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『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第96講】

自由診療の高額コースを解約したいと言われた

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第96講 自由診療の高額コースを解約したいと言われた

第Ⅹ部 医療広告・美容医療・自由診療・オンライン診療

契約書に「返金不可」と書いてあっても、そのまま解約を断ることはできません。まず、特定商取引法が定める美容医療に該当するか、クーリング・オフの期間内かを確認します。対象となる契約では、期間経過後も契約期間中の中途解約が認められ、請求できる金額に上限があります。患者に不利な特約は無効です。

この講では、対象となる美容医療、必要な書面、解約時の精算、対象外の自由診療を整理します。令和7年8月15日付の厚生労働省通知は、契約に関する相談について、保健所と消費生活センター等の連携にも触れています。診療への同意と料金の契約を分けて説明し、受付だけで返金の可否を決めない仕組みが必要です。

例えば、受付に電話がありました。「先週、医療脱毛の全身5回コース、48万円で契約した者です。1回受けましたが、やっぱりやめたいんです。残りの分は返してもらえますか」
受付は契約書を確認しました。「途中解約の場合、返金はいたしません」と書いてあります。
受付は院長に聞きました。「契約書どおり、返金しないと答えていいですか」
院長は答えられませんでした。

1 どの自由診療が対象か

特定商取引法は、平成29年12月1日から、美容医療を特定継続的役務に加えました。対象は、政令・省令で次のように限定されています。

要件内容
役務の種類人の皮膚を清潔にし若しくは美化し、体型を整え、体重を減じ、又は歯牙を漂白するための医学的処置、手術及びその他の治療(美容を目的とするもので、省令で定める方法によるものに限る)。省令は、脱毛(光の照射または針を通じた電気の流通)、にきび・しみ・そばかす・ほくろ・入れ墨等の除去(光・音波の照射、薬剤の使用、機器を用いた刺激)、皮膚のしわ・たるみの軽減(薬剤の使用、糸の挿入)、脂肪の減少(光・音波の照射、薬剤の使用、機器を用いた刺激)、歯牙の漂白(薬剤の塗布)を挙げている。
期間役務提供期間が1か月を超えるもの。
金額関連商品を含む支払総額が5万円を超えるもの。

「1か月を超える」は「1か月以上」とは違います。指定された方法の美容医療について、契約全体の役務提供期間が1か月を超え、支払総額が5万円を超えるかを判断します。施術が1回でも、治療と一体の術後の経過観察・処置や関連商品の使用を含めて条件を満たす場合があります。一方、効果が長く続くというだけでは期間の条件を満たしません。施術回数や請求書の分け方だけで対象外と考えないでください。

対象外でも、契約が自由に設計できるわけではありません。第4章で扱います。

2 対象なら何をしなければならないか

義務内容
概要書面の交付

内容:契約前に、役務・関連商品の内容、期間、金額、支払方法、解約等の法定事項を記載した概要書面を交付する。電磁的方法による提供には、法42条4項と関係規則に沿う承諾等の手続が必要。

根拠:42条1項

契約書面の交付

内容:契約後遅滞なく、役務・関連商品の内容、期間、金額、解約と精算、事業者の名称・住所等の法定事項を記載した契約書面を交付する。クーリング・オフの赤枠・赤字、文字の大きさ等の定めにも従う。

根拠:42条2項(電磁的提供は4項)

誇大広告等の禁止

内容:役務の内容・効果等について著しく事実に相違する表示、著しく優良・有利と誤認させる表示の禁止。

根拠:43条

不実告知・威迫等の禁止

内容:勧誘や解除妨害のために、所定の事項について不実を告げることを禁止する。契約の勧誘で重要事項を故意に告げないことや、締結・解除妨害のために威迫して困惑させることも禁止。

根拠:44条

財務書類の備置き

内容:前払方式で5万円超の場合、貸借対照表・損益計算書等を備え置き、求めに応じて閲覧させる。

根拠:45条

クーリング・オフ

内容:適法な契約書面等を受領した日を含め8日間は、書面または電磁的記録で解除できる。期間内に通知を発信すればよい。施術済みでも、その対価・違約金は請求できず、受領した代金を返還する。関連商品の解除には法定の例外がある。

根拠:48条

中途解約

内容:クーリング・オフ期間経過後も、契約期間中いつでも理由を問わず解約できる。事業者が請求できるのは、提供済み役務の対価と、政令で定める額の範囲の損害賠償のみ。

根拠:49条

患者に不利な特約の無効

内容:クーリング・オフや中途解約について、法の規定より患者に不利な特約は無効。

根拠:48条8項・49条7項

行政規制に違反すれば、業務改善指示(46条)、業務停止命令(47条)、役員等の業務禁止命令(47条の2)の対象になり、一部は罰則の対象です。消費者庁と都道府県が執行します。

