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『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第139講】

医師の資産管理会社 ― 作る前より、作った後が難しい

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第139講 医師の資産管理会社― 作る前より、作った後が難しい

第ⅩⅣ部 医師の資産・投資・プライベートウェルス

資産管理会社は、資産の保有や承継のための選択肢です。設立時だけでなく、毎年の運営、医療法人との取引、家族の権利、解散時の費用まで含めて判断します。会社を作れば必ず節税できるわけではなく、個人で保有する方法との比較が必要です。

この講では、医師にとって資産管理会社が意味を持つ場面と持たない場面、医療法人との関係で守るべき線、家族を株主・役員にすることの意味(第Ⅻ部の構造がそのまま現れる)、相続・離婚での扱い、そして閉じるときの問題を整理します。第116講(名義持分)、第120講(親族間取引)、第124講(認定医療法人)を、資産管理会社という別の箱で読み直す講です。

例えば、院長が賃貸不動産の管理と家族への承継のために会社を作ったとします。5年後に点検すると、資産移転時の税・登記費用、毎年の申告費用、家族への報酬、株式の取得経緯が十分に整理されていませんでした。継続・再編・解散のどれを選ぶにしても、まず会社の実態と契約・税務を確認する必要があります。

1 資産管理会社とは何か ― 医療法人との違い

比較する項目医療法人と資産管理会社の違い
目的・事業医療法人は医療法に基づく法人で、剰余金の配当が禁止され、業務の範囲にも規律がある。資産管理会社は株式会社・合同会社等を利用した呼び方で、独立した法的類型ではない。定款に書けば無制限に事業を行えるわけではなく、業務に応じた許認可等が必要。
資産の保有・運用医療法人は法人の類型・業務範囲・運営管理指導要綱等に沿う必要があり、投機的運用は認められない。社会医療法人の収益業務等には別の制度がある。資産管理会社でも、会社財産と家族の財産を区別し、借入・保証・税務を管理する。
権利と承継持分あり医療法人では定款等に従う払戻請求等が問題となる。持分なし法人には出資持分がないが、基金返還請求権や貸付債権まで存在しないという意味ではない。株式会社の株式と合同会社の社員持分では、譲渡・相続・運営の仕組みが異なる。
機関医療法人は原則として理事3人以上・監事1人以上。理事数には知事認可による例外があり、理事長は原則として医師又は歯科医師である理事から選ぶ(認可による例外あり)。株式会社の取締役や合同会社の業務執行社員とは、資格・選任・任期の規律が異なる。
診療・役務の収入診療所等の収入、勤務医の給与、理事長の役員報酬、講演・委託業務の対価は、契約と実際の役務提供に応じて区別する。個人や医療法人に帰属する収入を、名義だけで資産管理会社へ付け替えることはできない。

資産管理会社に任せる業務は、実際にその会社が行う必要があります。不動産の保有・管理等と、医師本人の勤務や役員職務を分け、契約、実施記録、対価の根拠をそろえます。講演料等も、会社名義の請求書を出すだけで会社の収入に変わるわけではありません。

2 意味を持つ場面、持たない場面

検討する目的効果と費用を比較するポイント
収益資産の保有個人と法人では、不動産所得、株式の配当・譲渡等の課税が異なる。個人の所得が高いというだけで法人保有が有利とは限らない。移転・保有・売却と、法人から個人へ資金を渡す段階まで試算する。
家族への報酬職務・勤務の実態、金額の相当性、決定手続、役員給与の損金算入要件等を確認する。家族であることだけを理由に支払った給与が、当然に経費になるわけではない。
承継先の整理不動産自体の共有を避けられても、株式の共有・分散による対立は起こり得る。議決権、取得経緯、譲渡制限、遺言・遺留分、合同会社の定款を検討する。
診療所不動産の保有医療法人への賃貸を使う設計もある。賃料等の適正、利益相反の手続、継続利用、借入・担保、承継後に対立した場合の対応を確認する。
継続・終了移転時の税・費用、法人住民税の均等割、決算・申告費用、該当する社会保険料等を見込む。設立から何年なら得という一律の基準はなく、売却・清算・承継の条件も比較する。

「所得分散」「家族への給与」「株式での承継」は、検討項目の名称です。効果が出る条件、支払う費用、家族が取得する権利まで確認して、目的に合うかを判断します。

3 作った後に難しいもの

運営

会社形態に応じて、決算・申告、登記、会議・決議、帳簿等の保存が必要です。株式会社の取締役には任期があり、一定の非公開会社では定款で最長10年まで伸長できます。合同会社の業務執行社員には同じ法定任期はなく、株主総会もありませんが、変更登記等が不要になるわけではありません。

