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『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第67講】

予約キャンセル料は取れるのか ― 自由診療と保険診療

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第67講 予約キャンセル料は取れるのか― 自由診療と保険診療

第Ⅶ部 患者対応・クレーム・応招義務

予約の取消しで枠が空くと、診療体制や収支に影響します。ただし、キャンセル料は罰金ではありません。保険診療の費用徴収ルール、契約の合意、損害額の根拠を確かめて設計する必要があります。

保険診療と自由診療では、費用を徴収できる根拠と条件が異なります。保険診療でも、選定療養の「予約に基づく診察」については、2026年の通知によるキャンセル料の取扱いを確認する必要があります。通常の保険診療の予約すべてに、自由にキャンセル料を設定できる制度ではありません。

例えば、自由診療の施術に1時間枠を確保していた患者が、当日の朝に電話をかけてきました。「今日は行けなくなりました」。3回目です。
その枠は埋まらず、施術担当の看護師は待機したまま午前が終わりました。
院長は考えます。キャンセル料を取れないのか。そもそも、取ってよいのか。保険診療の患者にも同じことが言えるのか。

1 保険診療 ― 徴収できる場面を区別する

保険診療で患者から徴収できる費用は、法令・通知によって制限されます。予約料に係る選定療養の要件を満たす場合のキャンセル料と、通常の保険診療の予約キャンセルを区別し、届出・院内掲示・説明・同意等の必要な手続を確認します。

2026年3月27日通知は、同年6月1日から、選定療養の「予約に基づく診察」について、診察日直前の患者都合の取消しに係るキャンセル料を取り扱っています。5月29日の疑義解釈も、この対象に限ることを確認しています。通常の保険診療の予約全般に広げることはできません。対象となる選定療養の要件を満たしたうえで、料金等の院内掲示・原則ウェブ掲載、事前説明、文書への署名による同意確認など、通知の手続に沿って運用します。

別に、患者都合による検査の取消しで、使用できなくなった薬剤等の費用を、現に生じた物品等の損害の範囲内で徴収できる取扱いもあります。これも事前説明と同意が前提です。予約枠の損失と、廃棄する薬剤等の実損を混同しないでください。

キャンセル料の適用がない予約や、徴収を選択しない場合には、前日の案内、変更しやすい予約窓口、予約枠の調整などで対応します。繰り返す無断キャンセルへの対応も、緊急性や診療へのアクセスに配慮して決めます。

2 自由診療 ― 取れるが、上限がある

自由診療は、医療機関と患者の契約です。キャンセル料を契約の内容として定めることは可能です。ただし、二つの制約があります。

(1)消費者契約法による上限

第21講で、開業のための契約について「先生は事業者であり、消費者契約法は使えない」と述べました。自由診療の場面では、立場が逆になります。患者は消費者であり、医療機関は事業者です。消費者契約法が、患者を守る方向で適用されます。

同法は、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の予定または違約金について、事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を無効としています(消費者契約法9条1項1号)。キャンセル料を設定できるのは、キャンセルによって医療機関に生じる平均的な損害の範囲内であり、それを超える額は無効です。

平均的な損害は、同種の契約について、解除の理由や時期等の区分に応じて検討します。再予約で枠を埋められる可能性や、施術しないことで不要になる費用も考慮します。売上の全額、通常の人件費、材料費をそのまま重ねて損害とすることは避けてください。50%や100%という割合だけで適法・違法が決まるわけではなく、算定根拠が必要です。段階的な設定にしても、上限を超える部分は無効です。

患者から算定根拠の説明を求められた場合、消費者契約法9条2項は、その概要を説明する努力義務を定めています。予約枠の利用状況、材料の再利用の可否、取消時期ごとの資料などを整理しておきます。

(2)事前の表示と同意

キャンセル料は契約の内容ですから、患者が予約の時点でその内容を知り、同意していることが必要です。ホームページや院内掲示に載せているだけでは足りない場合があります。予約時に明示し、同意を確認する手続(予約確認書、ウェブ予約の同意チェック)を置いてください。「掲示してあった」と「同意を得た」は違います。

