第94講 インフルエンサーに患者を集めてもらう― PR・口コミ・ステマ
第Ⅹ部 医療広告・美容医療・自由診療・オンライン診療
インフルエンサー本人が投稿しても、医療機関の依頼や報酬等に基づく宣伝であれば、医療広告の規制が問題となります。無料施術と引換えに治療の感想を投稿してもらう企画も同じです。治療内容・効果の主観的な体験談は、広告では禁止されています。さらに、医療機関の広告であることを隠せば、景品表示法のステルスマーケティング規制も問題となります。
この講では、インフルエンサー、口コミサイト、成果報酬の広告等を使う場合の注意点を整理します。依頼や報酬の有無だけでなく、表示内容への関与と実際の見え方を確認します。「PR」と明示すれば、治療の体験談や誇大な説明まで掲載できるわけではありません。
例えば、広告代理店から提案がありました。「フォロワー20万人の美容系インフルエンサーに、無料で施術を受けてもらって、その体験を投稿してもらいます。投稿には『PR』は付けません。付けると反応が落ちるので」
院長は聞きました。「それは大丈夫なのか」
代理店は答えました。「投稿するのは本人ですから、当院の広告ではありません」。
1 医療法 ― 投稿への関与と内容を確かめる
医療広告かどうかは、受診を誘う意図、医療機関等の特定可能性、医療に関する内容という要件で判断します。患者が自発的に述べる体験談は通常、広告とは扱われませんが、医療機関の関与があれば別です。依頼と対価の両方がそろわなければ規制されない、という仕組みではありません。
- 医療機関からの依頼に基づく手記であるとき
- 医療機関から金銭等の謝礼を受けている、またはその約束があるとき
- 書き手が医療機関の経営に関与する者の家族等で、病院の利益のためと認められるとき
- 費用負担等の便宜を図って掲載を依頼しているとき
医療広告等ガイドラインのQ&Aは、無償でも、医療機関が肯定的な体験談の投稿を依頼すれば誘引性が生じるとしています。無料施術等の便宜を与えて宣伝を依頼する場合も、広告として内容を確認する必要があります。
広告に当たる投稿で、「効果を実感した」等の主観的な治療体験を紹介することは禁止されます。症例写真には詳細な説明が必要で、限定解除に対応する媒体かも確認します。「最高」「一番」等の比較優良表現にも注意してください。一方、「最新」は、客観的な根拠と時点等から事実と認められるかで判断され、一律の禁止語ではありません。
通常のSNS投稿でも、必要な情報を一体として確認できるかが重要です(第92講)。投稿を有料広告として配信する場合は、通常の投稿とは媒体の条件が異なり、限定解除を当然には使えません。医薬品等の販売名を含む治療の説明と、製品自体の販売・無償授与の広告も区別します(第91講)。
インフルエンサーに治療内容・効果の主観的な体験談を宣伝してもらう企画は、採用しないでください。所在地、診療時間、施設の案内、事実に基づく治療の説明等を紹介する企画は、広告可能事項の範囲や限定解除要件に応じて検討できます。広告可能事項だけを載せる場合まで、必ず限定解除が必要になるわけではありません。
2 景品表示法 ― ステルスマーケティング規制
令和5年10月1日から、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」が、景品表示法5条3号の指定告示による不当表示になりました。要件は二つです。
| 要件 | 内容(運用基準から) |
|---|---|
| ①事業者の表示であること | 医療機関が表示内容の決定に関与していること。明示の指示がなくても、依頼の経緯、報酬・無料施術等の内容と目的、継続的な関係等から判断される。利益の提供があれば常に該当する、という一律の基準ではない。 |
| ②一般消費者が判別困難であること | 表示全体を見ても、広告主の表示だと一般消費者が明瞭に分からないこと。「広告」「PR」等は明示方法の例。小さな文字や大量のハッシュタグに埋め込むだけでは不十分な場合がある。動画は途中から見る人にも分かるようにする。 |
景品表示法上、基本的な規制対象は、自己のサービスについて表示内容の決定に関与する広告主です。単に依頼を受けて投稿するインフルエンサー等は通常その対象外ですが、共同してサービスを供給する場合等は別です。医療法の広告規制は、広告主以外にも適用されます。消費者庁のQ&Aは、自社サイトに投稿を転載する場合にも、依頼した投稿であることを明瞭に示すよう求めています。
設例のように無料施術と引換えに宣伝を依頼し、広告であることを分からなくする投稿は、ステルスマーケティングとして問題になります。「PR」という文字を使ったかだけでなく、閲覧者に依頼関係が明瞭に伝わるかを確認してください。
3 二つの法律の重なりと、それぞれの出口
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 医療広告の確認 | その投稿が医療広告に当たるかを判断し、治療内容・効果の主観的な体験談、虚偽・誇大表示等を除く。写真や治療の説明には別途の条件がある。 |
| ステマ規制の確認 | 広告主が表示内容の決定に関与しているか、そのことが一般消費者に明瞭かを確認する。報酬だけでなく、依頼と関係性の実態も見る。 |
