第91講 医療広告はどこまで許されるのか― 院長が知るべき基本
第Ⅹ部 医療広告・美容医療・自由診療・オンライン診療
医療広告は、三つの順番で確認すると整理できます。まず、虚偽・比較優良・誇大広告、治療内容や効果に関する主観的な体験談など、禁止される内容を除きます。次に、法律や告示が認める「広告可能事項」に収まっているかを確認します。その範囲を超える情報は、患者が自ら求めて見るウェブサイト等で、所定の「限定解除要件」を満たしているかを確認します。限定解除は、虚偽広告や体験談まで認める仕組みではありません。
この講では、令和8年3月30日改正の医療広告等ガイドライン、同日改訂のQ&Aと事例解説書第6版に沿って、掲載できる内容と院内の点検方法を整理します。他院で見かける表現でも、自院で使えるとは限りません。厚生労働省のネットパトロールや自治体の調査・指導も行われています。
例えば、ホームページの制作会社から、リニューアルの提案書が届きました。
「患者様の声」のコーナー、症例写真のギャラリー、「今月限定キャンペーン価格」のバナー、それから院長紹介の欄に「〇〇認定医」と「〇〇研修修了」。
院長は言いました。「他のクリニックも同じことをやっている」
事務長は答えました。「隣の駅の先生のところは、去年、保健所から通知が来たそうです。厚生労働省の委託業者がサイトを見ていたと」。
1 「広告」とは何か ― 三つの要件
医療法6条の5第1項は、「広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示」を規制の対象とし、これを単に「広告」と呼んでいます。ガイドラインは、次の三つをすべて満たすものを医療広告と扱います。
- 誘引性 患者の受診等を誘引する意図があること
- 特定性 医療を提供する者の氏名・名称、病院・診療所・オンライン診療受診施設の名称が特定できること。複数の医療機関を扱う場合も含む。
- 内容 医業・歯科医業または病院・診療所に関する内容であること
媒体は問いません。チラシ、看板、新聞・雑誌、テレビ、ウェブサイト、電子メール、不特定多数に向けた説明会での口頭の説明等も対象です。平成30年6月からは、医療機関のウェブサイト等にも規制が広がっています。
学術論文・学会発表、独立した新聞記事、患者が自発的に書く体験談、通常の院内掲示、職員の求人広告等は、一般に受診を誘引する広告とは扱われません。ただし、費用を負担して掲載を依頼した記事風広告などは別です。「広告ではありません」という表示や、病院名の有無だけで結論は決まらず、依頼関係、掲載内容、受診への誘導等を実質的に判断します。
2 限定解除しても禁止される広告
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| 虚偽広告 | 根拠:法6条の5第1項(直罰) 例:治療の安全・成功を保証する表現、実際の効果と異なるよう加工した症例写真、根拠や調査方法を示さない満足度の表示、実態のない施設・設備の表示など。 |
| 比較優良広告 | 根拠:法6条の5第2項1号 例:医療の内容等を「日本一」「最高」「最良」とする表現、他院より優良であると示す比較、著名人との関係を強調した広告など。事実であっても許されない場合がある。 |
| 誇大広告 | 根拠:法6条の5第2項2号 例:「最先端」「最適」、古い医師数の放置、行政による許可や届出を特別な認定のように強調する表示、撮影条件を変えて効果を誇張する写真、料金条件を誤認させる表示など。 |
| 公序良俗違反 | 根拠:法6条の5第2項3号 例:わいせつ・残虐な図画、差別を助長する表現 |
| 体験談 | 根拠:施行規則1条の9第1号 例:患者等の主観や伝聞に基づく治療内容・効果の体験談。自院サイトへの掲載、口コミの転載、スタッフによる体験の紹介等も、その内容と掲載方法で判断する。患者の同意や真実性だけでは禁止は解除されない。 |
| 誤認を招く治療前後の写真等 | 根拠:施行規則1条の9第2号 例:詳細な説明がなく、治療内容・効果について患者を誤認させるおそれのある写真等。説明を付した場合も、加工、撮影条件、媒体、説明の見やすさ等を確認する(第92講)。 |
これらの禁止は、ウェブサイトの限定解除要件を満たしても外れません。例えば「患者様の声」に治療の効果や受けた感想を載せる企画は、本人の同意があっても実施できません。接遇等への意見を扱う場合にも、内容と広告可能事項の範囲を別途確認します。
ガイドラインは、費用を前面に押し出すキャンペーン、医療と関係のない物品の贈呈、ふざけた表現等を、品位を損ねる広告として厳に慎むべきものとしています。独立した法定の禁止類型とは区別されますが、行政指導の対象となり得ます。表示内容によっては、誇大広告や景品表示法違反にも当たります(第93講)。
3 広告できる事項 ― 限定列挙の考え方
