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『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第71講】

医療事故が起きた最初の24時間 ― 院長の初動チェック

第Ⅷ部 医療事故・紛争対応 ― 経営者としての初動
病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第71講 医療事故が起きた最初の24時間― 院長の初動チェック

第Ⅷ部 医療事故・紛争対応

医療事故が起きた直後は、救命・治療とともに、記録の保全、患者・家族への説明、法定の届出・報告を進める必要があります。混乱の中でも対応を止めないために、誰が何を担うかを平時に決めておくことが大切です。

本講では、事故発生後の早い段階で院長が確認すべき事項を整理します。「24時間」は初動を考える目安であり、すべての手続に共通する法定期限ではありません。救命を最優先に、担当者を分けて必要な対応を並行させます。

例えば、外来で処置を受けた患者が、帰宅後に容態が急変し、搬送先の病院で亡くなりました。連絡が入ったのは翌朝、搬送先の医師からです。
院長の頭に、順不同で浮かびました。家族に何と言うか。カルテは大丈夫か。警察に届けるのか。あの制度の報告は要るのか。保険会社にはいつ連絡するのか。職員には。
どれから手をつければよいのか、分かりませんでした。

1 初動 ― 救命を優先し、担当を分けて進める

次の番号は確認用です。一つを終えてから次へ進むという意味ではありません。管理者が全体を把握し、救命、情報収集、説明、連絡の担当者を決めます。小規模な施設では、応援や外部の支援も活用してください。

すること内容
①患者の救命・治療救命と必要な治療を最優先する。院外の急変でも、救急要請や搬送先への情報提供など必要な対応を行う。他の担当者は記録保全や連絡を並行して進める。
②事実の把握関わった職員から、時系列の行動・観察と、その時点の判断を聴く。後から知ったことと当時の認識を区別する。日時・担当者を付して記録し、救命や職員の状態に配慮する。
③記録の保全診療録、看護記録、検査・画像、ログ、薬剤や器材を保全する。救命に必要な処置を妨げない。原記録と履歴を残し、必要な追記・訂正は日時、担当者、理由を明示する(第72講)。
④法定の判断医師法21条の届出は検案した医師の義務。医療事故調査制度の報告は管理者の義務。それぞれの要件と期限を確認する。センターへの報告前には、原則として遺族への説明が必要(第2章)。
⑤患者・家族への説明把握できている事実を、把握できている範囲で、誠実に伝える。原因が未確定なら「調査中」と伝える。推測や責任の断定はしない(第73講)。
⑥外部への連絡医師賠償責任保険への通知(第79講)、必要に応じて弁護士・医師会への相談。
⑦職員への対応関わった職員の心身の状態を確認する。責任の追及ではなく、事実の確認と支えを。診療体制の調整(当該職員を当面の診療から外すかどうか)を判断する。
⑧情報の管理共有は業務上必要な範囲に絞り、対外的な説明窓口を決める。SNS等への無断投稿を防ぐ一方、法令上の届出、適法な公益通報、弁護士への相談等を妨げない。

2 法定の判断 ― 死亡事案で管理者が直ちに考えること

(1)医師法21条 ― 異状死の届出

医師法21条は、医師が死体又は妊娠4月以上の死産児を検案し、異状があると認めたときに、24時間以内の所轄警察署への届出を求めています。届出義務を負うのは検案した医師であり、管理者の判断や院内調査の終了を待てばよい制度ではありません。

異状があるかは検案に基づいて判断します。医師法21条の届出期限は、検案して異状があると認めた時から24時間以内です。迷う場合には、検案した医師が関係機関・専門家と速やかに相談し、判断過程を記録します。

(2)医療事故調査制度 ― 予期しなかった死亡

医療法6条の10は、提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡・死産のうち、省令上「予期しなかった」とされるものを、管理者が遅滞なくセンターに報告する制度です。報告前に、原則として遺族へ事故の状況や調査計画等を説明します。遺族がいない、所在が不明という場合には説明の例外があります。診療所・助産所も対象です。

管理者は速やかに事実を集め、判断に迷えば支援団体やセンターに相談します。相談中というだけで判断や報告を放置せず、判明した事実に基づいて対応してください。警察への届出とセンターへの報告は別の制度であり、一方を済ませても他方の検討は必要です。具体的な判断基準は第74講・第75講で扱います。

3 記録 ― 24時間の中で最も差がつくところ

事故後も診療と説明を正確に記録します。同時に、事故当時の原記録と、その後の追記・訂正の履歴を保全します。「記録を保存する」とは、その後の正当な記載まで止めることではありません。

聞き取り、患者・家族への説明、外部との連絡は、日時、担当者、内容を残します。診療録や検査データのほか、機器のログや現物も保全してください。追記・訂正は、誰が、いつ、何を、なぜ変更したか分かる形にします。元の記載を隠す改変や、過去の時点で記載済みだったように見せる操作は避けます(第72講)。

4 家族への最初の説明 ― 誠実さと正確さ

最初の説明は、患者・家族との信頼に関わります。患者が生存している場合は本人への説明を基本とし、家族への共有は本人の意思や病状に配慮します。死亡時は遺族への説明を進めます。

早く、適切な方法で。院長や担当医等が、分かっていることを速やかに説明する。緊急の連絡は、相手を確認したうえで電話等でも行い、面談できるまで連絡を遅らせない。詳しい説明は、相手の希望や状況に応じて面談等で行う。

