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『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第108講】

ChatGPT等の生成AIに患者情報を入れてよいのか

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第108講 ChatGPT等の生成AIに患者情報を入れてよいのか

第Ⅺ部 個人情報・IT・サイバー・生成AI

生成AIへの患者情報の入力は、無料か有料か、個人向けか法人向けかだけでは判断できません。入力の目的、契約、事業者による利用、保存・処理の場所、アクセス管理を確認する必要があります。医療機関としては、まず未承認の利用を止め、使う業務と条件を決めます。安全な条件が整わなければ、患者情報を使う業務には導入しないという判断も必要です。

個人情報保護委員会は令和5年6月、生成AIへの入力が特定した利用目的の達成に必要な範囲内かを確認し、入力した個人データの機械学習等への利用に注意するよう求めました。この講では、主に民間医療機関を念頭に、個人情報保護法上の整理と院内ルールを扱います。

例えば、若手の勤務医が、院長に相談に来ました。「紹介状を書くのに、電子カルテの経過を生成AIに貼り付けて要約させています。すごく速いんです。他の先生もやっています。問題ありますか」
院長は聞きました。「どのサービスを使っている」
勤務医は答えました。「無料のやつです。自分のスマホで」
院長は、その日の午後、事務長に聞きました。「うちの職員は、何人がそれをやっている」

1 法律上の整理 ― 入力は「提供」か「委託」か「どちらでもない」か

外部の生成AIサービスに患者情報を入力すると、通常はその処理のため外部へ情報が送られます。院内だけで処理する構成とは分けて確認します。法的な評価は、名称ではなく、実際のデータの流れ、契約、事業者の利用目的で決まります。

事業者側の扱い内容
事業者独自の学習・二次利用

評価:事業者自身の目的で利用するための個人データの提供は、原則として本人同意を要する第三者提供として検討する(27条)。法定の例外等の有無も確認する。医療機関の利用目的による制限と、外国にある第三者への提供の条件も別に検討する。

必要なこと:利用・提供の根拠と患者への説明、必要な同意を整理する。患者情報を事業者の独自学習に回すことを、通常の文書作成の委託として包括的に認めない。

事業者が取り扱わないクラウド保管等

評価:個人情報保護委員会のQ&A7-53では、事業者が個人データを取り扱わない契約・アクセス制御等の条件を満たす場合、第三者提供や委託に当たらないとされる。AIが個人データを処理・要約するサービスに当然に当てはまる例外ではない。「人が読まない」「学習しない」だけでは判断できない。

必要なこと:契約・利用規約での確認、安全管理措置、医療情報システム安全管理ガイドラインに沿った外部サービスのリスク評価。

医療機関からの処理の委託

評価:利用目的の達成に必要な範囲の取扱いの委託では、委託先は27条上の第三者に当たらない(同条5項1号)。委託先監督(25条)が必要。外国の委託先には28条の検討も必要。

必要なこと:委託契約(秘密保持、目的外利用禁止、再委託、事故報告、消去)、委託先の監督。

無料・有料、個人向け・法人向けという区分だけでは、患者情報を入力してよいかは決まりません。学習利用、保存期間、運営者による取扱い、再委託、国外移転及び医療機関の管理権限を、利用するサービスの契約と設定で確認します。未承認のサービスや私物端末に患者情報を入力する運用は止め、院内で評価・承認した手段を用意します。

医師の守秘義務(刑法134条)も別にあります。個人情報保護法の同意・委託の条件だけでなく、患者の秘密を扱う目的と範囲が正当かを確認します。適切な業務委託での必要な取扱いと、契約で認めていない外部利用を同じには扱いません。

外国への提供は、サーバーの所在地だけで判断しません。提供先の所在や実際の取扱いを確認します。法28条では、所定の情報を示したうえでの外国提供への同意のほか、委員会が指定する国への提供や、相当措置を継続して実施する体制を備えた提供先などの仕組みがあります。それぞれ必要な条件があり、後者では継続実施の確保等も必要です。国内の第三者提供や安全管理の条件も別に満たします。

2 「氏名を消せば大丈夫」は成り立つか

氏名を伏せて入力している場合でも、それだけで個人情報ではなくなるのでしょうか。

氏名がなくても、他の情報との容易な照合により本人を識別できれば個人情報です。医療機関では、経過の記述や患者IDをカルテと照合できることがあります。提供の規律は、提供元で個人データに当たるかを基準に考えます。受取側が患者名を知らないことや、氏名を削除したことだけで、自由に提供できるわけではありません。

