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『退職・競業・営業秘密29講 ― 「辞めた社員」と「持ち出された情報」の教科書 ―』【第20講】

営業秘密・限定提供データ・著作権 ― どの武器で守るか

会社が持つデータ・情報を法的に保護する手段は、営業秘密だけではありません。限定提供データ(不競法2条7項)と著作権(著作権法)も、一定の情報について保護を与えます。三つの制度は要件と効果が異なり、情報の性質に応じて使い分ける必要があります。

営業秘密 ― 秘密として管理された情報

秘密管理性・有用性・非公知性の三要件(第18講)を満たす情報については、差止・廃棄等の請求(不競法3条)、損害賠償(4条)と5条の損害額算定・推定、信用回復措置(14条)、一定の行為に対する刑事罰(21条)等が定められています。効果は強力ですが、各請求・刑事責任についてそれぞれ要件を満たす必要があります。

限定提供データ ― 「提供するデータ」を守る制度

限定提供データは、平成30年改正で導入され、令和元年に施行された制度です。現行法では、業として特定の者に提供する情報として、電磁的方法により相当量蓄積され、かつ電磁的方法により管理されている技術上又は営業上の情報(営業秘密を除く)をいいます(不競法2条7項)。要件は、限定提供性・相当蓄積性・電磁的管理性です。令和5年改正(令和6年4月施行)では、定義上の除外が「秘密として管理されているもの」から「営業秘密」に変更され、秘密として管理されていても営業秘密に該当しないデータが限定提供データとして保護され得る範囲が明確化・拡大されました。

限定提供データの不正取得・使用・開示等(不競法2条1項11号〜16号)については、差止・損害賠償等の民事救済が定められています。営業秘密侵害罪に対応する刑事罰は限定提供データ侵害には設けられていません。退職者による使用・開示についても、該当する号の要件を個別に確認する必要があります。

著作権 ― 「創作性」があるデータベース・文書

顧客名簿、設計図、マニュアル、ソースコード等は、内容・表現によって著作権法上の著作物として保護される可能性があります。ソースコードは創作性があればプログラムの著作物、設計図・マニュアルも表現に創作性があれば著作物となり得ます。データベースは、情報の選択又は体系的な構成に創作性があれば「データベースの著作物」(著作権法12条の2)として保護されます。単純な五十音順等の名簿では創作性が認められにくい一方、個別具体的な構成次第です。著作権は「情報そのもの」ではなく創作的な表現を保護するため、顧客情報の内容を利用したというだけで著作権侵害になるわけではありません。

三制度の比較

 営業秘密限定提供データ著作権
対象秘密管理性・有用性・非公知性を満たす情報提供用に蓄積・電磁的管理されたデータ創作性のある表現
主な要件秘密管理性・有用性・非公知性限定提供性・相当蓄積性・電磁的管理性創作性
守れるもの情報の内容そのものデータの内容そのもの表現(内容は対象外)
差止・損害額算定・推定ありありあり
刑事罰ありなしあり
弱点三要件の立証提供用データに限定名簿等は創作性が低い

実務上の使い分け

退職者による情報持ち出しでは、営業秘密、限定提供データ、著作権、秘密保持契約、不法行為等のうち、事実関係と各要件に合う構成を検討します。営業秘密に該当しないから自動的に限定提供データになるわけではなく、限定提供性・相当蓄積性・電磁的管理性を別途満たす必要があります。複数の請求原因を予備的・選択的に主張することもありますが、各構成の要件を個別に立証します。

実務ポイント

・営業秘密は三要件、限定提供データは限定提供性・相当蓄積性・電磁的管理性、著作権は創作性等がポイント。制度ごとに保護対象と要件が異なる。

・ソースコード・設計図・マニュアルは著作権で、提供用データは限定提供データで補強する。

・訴訟では複数の構成を重ねて主張する。

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