事実を、範囲を明示して。「現時点で把握していること」「まだ分かっていないこと」「これから調べること」を分けて伝える。原因や責任について、推測で断定しない。

記録する。誰が、いつ、誰に、何を説明し、家族はどう応じたか。説明の内容そのものが、後の争いの焦点になります。

5 外部への連絡 ― 保険と専門家

保険会社や取扱窓口には早めに連絡し、加入している医師賠償責任保険の通知条件と手続を確認します。事故発生時の連絡と損害賠償請求を受けた場合の連絡など、契約によって扱いが異なります。通知の遅れによる影響も約款と事情によるため、一律に保険金が支払われなくなるとはいえません(第79講)。

弁護士への相談は、家族への説明の前に行えれば理想ですが、説明を遅らせてまで待つ必要はありません。説明は事実の範囲で誠実に行い、並行して相談する。医師会の医療安全に関する相談窓口も、判断の助けになります。

6 職員 ― 責任追及より先に

事故に関わった職員には、強い不安や自責が生じることがあります。初動で責任を決めつけると、本人への負担と、事実を話しにくくなる危険があります。当時の行動と判断を丁寧に聴き、十分な根拠なく責任を結論付けないようにします。安全上必要な対応と本人への支援は並行して進めます。

職員の心身の状態を確認し、休憩、担当変更、複数対応などを検討します。診療から一時的に外す場合は、必要性と期間、本人の意向、賃金等の扱いを確認し、理由を説明してください。安全確保の措置と懲戒処分を混同せず、必要に応じて産業保健等の支援につなぎます。

保存版 医療事故の最初の24時間チェックリスト

  1. 患者の救命・治療——最優先。院内外の状況に応じて救急要請、応援、搬送先への情報提供。
  2. 事実の聞き取り——関わった職員から、時系列の事実を。記憶が新しいうちに、記録つきで。
  3. 記録の保全——原記録・画像・ログ・現物を保全。必要な追記・訂正は日時・担当者・理由と履歴を残す。
  4. 医師法21条——検案した医師が異状を認めた場合、認めた時から24時間以内に所轄警察署へ届出。
  5. 医療事故調査制度——医療に起因する疑いと予期の要件を管理者が判断。対象なら原則として遺族に説明したうえで遅滞なく報告。
  6. 患者・家族への説明——面談を待たず必要な第一報。確認できた事実と不明点を分け、説明を記録。
  7. 保険会社への通知——早めに連絡し、加入契約の通知条件に従う。
  8. 弁護士・医師会への相談——並行して。
  9. 職員の状態確認と体制調整——責任追及は後。診療から外すなら、理由を伝える。
  10. 情報管理——必要な院内共有と対外窓口を整理。無断投稿を防ぎ、適法な届出・通報・相談を妨げない。

救命を最優先に、保全、説明、連絡を担当者間で並行して進めます。資料がすべてそろうまで患者・家族への第一報を待つ必要はありません。

7 よくある質問

事故かどうか、まだ分かりません。それでもこの手順を踏むべきですか。
疑いの段階でも、必要な治療、事実の把握、記録の保全を始めてください。事故に該当しないと分かった場合も、判断の根拠を残し、必要な説明や診療を続けます。確定を待って資料を失うことがないようにします。
家族に説明する前に、弁護士に相談してからのほうがよいですか。
相談は並行して進め、相談先の返答を待つためだけに必要な説明を遅らせないでください。確認できた事実は伝え、原因や法的責任を推測で断定しないようにします。調査中でも新たな事実が分かれば追加説明し、明らかな誤りを調査終了まで伏せることは避けます。
関わった看護師が「自分のせいだ」と言って泣いています。
まず心身の状態を確かめ、必要な支援につなぎます。患者の救命や安全に直結する情報は、負担に配慮しながら速やかに確認し、詳しい聞き取りは状態を見て行います。責任をその場で決めつけず、何が起きたかを確認する姿勢を伝えてください。
報道機関から問い合わせが来ました。
院長又は指定した担当者に窓口をまとめます。患者・家族への説明とプライバシーに配慮し、確認済みの事実と公表できる範囲を整理してください。必要なら弁護士等に相談し、個人を特定できる情報や未確認の原因を安易に公表しないようにします。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・参考資料

  1. 医療法

    社員総会、役員、管理者、医療事故調査、開設・承継に関する規定。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205

  2. 医療法施行規則

    医療事故調査(1条の10の2〜4)、管理者変更等の届出、面接指導実施医師(65条)、記録・安全管理。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050

  3. 医師法

    免許処分、応招義務、異状死体等の届出(21条)、診療録(24条)。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201

  4. 厚生労働省:診療情報の提供等に関する指針

    遺族への情報提供、開示手続、非開示、記録の訂正等。

    https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/06/s0623-15m.html
  5. 日本医療安全調査機構:医療事故調査制度と関係法令・通知

    医療法、施行規則、2015年5月8日通知及び2016年6月24日通知の関係部分。対象判断、説明・報告の順序、調査資料の扱い。

    https://www.medsafe.or.jp/survey
  6. 日本医療安全調査機構:よくあるご質問

    報告・調査、外部委員、当事者の関与、搬送先との連携等。

    https://www.medsafe.or.jp/survey/faq

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