第82講 集団的個別指導・個別指導・監査は何が違うのか
第Ⅸ部 診療報酬・指導監査・行政対応
保険診療に関わる指導・調査には、集団指導、集団的個別指導、個別指導、監査があります。目的、選定の基準、手続が異なり、必ずこの順番で進むわけではありません。通知を受けたら、まず手続の種類を確かめます。
この講では、四つの手続の違いと、個別指導や監査の対象となる条件を整理します。名称だけで不正を疑われていると決めつけず、必要な準備につなげましょう。
例えば、「集団的個別指導の通知が来ました。これは個別指導と同じですか。監査になるのでしょうか」。院長からの相談です。通知だけで監査が決まったわけではありません。まず、手続の違いと選定の条件から説明します。
1 四つの手続 ― 一覧
| 種類 | 目的・内容・結果 |
|---|---|
| 集団指導 | 行政指導(講習)。新規指定、診療報酬改定、指定更新等に応じ、制度や請求方法を説明する。開催・受講方法は通知に従う。 結果・その後:個別指導のような四つの結果区分を付ける手続ではない。 |
| 集団的個別指導 | 行政指導。機能・診療科等の類型ごとに平均点数の高い医療機関を選定する。大綱では少数のレセプトを用いた簡便な面接懇談方式とされ、具体的な実施方法は通知で確認する。 結果・その後:翌年度の実績でも高点数に該当すると、翌々年度の個別指導の対象となる。指導で大部分のレセプトに不適正が認められた場合も、個別指導につながる。 |
| 個別指導 | 行政指導(面接)。新規指定、情報提供、前回の指導結果、高点数の継続、指導拒否などにより選定。対象患者のカルテとレセプトを突き合わせる面接形式(第81講)。 結果・その後:概ね妥当/経過観察/再指導/要監査。指摘事項の改善報告が求められ、不適切な請求には自主点検・返還の対応が必要になる。 |
| 監査 | 行政処分の前提となる調査。不正又は著しい不当を疑うに足りる理由、度重なる指導でも改善がないこと、正当な理由のない個別指導拒否等が選定基準。法に基づく報告・資料提出、質問、検査等を行う。 結果・その後:事実と要件に応じ、指定・登録の取消し、戒告、注意等の措置を判断する。返還の問題は取消しの場合に限られない(第83・88講)。 |
2 集団的個別指導 ― 高点数による選定
集団的個別指導は、機能・診療科等による類型区分と、レセプト1件当たりの平均点数等に基づく選定です。厚生労働省の選定概要では、医科病院は都道府県の類型別平均の1.1倍、医科診療所は1.2倍を超えることに加え、類型ごとの総数の上位おおむね8%等の条件が示されています。取扱件数が少ない場合や、前年度・前々年度に集団的個別指導又は個別指導を受けた場合などの除外もあります。倍率だけで機械的に決まるわけではありません。
高点数による選定は、それ自体で不正を認定するものではありません。例えば令和8年度に集団的個別指導を受け、令和9年度の実績でも高点数の選定基準に該当すれば、令和10年度の個別指導の対象となります。対象レセプトの大部分が適正を欠く場合は、おおむね1年以内の個別指導が予定されます。正当な理由なく集団的個別指導を拒否した場合も、個別指導の対象となります。
点数を下げるために、必要な診療を控えることは適切ではありません。患者の状態と診療の必要性を記録し、算定要件や施設基準も満たしているか確認します。高点数になる医学的な理由の説明と、請求が制度上認められることは、別々に確かめる必要があります(第84・85講)。
3 個別指導から監査へ ― 移行の条件
個別指導は診療・請求の適正化を図る指導です。監査は、健康保険法78条等に基づいて事実を調べ、必要な措置を判断する手続です。監査要綱は、次の条件を定めています。
- 診療内容に不正又は著しい不当があったと疑うに足りる理由がある。
- 診療報酬の請求に不正又は著しい不当があったと疑うに足りる理由がある。
- 度重なる個別指導を受けても、診療内容又は請求に改善が見られない。
- 正当な理由なく個別指導を拒否した。
指導の結果、これらの条件に該当すると判断されれば「要監査」となります。具体的な疑いがあれば、個別指導を経ずに監査が行われる場合もあります。資料の改ざんや虚偽の説明は、事実確認を妨げる重大な問題です。一方、正当な追記・訂正や、根拠を示して指摘に意見を述べることまで一律に禁じられるわけではありません(第81講)。
4 監査 ― 何が違うのか
監査は、行政指導ではなく、処分の前提となる調査です。次の点で個別指導と違います。