医療法6条の5第3項は、省令で定める場合を除き、法律や告示で認められた事項以外の広告を禁じています。令和8年4月からは、オンライン診療受診施設に関する第15号が加わり、全部で16号です。次の表は、限定解除をしない場合の広告可能事項について、実務上の要点を整理したものです。
| 事項 | 実務上の要点 |
|---|---|
| 診療科名(2号) | 政令で定めた診療科名と、厚生労働大臣の許可を受けた麻酔科のみ。「アンチエイジング」「審美歯科」「インプラント科」「糖尿病科」「総合診療科」は不可。「〇〇外来」は診療科名と誤認させるため広告可能事項ではない(限定解除の対象にはなる)。 |
| 名称・所在・管理者氏名(3号) | 正式名称のほか認識可能な略称も可。「〇×医院 糖尿病クリニック」のような併記は不可。「〇〇センター」は法令・国の事業による場合か都道府県等が認めた場合に限る。 |
| 施設・設備・従業者(8号) | 医療機器の一般的名称(MRI・CT等)や写真は広告可能。販売名・型式番号は、通常の広告可能事項には含まれない。従業者数等には、いつの数値かを暦月単位で併記し、根拠となる数値を公表する。表示は適宜、少なくとも年1回更新する。保有していない機器の画像を自院の設備のように使わない。 |
| 医療従事者に関する事項(9号) | 氏名・年齢・性別・役職・略歴等。一般の研修歴や認定医・指導医の表示は、当然に広告できるわけではない。専門医機構の基本的な診療領域の資格、従来の届出団体の資格に関する経過措置等を確認し、認定団体を併記する。日本歯科専門医機構の資格も対象がある。法令で別途認められた事項との区別が必要。 |
| 提供される医療の内容(13号) | 保険診療、評価療養・患者申出療養・選定療養、分娩、保険診療や評価療養等と同一の方法による所定の自由診療、国内承認等を受けた医薬品・機器を承認範囲で用いる所定の自由診療等。自由診療には、その旨と標準的費用の表示が必要。未承認薬による治療や治療効果等は、原則としてこの広告可能事項には含まれず、限定解除の検討が必要。 |
| 医療の提供の結果(14号) | 手術件数・分娩件数・平均在院日数・患者数・病床利用率等の告示事項に限る。期間を暦月単位で併記し、検証できるよう公表しておく。医師個人の手術件数は不可。死亡率・治癒率は不可。 |
| その他告示事項(16号) | 健康診査・保健指導・予防接種の実施(効果は不可)、支払方法、対応言語、駐車場、送迎、外部監査、機能評価、産科医療補償制度、オンライン診療基準の遵守に関する事項など。 |
提案書の「〇〇認定医」「〇〇研修修了」は、名称だけで掲載の可否を決めないでください。資格・研修の内容と広告できる根拠を確認します。一般の研修歴等を看板に掲載できない場合でも、限定解除要件を満たすウェブサイトなら、事実に即して掲載できる場合があります。
4 限定解除 ― ウェブサイトで許される範囲と、その条件
患者が自ら求めて入手する情報については、広告可能事項の限定を解除できます(施行規則1条の9の2)。要件は四つで、③④は自由診療の情報を提供する場合に限ります。
限定解除の四要件
- 患者等が自ら求めて入手する情報を表示する媒体であること 自院のウェブサイト、患者の求めに応じて送るメールマガジンやパンフレット、患者が自らダウンロードするアプリ、チラシのQRコードから開くページは該当する。バナー広告、リスティング広告(検索連動型の有料表示)は該当しない。バナーからリンクした先の自院サイトは該当する。
- 問い合わせ先を明示すること 電話番号やメールアドレス等、内容について実際に照会できる連絡先を載せる。予約専用としか書かれていない番号、自動音声のみで折り返しがない番号、受付の自動返信だけで返答がない窓口では足りない。
- 自由診療について、通常必要とされる治療内容・費用等を提供すること 治療名と最低限の内容・最低価格だけでは足りない。通常必要な治療内容、標準的な費用(明確でなければ最低額から最高額の範囲、発生頻度の高い追加費用を含む)、治療期間と回数。
- 自由診療について、主なリスク・副作用等を提供すること 「元に戻る」「数回必要な場合がある」程度の記載では足りない。
③④の情報は、リンク先のページに置いたり、利点の記載より極端に小さな文字にしたりしてはならない。背景と同系色の文字、情報量を意図的に増やして見逃させる構成も、視認できる状態とは認められない。
未承認の医薬品・医療機器・再生医療等製品や、承認と異なる効能・用法等で使うものを自由診療で扱う場合には、①未承認等であること、②入手経路、③同一成分・性能の国内承認品の有無や承認条件、④諸外国の安全性等の情報、⑤公的な副作用・感染被害の救済制度の対象外となること等も説明します。個人輸入ではその旨と厚生労働省の注意喚起情報も示します。承認薬の適応外使用と救済制度の関係等は第97講で扱います。
