第99講 オンライン診療プラットフォームは誰のために患者を集めるのか
第Ⅹ部 医療広告・美容医療・自由診療・オンライン診療
集患、予約、決済、カルテ、薬の配送をまとめて委託できるサービスは、院内の負担を減らす助けになります。ただし、契約前に「誰が診療を決め、誰が記録を管理し、契約終了後も診療を続けられるか」を確認する必要があります。患者は医療機関や事業者の所有物ではなく、受診先を選ぶ主体です。
医療法7条7項は、営利目的で開設しようとする者に開設許可を与えないことができると定めています。開設者が実際の運営責任を失い、営利法人等が実質的に開設・経営していないかは、立入検査でも確認されます。この講では、経営、広告、患者情報、薬、診療判断の五つから、委託の範囲と契約内容を点検します。
例えば、院長のもとに、オンライン診療プラットフォームの運営会社から提案がありました。「先生は診察だけしてください。集患、予約、決済、薬の配送、カルテ、すべて当社が用意します。初期費用はゼロ、売上の30%をいただくだけです。月に数百人、紹介できます」
院長は聞きました。「その患者は、誰の患者なのか」
営業は答えました。「もちろん先生の患者です。ただ、データは当社のシステムにあります」。
1 プラットフォームの類型
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| システム提供型 | 内容:医療機関が自院の患者に使うビデオ通話・予約・決済のシステムを月額または件数単位で利用する。集患は医療機関自身が行う。 主な論点:セキュリティ・責任分界点(第98講)、データの委託 |
| 集患・送客型 | 内容:事業者が広告で患者を集め、提携医療機関に振り分ける。手数料は患者数や売上に連動することが多い。 主な論点:広告の主体、紹介料、非営利性 |
| 統合型(いわゆるバーチャルクリニック) | 内容:ブランド、広告、予約、決済、薬の調達・配送支援、カルテ等を一体で提供する。サービスが統合されていること自体で違法になるわけではないが、医療機関の運営責任と医師の判断が実際に確保されているかが重要。 主な論点:開設者の実質、名義貸し、医師の裁量、薬機法 |
冒頭の提案は統合型です。以下の五つの観点は、統合型で最も鋭く現れますが、集患・送客型でも同じ問いが立ちます。
2 医療機関の実質 ― 誰が経営しているか
医療法7条7項は、株式会社という法人形態だけを理由に、一切の開設を禁止する規定ではありません。一方、医師を形式的な開設者とし、営利企業が実質的に開設・経営する構造は問題になります。令和8年度の立入検査通知も、開設者が運営の責任主体でなくなっている状態を確認事項としています。外注の多さだけでなく、意思決定と責任の実態を確認します。
実質的な経営主体かどうかは、次のような事情で判断されます。
- 診療のメニュー、価格、対象患者を誰が決めているか
- 収入が誰の口座に入り、どのような順序で分配されるか。売上の大部分が手数料として事業者に流れていないか
- 医師の採用・配置・報酬を誰が決めているか。医師が事業者と契約し、医療機関との関係が名目的でないか
- 患者データ、カルテ、システムを誰が保有し、契約終了時に誰の手元に残るか
- 広告の主体と費用負担が誰か
- 医療機関の管理者が、実際に管理しているか(第9講・第95講)
売上連動の手数料は、その形式だけで直ちに違法となるわけではありません。ただし、処方量や高額メニューへの誘導を生み、医師が必要な診療を選べない構造になっていないかを確認します。「医師は診察だけ」という営業上の説明だけで結論は出せませんが、開設者・管理者が経営と診療体制を管理できる仕組みが必要です。
保険診療では、療養担当規則2条の4の2第2項により、事業者等へ患者紹介の対価として経済上の利益を提供して誘引することが禁止されています。定額や件数単位でも、紹介の対価なら問題になり得ます。システム利用料と紹介料を名称だけで区別せず、サービスの実態を確認してください。
外部事業者の支援を受ける点は、医療モール等の開業支援契約にも共通します。オンラインでは、とくに情報へのアクセスやシステムの継続利用が診療を左右するため、終了時の移行まで契約前に確認します。
3 広告 ― 誰の広告か
プラットフォーム上の表示が医療機関等を特定でき、医療について受診を誘引する内容であれば、医療広告に当たります。費用を事業者が負担していても規制は及びます。医療機関と事業者それぞれの関与に応じて責任が問題となるため、外注だから自院は無関係とは考えないでください。
「初診」「全国対応」「最短当日発送」という言葉自体が一律に禁止されるわけではありません。ただし、必要な対面診療を一切受けずに済むと誤認させたり、診察なしの処方を約束したりする表示は問題です。薬の販売名を含む治療説明は、限定解除要件等を確認します。主観的な治療内容・効果の体験談は禁止されますが、口コミの点数だけで、すべて同じ類型と決めつけることもできません(第91・94・97講)。
広告には、公開前に自院が確認する手順と、問題が生じたときの停止・修正手順を設けます。契約には、広告の掲載場所、提携医療機関名の表示、診療内容と料金の確認、行政からの照会への協力、費用負担を定めてください。広告を承認した後も、無断変更や古い条件が残っていないかを点検します。
4 患者データ ― 誰が持つか
