第97講 未承認薬・海外輸入薬を使う美容・自由診療
第Ⅹ部 医療広告・美容医療・自由診療・オンライン診療
未承認薬を使うかどうかは、「医師の裁量です」という一言では決められません。医師が自分の患者の診断・治療に用いるため、所定の手続を踏んで輸入する仕組みはあります。しかし、輸入が認められることと、その治療に十分な有効性・安全性の根拠があることは別です。輸入、使用、広告、患者への説明、事故への備えを、それぞれ確認します。
この講では、未承認薬、国内承認薬の適応外使用、海外からの輸入を分けて整理します。業者が用意した資料や他院の採用実績だけに頼らず、製品の承認状況と医学的根拠を医師自身が確かめることが出発点です。
例えば、美容皮膚科の院長のもとに、輸入代行業者から案内が来ました。「韓国で人気の脂肪溶解注射、日本では未承認ですが、先生名義で輸入すれば使えます。手続はこちらで代行します。ウェブサイト用の説明文もご用意しています」
院長は聞きました。「使っていいのか」
代行業者は答えました。「医師の裁量です。みなさん使っています」。
1 用語を分ける ― 未承認・適応外・個人輸入
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 未承認医薬品・医療機器 | 意味:国内で必要な製造販売承認等を受けていないもの。医療機器では承認のほか、区分に応じた認証・届出の制度もあるため、承認の有無だけで一律に判断しない。海外での承認は、日本の承認を意味しない。 例:海外製の脂肪溶解注射、海外製のボツリヌス製剤、日本未承認のレーザー機器 |
| 適応外使用 | 意味:日本で承認された医薬品・医療機器を、承認された効能・効果、用法・用量、使用部位と異なる方法で使うこと。 例:糖尿病だけに承認された製品の美容目的使用、承認範囲を外れたボツリヌス製剤の使用等。GLP-1関連薬には肥満症の承認を持つ製品もあり、製品と使い方ごとに判断する。 |
| 個人輸入 | 意味:一般の個人が自分で使うための輸入と、医師が自己の患者の診断・治療に用いるための輸入を区別する。医療従事者個人用の輸入は、治療上の必要性等の条件に従い、原則として輸入確認の手続を行う。個人の自己使用向け数量特例を、そのまま患者への使用に流用しない。 例:医師名義での海外製剤の取寄せ |
| 幹細胞培養上清液・エクソソーム等 | 意味:名称だけで法令の適用や安全性は決まらない。含有成分、製造方法、投与方法、製品の承認状況等を個別に確認する。再生医療等安全性確保法の対象外となる場合でも、有効性・安全性が承認されたことにはならない。 例:いわゆる「上清液点滴」「エクソソーム治療」 |
医療広告ガイドラインは、これらをまとめて「未承認医薬品等」(承認等を受けていない医薬品・医療機器・再生医療等製品、および承認と異なる効能・用法での使用)と呼び、広告の際の追加記載事項を定めています(第4章)。
2 輸入の層 ― 薬機法
薬機法55条2項は、必要な承認を受けていない医薬品の販売・授与や、その目的での貯蔵・陳列等を禁じています。製造販売や販売を業として行う場合には、その業態に応じた許可等が必要です。医師名義の輸入確認は、輸入代行業者に製品の販売を認める許可ではありません。
医療従事者個人用の輸入は、治療上の緊急性があり、国内に代替品が流通していない等の条件の下、医師が自己の責任で自己の患者の診断・治療に使うためのものです。令和2年9月1日から、従来の薬監証明に代わり、薬機法56条の2に基づく輸入確認の制度が運用されています。用途、数量、必要性等を申請し、転売や他の医師への譲渡に使わないことが重要です。
申請を代行してもらっても、医師自身が申請内容と実際の使用を把握します。名義だけを提供し、業者が複数の医療機関向けに在庫を流通させる仕組みに参加してはいけません。輸入品の受領、保管、使用患者、使用量、残量を追跡できるようにし、不要な余剰を他院へ渡す運用も避けてください。
3 使用の層 ― 医師の裁量と、その限界
未承認や適応外という理由だけで、医師による使用がすべて一律に禁止されるわけではありません。ただし、製品や実施方法に応じた薬機法その他の規制、再生医療・臨床研究等の制度の適用を別途検討する必要があります。医学的判断にも、次の裏付けが必要です。
- 医学的合理性 安全性・有効性について、その時点の医学的知見に照らした根拠があること。海外の承認状況、臨床データ、学会の見解を医師自身が確認していること。「人気だから」は根拠ではない。
- 説明と同意 未承認・適応外のどちらか、期待できる効果と不確実性、主なリスク、承認薬等の代替手段、費用、救済制度の取扱いを説明する。署名を得るだけで、医学的に不適切な治療が正当化されるわけではない。
- 記録 使用した製剤、ロット、投与量、説明内容、同意をカルテに残すこと。令和6年11月の検討会報告書は、未承認薬の使用に関する説明と記録の徹底を求めている。
- 安全管理体制 医療法6条の12と医療法施行規則に基づく医薬品の安全管理、職員への情報共有、副作用発生時の診療・院内報告・必要な行政報告の手順を整える。
オンライン診療指針は、得られる情報に限界があることを踏まえ、安全性が確立されていない医療の提供に慎重な姿勢を求めています。未承認であることと、安全性の根拠がないことは同じ意味ではありませんが、承認状況だけで実施を決めず、具体的な根拠、必要な診察・検査、対面での対応体制を確認します。オンラインで必要な評価ができなければ、対面診療に切り替えます。