| 項目 | 個別指導と監査 |
|---|---|
| 目的 | 個別指導:保険診療の周知徹底(教育的) 監査:不正・不当の事実の確認と、処分の要否の判断 |
| 対象期間 | 個別指導:原則、指導月以前の連続した2か月分のレセプトと関係資料に基づく。自主点検・返還の対象期間とは別。 監査:疑いの内容に応じた期間と資料。監査で調べる範囲と、返還対象期間は区別する。 |
| 方法 | 個別指導:カルテとレセプトの突合、質問 監査:法に基づく報告・資料提出、関係者への質問、検査等。必要に応じて患者等への調査も行う。 |
| 結果 | 個別指導:概ね妥当〜要監査 監査:要件に応じて取消し・戒告・注意等。指定取消しから5年未満の場合等には再指定を拒むことができるが、例外もある。 |
| 返還 | 個別指導:自主返還(原則として指摘事項について一定期間分) 監査:監査要綱は不正・不当事項の返還期間を原則5年間と定める。法的な請求権や時効は別に検討。不正による支払には40%の加算金を課せる規定もある。 |
監査の通知を受けたら、資料と期限を確認し、指導監査に詳しい弁護士へ速やかに相談します。指定取消しと保険医登録取消しは別の処分であり、保険医登録取消しは医師免許の取消しとも異なります。監査になっただけで取消しが決まるわけではなく、事実と法的要件、聴聞等の手続が重要です(第87・88講)。
5 地図の中で、自分の位置を知る
集団的個別指導は、高点数等の選定基準に基づく手続です。その後の高点数や指導結果によって個別指導につながる場合がありますが、監査まで必ず順番に進む制度ではありません。自院に何が求められているかを、通知と根拠に沿って確かめます。
日常から診療録、算定要件、届出と実態を照合することが役立ちます。ただし、記載が整っていれば個別指導や監査の対象にならない、という保証はありません。必要な診療を維持し、根拠を示して説明できる状態を作ります。
6 今日やること・やってはいけないこと
今日やること
- 自院のレセプト1件あたりの平均点数が、都道府県の類型区分別平均と比べてどの位置にあるかを把握する
- 通知が来たら、手続の種類、日時、提出資料を確認し、必要な準備をする
- 高点数の理由を、カルテの記載によって説明できるかを点検する
- 監査の通知を受けたら、対応の前に弁護士に相談する
やってはいけないこと
- 集団的個別指導を、不正の疑いと受け取って動揺する
- 正当な理由なく指導を拒否する(個別指導・監査への移行の引き金になります)
- 指導の場で虚偽の説明をする、資料を改ざんする
- 「高点数だから」という理由だけで、必要な診療を減らす
7 よくある質問
- 集団的個別指導を欠席したいのですが。
- 正当な理由なく拒否すれば、個別指導の対象になります。日程の都合がつかない場合は、事前に厚生局に連絡して変更を相談してください。無断で欠席することは避けてください。
- 個別指導の結果が「再指導」でした。監査になりますか。
- 再指導だけで監査が決まるわけではありません。指摘の内容を確認して改善を進め、実際の変更を報告します。度重なる指導でも改善がない場合や、不正又は著しい不当を疑うに足りる理由がある場合等は、監査の対象となります。
- 監査になったら、必ず指定取消しになりますか。
- 必ずではありません。監査で確認した事実と所定の基準に基づき、措置の要否・内容が判断されます。取消しの対象は故意の不正請求だけではなく、一定の診療上の問題、管理者の監督上の問題、調査妨害等も関わります。具体的な理由と手続を確認して対応してください(第87・88講)。
主な法令・参考資料
- 健康保険法
58条3項の不正利得の返還・加算金、65条の指定、73条の指導、78条の調査、80条・81条の取消し等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
- 厚生労働省:指導大綱・監査要綱
令和8年3月30日改正。指導の選定・出席者・結果、監査の選定・措置・原則5年間の返還等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001685596.pdf - 厚生労働省:集団的個別指導及び個別指導の選定の概要
類型区分、平均点数の基準、選定割合等。年度ごとの実施は所管厚生局の案内も確認。
https://www.mhlw.go.jp/content/001685603.pdf