3 中途解約のときに請求できる金額

美容医療について、政令が定める損害賠償等の上限は次のとおりです。

解約の時期請求できる額の上限
役務の提供開始前2万円
役務の提供開始後提供済み役務の対価 + 5万円または契約残額の20%のいずれか低い額

設例は「先週契約した」という申出です。まず適法な契約書面等の受領日を確認し、クーリング・オフができるなら、1回施術済みでも48万円全額を返還します。書面の不備や解除妨害がある場合にも、単純に契約からの日数だけでは判断できません。

以下は、クーリング・オフ期間が適法に経過し、通常の中途解約として精算する場合の例です。5回48万円で、契約時の1回分の対価が9万6千円なら、1回施術後の残額は38万4千円。その20%は7万6,800円なので、損害賠償等の上限は低い方の5万円です。既施術分を含めて受領できる上限は14万6千円、返還額は少なくとも33万4千円となります。上限額を当然に請求できるわけではなく、契約上の定めや請求の根拠も確認します。

提供済みの役務は、契約時に定めた対価に基づいて精算します。解約を理由に、コース単価から高い通常単価へ引き上げてはいけません。通常単価で精算する条項を書いておけば解決する問題でもありません。各施術の内容と単価、無料の追加施術がある場合の扱いを契約書面に明示し、患者が精算方法を理解できるよう説明してください。

関連商品とは、役務を受けるため購入が必要とされる、政令指定の商品です。美容目的の医薬品・医薬部外品、化粧品等が該当し得ますが、単に併売するすべての商品が該当するわけではありません。消費者庁Q&Aでは、痛み止めや抗生剤は美容目的の関連商品に当たらないとされています。

関連商品の契約も解除できる場合があります。中途解約では「開封済みだから一切返金しない」とせず、返品の有無に応じて法49条5項・6項の精算上限を確認します。クーリング・オフには、指定された消耗品を消費者が使用・消費した場合の例外がありますが、事業者が使わせた場合は別です。法定の書面記載等の条件も確認し、二つの制度を混同しないでください。

4 対象外の自由診療 ― 消費者契約法と民法

指定された美容医療の方法に当たらない場合や、契約全体の期間・金額が条件を満たさない場合には、この特定継続的役務の規律は適用されません。ただし、訪問販売等の別の取引類型に当たるかは別問題です。また、対象外でも次のルールを確認します。

  • 準委任契約の解除 診療契約は一般に準委任として整理され、民法656条・651条では各当事者がいつでも解除できることが基本です。特約の効力や解約に伴う金銭負担は、契約内容と消費者契約法等に照らして検討します。料金の問題が残ることと、患者が望まない治療を強制できることは別です。
  • 消費者契約法9条1項1号 解約に伴う損害賠償・違約金の予定は、同種の契約の解除で生じる「平均的な損害」を超える部分が無効です。まだ提供していない治療の料金を全額没収する条項等は、その根拠を慎重に検討します。患者から求められた場合には、算定根拠の概要を説明する努力義務もあります(同条2項)。
  • 消費者契約法4条 不実告知や、所定の将来の不確実な事項についての断定的判断等により誤認した場合、または退去妨害等の法定の行為により困惑した場合には、要件を満たせば取り消せます。勧誘者が無資格だったことだけで、当然に取消しが成立するわけではありません。
  • 説明義務 患者が選択できるよう、治療内容、費用、主なリスク、代替手段、治療しない選択肢等を説明します。説明不足は、同意の有効性や損害賠償の問題につながります。広告の限定解除要件を満たすことと、患者個人に必要な説明を尽くすことは別です。

対象外の契約でも「未提供分は返金しない」「キャンセル料100%」を一律に適用してはいけません。提供済みの対価と解約に伴う負担を分け、契約上の根拠、平均的な損害の範囲、消費者の利益を一方的に害する条項の規律(消費者契約法10条)を確認します。材料費や予約枠の損失も、その全額が当然に請求できるわけではありません。