3 美容医療に固有の規制

特定商取引法の対象となる美容医療は、施術名だけでなく、省令で定められた方法等に該当するかを確認します。そのうえで、提供期間が1か月を超え、対価が5万円を超える等の要件を満たす場合には、特定継続的役務提供の規制が適用されます。所定の契約書面を受け取った日を含む8日間のクーリング・オフや、中途解約の制度があり、単なる予約日時の変更とは区別します。書面不備等があれば期間が進行しない場合もあります。

対象となる美容医療の中途解約では、施術開始前に請求できる損害賠償等の上限は2万円です。開始後は、提供済みの役務の対価に加え、5万円と未提供分の対価の20%のいずれか低い額が上限となります。これは上限額であり、どの場合にも当然に満額請求できるという意味ではありません。クーリング・オフでは、損害賠償や違約金を請求できません。

4 キャンセルポリシーの設計

項目設計の考え方
適用範囲自由診療の契約と、保険診療で通知に沿って徴収できる場面を分ける。通常の保険診療の予約すべてに適用しない。
時期による段階前日まで無料、当日は施術費用の一定割合または定額、無断キャンセルは別途、といった段階。平均的な損害の範囲内で。
金額の根拠同種の契約について、取消時期、枠の再利用、不要になる費用等を踏まえて算定する。保険診療の検査用薬剤等は、通知が認める実損の範囲を守る。
同意の取り方自由診療では予約時に明示し、書面やウェブの同意確認等で記録する。保険診療の費用徴収では、通知が求める文書への署名等の手続に従う。確認書を送るだけで同意済みとしない。
免除の運用体調不良・災害等の事情、取消理由や責任の所在を踏まえ、免除・減額の基準と判断者を決める。法定の解除権を制限せず、理由を記録して運用する。
前払金の返金前払いを受けている場合、キャンセル時に返金する範囲と時期。キャンセル料を差し引いて返金する形なら、その計算を明示する。

5 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 保険診療と自由診療で、キャンセルへの対応を分けているかを確認する
  • 自由診療のキャンセル料が、時期に応じた段階的な設定で、平均的な損害の範囲内かを見直す
  • 予約時に同意を得る手続があるかを確認する
  • 美容医療を行っているなら、特定継続的役務提供に該当する契約がないかを確認する

やってはいけないこと

  • 対象や要件を確かめず、通常の保険診療の予約に一律のキャンセル料を課す
  • 自由診療の当日取消しに、平均的な損害を超える料金を請求する
  • 掲示だけで同意を得たものとして請求する
  • キャンセル料の免除を、その場の判断で恣意的に行う

6 よくある質問

保険診療の無断キャンセルが多くて困っています。何もできませんか。
通常の保険診療の予約全般にキャンセル料を課すことはできませんが、選定療養の予約に基づく診察や、取消しで使用できなくなった検査用薬剤等には、通知上の取扱いがあります。対象と手続を確認してください。リマインドや変更窓口も整え、予約方法を見直す場合は必要な診療へのアクセスを確保します。
自由診療のキャンセル料を、施術費の50%にしています。問題ですか。
時期によります。当日のキャンセルで、材料を準備し人員を確保していたなら、一定額は平均的な損害として認められる余地がありますが、50%がその範囲内かは施術の内容と枠の状況によります。根拠を説明できる金額に設定し、時期に応じた段階を設けることをお勧めします。
患者が「キャンセル料を払わない」と言っています。請求できますか。
有効な合意があり、法令・通知や平均的な損害等の上限に反しない場合には請求を検討できます。取消理由、免除条項、クーリング・オフ等の適用も確認してください。未払いを罰する目的で、その後の必要な診療を機械的に拒むことは避けます(第65・66講)。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・参考資料

  1. 厚生労働省:キャンセル料等の取扱い(訂正反映通知)

    2026年3月27日保医発0327第7号。選定療養の予約、直前の患者都合の取消し、事前説明・同意。

    https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001707281.pdf

  2. 厚生労働省:キャンセル料の疑義解釈

    2026年5月29日事務連絡・問1。選定療養の「予約に基づく診察」に限定。

    https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001712423.pdf

  3. e-Gov法令検索:消費者契約法

    2条。事業目的の契約と消費者の定義。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061
  4. 消費者庁:特定継続的役務提供

    美容医療の対象、クーリング・オフ、中途解約と上限額。

    https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/continuousservices/

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