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『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第92講】

美容医療のビフォーアフター写真 ― 症例写真を載せる前に

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第92講 美容医療のビフォーアフター写真― 症例写真を載せる前に

第Ⅹ部 医療広告・美容医療・自由診療・オンライン診療

治療の前後の写真は、すべて禁止されているわけではありません。医療広告では、治療内容・効果について患者を誤認させるおそれのある写真等が禁止されます。通常必要な治療内容・費用、期間・回数、主なリスク・副作用等を分かりやすく示し、写真の見せ方も含めて判断する必要があります。治療効果に関する表示は広告可能事項の範囲外なので、掲載媒体が限定解除要件を満たすことも必要です。

症例写真では、①効果を偽ったり誇張したりしていないか、②必要な説明を写真と一体で確認できるか、③掲載媒体が限定解除の対象となるか、を確認します。そのうえで、患者情報の公開に必要な同意と、同意した利用範囲を確かめます。広告の条件と患者の同意は、別々の確認事項です。

例えば、美容皮膚科を併設した院長のもとに、スタッフから提案がありました。「インスタに症例写真を載せましょう。シミ取りのビフォーアフターは反応がいいんです。患者さんの同意はもらいます」
院長は聞きました。「載せていいのか」
スタッフは答えました。「みんな載せてます」
院長はもう一度聞きました。「みんな、どういう形で載せている?」

1 症例写真で確かめる四つの点

症例写真を掲載する前の確認
項目内容
写真と効果の表示実際の治療内容・結果を正確に示す。画像加工や照明・化粧等によって効果を偽ったり誇張したりしない。
写真に付す説明治療内容、通常必要な費用、期間・回数、主なリスク・副作用等を、写真との対応が分かる位置・大きさで示す。
掲載する媒体限定解除要件を満たすウェブサイト等かを確認する。バナーや検索連動型の有料広告自体には、限定解除は適用されない。
患者の同意と管理広告の掲載先、目的、期間、写真の扱い等を説明し、必要な同意を得る。同意があっても、違反広告を出すことはできない。

ガイドラインは、治療結果を加工・修正した写真を虚偽広告、撮影条件や被写体の状態を変えて効果を強調した写真を誇大広告の例としています。術前のみ・術後のみの写真にすれば規制を免れるわけでもありません。単なる診療風景と、治療効果を示す症例写真は区別して確認します。

2 載せられる写真の要件

項目要件
写真の真正性実際の治療と対応する写真を使い、効果に関わる加工・修正をしない。照明、角度、距離、化粧、表情等はできるだけ揃え、撮影時期も明記する。他院の写真や素材画像を自院の治療実績のように使わない。プライバシー保護の処理も、結果の確認を妨げたり誤認させたりしない範囲で行う。
治療内容どの治療を、どのような手順で行ったか。薬剤・機器の承認状況等も確認する。販売名を含めた治療の説明は、限定解除要件等を満たすかを判断する(第91講)。
費用標準的な費用。明確でなければ最低額から最高額の範囲。麻酔・薬剤・処置料など発生頻度の高い追加費用と、通常併用される治療を含めた総額の目安。
治療期間・回数通常必要な期間と回数。写真の症例が何回目の治療後かも明記する。
主なリスク・副作用その治療の主なリスク・副作用を具体的に示す。例えば腫れ、内出血、色素沈着、感染等から、実際の治療に応じた内容を記載する。「効果には個人差があります」「数回必要な場合があります」だけで済ませない。
未承認医薬品等を使う場合未承認等であること、入手経路、同一成分・性能の国内承認品の有無等、諸外国の安全性情報、公的な副作用・感染被害の救済制度との関係を説明する(第91・97講)。
掲載場所写真と説明を一体として確認できる位置に置く。説明を離れた別ページに置く、極端に小さい文字にする等は避ける。SNS・動画では、近傍の説明を含む表示全体の分かりやすさも確認する(本講5)。
媒体限定解除要件(第91講第4章)を満たす媒体に限る。問い合わせ先の明示も必要。

複数の症例を並べるときは、どの説明がどの写真に対応するかを明確にします。写真の近くに見出しだけを置き、費用・リスクをページの離れた場所にまとめるだけでは、十分な説明にならない場合があります。説明があるかだけでなく、患者が容易に読める配置かを確認してください。

