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『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第123講】

医師資格を持つ子どもがいない・継ぎたくない ― 誰に病院を継がせるか

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第123講 医師資格を持つ子どもがいない・継ぎたくない― 誰に病院を継がせるか

第ⅩⅢ部 相続・事業承継・院長の万一

子が医師ではない、医師でも継ぐ意思がない。その場合は、家族以外の承継先も含めて考えます。親の希望、子の進路、地域の診療継続は、それぞれ大切な問題です。「子が継がないから閉める」と決める前に、可能な体制と必要な費用を比べましょう。

院内の医師への承継、外部の第三者への承継、非医師の子の経営参加、廃止を比較します。選べる形は開設者・管理者・理事長の要件等によって異なります。持分の対価と資金、借入・保証、家族への財産配分を整理し、子と後継候補の意思を確認します。第三者承継の詳細は第141講以降で扱います。

例えば、院長には医師でない子が2人おり、長年勤務する副院長が承継候補になったとします。患者・職員との関係は良好でも、持分、借入と個人保証、院長の退任後の生活は未整理です。まず副院長の意思を聞き、必要な資金と手続を調べることにしました。

1 四つの選択肢と法律上の構造

選択肢内容
①院内の医師へ

個人診療所:後継医師の開設手続と、設備・物件・契約等の引継ぎを整える。雇用の移転には職員の同意等が必要。患者情報は適切に引き継ぎ、保険医療機関の新規指定・遡及の可否は地方厚生局へ相談する。対価は対象資産・事業の実態から協議する。

医療法人:法人を存続させ、必要な入社・理事選任・理事長選出・管理者変更を行う。持分の譲渡・保有継続・持分なし移行は別途検討する。退職金は退任の実態、規程・決議、相当額を踏まえて決める。

②外部の第三者へ

個人診療所:外部の承継候補を探し、開設の適格性、診療方針、資金、職員・患者への対応を調べる。設備等の譲渡契約と行政手続を並行して整える。

医療法人:法人を存続させて役員・社員構成等を変更する方法と、事業を他の法人等へ譲渡する方法を区別する。持分の取得だけで法人の代表権や社員資格が移るわけではない。

③非医師の子が経営

個人診療所:非医師による開設が法律上一律に不可能なわけではない。ただし許可制で、非営利性と適格な医師等による管理などが問題になる。具体的な体制を保健所と事前に協議する。

医療法人:理事長は医師又は歯科医師である理事が原則。非医師・非歯科医師の理事を選ぶには知事認可が必要であり、親族の希望だけで認められるものではない。診療所の管理者には別に適格な医師等を確保する。

④廃止

個人診療所:廃止届、患者の紹介、職員の解雇、賃貸借・リースの解約、設備の処分、カルテの保管(第147講)。

医療法人:施設の廃止と法人の解散は別。他の施設を継続する場合もある。社団の社員総会決議による解散等には知事認可が必要。清算後の残余財産は、持分ありでは定款等に従って処理し、持分なしでは法令・定款所定の帰属先へ引き渡す。

2 資金・保証・家族への配分

持分 ― 後継者は買えるのか

持分を有償で譲る場合、売主が希望する価格と後継者の調達可能額に差が出ることがあります。交渉価格、相続・贈与税の評価、退社時の払戻額は別です。持分の内容、財務状況、承継後の返済可能額を調べ、次の方法を比較します。

  • 持分なしへ移行する 持分の放棄・払戻し等と定款変更を行う。認定制度には運営・申告等の要件がある。放棄した持分の対価は受け取れず、退職金も放棄の見返りとして自動的に発生するものではない。院長と家族の生活資金を別に確認する。
  • 持分を段階的に譲渡する 譲渡対象・時期・代金支払を契約で定め、途中の死亡や不履行も想定する。税務上の時価と大きく離れた価格には課税の問題がある。医療法人の出資の相続・贈与税評価には配当還元方式を適用しない。
  • 持分を保有したまま退任する 財産上の権利と経営上の地位を分ける方法。ただし死亡・退社時の払戻条項、相続、将来の資金負担を整理し、後継者と合意しておく。

借入 ― 保証をどうするか

院長の個人保証は、理事長交代だけでは外れません。金融機関と、旧保証の解除、後継者の保証の要否、担保・返済計画を協議します。「経営者保証に関するガイドライン」と事業承継時の特則は、保証に依存しない融資や二重徴求の抑制を検討する枠組みですが、保証解除を自動的に強制する法律ではありません。適用対象・要件と個別の審査結果を確認し、解除条件を文書で確定させます。

子 ― 何を残すか

法人の財産は、持分の有無にかかわらず法人自身のものです。持分には財産的な価値があり、譲渡・払戻し等の可能性もありますが、換金条件や税負担を確認する必要があります。持分なしへの移行で失う権利と、診療継続上の利点を比較し、子への財産の配分は個人の預金・不動産・保険等も含めて考えます。個人所有の診療所不動産を子へ残す場合は、法人が使い続ける契約も整えます。

3 「継ぎたくない子」との対話

医師の子がいて、継がないと言っている場合、院長は「継がせたい」と「本人の意思を尊重したい」の間で動けなくなります。対話のために、次のことを整理してから話すことを勧めます。

