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『退職・競業・営業秘密29講 ― 「辞めた社員」と「持ち出された情報」の教科書 ―』【第18講】

不正競争防止法の営業秘密三要件 ― 秘密管理性が九割

会社が不競法上の営業秘密として情報を保護するには、持ち出された情報が「営業秘密」の三要件を満たす必要があります。秘密管理性は実務上重要な争点になりやすい要件ですが、裁判の帰趨が一定割合で決まるといった統計的な基準があるわけではなく、有用性・非公知性を含む三要件を個別に確認します。

三要件の定義

不競法2条6項は、営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義します。すなわち、①秘密管理性(秘密として管理されていること)、②有用性(事業活動に有用であること)、③非公知性(公然と知られていないこと)の三つです。三要件をすべて満たして初めて営業秘密となり、一つでも欠ければ不競法の保護は受けられません。

有用性 ― 事業活動に客観的に有用な情報

有用性は、その情報が客観的に事業活動に役立つものであることを意味します。顧客名簿、取引条件、設計図、製造方法、ソースコード、価格計算の方法、仕入先情報等は典型例です。過去の失敗データなどのネガティブ情報にも有用性が認められ得ます。他方、脱税や有害物質の違法な排出等の反社会的行為に関する情報など、法的保護に値しない内容については有用性が否定され得ます。

非公知性 ― 「一般に入手できない」こと

非公知性は、その情報が刊行物・インターネット等で公開されておらず、保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態にあることです。個々の要素(企業名・住所など)が公開されていても、それらを組み合わせた情報(取引先ごとの購買履歴・担当者・取引条件を整理した顧客名簿)は、全体として非公知性を持ち得ます。逆に、業界内で広く知られている技術情報や、公開特許に記載された情報は非公知性を欠きます。

秘密管理性 ― 「秘密である」と認識できる管理

経済産業省「営業秘密管理指針」(2025年3月31日最終改訂)は、秘密管理性について、保有者の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に明確に示され、その認識可能性が確保されていることを重視しています。必要な措置は、企業の規模、情報の性質、従業員の職務、管理単位等の具体的事情に応じて判断されます。

秘密管理性は、単一の形式要件で決まるものではありません。例えば、アクセス制限が十分でない場合でも、秘密表示、秘密保持義務、周知・教育、情報の性質等から従業員が秘密と認識できることがあり、逆に厳しいシステム制限があっても秘密管理意思が認識できない場合があります。広範な秘密保持条項、共有フォルダへの保存、在宅利用、USB利用等も、それだけで当然に秘密管理性を肯定・否定するのではなく、会社がどの情報を秘密として扱い、従業員がその意思を認識できたかを具体的に確認します。

秘密管理性は、会社の主観的な「秘密にしたい」という意思だけでは足りず、秘密管理措置を通じて、情報に接する従業員等が秘密管理意思を認識できる状態にあったかを中心に判断されます。

必要な管理措置は「会社の規模に応じた合理的なもの」

必要な秘密管理措置は、企業の規模・業態・情報の性質・従業員の職務等に応じた経済合理的なもので足ります。例えば、秘密情報の表示、アクセス権限、秘密保持契約・誓約、社内規程・研修等は認識可能性を支える措置になり得ますが、全てを機械的に備えることが要件ではありません。自社の管理実態に応じ、何によって従業員が秘密であると認識できるのかを説明・記録できることが重要です(第19講)。

「持ち出された後」に管理を始めても遅い

秘密管理性は、問題となる取得・使用等の時点で満たされている必要があります。持ち出し発覚後に初めて表示・権限設定を行っても、当時の秘密管理性を当然に補うことはできません。したがって、秘密管理措置を平時から運用し、その記録を残すことが重要です。

実務ポイント

・三要件は秘密管理性・有用性・非公知性。秘密管理性は実務上重要な争点になりやすいが、三要件を個別に確認する。

・秘密管理性は、秘密管理意思が従業員等に認識可能な状態で示されていたかを、具体的な管理措置から判断する。

・管理措置は規模・情報の性質等に応じた経済合理的なもので足りる。形式より、問題時点での実際の管理と認識可能性が重要。

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