『退職・競業・営業秘密29講 ― 「辞めた社員」と「持ち出された情報」の教科書 ―』【第27講】
退職面談で聞くべきこと・言ってはいけないこと
第Ⅴ部 予防実務 ─ 明徳法律事務所
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退職面談は、情報の返還を確認し、退職後の義務を伝え、持ち出しの兆候を把握する最後の機会です。同時に、会社の対応が退職妨害・プライバシー侵害・名誉毀損として、後の紛争で会社に不利に働く最初の機会でもあります。面談の目的は「引き止め」でも「尋問」でもなく、「確認と記録」です。
面談前に、①退職者が在職中に接した秘密情報の範囲(担当顧客・担当プロジェクト・アクセス権限)、②貸与物の一覧、③退職者の在職中のアクセスログ・メール送信ログに異常がないか(大量ダウンロード、外部送信、USB接続)、④退職者と同時期に退職を申し出た従業員の有無、を確認しておきます。異常があれば、面談の前に証拠保全(第22講)を完了させます。面談は、人事担当者と上長の二名で行い、記録を残します。
(1)返還物の確認:貸与端末・ID・鍵・書類の返還を、チェックリストで一つずつ確認します。会社のシステム上のデータについては、退職者自身に削除させるのではなく、会社が保全した上でアクセス権を停止します(退職者に削除させると、証拠まで消えます)。
(2)私物端末・個人アカウントに保存された業務情報の有無:「私物のPC・スマートフォン・個人のクラウドやメールに、業務のファイルや顧客の連絡先が残っていないか」を確認し、残っている場合は削除を依頼し、削除の確認書(第26講)への署名を求めます。
(3)秘密保持義務・競業避止義務の内容の説明:入社時・異動時の誓約書の写しを示し、退職後も義務が継続すること、対象となる情報の範囲、競業避止の期間・範囲を説明します。退職時の誓約書への署名を求めますが、拒否された場合は、説明した事実と拒否の事実を記録するにとどめます。
(4)転職先:転職先を尋ねること自体が直ちに違法というわけではありませんが、退職者に一般的な回答義務があるとは限りません。有効な競業避止特約の確認など正当な目的がある場合でも、威迫・不利益の示唆等によって回答を強制しないよう注意します。回答が得られれば、必要な範囲で記録し、特約の適用等を検討します。
(5)引継ぎの内容:担当顧客・進行中の案件・保管場所を確認し、引継ぎ書を作成させます。引継ぎ書は、退職後に「顧客情報を退職者が独占していた」という主張への反証にもなります。
(1)退職の妨害:「退職は認めない」「後任が決まるまで辞められない」など、退職の効力を会社の許可にかからせる対応は問題となります。また、法的根拠や具体的損害の検討なしに「今辞めたら○○万円払え」などと威迫して退職を断念させることも避けるべきです。他方、現実の義務違反・損害について法的請求の可能性を適切に説明・留保することまで当然に禁止されるわけではありません。
(2)証拠のない断定:「情報を持ち出した」「引き抜きをしている」と決めつけて追及すると、対立を深め、証拠保全を難しくすることがあります。本人だけに事実確認を求める行為が直ちに名誉毀損になるわけではありませんが、根拠のない内容を第三者へ流布すれば名誉・信用侵害等が問題となり得ます。持ち出しの疑いがある場合は、必要に応じて先に客観的証拠を保全します。
(3)転職先への連絡:「必要があれば転職先へ適法な照会・警告を行う」と説明すること自体が直ちに脅迫・信用毀損になるわけではありません。ただし、根拠なく「業界に知らせる」「転職できなくする」などと不利益を示唆して退職者を威迫したり、十分な事実確認なしに転職先へ違法行為を断定したりすることは避けます(第25講)。
(4)私物端末の確認:私物端末の提出・調査を任意に依頼すること自体が直ちに違法というわけではありませんが、会社が無断でアクセスしたり、実質的に強制して全面的な開示をさせたりすることは問題となり得ます。必要がある場合は、目的・範囲を説明して具体的な同意を求め、拒否されたときは会社側ログ等の別の手段を検討します(第23講)。
(5)他の従業員に関する質問:「誰と一緒に辞めるのか」「誰に声をかけたのか」という質問自体は違法ではありませんが、回答を強要したり、他の従業員のプライバシーに踏み込む聴取は避けます。
面談記録の作り方
面談記録には、日時・出席者・確認した事項・退職者の回答・署名の有無・拒否の事実を、事実のみ記載します。会社側の評価(「態度が不誠実だった」等)は記載しません。記録は退職者に開示される可能性を前提に作成します。
退職面談では、疑いを追及することより、返還物・アカウント停止・秘密情報の範囲・私物端末等への残存情報の有無をチェックリストで確認する方が、後の紛争を避けやすくなります。持ち出しの兆候がある場合は、面談で詳細を明かす前に証拠保全の要否を検討します。
実務ポイント
・面談の目的は「確認と記録」。引き止めも尋問もしない。
・返還物・私物端末内の業務情報・義務の説明・引継ぎを確認し、転職先の回答は強要しない。
・退職の効力を不当に妨げる対応、根拠のない威迫、転職先への無根拠な告知、私物端末への無断アクセス等は、会社側の責任・紛争拡大の原因となり得る。
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