ホーム ─ 連載コラム ─ 病院・クリニック経営150講 ─ 第45講

『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第45講】

宿日直許可があるから全部労働時間ではない?

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第45講 宿日直許可があるから全部労働時間ではない?― 当直と通常勤務の境界

第Ⅴ部 スタッフ労務

宿日直許可は、許可の範囲内の勤務について、労働時間・休憩・休日の規制を適用しないための制度です。当直を無給にする許可でも、当直中のすべての業務を通常勤務の時間から外せる許可でもありません。許可条件と、その夜に実際に行った業務を分けて確認します。

この講では、宿日直許可の仕組みと基準、許可があっても労働時間になる場面、そして2024年以降、副業先の当直との関係でこの制度がどう効いてくるかを整理します。

例えば、宿日直許可のある病院で、当直医が夜間に緊急手術とその後の処置を続けていたとします。「当直だから手当だけ」と扱っていても、通常勤務と同じ態様の業務に従事した時間は、別に把握し、賃金を精算する必要があります。

1 宿日直許可とは何を許可するものか

宿日直のうち断続的な業務は、労働基準法施行規則23条に基づき、労働基準監督署長の許可を受ける制度があります。病院に医師を宿直させる医療法上の規律と、労働時間規制の適用除外を受けるための宿日直許可は別です。許可がなければ当直をさせられない、という意味ではありません。

許可の前提は、常態としてほとんど労働する必要がなく、断続的な勤務であることです。通常の診療がそのまま夜間まで続いている時間は、宿日直許可の対象にはなりません。病院が許可を持っているかだけでなく、自分の職種・診療科・時間帯・業務が許可範囲に入るかを確認します。

許可範囲内でも、宿日直手当の支払は必要です。また、深夜割増の規定まで適用除外になるわけではありません。手当に含めて支払う場合も、対象と計算を明らかにし、不足がないか確認します。許可の範囲外の通常勤務の賃金とは、区別して処理してください。

2 医師・看護師の宿日直許可の基準

医師等の宿日直について、厚生労働省は令和元年7月1日付の通知(基発0701第8号「医師、看護師等の宿日直許可基準について」)で許可基準の細目を示しました。要点は次のとおりです。

基準内容
通常勤務からの解放通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること。通常の勤務態様が続いている間は許可の対象にならない。
業務の軽微性一般の宿日直業務に加え、特殊な措置を必要としない軽度又は短時間の業務に限る。例えば、少数の要注意患者への問診等や看護師への指示、通常は外来患者の来院が想定されない休日・夜間の少数の軽症患者への対応など。診察をしただけで必ず許可外になるわけではない。
睡眠の確保宿直の場合、夜間に十分な睡眠がとり得ること。
一般の条件手当は、同種業務の労働者の1人1日平均賃金額の3分の1以上を基準とする。原則として宿直は週1回、日直は月1回以内。宿直では相当の睡眠設備も必要。回数の例外等は許可条件を確認する。

許可は、診療科・職種・時間帯・業務を限定して受けることもできます。例えば、病棟の宿直業務だけを対象にし、救急外来は通常勤務として分ける設計です。許可証と付された条件を確認し、現場の勤務表・業務分担と一致させます。

3 許可があっても労働時間になる時間

宿日直中でも、緊急手術等の通常勤務と同じ態様の業務に従事した時間は、労働時間規制の対象となります。その時間を記録し、法定時間外・法定休日・深夜の該当関係に応じた賃金・割増賃金を支払います。必要な36協定等の手続も確認してください。一方、許可で想定された軽度・短時間の対応まで、すべて許可外になるわけではありません。

当直日誌等には、対応の開始・終了時刻、内容、必要な患者識別情報を残します。患者情報の記載と閲覧は業務に必要な範囲に限定してください。許可範囲内かどうかの判断と賃金計算の両方に役立ちます。記録が欠けた場合も、電子カルテ・呼出し記録・関係者の説明等を確認して時間を合理的に把握し、記録がないから払わないという扱いはしません。