3 掲載前に見直したい例

  • ギャラリー形式 症例写真を一覧で並べ、説明は各写真をクリックした先にある。写真と説明が同じ場所にない。
  • 「詳しくはプロフィールのリンクへ」 SNSの投稿に写真だけを載せ、費用やリスクはリンク先のサイトにある。投稿単体で見れば、説明のないビフォーアフター写真。
  • 「効果には個人差があります」だけ リスク・副作用の記載として不十分。
  • 術後写真だけで効果を見せる 前後の比較をやめても、説明なしに効果を誤認させる写真を掲載できるわけではない。
  • 撮影条件で効果を強調する 照明、化粧、角度等の違いを利用して、治療による変化を実際以上に見せる。誇大広告等の問題となる。
  • バナー・リスティング広告 検索連動型広告の画像に症例写真を使う。媒体が限定解除の対象外。
  • 院外の看板・電車内広告・チラシ 同上。
  • 説明の乏しい動画 治療前後の映像も規制対象となる。動画内や、明示された近傍の説明を含め、必要な情報を容易に確認できるかを点検する。
  • 患者の投稿の再掲 医療機関の公式アカウントで体験談や症例写真を紹介する場合、元の投稿が自発的でも、医療機関の広告として内容を確認する必要がある。依頼や謝礼の有無だけでは決まらない。

4 患者の同意 ― 行政規制とは別の問題

症例写真を広告に使うときは、診療のために撮影する場合とは分けて、公開する目的・媒体・範囲を説明し、患者の自由な意思による同意を得てください。患者が了承していても、広告規制の条件は満たす必要があります。

個人情報保護法

顔や輪郭、治療部位、投稿の経緯等から本人を識別できる写真は、個人情報になり得ます。診療を受けたことや治療内容等には、要配慮個人情報が含まれます。診療のための取得・利用への同意を、広告への公開まで認めたものとして扱ってはいけません。利用目的の範囲と個人データの第三者提供について、個人情報保護法18条・20条・27条等に沿って必要な同意を得ます。制作会社への提供が利用目的の範囲内の委託に当たる場合も、委託先の監督と安全管理が必要です。

肖像権・プライバシー

本人の肖像や私生活上の情報を広告に使うことは、個人情報保護法とは別に、肖像・プライバシーの侵害として損害賠償等の問題にもなります。同意した媒体や期間を超えて利用しないよう、掲載先と終了日を管理してください。

症例写真の利用同意書に入れる項目

  1. 利用目的 自院の広告(ウェブサイト・SNS等)に掲載すること。
  2. 媒体の特定 どの媒体に載せるか。SNSに載せるなら、拡散され回収できないことを説明する。
  3. 加工の範囲 氏名の削除や必要なマスキング等、プライバシー保護のために行う処理を説明する。治療効果を偽ったり誇張したりする加工はしない。
  4. 掲載期間 期限を定める。
  5. 撤回・削除の申出 受付方法と対応を明記し、公開の継続を望まない申出には速やかに対応する運用を定める。第三者の転載や検索結果等を完全には回収できないことも説明する。公開の停止と、診療記録として必要な保存は分ける。
  6. 外部への提供 制作会社等への委託の目的・範囲と管理方法を説明する。委託を超えて第三者に提供する場合には、その提供に必要な同意等を確認する。
  7. 謝礼・割引 写真提供のみを条件とする制度が、当然に禁止されるわけではない。条件を明確にし、断りにくい勧誘や、治療内容・効果の体験談の広告につながる依頼をしない。
  8. 未成年者 本人の年齢・理解力、契約内容、親権等を確認し、必要な本人・法定代理人の同意を得る。本人が嫌がる公開を進めない。
  9. 同意の時期 撮影と公開の前に、目的と条件を説明して同意を確認する。通常の診療同意と広告利用の同意を混同せず、完成した写真や説明も本人と確認する運用が望ましい。

5 SNSと動画 ― 「一体的かつ一覧性をもった情報提供」

SNSでは、投稿ごとに必要な情報が分かる構成が基本です。一方、事例解説書第6版は、近傍の一連の投稿やプロフィール欄等も含め、一体的で一覧性のある情報提供となる例を示しています。動画についても、動画内で説明の掲載場所を示し、その近くの概要欄等で必要な情報を提供する例があります。「動画の中だけに全文を入れなければ違反」とまではいえません。