最後の登記から12年を経過した株式会社は、法務大臣の公告後、所定期間内に事業継続の届出や登記をしないと、みなし解散の対象になります。単に税務申告や会議を怠れば直ちに解散する制度ではありません。登記・税務・社内手続を誰が担当し、本人が何を確認するかを決めます。社会保険も、事業所や役員・従業員の実態に応じて適用を確認してください。

医療法人との関係

医療法人との賃貸・リース・業務委託では、業務の実態、相場・原価等に照らした対価、法人の業務に必要な取引かを確認します。理事が相手会社を代表するなど、法定の利益相反取引に当たる場合には、医療法人側の理事会承認等が必要です。親族が関係するというだけで一律に同じ手続とせず、両法人の役職・権限と取引内容を調べます。認定医療法人には特別利益等の固有の要件もあります。

家族の株主構成

親が資金を出したことだけで、子名義の株式が当然に名義株になるとは限りません。誰が株式を引き受ける合意だったか、資金の贈与・貸付けがあったか、払込みや取得後の管理等を確認します。株式自体を贈与・相続して取得する場合もあります。権利の帰属と税務上の扱いを分け、贈与税の申告・納付の要否を含めて整理してください。

家族を株主にすると、その人自身が議決権等を持ちます。後に意見が対立した場合に、名義を自由に戻せるわけではありません。譲渡制限、議決権の配置、買受けの資金、相続・離婚時の対応を、権利者の意思と必要な手続に沿って設計します。

相続

相続・贈与で非上場株式等を取得した場合の税務評価は、取得者の株主区分、会社の規模・資産構成等により異なります。土地保有特定会社・株式等保有特定会社等の区分も検討が必要です。「会社に移して株式にすれば必ず評価が下がる」とは限りません。

純資産価額方式では、課税時期前3年以内に取得・新築した一定の土地・建物等を、課税時期の通常の取引価額で評価する取扱いがあります。評価差額に対する法人税額等相当額の控除にも条件があり、すべての含み益に無条件で同じ控除をするものではありません。税務評価と売買・財産分与の評価も区別します。承継先を希望に沿って定めるには、遺言、生前の移転、定款等の方法を比較してください。

離婚

財産分与では、設立時期だけでなく、取得資金の由来と夫婦の協力による財産形成を検討します。相続・贈与や婚前の財産に由来する部分は、別途の検討が必要です。会社所有の不動産等を配偶者が直接所有するわけではなく、各人の株式・持分や会社への貸付債権等を区別して評価します。分与が決まっても、役員・株主の地位が当然に消えるわけではありません。

出口

解散・清算では、債務の処理と残余財産の分配等の手続を行います。会社が資産を売却・現物分配すると、会社側で譲渡損益等に法人税が生じることがあり、個人株主側でもみなし配当や株式の譲渡損益等を区分して計算します。会社側と個人側で税目・計算が異なります。取得側の不動産取得税、登録免許税等も含め、移転の方法ごとに試算します。

継続・売却・清算の有利不利は、資産の価額、簿価、債務、分配の方法、家族の目的等で変わります。過去の費用だけに引きずられず、今後の税引後の収支と管理負担を比較してください。5年で閉じる会社が必ず不利、20年持てば有利という基準はありません。

4 作るなら決めておくこと

資産管理会社を作る前に

  1. 移転・保有・出口を試算する 個人で持つ場合と、法人に移す場合の税・費用・資金繰りを比較する。法人から個人への給与・配当・残余財産分配等の段階も含め、保有期間や価額が変わる場合を検討する。
  2. 目的を一つ書く 所得分散か、相続時の承継設計か、診療所不動産の分離か。「なんとなく節税」は目的にならない。
  3. 株主構成 誰が、いくら出資するか。子・配偶者を株主にするなら、資金の出所と贈与税の処理を明確に。名義株を作らない。将来の承継先(後継者か、子か)に合わせる。
  4. 役員と報酬 実際の職務と責任を明確にし、選任・報酬決定の手続を整える。税務上の役員給与は、金額の相当性に加え、定期同額給与等の要件と改定時期も確認する。
  5. 医療法人との取引 契約、対価の根拠、必要な決議・利益相反の手続を確認する。認定医療法人であれば、その要件への影響も検討する。
  6. 運営の担当 会社形態に応じた決算・申告・登記・決議・帳簿保存を誰が担い、本人がどう確認するかを決める。
  7. 承継と家族関係 株式・持分の取得経緯、承継先、遺言・遺留分、譲渡条件、離婚等で関係が変わった場合の対応を検討する。合同会社では死亡時の定款の定めも確認する。
  8. 出口の試算 継続、資産売却、株式等の譲渡、解散・清算について、手取額、債務、手続と時間を比較する。
  9. 税務と法務を合わせて確認する 税額・評価・申告と、権利帰属・会社運営・契約・承継を関係する専門家で検討する。別の意見を求める場合も、依頼範囲と費用を明確にする。