限定解除の対象には、専門外来、一般の研修歴、所定の認定医・指導医、医師個人の手術件数、医薬品の販売名を含む治療の説明等があります。治療効果や件数は、裏付けを示して客観的に実証できることが必要です。治療内容・効果の主観的な体験談や、誤認を招く症例写真は、限定解除でも認められません。
5 他の法令 ― 広告は医療法だけで決まらない
医療法の規制に適合していても、他の法令に触れることがあります。
- 医薬品医療機器等法 医薬品等の虚偽・誇大広告(66条)、未承認品の広告(68条)等を規制する。医療行為として使用・処方する旨の説明と、医薬品等の販売・無償授与の広告は区別する。販売名を挙げた治療の説明が直ちに同法違反になるわけではないが、医療広告の限定解除要件等を満たす必要がある。
- 景品表示法 優良誤認・有利誤認等を規制する(5条)。「通常10万円→今だけ3万円」のような表示は、比較する通常価格に根拠がなければ有利誤認の問題となり得る。医療広告の品位や誇大広告の問題と併せて確認する(第93講)。
- 健康増進法 販売する食品の健康保持増進効果等について、著しく事実と異なる表示や、著しく誤認させる表示を禁止する(65条)。サプリメントを販売する医療機関も対象となり得る。
- 不正競争防止法 役務の質・内容等について誤認させる表示が問題となる。民事上の差止め・損害賠償と、所定の要件を満たす場合の刑事責任を区別する。
ガイドラインは、他法令で処分を受けることを理由に医療法の違反が免責されることはない、と明記しています。逆も同じです。
6 違反したらどうなるか
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査・行政指導 | 自治体等から説明や修正を求められる。任意の指導と、法律に基づく命令を区別し、指摘内容・根拠・期限を確認する。 |
| 報告命令・立入検査 | 医療法6条の8第1項。報告の不履行・虚偽報告、検査の拒否等は、同法89条2号の罰則の対象となる。 |
| 広告の中止・是正命令 | 6条の5第2項・第3項等の違反について、6条の8第2項による命令がある。命令違反は87条3号の対象。虚偽広告は、それ自体が87条1号の対象となる。 |
| 刑事・行政上の責任 | 虚偽広告等の所定の違反は、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金。悪質な場合等には、管理者変更命令や開設許可取消し等も、それぞれの法定要件に従って問題となる。 |
ネットパトロールの情報をもとに自治体が調査・指導する場合もありますが、必ず同じ順番で措置が進むわけではありません。指摘を受けたら、画面と契約関係を保存し、表示の停止・修正、代理店への連絡、再発防止を検討します。令和8年度の立入検査実施通知は、1年以上改善しない長期未改善事例等への対応にも触れています。これは、1年間は放置してよいという意味ではありません。
規制は、広告を行う医療機関だけでなく、制作会社、代理店、アフィリエイター、サイト運営者等にも及びます。医療機関への命令は開設者・管理者が対象となり、代理店等が対象となる場合もあります。「外注したので自院には責任がない」と考えず、それぞれの関与に応じて対応します。
7 院内で決めておくこと
制作会社に任せきりにしない
制作会社に、ガイドラインと事例解説書を踏まえた提案を求めます。契約には、関係法令の遵守、公開前の院内確認、違反が疑われたときの停止・訂正、費用負担、公開後の保守・更新を定めてください。医療機関側でも、治療内容、資格、料金、写真の根拠を確認する担当者を決めます。
公開前と定期の点検
新しいページやSNS投稿は、公開前に禁止事項と限定解除要件を点検します。既存ページも定期的に確認し、医師の退職、機器の入替え、診療時間・料金の変更等があれば速やかに更新します。医師数等の表示にはガイドライン上の更新の扱いがありますが、「年1回見ればよい」と考えて古い情報を放置しないでください。
SNSの運用ルール
公式アカウントでも個人アカウントでも、医療機関が特定でき、受診を誘引する医療に関する投稿は広告です。誰が投稿し、誰が確認するか、写真・患者情報をどう扱うかを文書で決めてください。SNSでは投稿の見え方や、必要な情報が一体として確認できるかも重要です(第92・94講)。
8 今日やること・やってはいけないこと
今日やること
- 自院サイトに「患者様の声」「口コミ」「症例写真」「最新」「最先端」「〇〇センター」「〇〇専門医」(団体名なし)がないか確認する
- 自由診療のページに、治療内容・費用の総額目安・期間回数・主なリスクが、同じページに読める大きさで載っているか確認する
- 問い合わせ先が、予約専用ではなく実際に照会に答えられる連絡先になっているか確認する
- 制作会社との契約に、法令遵守と指摘時の修正義務を入れる
やってはいけないこと
- 「他院もやっている」を判断基準にする