  • 継がない理由を分ける 診療科が違う、勤務医としてのキャリアを続けたい、地域に戻りたくない、借入と経営の責任を負いたくない、親の下で働きたくない。理由によって、解決できるもの(診療科の転換、経営の分離、借入の圧縮)と、できないものがある。
  • 時期を分ける 今は難しくても将来検討する意思があるのか、本人に確認する。それまで別の医師等が担う場合は、就任条件・期間と将来の交代手続を協議する。子の希望だけで他の人を退任させられるわけではない。
  • 形を分ける 理事長として経営する、管理者として診療する、理事として関与する、持分や不動産だけを持つ。「継ぐ」は一つの形ではない。
  • 期限を決める 「いつまでに決めてほしい」を伝える。院長の年齢と健康、後継者候補の年齢、認定医療法人の期限(第124講)から、決断の期限は逆算できる。
  • 継がない結論を受け入れる準備 本人の選択を尊重し、院内・外部の医師への承継や廃止など、家族だけに依存しない計画を進める。

4 院内承継の進め方

勤務医・副院長に承継する場合

  1. 意思の確認 後継者候補に、承継の意思と条件(時期、報酬、持分、保証)を率直に聞く。「継いでくれるだろう」の思い込みで進めない。
  2. 時期の設定 診療体制、資金調達、行政・法人の手続、職員への説明から工程を組む。準備に必要な期間は個別に異なるため、一律の年数を前提にしない。
  3. 持分の処理 持分なし移行か、譲渡か。第124講。
  4. 借入と保証 金融機関と、承継時の保証の扱いを事前に協議する。
  5. 院長の処遇 退任時の適正な給付と必要な決議、退任後の職務・権限・期間を協議する。社員や理事として残る場合も、後任の代表権・業務執行を混乱させない役割分担を定める。
  6. 子との関係 子が社員・理事として関わる場合は、本人の意思、実際の職務、責任と利益相反への対応を明確にする。親族というだけで排除したり、名目的な役員にしたりしない。
  7. 職員・患者・取引先への説明 診療方針、雇用・契約の変更、個人情報の取扱いを整理して、必要な時期に説明する。
  8. 契約書 持分、対価、時期、保証解除、退任後の役割等を文書にする。口頭合意も内容によって効力を持つが、証明や解釈が問題になりやすい。院長と後継者だけで法人・金融機関・他の権利者を拘束できないため、必要な当事者の合意と法人手続もそろえる。

5 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 希望する承継方法を挙げ、法的な要件、資金・保証、家族への配分を整理する
  • 後継者候補がいるなら、承継の意思と条件を直接聞く
  • 子がいるなら、継がない理由と時期を分けて聞く
  • 金融機関に、承継時の個人保証の扱いを相談する

やってはいけないこと

  • 「そのうち考える」で、院長の年齢だけが上がる
  • 後継者の資金・意向を聞かず、持分買取りと個人保証の引受けを当然の条件にする
  • 持分の換金条件と税負担を説明せず、子への配慮になると決めつける
  • 承継の条件を口約束で済ませる

6 よくある質問

医師でない長男に医療法人を継がせたい。可能ですか。
非医師・非歯科医師の子が社員や理事になることと、理事長になることを分けて考えます。理事長には知事認可の例外制度があり、具体的な適格性・体制について所管に相談が必要です。認可を得ても、適格な医師等による施設管理と診療体制は別に確保しなければなりません。
副院長に承継したいが、子が「父の病院を他人に渡すのか」と反対しています。
まず、子が何を心配しているのかを聞き、診療継続と家族の財産配分を分けて説明します。子が持分・不動産・社員資格等を持つ場合は、その権利に応じた同意や手続が必要です。一方、親族であることだけで、すべての承継に拒否権があるわけではありません。関与の形を押しつけず、選択肢を具体的に協議します。
廃止した方が、承継より子に多く残せるのではないですか。
持分あり法人でも、まず債務を弁済し、残った財産を定款等に従って処理します。資産の処分価格、未払債務、職員対応、原状回復・廃棄、清算費用と税金を見積もり、承継の場合の手取額と比較します。廃止と承継のどちらが多く残るかは、一律には決まりません。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・参考資料

  1. 医療法

    開設・管理者、医療安全、立入検査・監督、医療法人の役員資格・機関等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205

  2. 民法

    委任・善管注意義務、契約上の責任、不法行為、使用者責任等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

  3. 金融庁:経営者保証に依存しない融資慣行に向けた施策

    経営者保証に関するガイドライン、見直しに関する資料。

    https://www.fsa.go.jp/policy/hoshou_jirei/index.html

  4. 厚生労働省:持分なし医療法人への移行に関する手引書

    持分あり・持分なしの類型と移行制度。期限等は資料の作成時点による。

    https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000940229.pdf

  5. 厚生労働省:社団医療法人定款例

    社員の入退社、社員総会の議長・決議、役員等に関する定款例。

    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000205243.pdf

  6. 国税庁:財産評価基本通達194-2

    医療法人の出資の税務評価。離婚時の評価や退社時の払戻額とは区別。

    https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/06.htm

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