5 設例のような会社をどう見直すか

  • 目的を再定義する 今の資産と家族構成で、この会社が意味を持つ目的があるか。あれば、その目的に合わせて運営を整える。なければ、閉じる試算をする。
  • 株式の取得経緯を確認する 子名義の株式について、出資・贈与・譲渡等の契約、資金の流れ、株主名簿、税務処理を照合する。帰属が争われる可能性があれば、名義変更を急がず弁護士と税理士に相談する。
  • 家族の給与を点検する 職務・勤務記録、金額、役員該当性、決定手続を確認する。過去に誤りがあれば是正方法を検討し、報酬改定に伴う税務・雇用上の条件にも注意する。
  • 医療法人との取引を点検する 業務の実態、対価の根拠、必要な決議・承認等を確認する。
  • 閉じるなら、時期と方法を設計する 清算時の課税、不動産の扱い(個人に戻すか、会社ごと売るか、会社のまま持ち続けるか)。

6 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 資産管理会社があるなら、その目的を一言で書いてみる
  • 株主名簿を見て、名義株がないか、資金の出所が説明できるかを確認する
  • 医療法人との取引は、契約・対価と、利益相反等の承認が必要かを確認する
  • 役員の任期満了と変更登記の期限を確認する

やってはいけないこと

  • 「節税になる」だけで資産管理会社を作る
  • 権利を与える意思や取得の根拠を明確にせず、家族の名前だけを使う
  • 医療法人の利益の受け皿として使う
  • 作った会社の運営を税理士に丸投げして、何をしているか知らない状態にする

7 よくある質問

診療所の土地建物を資産管理会社に持たせ、医療法人に貸す形は有効ですか。
診療所不動産の保有と医療事業の承継を分ける方法の一つです。移転時の税・費用、融資・担保、適正な賃料、必要な利益相反の手続、診療を継続できる賃貸条件を検討します。家族と後継者の関係が変わる場合や、資産管理会社の株式・持分の承継も含めて設計してください。認定医療法人では固有の要件を別に確認します。
合同会社と株式会社のどちらがよいですか。
合同会社は株式会社と設立費用・機関・公告等の仕組みが異なり、業務執行社員に法定の任期はありません。一方、社員の死亡は原則として退社事由で、相続人が持分を承継して社員になるには、会社法608条に沿った定款の定め等を確認します。定めがない場合は持分払戻請求等が問題になります。株式会社では株式・議決権・役員の仕組みを使うため、出資者の追加、意思決定、承継の希望に合わせて選んでください。
医療法人の理事長報酬を、資産管理会社を経由して受け取れませんか。
理事長個人の職務に対する報酬を、会社への業務委託料という名目に置き換えることはできません。会社が別の適法な業務を実際に受託する場合には、役員職務との区別、業務内容、相当な対価と利益相反の手続を検討します。名目ではなく、誰がどの役務を提供したかに即して処理してください。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・参考資料

  1. 医療法

    開設・管理者、医療安全、立入検査・監督、医療法人の役員資格・機関等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205

  2. 民法

    委任・善管注意義務、契約上の責任、不法行為、使用者責任等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

  3. 厚生労働省:持分なし医療法人への移行に関する手引書

    持分あり・持分なしの類型と移行制度。期限等は資料の作成時点による。

    https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000940229.pdf

  4. 厚生労働省:医療法人運営管理指導要綱

    医療法人の機関運営、資産・会計・人事等の指導事項。

    https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000548754.pdf

  5. e-Gov法令検索:法人税法

    22条・34条。損益、役員給与の損金算入条件、過大・隠蔽仮装給与等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
  6. e-Gov法令検索:所得税法

    25条のみなし配当、37条・45条の経費・家事費等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
  7. 国税庁:取引相場のない株式の評価

    No.4638。株主区分、会社規模、特定の評価会社の区分。

    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4638.htm
  8. 国税庁:財産評価基本通達185・186-2等

    純資産価額、3年以内取得不動産、評価差額の法人税額等相当額。

    https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/04.htm
  9. 国税庁:役員に対する給与

    No.5211。役員給与の損金算入要件。

    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
  10. 日本年金機構:適用事業所と被保険者

    事業所と働く人の健康保険・厚生年金の適用。

    https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150518.html
  11. e-Gov法令検索:会社法

    株式会社・合同会社の運営、任期、相続、みなし解散・清算等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086

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