ただし、「詳しくは別サイトへ」とするだけ、古い固定投稿を探させる、情報を複数のSNSに分散する、といった構成では不十分です。症例写真には詳細な説明も必要です。スマートフォンで実際に開き、写真から離れずに費用・リスク等を容易に確認できるかを点検します。

実務上、次の点を決めておいてください。

  • 症例写真には治療内容・費用・期間回数・主なリスク副作用を分かりやすく付し、問い合わせ先も示す。文字数や画面の制約で十分な説明ができない場合は、その形式での掲載を見送る。
  • 短い動画やストーリーズでは、文字の大きさと表示時間も確認する。一律に禁止される形式ではないが、必要な情報を十分に確認できる構成が作れなければ、症例の掲載には使わない。
  • スタッフ個人のアカウントでも医療広告に当たり得る。院内の管理を徹底するため、患者情報や症例写真の無断投稿を禁止し、掲載する場合の承認手順を定める。
  • 患者の投稿へのコメントやリポストで、治療効果を肯定する発言をしない。
  • 投稿前に、誰が確認するかを決める。確認者は、この講の第2章の表を手元に置く。

6 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 自院サイトとSNSの症例写真を全件確認し、写真と同じ場所に治療内容・費用・期間回数・リスクが載っているかを見る
  • 載っていない写真は、説明を付けるか、削除する
  • 症例写真の利用同意書を、上記の項目で作り直す
  • 撮影条件(照明・角度・距離・化粧)を揃える撮影手順を文書にする

やってはいけないこと

  • 効果に関わる画像加工や撮影条件の操作で、治療結果を偽り、誇張する
  • 説明をリンク先や別ページに置く
  • リスティング広告・バナー・看板・チラシに症例写真を使う
  • 「効果には個人差があります」だけでリスク説明を済ませる
  • 写真の提供への同意だけで体験談の投稿まで依頼する、同意の範囲を超えて写真を使う

7 よくある質問

目線を隠せば個人情報ではなくなりますか。
目線を隠しても、輪郭や治療部位、投稿の文脈から本人が識別されることはあります。個人情報に当たるかは総合的に判断されますし、当たらない場合でも肖像権・プライバシーの問題は残ります。目線の隠しは同意を不要にする手段ではなく、同意を得たうえで本人への配慮として行うものと考えてください。
患者本人が自分のSNSに術前術後の写真を載せて、当院を紹介してくれました。何もしていません。
医療機関が依頼や謝礼をしておらず、患者が自分の意思で載せたものであれば、誘引性がなく広告に当たりません。ただし、それを医療機関がリポストしたり、公式アカウントで紹介したりすると、医療機関の広告になります。また、来院時に「載せてくれたら次回割引」と言えば、その時点で誘引性が生じます。
症例写真を院内の待合室に掲示することは可能ですか。
通常の待合室の掲示は、既に受診している患者への情報提供として、医療広告とは扱われません。ただし、外から通行人に見せる掲示や、その掲示をSNSに転載して受診を誘う場合等は別です。院内であっても、患者の同意、公開範囲、個人情報への配慮は必要です。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・参考資料

  1. 医療法

    開設・管理者、医療安全、立入検査・監督、医療法人の役員資格・機関等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205

  2. 医療法施行規則

    医療事故調査(1条の10の2〜4)、管理者変更等の届出、面接指導実施医師(65条)、記録・安全管理。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050

  3. 個人情報保護法

    利用目的、要配慮個人情報、委託・第三者提供、保有個人データの開示等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057

  4. 個人情報保護委員会:個人情報保護法ガイドライン(通則編)

    事業承継に伴う利用目的、個人データの提供と、契約前の調査での安全管理。

    https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/

  5. 個人情報保護委員会・厚生労働省:医療・介護ガイダンス

    診療情報の取扱い、漏えい等の報告、第三者提供。

    https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/iryoukaigo_guidance/
  6. 厚生労働省:医療広告等ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)

    医療広告の定義、禁止内容、広告可能事項、限定解除、関係法令、調査・指導等。

    https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf
  7. 厚生労働省:医療広告等ガイドラインに関するQ&A(令和8年3月30日改訂)

    口コミ、最新等の表現、研修・専門性資格、販売名、写真、限定解除、問い合わせ先等。

    https://www.mhlw.go.jp/content/001683595.pdf
  8. 厚生労働省:医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第6版)

    令和8年3月。症例写真、費用、体験談、SNS・動画の説明と見せ方等。

    https://www.mhlw.go.jp/content/001683116.pdf

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