2026-01-01 企業法務

「下請法」から「取適法」へ






「下請法」から「取適法」へ ── 2026年1月施行・62年目の大改正と中小企業の実務対応 | 明徳法律事務所


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COLUMN|中小企業法務

「下請法」から「取適法」へ
── 2026年1月施行・62年目の大改正と、発注側・受注側それぞれの実務対応

掲載日2026年1月1日
執筆明徳法律事務所 代表弁護士 坂本 龍亮
分野企業法務/契約実務/債権回収

2026年(令和8年)1月1日、昭和31年制定以来、中小企業の取引環境を支えてきた「下請法」(下請代金支払遅延等防止法)が抜本改正され、「中小受託取引適正化法」(通称:取適法〔とりてきほう〕)として施行されました。名称の変更にとどまらず、①従業員数による適用基準の追加、②価格協議に応じない一方的な代金決定の禁止、③手形払の禁止、④物流取引(特定運送委託)の対象化、⑤執行体制の強化という、実務に直結する改正が一挙に実現しています。
「うちは中小企業だから、下請法は”守ってもらう側”の話」──そのような理解は、もはや通用しません。従業員基準の導入により、資本金の小さな中小企業でも「委託事業者」(旧・親事業者)として規制を受ける場面が一気に広がったからです。本コラムでは、改正の全体像を図表で整理したうえで、発注側・受注側それぞれの立場から、いま点検すべきポイントを解説します。

一 何がどう変わったのか──改正の全体像

改正法(下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律)は、2025年(令和7年)5月16日に成立、同月23日に公布され、2026年1月1日に施行されました。背景にあるのは、労務費・原材料費・エネルギーコストの急激な上昇です。「物価上昇を上回る賃上げ」を実現するには、サプライチェーン全体で価格転嫁を定着させる必要があり、協議に応じない一方的な価格据置きなど、受注側に負担を押し付ける商慣習の一掃が改正の狙いとされています。

まず、法律名と当事者の呼称が変わりました。「下請」という語が上下関係を連想させることへの配慮であり、発注者と受注者を対等な契約当事者として捉え直す、改正全体の思想を象徴する変更です。

図1|法律名・用語の新旧対照
改正前(〜2025年12月)

法律名
下請代金支払遅延等防止法(下請法)
発注側
親事業者
受注側
下請事業者
代金
下請代金
改正後(2026年1月1日〜)

法律名
中小受託取引適正化法(取適法)※
発注側
委託事業者
受注側
中小受託事業者
代金
製造委託等代金

※ 正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」。契約書・社内規程・コンプライアンスマニュアル等に旧法令名・旧用語が残っていれば、修正が必要です。

二 適用範囲の拡大──「従業員基準」で対象企業が一気に広がる

実務への影響が最も大きいのが、適用基準の変更です。従来は資本金の額だけで適用の有無が決まっていたため、資本金を小さく抑えることで規制を免れる「資本金対策」が可能でした。改正法はこれを封じるため、資本金基準に加えて従業員数基準を導入。いずれか一方を満たせば法の適用対象となります。

図2|取適法の適用基準(資本金基準+従業員基準)
取引の類型 資本金基準(従来どおり) 従業員基準NEW
製造委託・修理委託
(プログラム作成、運送・倉庫保管・情報処理の役務提供委託を含む)
委託側:資本金3億円超受託側:資本金3億円以下
または
委託側:資本金1千万円超〜3億円以下受託側:資本金1千万円以下
委託側:従業員300人超受託側:従業員300人以下
(個人事業者を含む)
情報成果物作成委託・役務提供委託
(上記に含まれるものを除く)
委託側:資本金5千万円超受託側:資本金5千万円以下
または
委託側:資本金1千万円超〜5千万円以下受託側:資本金1千万円以下
委託側:従業員100人超受託側:従業員100人以下
(個人事業者を含む)

※ 従業員数は「常時使用する従業員」(正社員に限らず、契約社員・パート・アルバイトを含む)で判定され、原則として個々の発注時点が基準となります。また、新たな取引類型として、物品の販売・製造等に伴う運送を委託する「特定運送委託」が追加され、物流分野にも規制が及ぶことになりました。

実務の急所
資本金1,000万円の会社でも、従業員が300人(取引類型によっては100人)を超えていれば、より小規模な事業者や個人事業主に外注した時点で「委託事業者」として義務を負います。発注書面の交付、支払期日(受領日から60日以内)の管理、禁止行為の遵守──これらは受注側の承諾や合意があっても免れません。まずは自社の従業員数と、主要な外注先の規模(資本金・従業員数)を一覧化し、どの取引が取適法の適用対象かを判定する「管理台帳」の整備が出発点です。取引先の従業員数は外部から把握しにくいため、契約書や覚書で規模の通知義務を定める工夫も実務では行われています。

三 規制内容の強化──改正5本の柱

規制の中身も大きく強化されました。特に重要な5つの柱を整理します。

図3|取適法改正・5本の柱
第一

価格協議に応じない
一方的な代金決定の禁止

受注側から労務費・原材料費等の上昇を理由に価格協議を求められた場合、協議に応じ、必要な説明・情報提供を行う義務。協議の拒否だけでなく、無視や先延ばしによる一方的な決定(据置きを含む)も違反となります。

第二

手形払の禁止

約束手形による代金支払が禁止されました。電子記録債権・ファクタリング等による場合も、支払期日までに代金相当額の現金化が困難な手段は認められません。長年の商慣習であった手形サイトによる資金繰り転嫁に、法が終止符を打った形です。

