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『スポーツ・エンタメ団体紛争32講 ― 選手・団体・事務所がもめた日の教科書 ―』【第22講】

暴力・ハラスメント告発を受けた団体の初動

指導者による暴力、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、選手の性的な写真・動画の撮影・拡散。スポーツ・エンタメ界におけるこれらの問題は、被害者の人生に深刻な影響を与え、団体の信頼を根底から揺るがします。令和7年(2025年)の改正スポーツ基本法も、暴力、優越的な関係を背景とした言動、性的な言動、盗撮、インターネット上の誹謗中傷等の防止を明確に位置づけました。告発を受けた団体の初動は、被害者の保護、事実の把握、公正な手続の確保を同時に満たす必要があります。

最初の72時間

(1)受付と記録:告発の内容(日時・場所・行為・関係者)、告発者の希望(匿名性、調査の要否、処分の希望、公表の可否)を記録します。告発を受けた者が個人的に判断を抱え込まず、あらかじめ定めた窓口・担当者に引き継ぐことが重要です。

(2)被害者の安全確保:加害が疑われる指導者等と被害者の接触を断つ措置(練習・合宿からの一時的な外し、担当の変更)を検討します。未成年者の場合は保護者との連携、医療・心理的支援へのつなぎも必要です。

(3)証拠の保全:映像、SNS・メッセージのやりとり、診断書、目撃者の情報。時間の経過とともに消失しやすいため、早期に確保します。

(4)暫定措置:加害が疑われる者に対する職務・指導の一時停止。暫定措置は処分ではないことを明確にし、要件と期間を規程に沿って運用します。

(5)刑事事件の可能性の検討:暴行・傷害、不同意わいせつ、撮影罪(性的姿態等撮影罪)などに当たり得る場合、被害者の意思を尊重しつつ、警察への相談を支援します。

やってはいけない初動

・告発者を特定しようとする、告発者の名前を加害者に伝える ・「指導の一環」「昔からの慣行」として問題を矮小化する ・団体の役員が個人的に加害者・被害者に接触し、示談や口止めを働きかける ・調査を始める前に、加害者とされる者に告発内容の詳細を伝える ・十分な調査をせずに「事実無根」と公表する

通報制度と通報者の保護

公益通報者保護法は、労働者・役員・退職者等による一定の通報を保護し、常時使用する労働者が300人を超える事業者には内部通報体制の整備を義務づけています。ただし、選手や保護者の多くは同法上の保護の対象外となり得るため、団体は、選手・保護者・関係者を対象とした独自の通報窓口と、通報者の保護・不利益取扱いの禁止を規程で定める必要があります。統括団体が設置する相談窓口との連携も有効です。

調査の方法

調査は、利害関係のない者が担当し、必要に応じて外部の弁護士等に委託します。被害者・加害者とされる者・目撃者から個別に聴取し、聴取内容を記録します。被害者への聴取は、二次被害を避けるため、回数・方法・同席者に配慮します。事案が重大である場合や、団体の役員が関与している場合は、第三者委員会(第23講)の設置を検討します。

団体の法的責任

指導者が団体の指揮監督下で暴力・ハラスメントを行った場合、団体は使用者責任(民法715条)や、安全配慮義務違反・債務不履行として損害賠償責任を問われる可能性があります。選手やスタッフを雇用している団体・クラブには、労働施策総合推進法等に基づくハラスメント防止措置義務もあります。初動の遅れ・隠蔽は、団体自身の責任を重くします。

実務ポイント

・初動は、受付と記録・被害者の安全確保・証拠保全・暫定措置・刑事事件の検討の五つを並行して行う。

・告発者の特定、矮小化、口止め、調査前の「事実無根」公表は、団体の責任を重くする。

・選手・保護者は公益通報者保護法の対象外となり得る。団体独自の通報窓口と保護規程を整備する。

作成日付:2026年9月28日

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