団体が選手・役員・指導者を処分したとき、その事実を公表するか、どこまで公表するかは難しい判断です。公表しなければ「隠蔽」と批判され、公表すれば処分対象者から「名誉毀損だ」と訴えられるおそれがあります。公表の目的と範囲を事前に規程で定めておくことが、両方のリスクを下げる方法です。
名誉毀損の成立と免責
事実を摘示して他人の社会的評価を低下させれば、名誉毀損(民法709条・710条、刑法230条)が成立し得ます。処分の公表は、処分対象者の社会的評価を低下させるのが通常です。ただし、判例上、①公共の利害に関する事実に係り、②専ら公益を図る目的に出た場合に、③摘示された事実が真実であることが証明されたとき、または真実と信じるについて相当の理由があるときは、違法性・故意過失が否定されます(最判昭和41年6月23日)。
団体による処分公表への当てはめ
(1)公共性:公的資金を受ける団体や、社会的影響の大きい競技・業界の不祥事は、公共の利害に関する事実と評価されやすいといえます。他方、純粋に私的な事柄や、団体の運営と関係の薄い私生活上の事実は、公共性が否定されやすくなります。
(2)公益目的:再発防止、他の構成員への警告、社会への説明責任といった目的は公益目的と評価されやすい一方、処分対象者への制裁や報復の意図がうかがわれる公表(必要以上に詳細な記載、感情的な表現)は、公益目的が否定されるおそれがあります。
(3)真実性・相当性:公表した事実が真実であること、少なくとも十分な調査に基づき真実と信じる相当の理由があったことが必要です。調査が不十分なまま処分・公表し、後に仲裁や訴訟で処分が取り消された場合、団体は名誉毀損の責任を問われるリスクが高まります。
公表の範囲 ― 何を、どこまで
①氏名の公表:処分の重さ、対象者の地位(役員・代表選手か一般登録者か)、未成年者か否か、公表の必要性から判断します。未成年者や一般の登録者については、氏名を伏せることが原則と考えるべきです。②事実の記載:処分の根拠となった事実を、調査で認定した範囲で簡潔に記載し、推測や評価を加えない。③処分の内容と根拠規程。④不服申立の状況:処分が確定していない場合はその旨を付記する。⑤公表の方法と期間:ウェブサイトへの掲載期間を定め、期間経過後は削除する。
規程に公表基準を置く
懲罰規程に、①公表の対象となる処分の種類、②公表事項(氏名の公表基準を含む)、③公表の時期(処分確定後か否か)、④公表の方法と掲載期間、⑤処分が取り消された場合の対応、を定めておくことが望まれます。2023年のガバナンスコード改定でも、不祥事が発生した場合に、事実関係・処分・原因・再発防止策を状況に応じて適時適切に公表することが求められています。規程に沿った公表は、公益目的と手続の適正を示す根拠になります。
処分対象者の側の対応
公表内容が事実と異なる場合や、公表の範囲が過大である場合、処分対象者は、訂正・削除の要求、名誉毀損に基づく損害賠償・謝罪広告の請求(民法723条)を検討します。処分自体を争う手続(仲裁・訴訟)と並行して進めることが多く、処分が取り消された場合には、取消しの事実の公表を求めることも考えられます。
実務ポイント
・処分公表の免責は、公共性・公益目的・真実性(相当性)の三要件(最判昭和41年6月23日)。
・未成年者・一般登録者の氏名は原則として伏せる。事実は認定した範囲で簡潔に、評価を加えない。
・懲罰規程に公表の対象・事項・時期・方法・掲載期間・取消時の対応を定めておく。
作成日付:2026年9月28日