第100講 GLP-1・AGA・ED等のオンライン自由診療― 拡大モデルの落とし穴
第Ⅹ部 医療広告・美容医療・自由診療・オンライン診療
GLP-1関連薬、AGA(男性型脱毛症)治療薬、ED(勃起不全)治療薬を扱うオンライン自由診療では、薬を届ける仕組みの手軽さに、診療が追いついているかが問われます。オンライン、自由診療、月額制という形式だけで違法になるわけではありません。患者ごとの適応判断、処方制限、説明、副作用への対応が、事業の拡大後も保てるかを検討します。
令和8年4月改訂のオンライン診療指針は、転売や不適正使用が疑われる薬の処方、禁忌を確かめる情報がないままのED治療薬の処方等を不適切な例としています。この講では、薬の承認範囲、診療体制、広告、契約、安全管理を順に点検します。特定の薬のオンライン診療を、すべて同じ条件で評価しないことが大切です。
例えば、事業者の提案書には、こう書かれていました。
「GLP-1ダイエット。初診からオンライン。問診3分、診察5分。3か月分を定期配送、月額制。広告は当社が出します。先生は1日100人まで対応可能です」
院長は、5分で100人の患者を診た日のことを想像しました。それから、100人のうちの一人に膵炎が起きた日のことも。
1 扱う薬の承認範囲とリスク
| 分野 | 内容 |
|---|---|
| GLP-1痩身 | 主な薬剤と承認状況:セマグルチド等のGLP-1受容体作動薬、チルゼパチド等のGIP/GLP-1受容体作動薬。製品ごとに承認された効能・用法が異なる。糖尿病治療薬の美容目的使用と、承認条件を満たす肥満症治療を区別する。 主なリスク:悪心・嘔吐・下痢、膵炎、胆嚢疾患、脱水等。低血糖のリスクは併用薬等によって異なる。栄養状態、摂食障害、筋肉量や高齢者のフレイル等も評価し、製品ごとの電子添文に従う。 指針・通知での位置づけ:医学的必要性と承認条件を確認する。転売や不適正使用が疑われる処方は行わない。日本糖尿病学会の安全使用に関する提言も参照する。 |
| AGA | 主な薬剤と承認状況:フィナステリド・デュタステリドのAGA用製剤は、男性の男性型脱毛症が適応。ミノキシジル外用には国内承認品があり、女性向けの製品もある。ミノキシジル内服は国内未承認で、外用と区別する。 主なリスク:フィナステリド・デュタステリドでは性機能障害、肝機能障害等に注意する。プロペシアは女性への適応がなく、妊婦・妊娠の可能性がある女性・授乳中の女性は禁忌。ザガーロは女性が禁忌。破損錠や漏れた薬液の取扱いにも注意する。内服ミノキシジルには循環器系のリスクがある。 指針・通知での位置づけ:初診と対面診療を経ていない再診の処方制限を確認する。8日分以上の制限は基礎疾患等の情報を把握できていない場合の規定。未承認品は第97講の説明等も必要。 |
| ED | 主な薬剤と承認状況:PDE5阻害薬(シルデナフィル・タダラフィル等)。処方箋医薬品。 主なリスク:硝酸薬・一酸化窒素供与薬との併用による重篤な血圧低下等。心血管の状態、併用薬、製品ごとの禁忌を確認する。正規の調達経路による品質管理も必要。 指針・通知での位置づけ:禁忌確認に必要な情報なしの処方は不適切。指針Q&A18は、医師が十分な医学的評価ができると判断する場合、オンライン問診による禁忌確認まで禁止していない。 |
通院負担や相談へのためらいを減らせることは、オンライン診療の利点です。その利点を保つには、受診のしやすさと、診察・検査・経過観察の必要性を両立させる設計が必要です。
2 診療体制と処方の条件を確認する
第98講で整理した「最低限遵守する事項」に、冒頭の提案書を当てはめます。
| 提案書 | 指針の要求 |
|---|---|
| 初診からオンライン | 原則はかかりつけの医師。それ以外でも、必要な医学的情報を把握して判断する場合や、診療前相談を経て条件を満たす場合は可能。オンラインの適否、対面診療への移行、相談窓口を個別に整える。 |
| 問診3分、診察5分 | 対面診療に代替し得る程度の有用な情報を得ること。十分な情報が得られないと判断したら中止して対面へ。5分で膵炎の既往、胆石、摂食障害の有無、併用薬、心血管疾患、硝酸薬の使用を確認し、判断できるか。 |
| 3か月分を定期配送 | 初診と、その症状等について対面診療を経ていない再診では、基礎疾患等を把握できていない患者への8日分以上の処方は禁止。配送の契約で制限を回避できない。新たな処方の判断と、既に適切に処方された薬の分割配送は区別する。 |
| 月額制 | 処方は医学的判断の結果であり、月額の対価として約束されるものではない。処方しないと判断したときに、患者との契約上どう扱うか。 |
