第27講 内装工事が間に合わない・追加費用が止まらない
第Ⅲ部 不動産・開業コンサル・取引業者
内装工事では、工期の遅れ、追加費用、完成後の不具合が開業計画に影響します。契約前に条件を具体化し、工事中の変更と進捗を記録することで、認識の食い違いを減らせます。
見積書と図面だけで着工すると、工事範囲や費用、遅れた場合の責任が曖昧になりがちです。この講では、着工前の取決めと、問題が起きてからの対応を分けて整理します。
例えば、次のような場面を考えてみてください。開業予定日の3週間前、現場を見に行った院長は言葉を失いました。診察室の壁がまだ立っていない。
「申し訳ありません、資材の入りが遅れておりまして。あと2週間ほど」
求人はすでに出し、スタッフの入職日も決まっています。内覧会の案内は近隣に配布済み。賃料は先月から発生しています。そして数日後、今度は追加工事の請求書が届きました。「先生からご指示のあった変更分です」。院長にはその指示をした記憶がありません。
1 まず、契約書があるか
内装工事は通常、完成を目的とする請負契約です。建設業法19条は、工事内容、代金、工期、変更時の取扱いなどを記載した書面を、契約時に相互交付するよう求めています。相手の承諾を得て所定の要件を満たす電子契約によることもできます(同条3項)。設計・監理等の契約は別に確認します。
法定事項を書いた見積書・注文書・請書等を組み合わせる方法もあります。書類の名称だけで判断せず、必要事項と双方の合意を確認してください。書面交付義務に違反したからといって、口頭で成立した請負契約が当然に無効になるわけではありません。着工済みでも、合意済みの内容と未合意の条件を区別して記録を整えます。
2 追加費用を止める仕組み
追加費用をめぐる食い違いを減らすには、変更の承認手順を決めることが有効です。
変更は、内容・費用・工期への影響を確認して記録します。建設業法19条2項は、法定事項の変更についても書面の相互交付を求めています。適法な電子的方法も利用できます。契約上は、変更見積りを誰が承認してから着工するのか、緊急時はどうするかを決めます。ただし、書面がないだけで口頭・黙示の合意を一切否定できるわけではありません。
追加が生じやすい項目は、単価、数量の測定方法、諸経費を事前に決めておきます。資材価格等が変動したときの変更方法も契約の記載事項です。価格や工期について法令上の協議等が必要になる場合もあり、「追加費用は一切認めない」と一律に扱うのではなく、根拠を確認して協議します。
誰が指示できるかを決めておく。院長本人か、設計事務所か、開業コンサルタントか。現場では複数の人が業者と会話しますので、「発注の権限があるのは誰か」を最初に明確にしておくと、身に覚えのない追加工事が減ります。
「自分が契約当事者ではない」内装工事
支援会社が注文者として施工会社と請負契約を結び、先生は支援会社から内装を借りる場合があります。この場合、施工会社に対する契約上の請求は、原則として注文者である支援会社が行います。先生は、自分と支援会社との契約で、仕様・費用・完成時期・不具合への対応を確保する必要があります。
支援会社の仕入原価を常に開示させられるわけではありません。ただし、先生の支払額や算定方法、工事の仕様、追加負担の条件は合意前に確認します。実費精算なら根拠資料の確認方法も決めてください。具体的な金額が未記載でも、算定方法や委託内容によって支払義務が生じ得るため、「内訳がないから契約もない」とは判断できません(第22講)。
3 工期が遅れたら
開業日は、内装工事だけで決まっているのではありません。賃料の発生、融資の実行、機器の搬入、スタッフの入職、広告の掲載、行政手続。工期の遅れは、その全部を巻き込みます。
工期に遅れた場合は、合意した完成・引渡日、変更工事、資材調達、注文者側の指示などを確認します。契約と取引上の社会通念に照らして請負人に帰責事由があれば、損害賠償を検討します(民法415条)。損害の範囲には因果関係や特別事情の予見可能性等が関係し、開業後に見込んだ売上をそのまま全額請求できるわけではありません(416条)。
契約には、完成・検査・引渡しの各時点と、遅延時の連絡、工期変更、損害金の取扱いを具体的に記載します。開業日や機器搬入日も共有し、進捗写真と議事録を残してください。注文者にも、通常必要な期間に比べて著しく短い工期で契約しない義務があります(建設業法19条の5)。
仕事の完成前であれば、注文者が損害を賠償して任意に解除する制度があります(民法641条)。一方、請負人の債務不履行を理由とする解除は、催告の要否等を含めて別に検討します。業者を替える前に、解除根拠、既施工部分の精算、図面・資材・現場の引継ぎを確認してください。