4 広告の層 ― 薬機法68条と限定解除の5事項
ここが、冒頭の「ウェブサイト用の説明文」の問題です。二つの規制が重なります。
薬機法68条は、必要な承認等を受けていない医薬品等について、名称、効能・効果等の広告を禁じています。ただし、医療広告等ガイドラインは、医療行為として使用・処方する旨の説明と、医薬品等自体の販売・無償授与の広告を区別しています。未承認薬の製品名を記載した治療説明が、直ちに68条違反となるわけではありません。表示内容と受診・購入への誘導を具体的に確認します。
医療広告ガイドラインは、未承認医薬品等を用いた自由診療を、広告可能事項ではないが、限定解除要件を満たすウェブサイト等では、通常の4要件(第91講)に加えて次の5事項を記載することで広告できるとしています。
未承認医薬品等を用いる自由診療の追加記載事項
- 未承認等であること 医薬品・医療機器・再生医療等製品について、国内で未承認等であること、または国内承認と異なる効能・用法等で使うことを、実態に即して示す。
- 入手経路等 医師の個人輸入によるものである旨等。個人輸入の場合は、厚生労働省の「個人輸入において注意すべき医薬品等について」のページを案内する。
- 国内の承認医薬品等の有無 同一成分・性能の国内承認品の有無を示す。承認品がある場合には、その承認条件と自院の使い方との違いも分かるようにする。
- 諸外国における安全性等に係る情報 承認国と、重大なリスクが報告されていればその内容。欧米等で未承認なら、重大なリスクが明らかになっていない可能性がある旨。
- 公的な救済制度の取扱い 医薬品副作用被害救済制度や生物由来製品感染等被害救済制度の対象外となること等を説明する。国内未承認品と承認薬の適応外使用を一括せず、該当する制度の扱いを確認する。
追加の5事項だけでなく、治療内容、費用、主なリスク・副作用、問い合わせ先等の限定解除要件も満たす必要があります。製品名を隠せば適法になるわけでもありません。虚偽・誇大な効果や安全性の断定、主観的な治療体験談は、限定解除しても認められません。業者の説明文は、国内承認や効果について誤解を招かないか、医療機関が確認してから掲載します。
5 責任の層 ― 事故が起きたとき
副作用被害救済制度の対象となるかは、承認の有無、適正使用、被害の重症度その他の要件により判断されます。国内未承認薬は原則として対象外ですが、承認薬の適応外使用を一律に対象外と説明することはできません。救済給付の有無と医師・医療機関の過失責任も別の問題です。
| 責任の種類 | 内容 |
|---|---|
| 説明義務違反 | 患者の選択に必要な承認状況、リスク、代替手段、救済制度等の説明が不十分な場合には、自己決定の侵害等として損害賠償が問題となる。どの説明が必要だったか、損害や因果関係等を個別に判断する。 |
| 注意義務違反 | 適応判断、投与方法、副作用への対応等が、その時点の医療水準に照らして適切だったかが問題となる。未承認品には国内の電子添文がない場合があるため、海外の製品情報、臨床研究、学会の見解等を確認し、判断の根拠を記録する。 |
| 製造物責任法上の「輸入した者」 | 製造物責任法は、業として製造・加工・輸入した者等を責任主体とする。医師も輸入の実態により該当するかが問題となる。製品の欠陥、損害、因果関係、法定の免責等に基づく判断であり、輸入名義があるだけで自動的に責任が確定するものではない。承認品にも適用され得る制度。 |
| 行政上の責任 | 薬機法違反(無許可の輸入販売、68条の広告)、医療法上の安全管理体制の不備、医療広告規制違反(第89講・第91講)。 |
| 保険 | 医師賠償責任保険の約款によっては、未承認薬・適応外使用に起因する事故が免責または制限の対象になることがある。加入している保険の約款を確認しておく。 |
6 院内で決めておくこと
未承認薬・海外輸入薬を使うなら
- 輸入確認を医師自身が把握する 申請の内容、数量、使用目的を医師が確認し、書類を保管する。業者任せにしない。在庫が自院の患者の治療に必要な範囲を超えていないか。
- 医学的根拠の資料を揃える 承認国、承認内容、臨床データ、学会の見解。使用の判断の根拠として保管する。
- 説明文書と同意書 承認状況、効果と不確実性、リスク、代替手段、救済制度の扱い、費用を示し、患者が理解して選択した過程を残す。
- カルテ記載 製剤名、ロット、投与量、説明内容、同意、経過。
- 広告の点検 治療の説明と医薬品自体の販売広告を区別する。限定解除要件と追加の5事項を満たし、治療説明と対応させて分かりやすく掲載する。
- 副作用への備え 発生時の対応手順、行政報告、患者への説明。医薬品安全管理責任者の役割。
- 保険の確認 医師賠償責任保険の約款で、未承認薬・適応外使用の扱いを確認する。
- オンライン診療の適否 安全性の根拠、患者の状態、必要な検査等を踏まえて判断する。オンラインで十分な評価ができない場合には対面診療へ切り替える。
7 今日やること・やってはいけないこと
今日やること
- 自院で使っている製剤のうち、未承認・適応外のものを一覧にし、輸入確認の書類と説明文書の有無を確認する
