主な法令・参考資料
- e-Gov法令検索:消費者契約法
消費者の定義、4条の取消しの要件等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061 - e-Gov法令検索:保険医療機関及び保険医療養担当規則
患者への経済上の利益による誘引、事業者等への紹介料、一部負担金等の受領その他の療養担当の規律。
https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50000100015 - 消費者庁:特定継続的役務提供
美容医療の対象、クーリング・オフ、中途解約と上限額。
https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/continuousservices/ - 厚生労働省:医療広告等ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)
医療広告の定義、禁止内容、広告可能事項、限定解除、関係法令、調査・指導等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf - 厚生労働省:医療広告等ガイドラインに関するQ&A(令和8年3月30日改訂)
口コミ、最新等の表現、研修・専門性資格、販売名、写真、限定解除、問い合わせ先等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001683595.pdf - 厚生労働省:医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第6版)
令和8年3月。症例写真、費用、体験談、SNS・動画の説明と見せ方等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001683116.pdf - e-Gov法令検索:不当景品類及び不当表示防止法
不当表示、措置命令、課徴金、確約手続、適格消費者団体の権利、罰則等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000134 - 消費者庁:不当な価格表示についての景品表示法上の考え方
平成28年4月1日最終改定。二重価格、最近相当期間、通常の販売活動と購入実績の区別等。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_35.pdf - 消費者庁:将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針
令和2年12月25日。将来価格の根拠、合理的で確実に実施される販売計画等。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/assets/representation_cms216_201225_01.pdf - 消費者庁:景品表示法第8条に関する考え方
課徴金納付命令の基本的要件、対象売上額、対象期間、除外・加算等。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/assets/representation_cms216_240418_03.pdf - 消費者庁:確約手続に関する運用基準
対象とならない事案、通知、計画の申請・認定、履行等。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/assets/representation_cms216_240418_04.pdf