入力は目的に必要な範囲へ絞ります。ただし、氏名等を消せば適法になるわけではありません。必要な病歴や検査値まで削除・変更すれば、要約や判断の正確さを損なう危険もあります。実在患者の情報を加工して未承認サービスへ送る運用は避け、承認した処理方法と入力範囲を守ります。一般的な文章作成なら、実在患者の情報を使わない方法を優先します。

3 医療機関として使ってよい条件

生成AI利用の院内ルール

  1. サービスの指定 医療機関が契約・管理できる手段を選ぶ。独自の学習・二次利用、保存期間、処理場所、再委託、消去、事故報告を確認する。保守等で人がアクセスする場合は目的・権限・記録を制限する。「学習しない」「保存しない」「人が閲覧しない」は別の条件。
  2. 端末の指定 院内ルールとして、医療機関が管理する承認済み端末から利用する。私物端末を使わせない方針とする場合は、その範囲と代替手段を明示する。所有名義だけで安全性が決まるものではない(第102講)。
  3. 入力範囲 用途ごとに必要な項目を定め、不要な識別情報は送らない。画像や音声も別に評価・承認する。患者ID等が必要な承認済み業務と、一般的な文書作成を区別し、全サービスに同じ入力基準を当てはめない。
  4. 用途の限定 文書の要約・下書き、一般的な医学情報の確認、事務文書の作成など。診断・治療の判断を生成AIの出力に委ねない(第109講・第110講)。
  5. 出力の確認 診療文書は医師等の責任ある作成者が全文を確認する。事実にない記述、脱落、患者違い、数値、引用を点検し、修正してから使う。一般の事務文書も担当者が内容・権利関係を確かめる(第109講)。
  6. 記録 どの業務に生成AIを使ったかを記録に残せる仕組み。患者から「この文書はAIが書いたのか」と問われたときに答えられる状態。
  7. 研修と誓約 入職時と定期的に、入力禁止情報、許可された用途、誤入力時の連絡、出力確認を周知する。例えば年1回に加え、サービス変更時にも実施する。SNS・端末管理の研修とも組み合わせる。
  8. リスク評価 医療情報システムの安全管理に関するガイドラインに沿って、外部サービスとしてのリスクを評価し、記録する。立入検査で「生成AIの利用について管理しているか」と問われたときの根拠になる。
  9. 点検 例えば年1回に加え、導入・契約変更・事故時にも利用実態を調べる。許可されたサービスや設定から外れていないかを確認する。
  10. 相談窓口 「入れてしまった」と言い出せる窓口。

4 電子カルテに組み込まれた生成AI

電子カルテ等に組み込まれたAIも、データの流れを確かめます。外部のAI事業者へ処理を再委託する構成だけでなく、ベンダー自身が処理する構成や、医療機関が別途契約する構成もあります。次の点を確認してください。

  • 患者データがどの事業者に送られ、どこで処理されるか(国内か海外か)
  • 入力内容が学習・二次利用されないことが、ベンダーと生成AI事業者の間の契約で確保されているか
  • 保存期間と削除
  • 再委託であれば、事業者・役割・安全管理・変更手続が契約等で把握できるか(第106講)
  • 機能を無効にできるか

「電子カルテの機能だから安全」とは限りません。ベンダーの契約書に「AI機能の提供のため、第三者のサービスを利用することがある」とだけ書かれている場合、その第三者が誰で、データをどう扱うかを、書面で確認してください。

5 生成AIが引き起こす別の問題

個人情報の問題とは別に、生成AIには次の問題があります。第109講・第110講で詳しく扱いますが、この講でも触れておきます。

  • 誤った出力 もっともらしいが事実でない記載、存在しない文献の引用、薬剤の用量の誤り。要約であっても、原文にない内容が混入する。医師が全文を確認しなければ、そのまま紹介状や診断書に載る。
  • 責任 生成AIの出力を用いた文書・判断についても、医師・医療機関の確認・運用上の責任が問題となる。「AIが書いた」だけでは免責されない。
  • 著作権・出典 出力に他者の表現が含まれることがある。公開資料に使う前に、出典の実在、内容、利用許諾や引用等の条件を確認する。出典を書くだけで、転載がすべて許されるわけではない。
  • 悪用 AIを使う偽メールや偽の連絡等も想定し、送金・認証情報の入力・外部接続の依頼を別経路で確かめる。厚生労働省のサイバーセキュリティ対策の案内には、AIの悪用に関する注意喚起も掲載されている。

