『退職・競業・営業秘密29講 ― 「辞めた社員」と「持ち出された情報」の教科書 ―』【第23講】
社内調査の限界 ― 私物端末の確認とプライバシー
第Ⅳ部 営業秘密・限定提供データ ─ 明徳法律事務所
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持ち出しの調査では、会社貸与端末と私物端末で会社が行えることの範囲が異なります。調査方法がプライバシー等を不当に侵害すれば会社自身の責任が問題となり、民事訴訟でも証拠の取得方法が著しく反社会的な場合などには証拠能力・証明力が争われることがあります。ただし、違法な方法で得た証拠が日本の民事訴訟で常に自動的に排除されるわけではありません。
会社貸与の端末・アカウント ― 調査し得るが目的・方法に限界がある
会社貸与PC・スマートフォン、会社メール・チャット等についても、会社が無制限に私的情報まで閲覧できるわけではありません。F社Z事業部事件、日経クイック事件等では、メール閲覧等について、その目的、必要性、態様、従業員のプライバシーへの配慮等を踏まえ、社会通念上相当な範囲かが問題となりました。会社規程は重要な事情ですが、規程があるだけで全ての調査が適法になるわけではありません。
調査に当たっては、①規程・社内ルールと周知状況、②業務上の具体的な必要性、③調査対象・期間を疑いに関連する範囲に絞ること、④私的情報への不必要な接触を避けること、⑤担当者・記録・情報管理を限定すること、などを確認します。規程がない場合でも調査が直ちに違法となるわけではありませんが、従業員の合理的な期待や方法の相当性をより慎重に検討します。
私物端末 ― 会社が任意に調査するには原則として具体的な同意が必要
私物PC・スマートフォン・個人クラウド・個人メールについて、会社が本人の認証情報を無断で利用したり、技術的措置を回避してアクセスしたりすれば、不正アクセス禁止法やプライバシー侵害等が問題となり得ます。会社が社内調査として任意に私物端末の内容を確認する場合は、原則として本人の自由意思に基づく具体的な同意を得て、目的・対象・期間を限定します。裁判所・捜査機関による法定手続は別問題です。
同意を得る場合は、調査の目的・対象・期間、確認方法、業務外情報の取扱い等を具体的に説明し、書面等で記録します。本人立会い、検索条件の限定、第三者専門家による選別等により、私生活情報への侵入を最小化する方法を検討します。同意の任意性が重要であり、雇用上の不利益等を背景に実質的に強制された同意とならないよう注意します。
本人が私物端末の調査に同意しない場合、会社が任意調査として強制することはできません。就業規則等に一定の協力義務がある場合でも、私物端末全体への包括的なアクセスが当然に正当化されるわけではなく、目的・範囲・必要性・プライバシーとの均衡を検討します。また、同意拒否だけをもって情報持ち出しを推認することは慎重であるべきです。必要であれば、客観的な会社側ログや裁判上の手続等、別の証拠手段を検討します。
退職者・関係従業員からの聴取では、①複数名で実施し記録する、②威迫・長時間拘束・虚偽の事実を用いた誘導を避ける、③自白を迫るのではなく事実を確認する、④必要に応じて録音・供述書化の方法を検討する、といった配慮が考えられます。録音の告知・同意が法的に常に必須というわけではありませんが、労務管理・信頼関係・個人情報等を踏まえて手続の透明性を確保することが望まれます。強圧的な聴取は会社側の責任や供述の信用性をめぐる争いを招き得ます。
調査の過程で、持ち出しとは無関係な私的情報(私的なメール、健康情報、家族の情報)に接することは避けられません。これらは記録せず、複製せず、調査の目的以外に使用しません。調査報告書には、持ち出しに関連する事実のみを記載します。調査担当者を限定し、守秘義務を課すことも必要です。
「調査の適法性」自体が争点になる
退職者側から調査方法の違法性が主張されることはあります。日本の民事訴訟では、違法に収集された証拠が常に排除されるわけではありませんが、取得方法が著しく反社会的である場合等には証拠能力が問題となり得るほか、調査行為自体について損害賠償責任が生じる可能性があります。規程上の根拠、必要性、対象範囲、方法、保管・利用目的を記録しておくことが重要です。
実務ポイント
・会社貸与端末も無制限に調査できるわけではない。規程・必要性・対象範囲・方法の相当性を確認し、私物端末の任意調査は原則として具体的同意を得る。
・同意は目的・範囲・方法を書面で示して取得し、速やかに実施する。・ヒアリングは複数名・記録・非威迫。調査の適法性自体が争点になることを前提に記録を残す。
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