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『スポーツ・エンタメ団体紛争32講 ― 選手・団体・事務所がもめた日の教科書 ―』【第5講】

理事会が割れた日 ― 決議の有効性をどう争うか

「臨時理事会で突然、会長(代表理事)の解職が動議され、可決された」。競技団体や業界団体の内部紛争は、しばしば理事会の一回の決議から始まります。決議の直後に問われるのは、その決議は有効なのか、そして誰がどの手続で争えるのかです。ここでは一般社団法人・一般財団法人の理事会を前提に整理します。

理事会決議の基本ルール

理事会の決議は、原則として議決に加わることができる理事の過半数が出席し、その過半数をもって行います(一般法人法95条1項、定款で要件の加重が可能)。招集は、原則として会日の1週間前までに各理事・監事に通知する必要があり(94条1項、定款で短縮可)、全員の同意があれば招集手続を省略できます(94条2項)。定款に定めがあれば、書面・電磁的方法による決議の省略(96条)も可能です。

決議が無効となり得る典型

(1)招集手続の瑕疵:一部の理事への招集通知漏れ、定款所定の期間を守らない招集、招集権者でない者による招集。会社法の取締役会について、判例は、招集通知を欠いた取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは決議は有効になるとしています(最判昭和44年12月2日)。一般法人法の理事会にも同様の考え方が及ぶと解されていますが、紛争性の高い議案であれば「特段の事情」が認められる余地は小さくなります。

(2)特別利害関係理事の参加:決議について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができません(95条2項)。代表理事の解職決議において、解職される代表理事本人が特別利害関係人に当たるかについては、会社法上の議論と同様に、これを肯定する考え方が有力です。特別利害関係理事が加わった決議は、その者を除いても可決要件を満たすかが問題となります。

(3)議題の不意打ち:招集通知に記載のない議題を当日追加して決議すること自体は、理事会では直ちに違法とはされない場合もありますが、定款や理事会規程で議題の事前通知を求めている場合や、重要事項である場合には、手続の適正を欠くと評価される可能性があります。

(4)定足数・可決要件の誤り:書面参加・委任状による出席は、理事会では原則として認められません(理事は個人的信頼に基づき選任されるため)。委任状で定足数を満たしたとする決議は無効となり得ます。

どう争うか

株主総会や社員総会と異なり、理事会決議については決議取消しの訴えのような特別の訴えの規定がありません。そのため、決議の無効は、理事会決議無効確認の訴えや、決議の効力を前提とする地位(代表理事の地位など)の確認訴訟で争うことになります。理事会決議の無効については、社員総会決議取消しのような特別の出訴期間は設けられていません。ただし、無効確認等の訴えを提起するには、その者に確認の利益が必要です。

時間が問題となる場合は、仮処分を併用します。代表理事の解職が争われる場面では、代表理事の地位を仮に定める仮処分や、新たに選定された代表理事の職務執行停止・職務代行者選任の仮処分が検討されます。団体の対外的な活動(大会開催、補助金申請、国際団体との連絡)が止まると、どちらが勝っても団体が傷つくため、裁判所の審尋の中で暫定的な運営方法について合意が形成されることもあります。

争う前の確認事項

①定款・理事会規程の招集・決議に関する定め、②招集通知の送付記録(日時・方法・宛先)、③議事録(出席者・議題・賛否の記録、議事録署名人)、④書面決議の場合の同意書、⑤登記の変更状況。議事録は後から作成されることも多く、記載の正確性自体が争点になることがあるため、録音やメモなどの同時的な記録の確保が重要です。

役員紛争で仮処分を用いる場合の実務 代表理事の解職や選定の効力をめぐって緊急の対応が必要な場合には、①定款・理事会規程と招集通知、②議事録・録音・メール等の同時的資料、③現在の登記、④対外的な業務への影響を短期間で整理し、仮の地位を定める仮処分や職務執行停止・職務代行者選任等の申立てを検討します。審理の進み方や期間は事案によって大きく異なりますが、本案訴訟よりも短期間で集中的に主張・疎明を行う必要があります。対立が激しい案件でも、審尋の過程で、重要な支払や大会運営、行政庁・上位団体への届出など、当面の運営をどのように行うかについて暫定的な合意を検討する余地があります。申立てを急ぐ場合ほど、相手方の主張を想定して客観的資料を確保しておくことが重要です。

実務ポイント

・理事会決議の有効性は、招集手続・特別利害関係・議題・定足数と可決要件の四点で点検する。

・理事会決議には取消訴訟の制度がなく、無効確認や地位確認の訴え、仮処分で争う。

・議事録は争点になりやすい。招集記録と同時的な記録を確保する。

作成日付:2026年9月28日

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