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『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第16講】

社員総会を開いてくれない ― 招集・議決・議事録をめぐる攻防

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第16講 社員総会を開いてくれない― 招集・議決・議事録をめぐる攻防

第Ⅱ部 医療法人・ガバナンス・内部紛争

社員総会の決議には、適法に総会を招集することが出発点になります。最高裁令和6年3月27日決定は、社団医療法人の社員が、一般法人法37条2項の類推適用によって裁判所の許可を得て自ら総会を招集する方法を否定しました。ただし、招集を実現するための他の法的手段まで一律に否定した決定ではありません。

この講では、招集、定足数、議決、議事録を順に確認します。平時から手続を整え、意見が対立した場合にも判断の根拠を説明できるようにすることが目的です。

本講の社員・社員総会に関する説明は、社団医療法人を対象とします。財団医療法人の評議員会とは制度が異なります。

「臨時社員総会を開いてほしい」と書面で申し入れて、三週間。理事長から返答がありません。社員4人のうち3人が賛同していても、その人数だけで社員が自由に総会を招集できるわけではありません。

1 招集できるのは誰か

理事長は、少なくとも毎年1回、定時社員総会を開かなければなりません(医療法46条の3の2第2項)。定款で年2回等を定めているなら、その定めにも従います。厚生労働省の定款例は年2回の開催を想定しています。臨時社員総会は、理事長が必要と認めるときに招集できます。

社員の側からも動かせます。総社員の5分の1以上の社員が、会議の目的である事項を示して臨時社員総会の招集を請求した場合、理事長は請求のあった日から20日以内に総会を招集しなければなりません(同条4項。5分の1という割合は、定款でこれを下回る割合に定めることができます)。

招集通知は、総会の日より少なくとも5日前に、目的事項を示し、定款所定の方法で行います(同条5項)。定款がより長い期間を定める場合も確認してください。招集請求をした側は、請求内容、請求者の社員資格、到達日が分かる資料を残します。

理事長以外にも、監事が監査で発見した不正行為や法令・定款違反の重大な事実を報告するため、必要な場合に社員総会を招集する制度があります(医療法46条の8第4・5号)。単なる意見の対立だけで使える制度ではありません。

2最高裁決定 ― 裁判所の招集許可と、他の手段を区別する

株式会社では、株主の請求後に招集の手続がとられない場合、株主は裁判所の許可を得て自ら株主総会を招集できます(会社法297条4項)。一般社団法人にも同じ仕組みがあります(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律37条2項)。医療法にはこれに当たる規定がなく、準用もされていません。

最高裁令和6年3月27日決定(民集78巻1号252頁)は、医療法人には一般法人法37条2項を類推適用できないと判断しました。機関に関する法律の改正を重ねても同項の準用が設けられなかったこと、知事による監督等の独自の仕組みがあることを理由としています。

このため、社員の多数が賛同していることだけを理由に、裁判所の招集許可を得られるとは考えられません。一方、理事長が招集請求を無視してよいという結論でもありません。招集義務への違反と、社員が利用できる手続を分けて検討します。

渡邉惠理子裁判官の補足意見は、理事長に招集を命ずる判決を訴訟で得る方法を示しています。ただし、執行方法等には議論が残るとも述べており、法廷意見の結論と区別が必要です。監事の法定の招集、理事会による理事長交代の可否、行政への相談等も、要件と実現可能性を確認します。行政が社員資格や決議の効力を最終的に裁判するわけではありません。

3 開かれた総会で確認すること ― 定足数・議決権・議題

総会が開かれたら、次は手続の中身です。争いになったとき論点になるのは、だいたい次の四つに集約されます。

論点ルールと実務上の注意
定足数定款に別段の定めがなければ、総社員の過半数の出席がなければ議事を開き、決議することができません(医療法46条の3の3第2項)。まず自分の法人の定款を確認してください。
議決権と可決要件社員は各1個の議決権を持ちます。法令・定款に別段の定めがない通常の議決は、出席者の議決権の過半数で決し、可否同数は議長が決します。この通常の議決では、議長は社員として議決に加わりません(医療法46条の3の3第1・3・4項)。議案ごとに参加資格と票数を確認します。
委任状出席しない社員は、定款に別段の定めがなければ、書面又は代理人によって議決できます(医療法46条の3の3第5項)。定款の制限、代理権の範囲、対象議案及び委任状の真正を確認して集計します。
議題あらかじめ通知した事項についてのみ決議できるのが原則です(医療法46条の3の2第6項。定款に別段の定めがある場合を除く)。役員の選任と解任を区別し、「その他」だけで重要事項を処理しないよう、議題を具体的に記載します。