- ウェブサイトの治療説明が、限定解除と追加の5事項に対応し、効果・安全性・承認状況を誤認させないかを確認する
- 医師賠償責任保険の約款で、未承認薬・適応外使用の扱いを確認する
やってはいけないこと
- 輸入代行業者が用意した説明文をそのまま掲載する
- 業者が在庫を持ち複数の医療機関に配る仕組みに、医師名義を貸す
- 「未承認ですが安全です」と説明する(根拠のない安全性の断定)
- 未承認品の救済制度の扱いを説明せずに使用する、または承認薬の適応外使用を一律に対象外と説明する
8 よくある質問
- 海外で承認されている薬なら、日本で未承認でも安全と言ってよいですか。
- 「海外で承認されている」という事実は伝えられますが、「安全」と断定することはできません。承認国での承認内容(効能・用量・対象)が自院での使い方と一致しているか、重大な副作用の報告がないかを確認し、その範囲で事実を伝えてください。広告では、諸外国の安全性情報として、承認国と重大なリスクの報告の有無を記載します。
- 患者が自分で個人輸入した薬を持ち込んで、「これを注射してほしい」と言います。
- 依頼だけを理由に投与せず、薬の真正性、成分、保管状態、患者への適応等を評価します。安全に投与できる根拠が得られなければ引き受けず、患者に理由と必要な診療・代替策を説明してください。医師自身が輸入した製剤であっても、輸入確認だけで品質や治療の安全性が保証されるわけではありません。
- 適応外使用は、承認薬なので未承認薬より安全ですか。
- 国内承認は、承認された範囲の品質・有効性・安全性の審査を経たことを意味しますが、すべての患者・用法での安全を保証しません。適応外で使う場合には、その使い方の根拠とリスクを別に検討します。救済制度では、適応外というだけで一律に対象外とせず、医学・薬学の水準に照らした適正使用等が個別に判断されます。適応内でも重症度等の要件があり、必ず給付されるわけではありません。
主な法令・参考資料
- 医療法
開設・管理者、医療安全、立入検査・監督、医療法人の役員資格・機関等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205
- 医療法施行規則
オンライン診療の基準、開設者の届出、管理者の責務、診療計画、処方制限等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050
- 厚生労働省:オンライン診療指針(2026年4月改訂)
初診、処方、患者の基礎疾患等の把握、オンラインと対面の組合せ。
https://www.mhlw.go.jp/content/001685701.pdf
- 厚生労働省:医療広告等ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)
医療広告の定義、禁止内容、広告可能事項、限定解除、関係法令、調査・指導等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf - 厚生労働省:医療広告等ガイドラインに関するQ&A(令和8年3月30日改訂)
口コミ、最新等の表現、研修・専門性資格、販売名、写真、限定解除、問い合わせ先等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001683595.pdf - e-Gov法令検索:医薬品医療機器等法
承認、販売・授与、輸入確認、医薬品等の広告等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145 - 厚生労働省:医薬品等の個人輸入について
輸入確認制度、数量、注意事項。医療従事者個人用は輸入確認要領も参照。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/kojinyunyu/topics/tp010401-1.html - 厚生労働省:医薬品等輸入確認要領(令和7年6月30日改正)
医療従事者個人用の輸入の条件、申請書類、責任、目的等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001601117.pdf - PMDA:医薬品副作用被害救済制度に関するQ&A
給付対象、適正使用、重症度、対象外等。各設問の解説を参照。
https://www.pmda.go.jp/relief-services/adr-sufferers/0006.html - e-Gov法令検索:製造物責任法
製造業者等、業として輸入した者、欠陥による責任、免責等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/406AC0000000085 - PMDA:救済制度における適正な使用とは
電子添文を基本としつつ、医学・薬学の水準に照らして個別に判断する取扱い。
https://www.pmda.go.jp/relief-services/adr-sufferers/0034.html - 厚生労働省:個人輸入において注意すべき医薬品等について
健康被害や偽造品等のリスク、医師・歯科医師向けの注意喚起。
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/kojinyunyu/index.html