6 冒頭の勤務医にどう答えるか

まず、院内で承認していない方法での入力を止めてもらいます。そのうえで、サービス、設定、入力日時、患者・項目、保存や再利用の状況を確認し、履歴等を必要な範囲で保全します。漏えい等の法定報告対象、またはその合理的なおそれがあれば、報告・本人通知へ進みます(第101講)。サービス上の削除だけで問題が解決したとは考えず、事業者への利用停止・消去の依頼と調査を進めます。

安全な代替手段の選定には時間がかかります。今日できるのは、未承認の入力を止め、利用実態と影響を調べ、相談先を明確にすることです。条件が整うまでは、患者情報を外部AIへ送らない従来の方法で業務を続けます。導入する場合は、入力の範囲と出力の確認手順まで定めてから開始してください。

7 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 職員に、生成AIを業務で使っているか、どのサービスを、どの端末から、何に使っているかを聞く
  • 候補サービスの利用目的・学習・アクセス・保存場所・消去等を契約で確認し、導入の可否を判断する
  • 電子カルテやオンライン診療システムに組み込まれた生成AI機能について、データの送り先と契約をベンダーに確認する
  • 入力してよい情報の範囲と、出力の確認手順を文書にする

やってはいけないこと

  • 個人向けの無料サービスに、私物端末から患者の経過を貼り付ける
  • 「氏名を消したから個人情報ではない」と考える
  • 生成AIの出力を確認せずに紹介状・診断書に使う
  • 禁止の周知だけで終わり、利用実態や誤入力時の対応を調べない

8 よくある質問

有料の法人向けプランなら、患者情報を入力してよいですか。
名称だけでは判断できません。実際の契約・設定、学習・二次利用、保存、事業者のアクセス、再委託、国外への提供、事故報告、医療機関の管理権限を確認します。学習利用がなくても、保存や保守のためのアクセスがある場合があります。承認後も、使う機能や契約の変更を点検してください。
患者の同意を取れば、無料サービスに入力してもよいですか。
同意があれば何でも許されるわけではありません。必要な同意の対象・範囲、外国提供で必要な情報提供等を確認し、安全管理や守秘義務も満たす必要があります。本人以外の情報が含まれる場合も別に検討します。医療機関が管理できないサービスへの入力を、包括的な同意だけで認めないでください。
職員が、患者名を伏せた相談を生成AIにして、その回答を診療の参考にしています。
患者名を伏せただけでは個人情報でなくなるとは限りません。実在患者を識別できる情報を含まない一般的な質問でも、回答の誤り、古い情報、架空の文献に注意します。医学的な情報は原資料や信頼できる診療指針等で確かめ、個々の患者の診断・治療の判断を生成AIに委ねないことが必要です。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・参考資料

  1. 刑法

    211条の業務上過失致死傷、証拠隠滅、秘密漏示等。成立要件と対象を区別。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045

  2. 個人情報保護法

    利用目的、要配慮個人情報、委託・第三者提供、保有個人データの開示等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057

  3. 個人情報保護委員会:ガイドライン(通則編)

    漏えい等の報告対象、速報・確報、安全管理、第三者提供。

    https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/

  4. 厚生労働省:医療情報システム安全管理ガイドライン第7.0版

    2026年6月改訂の第7.0版。

    https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275_00006.html

  5. 同ガイドライン:システム運用編

    電子保存、システム運用、認証、バックアップと復旧等。

    https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001716295.pdf

  6. 個人情報保護委員会・厚生労働省:医療・介護ガイダンス

    令和8年4月一部改正。医療情報の取得・利用・提供、安全管理、開示等。

    https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/iryoukaigo_guidance/
  7. 厚生労働省:医療分野のサイバーセキュリティ対策について

    医療機関のサイバー攻撃等に関する連絡窓口、報告の案内、対策資料。

    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/cyber-security.html
  8. e-Gov法令検索:個人情報保護法施行規則

    7条の報告対象、8条の報告、9条の委託元通知、10条の本人通知。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/428M60020000003
  9. 個人情報保護委員会:生成AIサービスの利用に関する注意喚起等

    利用目的の範囲、機械学習等の取扱い、規約・設定の確認。令和5年6月2日。

    https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_alert_generative_AI_service.pdf
  10. 個人情報保護委員会:Q&A7-53(クラウドサービス)

    個人データを取り扱わない契約・アクセス制御と、第三者提供・委託の判断。

    https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q7-53/
  11. 個人情報保護委員会:外国にある第三者への提供編

    法28条の同意、指定国、相当措置を継続する体制等。

    https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_offshore/

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