- リスティング広告やバナーに、限定解除でしか載せられない事項(症例写真、認定医、治療効果)を入れる
- リスク・副作用の記載を別ページに逃がす、小さく載せる
- 保健所からの指摘を放置する(長期未改善事例として扱われる)
9 よくある質問
- 院長挨拶に「地域で一番信頼される医院を目指します」と書いています。問題ですか。
- 「地域で一番」という表現は、他院より優良だと受け取られるおそれがあります。「目指します」を付ければ必ず問題がなくなるわけではありません。「地域の皆さまに信頼される医院を目指します」など、他院との優劣を示さない表現に改めるのが適切です。
- 口コミサイトの評価が高いので、自院サイトに「口コミサイトで4.8点」と載せたいのですが。
- 点数を載せるだけでも、治療内容・効果への評価や他院より優良だという印象を伝える場合があり、慎重な判断が必要です。体験談の広告、比較優良広告、広告可能事項の範囲等を確認せず、点数だけを転載することは避けてください。患者が自院の関与なく自発的に書く口コミとは、別に考えます。
- 看板に「〇〇学会認定医」と出しています。
- その資格が広告できる資格として認められているかを、認定団体と資格名まで確認します。一般の認定医・指導医は、通常、看板等には掲載できません。ウェブサイトでは限定解除により掲載できる場合があります。専門医機構の資格や従来の学会資格も、対象領域・経過措置・団体名の併記等の条件を確認してください。
- 制作会社が「ガイドライン適合の認定証を取得済み」と言っています。
- 民間の認定証があっても、個々の表示が適法だと行政から保証されたことにはなりません。何を、誰が、どの基準で審査したものかを確かめてください。ガイドライン遵守を過度に強調することや、厚生労働省のシンボルマークを広告に使うことにも問題があります。
主な法令・参考資料
- 医療法
開設・管理者、医療安全、立入検査・監督、医療法人の役員資格・機関等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205
- 医療法施行規則
医療事故調査(1条の10の2〜4)、管理者変更等の届出、面接指導実施医師(65条)、記録・安全管理。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050
- 厚生労働省:令和8年度の医療法に基づく立入検査の実施通知
令和8年6月12日医政発0612第10号。医療安全、オンライン診療、広告、人員配置、外来医師過多区域等。
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001711283.pdf - 厚生労働省:医療広告等ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)
医療広告の定義、禁止内容、広告可能事項、限定解除、関係法令、調査・指導等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf - 厚生労働省:医療広告等ガイドラインに関するQ&A(令和8年3月30日改訂)
口コミ、最新等の表現、研修・専門性資格、販売名、写真、限定解除、問い合わせ先等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001683595.pdf - 厚生労働省:医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第6版)
令和8年3月。症例写真、費用、体験談、SNS・動画の説明と見せ方等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001683116.pdf - e-Gov法令検索:不当景品類及び不当表示防止法
不当表示、措置命令、課徴金、確約手続、適格消費者団体の権利、罰則等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000134 - e-Gov法令検索:医薬品医療機器等法
66条の虚偽・誇大広告、68条の承認前の医薬品等の広告禁止。
https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145 - e-Gov法令検索:健康増進法
65条の食品の健康保持増進効果等に関する虚偽・誇大表示の禁止。
https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000103 - e-Gov法令検索:不正競争防止法
役務の質・内容等の誤認表示、差止め・損害賠償、所定の要件による刑事責任。
https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000047