「データは当社のシステムにあります」の法的な意味を確認します。
| 論点 | 整理 |
|---|---|
| 診療録の作成・保存義務 | 医師法24条により、医師は診療後遅滞なく診療録を記載する。病院・診療所に勤務する医師の診療録はその管理者、それ以外はその医師が5年間保存する。外部システムに保存を委託しても、この義務は移らない。 |
| 個人情報の取扱主体 | 医療機関と事業者の役割は、取得する情報と利用目的ごとに整理する。診療録保存の委託先には適切な監督が必要。事業者が独自に取得する会員情報、第三者提供、共同利用等は別に検討し、患者への説明、同意その他の法的根拠を確認する。 |
| 契約終了後の利用・保存 | 医療機関が継続診療と法定保存に必要な情報を、利用可能な形式で取得・移行できること。患者の受診先の選択と、事業者による患者情報の利用権限は別問題。形式的な「所有権」の記載だけでは足りない。 |
| セキュリティの責任分界点 | システムの安全対策、障害・漏えい時の対応、費用負担を契約で具体化する。ただし、患者に対する法定の責任や個人情報保護法上の義務を、事業者との契約だけで免れることはできない。 |
情報の所在と、誰が何の目的で利用できるかを分けて確認します。クラウドに置くこと自体は問題ではありませんが、自院が必要なときに診療録を閲覧・出力できなければ診療に支障が出ます。委託データの自己目的利用や無断提供を防ぎ、終了後の移行、法定保存、不要となったデータの消去を具体的に定めてください。
5 薬 ― 誰が渡すか
処方した薬は、院外処方に基づいて薬局が調剤・服薬指導を行い配送する方法や、適法な院内調剤の後に医療機関から配送する方法等があります。薬剤師法19条等の調剤の規律、薬機法上の販売・授与、服薬指導、保管・配送を区別して体制を確認します。配送だけを委託することと、事業者が調剤・販売することは同じではありません。
事業者が薬を扱う場合は、必要な薬局・販売業等の許可、取り扱える医薬品の範囲、調剤の実施者、保管場所、配送中の品質管理を確認します。代金の回収を代行しているという事実だけで無許可販売とは決まりません。仕入れ、在庫管理、受注、調剤、販売・授与の実態を見て、名義だけ自院の院内処方にする運用を避けてください。
処方日数は、販売メニューではなく医師の判断で決めます。初診と、その症状等について対面診療を経ていない再診には、麻薬・向精神薬の禁止や、基礎疾患等を把握できていない場合の特定薬剤・8日分以上の制限があります。3か月分が常に違法というわけではありませんが、これらの条件と患者の状態を無視して一律に処方してはいけません(第98講)。
6 診療の独立性 ― 誰が決めるか
ここまでの四つの観点は、最終的にこの一点に集まります。診療の内容を決めているのは医師か、事業者か。
- 標準メニューや画面上の選択肢があっても、医師が患者の状態に応じて処方しないことや、別の治療・対面診療を選べるか
- 事業者が問診票の設計と「処方可」の判定ロジックを持ち、医師が追認しているだけになっていないか。第95講で見た「カウンセラーが決めた治療を医師がそのまま実施する」構造と、本質は同じ
- 診察時間が事業者の想定(数分)に固定され、医師が対面への切替えや処方拒否をすると事業者から圧力がかかる構造になっていないか
- 医師がオンライン診療指針の研修を受け、診療計画を作り、医療機関の管理者の監督下にあるか。それとも事業者に登録された「診察する人」として扱われているか
事業者が医学的判断を行い、医師が診察せずに処方を追認するような運用は、医師法17条・20条等の問題になります。開設・管理の実態、患者への責任、医師への行政処分等も、各制度の要件に従って検討されます。サービスへの参加だけで直ちに免許処分になるという話ではありません。
7 契約に書くこと
プラットフォーム契約の点検項目
- 手数料の設計 業務の対価と算定根拠を明確にし、医療機関の運営責任を失わせる契約にしない。保険診療の紹介料禁止は、定額・件数・売上連動という形式を問わず点検する。
- メニュー・価格の決定権 診療内容、処方薬、価格、処方日数は医療機関が決める。事業者は提案できるが決定できない。
- 広告 医療機関名を用いる広告は事前に医療機関が確認し、承認したもののみ。医療広告ガイドライン・薬機法・景表法の遵守と、指摘時の修正義務。
- 患者データ 取得・利用・委託・第三者提供等の役割と根拠を整理する。委託データの自己目的利用を防ぎ、終了時の移行、必要な保存、消去・バックアップの扱いを定める。
- 診療録 保存義務は医療機関にあり、事業者のシステム上で医師法施行規則23条の記載事項を満たす記録が作成・保存され、医療機関がいつでも取り出せること。
- 薬 調剤、仕入れ、保管、販売・授与、配送の主体と許可等を確認する。医師が処方の必要性・薬剤・日数を判断し、事業者が一律に決めない。
- 医師の所属と研修 診療する医師は医療機関に所属し、管理者の監督下にあること。オンライン診療指針の研修修了。
- 診療の独立性 医師の処方拒否、対面への切替え、診察時間の判断について、事業者が不利益を課さないこと。
- セキュリティと責任分界点 指針が求める説明と合意。事故時の責任、患者への通知の役割分担。
- 終了条項 継続診療、情報の移行、広告の停止、患者への案内を定める。患者の自由な受診先の選択を尊重し、診療情報を無断で他院の営業に使わない。