| 1日100人 | 同時に複数の患者を診療してはならない。1対1で、診療録を参照しながら、隔離された空間で行う。100人の診療録に医師法施行規則23条の記載事項を満たす記録を残せるか。 |
| 広告は当社が | 医療広告に当たる表示は、事業者任せにせず点検する。オンラインだけで必ず完結する、診察なしで薬が届く等の誤認を招かないようにする。 |
患者が特定の薬を希望しただけで、不適正使用と決まるわけではありません。希望の理由、医学的な必要性、既往歴、併用薬、転売等の疑いを確認します。薬を出すことを先に約束せず、不要・不適切と判断すれば処方しないことを、サービスの案内にも明記してください。
3 適応外・未承認 ― 薬の側の問題
GLP-1関連薬には、糖尿病だけでなく肥満症の効能を持つ製品があります。同じ成分でも製品の承認範囲や用量が異なるため、薬剤名と患者の条件を確認します。承認された肥満症治療をすべて適応外と呼ぶことも、肥満症の承認があるから美容目的にも自由に使えると考えることも誤りです。承認範囲外なら、その使用の根拠と不確実性を説明し、適正使用や救済制度の扱いを個別に確認します(第97講)。
ミノキシジル内服は、国内未承認であることに加え、日本皮膚科学会の2017年版診療ガイドラインでも行うべきでないとされています。輸入手続と説明を整えるだけで、医学的に妥当な治療になるわけではありません。ED治療薬等の国内承認品についても、正規の調達経路と最新の電子添文を確認してください。
4 広告 ― 三つのモデルで指摘される表現
- 「GLP-1製剤が保険適用に」 肥満症の効能で承認された製剤があることを利用して、自由診療の痩身が保険になったと誤認させる表現。医療広告ガイドラインが誇大広告の例として挙げている。
- 薬の販売名を含む説明 販売名の記載だけで直ちに薬機法違反になるわけではない。治療の説明と薬そのものの販売広告を区別し、医療広告の限定解除等の要件を満たすか確認する。
- 「診察不要」「必ずオンラインで完結」 診察を省略できる、対面診療への切替えが一切不要と誤認させない。「最短当日発送」等は、実際の条件・診療との関係を含めて表示全体を評価する。
- 「〇か月で〇kg」「発毛率〇%」 治療効果の表現。根拠と調査方法を示せなければ虚偽・誇大。体験談なら禁止。
- 「月額〇円」「初月無料」 料金表示自体が禁止されるわけではない。総額、契約期間、初月以降の費用、解約条件を明確にする。費用を過度に強調する広告や、実態のない割引には別の問題がある(第93講)。
- 女性向けの薄毛治療 男性用製剤を女性にも適応があるように宣伝しない。フィナステリドとデュタステリドの適応・禁忌は上表のとおり。女性にも承認されたミノキシジル外用等まで、一律に不適切な広告と扱うものではない。
5 契約と消費者法 ― 定期配送の条件を点検する
「月額制」という名称だけでは、契約期間や解約条件は分かりません。毎月自由に継続を選べる契約なのか、一定期間の治療や支払を約束する契約なのかを整理します。診療と薬の配送を一体として提供する場合は、形式的な契約の分け方だけで適用法を判断しないでください。
特定商取引法の対象となる美容医療には、薬剤による脂肪の減少等が含まれます。GLP-1関連薬のコースも、治療の目的・方法、契約全体の期間、関連商品を含む金額を確認します。指定された美容医療で、期間が1か月を超え、金額が5万円を超える場合には、概要書面・契約書面、クーリング・オフ、中途解約等の規律がかかります。具体的な精算は第96講のとおりです。AGA・ED治療は通常この指定役務には含まれませんが、他の治療との組合せや勧誘方法等は別途確認します。対象外でも、民法・消費者契約法の検討は必要です。
「自動更新」「解約は発送日の何日前まで」「発送済みは返金不可」といった条項は、適用法と実際に提供した内容に照らして確認します。すべてが一律に無効というわけではありませんが、法定のクーリング・オフや中途解約を制限する特約は使えません。処方できないときの課金、配送を止める方法、副作用で継続できない場合の精算を、患者が契約前に理解できるようにします。
6 安全管理 ― 「100人のうちの一人」に何が起きるか
三つのモデルで整えておくべき安全管理
- 安全性の確認項目 GLP-1関連薬では、適応条件、膵炎・胆嚢疾患の既往、栄養状態、妊娠・授乳、併用薬等を評価する。既往や併用をすべて一律の禁忌とせず、製品ごとの電子添文・適正使用情報に従う。ED薬では硝酸薬等、AGA薬では性別・年齢・妊娠可能性等も確認する。
- 本人確認 初診は原則として顔写真付きの身分証明書等で確認し、持たない場合は指針等に沿う代替方法を使う。年齢と薬ごとの対象条件を確認し、なりすまし・転売への対策を講じる。未成年であることだけでオンライン診療全体が禁止されるわけではない。