特別の利害関係を有する社員は、その決議に加われません(医療法46条の3の3第6項)。単に親族であることだけで決めず、具体的な議案と本人の利害関係を確認します。

4 議事録 ― 10年後に効いてくる書類

社員総会の議事録は作成が必要です。総会の日から主たる事務所に10年間、従たる事務所には原則として写しを5年間備え置きます(医療法46条の3の6による一般法人法57条の準用)。記載事項は医療法施行規則に従い、招集通知、書面表決、委任状等も対応が分かるよう保存してください。

過去の議事録を確認する際は、総会が実際に行われたか、出席者・議題・決議結果が資料と一致するかを調べます。開催していない総会を開催したことにしたり、署名を無断で作成したりしてはいけません。資料がないことと決議が存在しないことも同じではなく、他の記録と合わせて検討します(第17講)。

招集通知、出欠、議事の経過、決議結果を残すことは、運営の説明と将来の立証に役立ちます。ただし、書類がそろえば決議が必ず有効になるわけではありません。法令・定款どおりの開催回数と手続を守り、実際の審議を記録することが大切です。

5 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 法令と定款の招集・定足数・議決・書面表決・代理人に関する規定を合わせて読む
  • 直近3年分の議事録と招集通知の控えを探し、保管場所を一本化する
  • 次の定時社員総会の日程を決め、定款所定の方法で招集通知を出し、送付・到達の記録を残す
  • 社員が3人以上いるか、名簿と実態が一致しているかを確認する

やってはいけないこと

  • 定款を確認せずに委任状・書面表決を無効と扱う、又は代理権を確認せずに票を集計する
  • 議題を「その他」でまとめ、当日に重要議案を出す
  • 総会を開かずに議事録だけ作る運用を続ける
  • 招集請求を無視する(理事長側も、無視したこと自体が後の行政対応や紛争で不利に働きます)

6 よくある質問

理事長が招集に応じません。放置するしかないのですか。
一般法人法37条2項を類推適用して招集許可を得る方法は、最高裁令和6年3月27日決定で否定されました。ただし、招集を命ずる訴訟の検討、要件を満たす監事の招集、行政への相談や交渉等は別です。招集請求の控えと到達資料、定款、社員名簿をそろえて、どの手段が使えるか確認してください。
社員総会を開かずに、書面で全員の同意を取る方法は使えますか。
欠席社員が書面・代理人で議決する制度と、会議を開かず全員の同意で決議があったと扱う制度は別です。医療法は、社員総会について一般法人法58条の「決議の省略」を準用していません。全員の署名があれば当然に総会を省略できるとは扱わず、法令・定款に沿った招集と議決を行ってください。
決議に納得できません。後から争えますか。
招集手続や議題の記載、定足数、議決権の行使方法に瑕疵があれば、決議の効力を争う余地があります。ただし時間が経つほど事実の立証は難しくなりますし、その間に登記や届出が進むと原状回復の負担も増えます。総会の直後に、通知・議事録・当日のやり取りをそろえてご相談ください。
うちは社員が2人です。総会はどう運営すればよいですか。
医療法に社員の最低人数を定める明文規定はありませんが、厚生労働省の定款例は3人以上を望ましいとしています。「2人では多数決が成立しない」とは一律にいえません。ただし、通常の定足数では1人が欠席すると会議を開けないなど、運営が止まるリスクがあります。議長の扱い・定款・欠席時の議決方法を確認し、所管自治体とも相談してください。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・公的資料

  1. 医療法

    社員総会、役員、管理者、医療事故調査、開設・承継に関する規定。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205

  2. 医療法施行規則

    管理者変更等の届出、面接指導実施医師(65条)、記録・安全管理。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050

  3. 厚生労働省:社団医療法人定款例

    社員の入退社、社員総会の議長・決議、役員等に関する定款例。

    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000205243.pdf

  4. e-Gov法令検索:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律

    医療法により準用される理事会の決議等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000048

  5. 最高裁判所:令和6年3月27日第三小法廷決定

    令和4年(許)第18号。招集許可と補足意見における訴訟の検討。

    https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-92881.pdf

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