5 コース契約の設計と解約対応

自由診療のコース契約で整えること

  1. 対象判定 自院のメニューごとに、特定継続的役務に当たるか(役務の種類・方法、期間、金額)を判定し、一覧にする。
  2. 書面 概要書面・契約書面を、法定事項と記載方法に沿って整える。電磁的方法なら、承諾の取得や患者が確実に受領できる方法等、所定の手続を組み込む。
  3. クーリング・オフの告知 契約書面に赤枠・赤字で記載し、口頭でも説明する。書面に不備があればクーリング・オフ期間は始まらない。
  4. 中途解約条項 法定上限を超えない精算方法を定める。提供済み対価は契約時の各施術の単価に基づいて明示し、解約時だけ通常価格へ引き上げない。同額の施術を複数回提供するコースでは、総額と回数の関係を分かりやすく示す。
  5. 関連商品 購入が必要な商品と任意購入の商品を区別し、法定の関連商品かを判定する。必要な商品の内容・金額・解約時の扱いを明示し、医学的に不要な商品を治療の条件にしない。
  6. 前受金の管理 コース料金を前受けする場合、未提供分に相当する額は返還義務を負う金銭であることを前提に、資金繰りを組む。前払方式で5万円超なら財務書類の備置きも必要。
  7. 解約窓口と手順 解約の申出を受けたら、受付が「返金しない」と答えない。申出日を記録し、提供済み回数と返還額を計算し、書面で回答する。返還は速やかに。
  8. 勧誘の記録 誰が、いつ、どのように説明したかを残す。スタッフの事務的な案内と医学的判断を区別し、医師の診察・説明と患者の意思決定を記録する(第95講)。
  9. 信販・分割払い 割賦販売法上の支払停止の抗弁等の適用と、解除時の信販会社への連絡・精算を確認する。法定の患者の権利は、加盟店契約だけで決まるものではない。

6 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 自院のコース契約書を読み、「返金不可」「解約時は通常価格で精算」の条項がないかを確認する
  • 特定継続的役務に当たるメニューを一覧にし、概要書面・契約書面の有無を確認する
  • 解約の申出を受けたときの手順(記録・計算・書面回答・返金)を受付と共有する
  • 前受金のうち未提供分の残高を把握する

やってはいけないこと

  • 「契約書に返金不可と書いてある」を理由に返金を拒む
  • 解約の申出に、虚偽の説明や威迫による引留めで対応する(44条)
  • 解約時に、コース割引をなかったことにして通常単価で精算する
  • 医学的に不要な化粧品やサプリメントの購入を施術の条件にする

7 よくある質問

契約から8日以内に「やめたい」と電話がありました。書面での通知が必要ですか。
法律上のクーリング・オフの通知は、書面またはメール等の電磁的記録で行います。電話で申出があれば、受領日と申出内容を記録し、期間内に通知を発信できるよう速やかに案内してください。医療機関が合意解除として受け付けることも可能です。虚偽の説明や威迫で解除を妨げてはいけません。なお、8日間は原則として適法な契約書面等の受領日から数えます。
特定継続的役務に当たらない1回の手術で、当日キャンセルされました。キャンセル料は取れますか。
特定商取引法の上限規制はかかりませんが、消費者契約法9条1項1号により、平均的な損害を超えるキャンセル料は無効です。手術のために準備した材料費、確保していた手術枠が埋まらなかったことによる損害などを、根拠をもって説明できる範囲で定めてください。契約時にキャンセル料の定めを書面で示し、説明していることが前提です。
コース契約の途中で、医学的理由(副作用)で継続できなくなりました。
まず副作用への対応と説明を行い、治療を続けられない理由を整理します。医療機関の責任の有無、履行できない範囲、契約内容によって精算の根拠が異なるため、すべて患者都合の中途解約として手数料を差し引いてはいけません。未提供分の返還と、健康被害についての責任の検討を分けて進めます。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・参考資料

  1. 民法

    契約・損害賠償、651条・656条の準委任の解除等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

  2. e-Gov法令検索:消費者契約法

    4条の取消し、9条の解約料・平均的損害、10条の不当条項等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061
  3. 消費者庁:特定継続的役務提供

    美容医療の対象、クーリング・オフ、中途解約と上限額。

    https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/continuousservices/
  4. 厚生労働省:美容医療に関する取扱いについて

    令和7年8月15日医政発0815第21号。無資格者、看護師、医師、管理者の責務と行政の対応。条番号等は現行法も併せて参照。

    https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001586600.pdf
  5. e-Gov法令検索:特定商取引に関する法律

    41条以下の特定継続的役務。書面、クーリング・オフ、中途解約、関連商品等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/351AC0000000057
  6. 消費者庁:特定継続的役務提供(美容医療分野)Q&A

    対象となる方法、契約期間、術後の処置、関連商品、施術単価等。

    https://www.no-trouble.caa.go.jp/pdf/20171213ac01.pdf

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