| 広告と明示した後 | 明示によりステマの問題が解消しても、医療法の禁止事項や、景品表示法の優良誤認・有利誤認の問題は残り得る。投稿内容も点検する。 |
広告であることの明示と、広告内容が適法であることは別問題です。医療では、真実の感想でも、治療内容・効果の主観的な体験談を広告に使うことはできません。なお、ステルスマーケティング告示への違反だけであれば、優良誤認・有利誤認を対象とする課徴金や直罰の対象にはなりませんが、措置命令等は問題となります。
4 口コミサイト ― どこまで関与できるか
口コミの評価では、医療機関が何を依頼し、内容にどう関与したかを確認します。医療広告等ガイドラインのQ&Aと消費者庁のステマQ&Aでは、それぞれの規制に沿って判断が示されているため、同じ基準だと考えないことが大切です。
| 行為 | 評価 |
|---|---|
| 患者が自発的に口コミを書く | 医療機関の関与なく自発的に書く口コミは、通常、医療広告ではない。自院が転載・編集して宣伝に利用する場合は、別に評価する。 |
| 受付で「よろしければ口コミをお願いします」と一律に案内する | 肯定的な治療体験や高評価を求める依頼は、無償でも医療広告上の誘引性が生じる。内容を指定しない中立的な案内は、働きかけの実態を確認する。高評価を書くよう圧力をかけたり、患者の診療情報を公開したりしない。 |
| 口コミを書いたら割引・特典 | 医療広告では、謝礼や依頼による誘引性と、治療内容・効果の体験談の禁止を確認する。景品表示法では、内容を指定しない一般消費者への通常の割引は、直ちに事業者の表示となるわけではない(消費者庁Q&A・Q6)。ただし、高評価や推奨コメントを条件とすれば別。二つの規制を分けて判断する。 |
| 否定的な口コミの削除をサイト運営者に依頼する(名誉毀損等に当たらないもの) | 医療機関に有利な編集。依頼によるものなら誘引性が生じる。 |
| 肯定的な口コミを上位に表示させる、内容を改編させる | 同上。編集されたサイトの運営費を事後的に負担する場合も誘引性が生じる。 |
| 口コミサイトの点数や順位を自院サイトに転載する | 治療の評価、比較優良表示、広告可能事項の範囲等の問題がある。点数だけなら問題ないとは考えず、転載の内容と見せ方を確認する(第91講)。 |
| 業者に依頼して口コミを書かせる(いわゆるやらせ) | 存在しない患者や治療体験を作れば、虚偽広告等の問題となる。治療内容・効果の主観的な体験談を宣伝に使うことや、広告であることを隠すことも、各規制に触れ得る。 |
| 名誉毀損に当たる口コミの削除を求める | 名誉毀損・プライバシー侵害等について、要件を検討して削除請求や発信者情報開示等で対応する。悪い評価だからという理由だけで、違法な投稿と決めつけない。 |
5 アフィリエイト・紹介料・成果報酬
成果報酬型の広告では、医療機関とアフィリエイターの双方に広告規制が関わります。委託先が独自に書いたという説明だけでは、医療機関の関与や責任の問題は解消しません。契約する媒体・投稿者を把握し、事前の原稿確認、公開後の監視、修正・停止の手順を設けてください。
保険医療機関が事業者やその従業員に患者紹介の対価として金品を提供し、患者を誘引することは、療養担当規則2条の4の2第2項で禁じられています。患者自身への利益による誘引は同条1項の問題です。自由診療の紹介契約についても、広告内容、患者情報の提供、紹介料が診療判断に与える影響、開設者・管理者の運営責任等を確認します。紹介料があるだけで、直ちに非営利性違反と決まるわけではありません。
6 契約に書くこと
インフルエンサーや代理店に依頼するなら、一般の商品向けの契約をそのまま使わず、医療広告に必要な制約を具体化します。次の項目には、法律上の要件に加え、違反を防ぐための契約上の運用も含まれます。
インフルエンサー・代理店との契約に入れる項目
- 広告である旨の明示 投稿の見やすい位置に「広告」「PR」等を示す。動画は冒頭だけで済ませず、途中からの視聴でも広告と分かる表示を続けるなど、動画全体を通じた見え方を定める。
- 投稿内容の事前承認 医療機関が公開前に内容を確認し、承認したもののみ投稿する。修正指示に従う。
- 禁止事項と審査対象 治療内容・効果の主観的な体験談、虚偽・比較優良・誇大表示等を禁止する。症例写真、薬剤名、費用の強調等は、それぞれの掲載条件を踏まえて事前審査し、院内方針として使用しない範囲も明確にする。
- 掲載内容と媒体 広告可能事項の範囲で紹介するのか、限定解除により詳しく説明するのかを定める。有料配信への転用や投稿の抜粋・転載には、あらためて確認を求める。
- 対価の明記 無償施術・割引・金銭のいずれであれ、対価の内容。対価があること自体を隠さない。
- 削除・訂正義務 医療機関または行政からの指摘があった場合、直ちに削除・訂正すること。契約終了後の投稿の扱い。
- 再委託の管理 無断の再委託を禁じ、再委託を認める場合は医療機関の事前承認、委託先の把握、同じ表示基準の遵守を求める。
- 責任と費用 停止・訂正への協力、損害や対応費用の負担を定める。契約で行政上の責任や処分の名宛人を自由に変更することはできず、医療機関自身の責任が残る場合がある。