通常勤務と同じ態様の対応が稀にあるだけなら、直ちに許可全体が取り消されるわけではありません。ただし、救急対応が常態化し十分に眠れないなど、許可基準を満たさなくなった場合は別です。個々の対応時間を精算するだけで済ませず、監督署に相談し、許可範囲や勤務体制を見直します。

4 2024年以降、この制度が効いてくる場面

医師の上限規制では、許可範囲内の宿日直時間は、その計算から除外されます。許可範囲外の通常勤務は算入します。許可のない当直は、使用者の指揮命令下にある待機・仮眠を含めて労働時間として扱います。ただし、完全に業務から解放された休憩等まで一律に算入するわけではありません。

勤務医が他院で当直をしている場合は、その病院の許可の有無だけでなく、本人の当直に適用される範囲と実際の通常勤務の時間を確認します。通算から外せる時間を取り違えると、年・月の上限や面接指導の判断を誤ります。勤務間インターバルについても、許可のある宿日直を一定条件で連続9時間行えば確保したと扱う制度がありますが、途中の通常勤務や疲労に応じた休息の扱いを確認してください(第44講)。

5 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 当直を行っているなら、宿日直許可の有無と、許可の範囲(時間帯・職種・業務)を確認する
  • 当直日誌に、対応した患者・時刻・内容が記録されているか確認する
  • 宿日直手当・深夜割増と、許可範囲外の通常勤務の賃金を区別し、不足なく支払う運用か確認する
  • 副業先の許可範囲、実際の通常勤務と休息を申告してもらい、通算の管理に反映する

やってはいけないこと

  • 「許可があるから当直は全部労働時間ではない」と考える
  • 宿日直中の実際の業務を記録しない
  • 救急対応が常態化しているのに、許可の範囲を見直さない
  • 許可を取らずに当直をさせながら、当直手当だけで処理する

6 よくある質問

宿日直許可を取るべきか、当直を通常勤務として扱うべきか、迷っています。
当直の実態によります。ほとんど対応がなく睡眠が取れるなら許可の対象になり得ますし、救急対応が頻繁なら許可の基準を満たさず、通常勤務(交代制)として扱うほうが実態に合います。時間帯や業務を限定して許可を受ける方法もあります。当直日誌を数か月分見返して、実態を確認するところから始めてください。
許可の範囲を超えた対応があった夜、何時間分を払えばよいのですか。
通常勤務と同じ態様の業務に従事した時間を、日誌や電子カルテ等で把握し、必要な通常賃金・割増賃金を計算します。日誌に記載がなくても、他の資料等から調べる必要があります。許可範囲内の宿日直手当や深夜割増の支払も、別に確認してください。
看護師の夜勤にも宿日直許可は使えますか。
看護師も対象です。通知には、病室の定時巡回、患者の状態変化の医師への報告、少数の要注意患者の定時検脈・検温等が例示されています。これらがあるだけで許可対象外とはいえません。ただし、通常の夜勤業務が継続し、十分な睡眠が取れない勤務は別です。名称ではなく、業務量・拘束と許可条件で判断します。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・参考資料

  1. 医療法

    社員総会、役員、管理者、医療事故調査、開設・承継に関する規定。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205

  2. 医療法施行規則

    管理者変更等の届出、面接指導実施医師(65条)、記録・安全管理。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050

  3. 労働基準法

    法定労働時間、36協定、割増賃金、宿日直、有期契約に関する137条の例外。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049

  4. e-Gov法令検索:労働基準法施行規則

    5条。労働条件の明示事項・方法。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023
  5. 厚生労働省:医師の働き方改革・制度解説

    上限規制、面接指導、勤務間インターバル、宿日直許可の解説・FAQ。

    https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/information/explanation
  6. 厚生労働省:医師、看護師等の宿日直許可基準

    令和元年7月1日基発0701第8号。許可範囲、通常勤務、看護業務の例示。

    https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6286&dataType=1&pageNo=1

病院・クリニック経営150講 目次へ戻る