8 今日やること・やってはいけないこと
今日やること
- 既にプラットフォームを使っているなら、契約書を上記10項目で読み直す
- 事業者が出している広告に自院の名前が載っているものを集め、第91講の基準で点検する
- 契約が終わったとき、患者データとカルテが手元に戻る条項があるかを確認する
- 初診と対面診療を経ていない再診の処方制限を、基礎疾患等の把握状況も含めて点検する
やってはいけないこと
- 「診察だけすればよい」という提案を、そのまま受ける
- 患者の状態を評価せず、事業者が示す薬剤を選ぶだけで診察を終える
- 仕入れ・保管・調剤・販売の実態と許可等を確認せず、薬を自院の院内処方という名義だけで扱う
- 事業者の広告を確認せずに、自院の名前の使用を許す
9 よくある質問
- 売上連動の手数料は、それ自体が違法ですか。
- 算定方法だけでは結論は出ません。サービスの内容、経営の実態、医師の判断への影響、対価の根拠を見ます。ただし、保険診療で患者紹介の対価を提供して誘引する行為は、療養担当規則で禁止されています。「定額なら安全」ともいえません。自由診療でも、開設者の実態や医療広告等の規律は別に点検します。
- 事業者から「医師は当社と業務委託契約を結び、当社の提携クリニックに登録する」と言われました。
- 医師がどの医療機関に所属し、その管理者が実際に診療体制を管理できるかを確認します。契約が業務委託か雇用か、登録という名称かだけでは結論は決まりません。勤務関係、指揮・管理、患者への表示、診療録、急変対応、問い合わせ先を具体的に確認し、所属が名目だけになる構造を避けてください。
- プラットフォームが患者に「他の提携クリニック」を案内するのは問題ですか。
- 患者の希望や継続診療の必要に応じて他院を案内すること自体は、問題とは限りません。問題は、診療情報をどの立場・目的・根拠で利用し、どこへ提供するかです。委託された情報を無断で営業に使うことは避け、同意等の要件、診療の引継ぎ、患者自身の選択を確認してください。
主な法令・参考資料
- 医療法
開設・管理者、医療安全、立入検査・監督、医療法人の役員資格・機関等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205
- 医療法施行規則
オンライン診療の基準、開設者の届出、管理者の責務、診療計画、処方制限等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050
- 医師法
4条の相対的欠格、7条の戒告・医業停止・免許取消しと手続、7条の2の再教育等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201
- 個人情報保護法
利用目的、要配慮個人情報、委託・第三者提供、保有個人データの開示等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057
- 厚生労働省:オンライン診療指針(2026年4月改訂)
初診、処方、患者の基礎疾患等の把握、オンラインと対面の組合せ。
https://www.mhlw.go.jp/content/001685701.pdf
- e-Gov法令検索:保険医療機関及び保険医療養担当規則
患者への経済上の利益による誘引、事業者等への紹介料、一部負担金等の受領その他の療養担当の規律。
https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50000100015 - 厚生労働省:令和8年度の医療法に基づく立入検査の実施通知
令和8年6月12日医政発0612第10号。医療安全、オンライン診療、広告、人員配置、外来医師過多区域等。
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001711283.pdf - 厚生労働省:医療広告等ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)
医療広告の定義、禁止内容、広告可能事項、限定解除、関係法令、調査・指導等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf - 厚生労働省:医療広告等ガイドラインに関するQ&A(令和8年3月30日改訂)
口コミ、最新等の表現、研修・専門性資格、販売名、写真、限定解除、問い合わせ先等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001683595.pdf - e-Gov法令検索:医薬品医療機器等法
承認、販売・授与、輸入確認、医薬品等の広告等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145 - 厚生労働省:オンライン診療指針に関するQ&A(令和8年4月改訂)
初診、対面移行、本人確認、ED薬の禁忌確認、再診の処方制限。特にQ18〜21。
https://www.mhlw.go.jp/content/001686805.pdf - e-Gov法令検索:薬剤師法
19条の調剤の規律等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000146