- 処方日数 初診と対面診療を経ていない再診の制限を確認する。新たな処方は診察と評価を経て判断し、配送契約を理由に自動処方しない。適切な処方に基づく分割配送とは区別する。
- 急変時の体制 患者が速やかに対面診療を受けられる体制を整える。所在地・疾患・初診の方法等に応じて、地域の医療機関との事前合意や情報提供、緊急時の相談窓口を準備する。膵炎等を疑う症状が出た場合の連絡・受診方法を伝える。
- 副作用の把握 処方後の服薬状況・副作用の確認手段。連絡が取れない患者への継続処方の停止。
- 対面への切替え基準 どの症状・所見なら対面を求めるか。自院で対面できる体制、または紹介先。
- 診療録 問診の内容、除外基準の確認、説明、処方理由を、患者ごとに記載する。問診票のチェック結果を自動転記しただけの記録は、医師の判断の記録にならない。
- 薬の流通 正規の流通経路からの入手。在庫・発送の主体(第99講)。
7 「拡大モデル」は経営として何を意味するか
診療可能な人数は、患者の状態、診療内容、必要な確認・記録及び支援体制によります。「1日100人」という人数だけで適法・違法や採算性は決まりません。事業者が示す短時間・大量診療の計画でも、医師が各患者の診療に必要な時間を確保できるか、独立して判断します。
事業計画では、法令・指針の更新に対応する費用、薬の供給変動、事業者への依存を見込んでください。供給が変わったときの患者への説明や治療の見直し、システム停止・契約終了時の情報の引継ぎも必要です。広告費や処方件数だけでなく、診察、検査、記録、副作用対応、解約・返金まで含めて運営可能かを判断します。
オンライン診療を自由診療で行うこと自体は否定されません。AGAやEDについて、除外基準を確認し、適切な処方日数で、継続的に評価しながら診療することは、患者の利益になります。問題は、それを「拡大」の名のもとに薄めることです。
8 今日やること・やってはいけないこと
今日やること
- 自院のオンライン自由診療のメニューについて、除外基準・本人確認・処方日数・対面切替え基準が文書化されているかを確認する
- 定期配送・月額制の利用規約を、特定商取引法・消費者契約法・準委任の解除権で点検する
- 広告の保険適用、効果、料金、オンライン完結の表示が、実際の条件を誤認させないか確認する
- 患者の所在地と診療内容に応じた対面診療への移行・急変時の連携体制を確認する
やってはいけないこと
- 初診と対面診療を経ていない再診で、基礎疾患等の情報が不足したまま8日分以上の薬をオンラインで処方する
- 硝酸薬の使用を確認せずにED治療薬を処方する
- 男性用AGA製剤の適応・禁忌を無視し、女性も一律に処方対象とする
- 問診票の自動判定で処方を決め、医師が追認するだけの運用にする
- 法定の解約権を制限する「返金不可」「途中解約不可」の条項を使う
9 よくある質問
- 肥満症の効能で承認されたGLP-1製剤なら、痩身目的でも適応内ですか。
- 製品ごとの効能・効果、患者の条件、用法・用量を満たす必要があります。肥満症の承認があることだけで、基準を満たさない美容目的の使用も適応内になるわけではありません。また、薬機法上の承認と、保険給付に必要な条件は別です。条件を満たす治療について事実を説明することはできますが、自院の自由診療が保険適用になったと誤認させてはいけません。
- 再診なら、3か月分の処方をオンラインで行ってよいですか。
- 再診というだけでは決まりません。医療法施行規則9条の6の13第3項と指針Q&A21により、その症状等について対面診療を経ていない再診には、初診と同様の処方制限があります。8日分以上の制限は、基礎疾患等の情報を把握できていない場合に適用されます。制限に当たらない場合でも、3か月分が適切かは薬と患者の状態によって判断し、服薬状況・副作用を把握する体制を整えます。
- GLP-1痩身のコース契約は、特定商取引法の対象ですか。
- 対象になるかは、単に「GLP-1」という薬の分類では決まりません。美容目的の指定された治療方法か、契約全体の期間が1か月を超えるか、支払総額が5万円を超えるかを確認します。医師の指導と一体の関連商品の使用期間が問題になる場合もあります。治療の目的、広告、契約内容、実際の提供方法をまとめて検討してください。
主な法令・参考資料
- 医療法施行規則
オンライン診療の基準、開設者の届出、管理者の責務、診療計画、処方制限等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050
- 医師法
