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『スポーツ・エンタメ団体紛争32講 ― 選手・団体・事務所がもめた日の教科書 ―』【第6講】

会長選挙・理事選任をめぐる紛争

競技団体の会長選挙は、競技の将来像や強化方針、代表選考の主導権をめぐる争いでもあり、しばしば激しい対立を生みます。法的には、理事の「選任」は社員総会(財団では評議員会)、会長(代表理事)の「選定」は理事会という二段階の手続であることを押さえることが出発点です。多くの紛争は、この二段階のいずれかの手続の瑕疵をめぐって争われます。

二段階の手続

一般社団法人の理事は社員総会の普通決議で選任され(一般法人法63条1項)、理事会設置法人の代表理事は理事会で選定されます(90条3項)。財団法人では、理事の選任は評議員会が行います(177条・63条)。多くの団体の定款・規程は、この間に「役員候補者選考委員会」「会長選挙」といった独自の手続を設けていますが、それらは法律上の選任・選定手続を補完するものにすぎず、最終的な効力は社員総会・評議員会・理事会の決議で決まります。

典型的な争点

(1)候補者資格:年齢制限、在任期間の上限、推薦人数の要件、他団体役員との兼職制限。ガバナンスコード<中央競技団体向け>は、外部理事や女性理事の目標割合、理事の在任期間の上限(原則10年)などを定めており、これに沿った規程が設けられている団体では、規程の適用をめぐる争いが生じることがあります。

(2)選考委員会の手続:委員の構成が一方の陣営に偏っていないか、選考基準が事前に公表されていたか、候補者に説明や反論の機会が与えられたか。2023年のガバナンスコード改定では、理事選任時の具体的な観点を公表することが求められるようになりました。

(3)議決権の行使:社員総会・評議員会での委任状の勧誘、代理人資格、議決権行使書の有効性、投票の秘密。一方の陣営が組織的に委任状を集める場合、その方法(誤解を招く説明、事務局による勧誘)が争点になります。

(4)結果の確定:開票の方法、無効票の判断、同数の場合の処理。選挙規程に定めがなく、事務局の判断で処理された場合、その判断の正当性が争われます。

争い方

社員総会・評議員会の決議に招集手続・決議方法の法令・定款違反や著しい不公正がある場合、社員・評議員・理事等は決議の日から3か月以内に決議取消しの訴えを提起できます(一般法人法266条1項)。決議が存在しない、または内容が法令に違反する場合は、不存在・無効確認の訴え(265条)によります。理事会による代表理事の選定については、第5講と同様に無効確認・地位確認で争います。

もっとも、訴訟の判決が出る頃には次の任期が近づいていることも多く、実務上は、職務執行停止・職務代行者選任の仮処分によって暫定的な状態を作り、並行して交渉や再選挙で決着させることが少なくありません。また、役員の不正行為等にもかかわらず社員総会で解任議案が否決された場合、一定の要件を満たす社員は、否決の日から30日以内に役員解任の訴えを提起できます(284条)。

団体側の予防策

①選挙規程・役員選考規程を事前に整備し公開する、②選考委員会の構成に外部委員を入れる、③委任状勧誘のルール(事務局の中立)を定める、④開票に外部の立会人を置く、⑤議事録と開票記録を保存する。選挙は、結果よりも手続の公正さが問われる場面です。

実務ポイント

・理事の「選任」(社員総会・評議員会)と会長の「選定」(理事会)は別の手続。どちらの瑕疵かを特定する。

・社員総会・評議員会の決議取消しは決議から3か月以内。期間の管理が重要。

・選挙規程・選考委員会・委任状勧誘・開票の各ルールを事前に整備し、手続の公正さを記録で示す。

作成日付:2026年9月28日

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