- 患者情報 インフルエンサーが施術を受ける場合、その診療情報の扱い。撮影の可否。他の患者が映り込まないこと。
7 今日やること・やってはいけないこと
今日やること
- 過去にインフルエンサーやモニターに依頼した投稿を洗い出し、「PR」表示の有無と内容(体験談・写真)を確認する
- 口コミの依頼、特典、高評価の指定、削除・並べ替えへの関与を確認し、問題のある運用を止める
- 成果報酬型の広告があれば、記事内容の事前確認の仕組みを作る
- 代理店との契約を、上記の項目で見直す
やってはいけないこと
- 「本人が投稿するから広告ではない」という説明を受け入れる
- 医療機関から依頼された広告だと分からない形で、宣伝を投稿させる
- 「PR」を付ければ、治療の体験談や説明の足りない症例写真も掲載できると考える
- 高評価や治療の体験談を宣伝する投稿を、割引や特典の条件にする
- 正当な権利侵害への対応と区別せず、低評価の隠蔽や高評価の優先表示を依頼する
8 よくある質問
- 院長自身がSNSで治療について発信しています。これは広告ですか。
- 医療機関等が特定でき、受診を誘引する医療に関する内容であれば広告です。院長本人の投稿でも、治療内容・効果の主観的な体験談は広告に使えません。症例写真は一律に違反ではありませんが、必要な説明と媒体等の条件を確認します。疾患の一般的な解説も、受診への誘導や投稿全体の内容から判断してください。
- 患者から「投稿していいですか」と言われました。
- 患者が自分の意思で投稿することは自由であり、広告ではありません。医療機関としては、依頼も謝礼もしないこと、内容に注文を付けないこと、他の患者や職員が映り込まないよう院内での撮影のルールを説明することで足ります。その投稿を医療機関がリポストしたり、自院サイトで紹介したりすれば、その時点で医療機関の広告になります。
- 代理店から、指摘を受けた場合は代理店が責任を持つと言われています。
- 契約で行政処分の名宛人を変更することはできません。医療機関の責任が残る場合があり、医療法では代理店自体も命令等の対象となり得ます。誰にどの責任があるかは法令と関与の実態によります。補償の約束に加え、公開前の審査と、問題が生じたときの停止・修正の手順を具体的に決めてください。
主な法令・参考資料
- 医療法
開設・管理者、医療安全、立入検査・監督、医療法人の役員資格・機関等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205
- 医療法施行規則
医療事故調査(1条の10の2〜4)、管理者変更等の届出、面接指導実施医師(65条)、記録・安全管理。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050
- e-Gov法令検索:保険医療機関及び保険医療養担当規則
患者への経済上の利益による誘引、事業者等への紹介料、一部負担金等の受領その他の療養担当の規律。
https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50000100015 - 厚生労働省:医療広告等ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)
医療広告の定義、禁止内容、広告可能事項、限定解除、関係法令、調査・指導等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf - 厚生労働省:医療広告等ガイドラインに関するQ&A(令和8年3月30日改訂)
口コミ、最新等の表現、研修・専門性資格、販売名、写真、限定解除、問い合わせ先等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001683595.pdf - 厚生労働省:医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第6版)
令和8年3月。症例写真、費用、体験談、SNS・動画の説明と見せ方等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001683116.pdf - e-Gov法令検索:不当景品類及び不当表示防止法
不当表示、措置命令、課徴金、確約手続、適格消費者団体の権利、罰則等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000134 - 消費者庁:ステルスマーケティングに関するQ&A
広告主と投稿者の関係、口コミ割引、高評価の指定、PR表示、動画、転載等。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/faq/stealth_marketing/ - 消費者庁:ステルスマーケティング告示の運用基準
令和5年3月28日。事業者の表示かどうかと、一般消費者が広告だと判別できるかの判断。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/assets/representation_cms216_230328_03.pdf