第三

特定運送委託の追加

物品の販売・製造等に伴う運送の委託が新たに規制対象に。荷待ち・荷役の無償対応など、物流現場の不公正な慣行の是正が狙いです。荷主となる製造業・卸売業も、運送事業者との取引条件の点検が必要になります。

第四

執行体制の強化
(面的執行)

公正取引委員会・中小企業庁に加え、事業所管省庁の主務大臣にも指導・助言権限が付与され、報復措置禁止の申告先も拡大。違反には勧告・事業者名の公表のほか、一部行為には刑事罰(50万円以下の罰金)もあります。

第五

運用の明確化

振込手数料を受注側に負担させる行為は、合意の有無にかかわらず違反とする方向で運用基準が整理されました。また、発注書面は受注側の承諾がなくても電子メール等の電磁的方法で交付できるようになり、DXにも対応しています。

なお、手形払の禁止は、社会全体の手形廃止の流れと連動しています。時系列で整理すると次のとおりです。

図4|手形をめぐるスケジュール
2025年5月
改正法成立・公布(令和7年法律第41号)

2026年1月1日
取適法施行。適用対象取引における手形払が禁止に。従業員基準・価格協議義務・特定運送委託等も同時にスタート

2027年3月末
全国銀行協会の方針により、紙の約束手形・小切手そのものが廃止(電子交換所での取扱終了)へ

※ 取適法の適用対象外の取引であっても、紙の手形は2026年度末で使えなくなります。手形に依存した支払・回収サイクルは、対象の内外を問わず見直しが不可避です。

四 弁護士の視点──「守る側」と「守られる側」、双方の目線で

取適法は、受注側の中小企業にとっては価格転嫁と債権回収の強力な後ろ盾です。協議を求めても無視される、一方的に価格を据え置かれる、支払を手形で引き延ばされる──こうした場面で、これまでは取引継続への配慮から泣き寝入りせざるを得なかったものが、法律上の明確な違反類型として主張できるようになりました。支払遅延や不当な減額には年14.6%の遅延利息の問題も生じ、当局への申告を理由とする報復措置(取引停止等)も厳格に禁止されています。交渉の局面では、「違反の指摘」を直ちに振りかざすのではなく、協議の申入れと経過を書面・メールで記録化しておくことが、後の交渉力と回収可能性を大きく左右します。

他方、発注側に立つ中小企業にとっては、コンプライアンス上の新たなリスクです。違反があれば指導・勧告や事業者名の公表に至り得るほか、補助金審査等での不利益やレピュテーションの毀損も現実的な問題です。特に、旧法時代の契約書ひな形・発注書式・支払条件をそのまま使い続けている場合、「気づかないうちに違反状態」に陥っている危険があります。

最後に、フリーランスに発注している場合の注意点です。受注側が個人のフリーランス(特定受託事業者)にも該当するときは、原則としてフリーランス法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が優先適用されます。取適法とフリーランス法は適用基準も規制内容も微妙に異なるため、外注先の属性ごとに、どちらの法律のルールで管理すべきかを仕分けしておく必要があります。

図5|立場別・実務対応チェックリスト
発注側(委託事業者)の点検事項

  • 従業員数基準を含めた適用対象取引の洗い出し(管理台帳の整備)
  • 契約書・発注書式の旧用語(親事業者・下請代金等)の修正と必須記載事項の確認
  • 手形払の廃止、支払期日(受領日から60日以内)・振込手数料負担の見直し
  • 価格協議の窓口・手順・記録化ルールの整備と担当者教育
  • フリーランス法適用取引との仕分け・管理体制の構築
受注側(中小受託事業者)の活用事項

  • コスト上昇の根拠資料(労務費・原材料費等)を整えた価格協議の申入れ
  • 協議の経過・回答を書面やメールで記録化(交渉と回収の証拠に)
  • 手形・長期サイト取引の解消申入れと支払条件の再交渉
  • 支払遅延・減額・買いたたき等への対応方針の整理(遅延利息の請求を含む)
  • 公取委・中小企業庁・事業所管省庁等の相談窓口や申告制度の把握

五 まとめ──「呼び方」ではなく「取引のあり方」が変わった

今回の改正は、単なる法律名の変更ではありません。従業員基準による適用範囲の拡大は「規制を受ける側」の顔ぶれを変え、価格協議義務と手形禁止は、日本の商取引に深く根を下ろしてきた慣行そのものを変えるものです。施行からまだ日は浅く、運用基準の解釈や当局の執行姿勢は今後の事例の集積によって具体化していきます。だからこそ、自社の取引を「発注側」「受注側」双方の視点から棚卸しし、契約書と運用を早期に適合させておくことが、リスク管理と交渉力強化の両面で最善の一手となります。

契約書点検・価格交渉・債権回収のご相談は、明徳法律事務所へ

取適法・フリーランス法への対応(契約書ひな形の改訂、適用判定、社内体制の整備)から、受注側の立場での価格交渉支援・未払代金の回収まで。中小企業の取引実務を、法律の両面から支援いたします。

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※ 本コラムは2026年1月1日時点の公表情報に基づく一般的な解説であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。適用の有無や具体的な対応は、取引内容・当事者の規模等により異なります。

  • 公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」特設サイト・各種リーフレット
  • 中小企業庁「2026年1月施行!〜下請法は取適法へ〜改正ポイント説明会」資料
  • 政府広報オンライン「2026年1月から下請法が『取適法』に!委託取引のルールが大きく変わります」(2025年11月)

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