4条の相対的欠格、7条の戒告・医業停止・免許取消しと手続、7条の2の再教育等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201
- 民法
契約・損害賠償、651条・656条の準委任の解除等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 厚生労働省:オンライン診療指針(2026年4月改訂)
初診、処方、患者の基礎疾患等の把握、オンラインと対面の組合せ。
https://www.mhlw.go.jp/content/001685701.pdf
- e-Gov法令検索:消費者契約法
4条の取消し、9条の解約料・平均的損害、10条の不当条項等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061 - 消費者庁:特定継続的役務提供
美容医療の対象、クーリング・オフ、中途解約と上限額。
https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/continuousservices/ - 厚生労働省:医療広告等ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)
医療広告の定義、禁止内容、広告可能事項、限定解除、関係法令、調査・指導等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf - 厚生労働省:医療広告等ガイドラインに関するQ&A(令和8年3月30日改訂)
口コミ、最新等の表現、研修・専門性資格、販売名、写真、限定解除、問い合わせ先等。
https://www.mhlw.go.jp/content/001683595.pdf - e-Gov法令検索:医薬品医療機器等法
承認、販売・授与、輸入確認、医薬品等の広告等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145 - e-Gov法令検索:特定商取引に関する法律
41条以下の特定継続的役務。書面、クーリング・オフ、中途解約、関連商品等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/351AC0000000057 - 消費者庁:特定継続的役務提供(美容医療分野)Q&A
対象となる方法、契約期間、術後の処置、関連商品、施術単価等。
https://www.no-trouble.caa.go.jp/pdf/20171213ac01.pdf - PMDA:医薬品副作用被害救済制度に関するQ&A
給付対象、適正使用、重症度、対象外等。各設問の解説を参照。
https://www.pmda.go.jp/relief-services/adr-sufferers/0006.html - 厚生労働省:オンライン診療指針に関するQ&A(令和8年4月改訂)
初診、対面移行、本人確認、ED薬の禁忌確認、再診の処方制限。特にQ18〜21。
https://www.mhlw.go.jp/content/001686805.pdf - PMDA:プロペシア錠の電子添文
フィナステリド。男性型脱毛症の適応、女性に対する適応と禁忌の区別等。
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdDetail/iyaku/249900XF1021_3 - PMDA:ザガーロカプセルの電子添文
デュタステリド。男性型脱毛症の適応、女性・小児の禁忌、薬液の取扱い等。
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdDetail/iyaku/249900AM1023_1 - 日本皮膚科学会:男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版
フィナステリド・デュタステリド、ミノキシジル外用と内服等。
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf - 日本糖尿病学会:インクレチン関連薬の安全な使用に関するRecommendation 第2版
2024年5月18日。低血糖、膵炎、胆嚢疾患、栄養状態等への注意。
https://www.jds.or.jp/uploads/files/recommendation/incretin.pdf - PMDA:救済制度における適正な使用とは
電子添文を基本としつつ、医学・薬学の水準に照らして個別に判断する取扱い。
https://www.pmda.go.jp/relief-services/adr-sufferers/0034.html