4 完成後に不具合が見つかったら
完成後の不具合では、契約と実際の状態を比較し、修補等の追完、代金減額、損害賠償、解除を検討します。それぞれ要件が異なり、減額は通常、相当期間を定めた追完の催告が先行します。損害賠償には帰責事由も関係します。注文者の材料や指図に起因する不具合には、民法636条の制限もあります。
種類・品質の契約不適合について、現行民法637条は、知った時から1年以内の通知を原則として求めています。請負人が引渡時に知っていたか、重大な過失で知らなかった場合は例外です。これは「1年以内に訴える」という意味ではありませんが、別に消滅時効も進みます。保証・免責・期間の特約や、2020年4月1日前の契約に関する経過措置も確認してください。
不具合に気づいたら、場所・症状・発見日を写真等で残し、請負人に具体的に通知します。期限内の到達が分かる書面やメールを保存してください。安全確保に必要な応急対応をしつつ、修理で証拠が失われる前に状況を記録します。
5 医療機関の内装で特に確認すること
クリニックの工事には、一般のテナント工事にない要素があります。着工前の打合せで、次の点が図面に落ちているかを確認してください。
- 放射線関連の設備——防護に関する設計と、その施工が法令上の要求を満たすこと。行政への届出との関係も含め、誰が何を確認するのかを決めておく。
- 電気容量と幹線——機器の必要容量と将来計画、建物の供給能力を確認する。後の増設には追加工事や停止期間が必要になる場合がある。
- 給排水と排気——処置室、手洗い、滅菌、検査系の配置を確認する。配管の変更や床・壁の再施工による追加費用を見込む。
- 感染対策と動線——待合の分離、換気、清掃のしやすさ。
- バリアフリー——車椅子、ストレッチャー、高齢の患者の動線。建物側の制約と合わせて確認する。
- 将来の退去——作り込むほど原状回復費用が上がる。契約時に、退去時の見積りも出してもらう(第26講)。
6 今日やること・やってはいけないこと
今日やること
- 工事内容・代金・工期等の法定事項と合意を示す書面・電子記録がそろっているか確認する
- 契約書に、工期・変更の手続・遅延時の取扱いが書かれているかを確認する
- 発注・変更承認をできる人と権限の範囲を決め、施工会社にも書面で伝える
- 週1回の進捗写真と打合せ記録を残す運用を始める
やってはいけないこと
- 契約書なしで着工する
- 現場で口頭で変更を指示する(金額の合意なしに作業が進みます)
- 不具合に気づいたまま、通知せずに時間を経過させる
- 自院が負担する価格・仕様・算定方法・追加費用の条件が曖昧なまま進める
- 工期に余裕を持たせず、賃料発生日と開業日を詰めすぎる
7 よくある質問
- 身に覚えのない追加工事を請求されています。払う必要がありますか。
- 契約の変更条項、指示・承諾、代理権、工事の必要性と実施状況を確認します。書面がなくても合意が認められることがあり、既存契約の精算条項等に基づく請求もあり得ます。請求書だけで承認せず、何を根拠に、誰の判断で追加したのかを確認してください。
- 開業が1か月遅れました。賃料や人件費は請求できますか。
- 請負人の帰責事由、遅延との因果関係、損害の範囲を確認します。賃料・人件費のすべてがそのまま損害になるとは限りません。契約の損害金条項、開業予定の共有状況、実際の追加負担や回避できた費用を整理し、証拠を添えて協議します。
- 工事の途中で業者を変えたいのですが。
- 完成前の任意解除(民法641条)と、債務不履行による解除を分けて検討します。支払済み代金、既施工部分、請負人の損害、現場や資材の引継ぎを確認し、二重発注や無権限の現場立入りにならないよう手順を決めてください。
- 設計事務所とコンサルタントと工務店の関係が、よく分かりません。
- 設計、監理、施工、工程調整の各担当と、その契約上の義務を確認します。すべての責任を一人が負うとは限りません。連絡窓口、指示権限、不具合・遅延時の報告先を一覧にして共有すると、対応の抜けを防ぎやすくなります。
主な法令・参考資料
- 民法
契約、委任、責任、相続・財産分与。768条の改正を含む。
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- e-Gov法令検索:建設業法
19条・19条の5等。契約書面、変更、電子提供、工期。
https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100