現在の選手・実演家にとって、SNSアカウントとそのフォロワーは、テレビ出演に匹敵する、あるいはそれを上回る発信力の源泉です。事務所を離れるとき、チームを移るとき、「このアカウントは誰のものか」「ファンクラブの会員情報は誰のものか」が深刻な争点になります。
アカウントの帰属を決める要素
SNSアカウントの帰属について、法律に明確な定めはありません。実務上は、次の要素から判断されます。①登録名義:誰のメールアドレス・電話番号で登録されているか。②開設の経緯:本人が以前から使っていたものか、事務所の企画で開設されたものか。③運用の実態:誰が投稿内容を決め、誰が実際に投稿していたか。④費用負担:撮影・編集・広告の費用を誰が負担していたか。⑤契約の定め:マネジメント契約にアカウントの帰属や契約終了後の扱いについての定めがあるか。
なお、SNSアカウントそのものはプラットフォームの利用規約に基づく利用権であり、多くの規約はアカウントの譲渡を制限しています。「帰属」の争いは、実際には、ログイン情報の引渡し、アカウントの利用継続・削除、収益の帰属をめぐる争いとして現れます。
典型的な紛争
(1)本人名義のアカウント:本人が開設し、本人名で発信してきたアカウントについて、事務所が契約終了後の利用禁止や削除を求める場面。本人の人格と一体化したアカウントの利用を禁止することは、職業活動の自由を過度に制約するものとして、契約条項の効力が限定される可能性があります。
(2)事務所管理のアカウント:事務所がログイン情報を管理し、スタッフが投稿していたアカウントについて、本人が退所後の引渡しを求める場面。アカウント名が本人の芸名そのものである場合、事務所が利用を続けることはパブリシティ権や芸名の問題を生じます。
(3)グループ・チームのアカウント:グループ名義のアカウントは、グループの名称の権利者(多くは事務所)に帰属すると解されやすく、脱退したメンバーは利用できないのが通常です。
(4)収益化アカウント:動画配信の収益、投げ銭、メンバーシップ収入の帰属と分配。YouTuberとマネジメント会社の契約終了をめぐる紛争(第14講)では、チャンネルの帰属と収益の扱いも問題となり得ます。
ファンクラブ・会員情報
ファンクラブの会員情報は個人情報であり、個人情報保護法の規律に服します。会員情報を取得した主体(通常はファンクラブの運営者=事務所)が、利用目的の範囲内で利用することができ、本人の同意なく第三者に提供することはできません(同法27条)。したがって、実演家が独立しても、事務所が運営してきたファンクラブの会員情報をそのまま移すことは、原則としてできません。移行するには、会員に新たなファンクラブへの入会を案内し、会員自身の意思で登録してもらう方法をとることになります。
契約での整理
マネジメント契約には、①アカウントの開設・名義・ログイン情報の管理者、②投稿内容の決定権と承認手続、③収益の帰属と分配、④契約終了時の扱い(名義変更・引渡し・利用継続の可否・一定期間の告知協力)、⑤ファンクラブの運営主体と会員への告知方法、を定めておくことが望まれます。芸能指針は、SNS運営による収益も報酬の透明化の対象として言及しています。
実務ポイント
・アカウントの帰属は、名義・開設経緯・運用実態・費用負担・契約の五要素で判断される。
・本人の人格と一体化したアカウントの利用禁止は、効力が限定され得る。グループ名義は権利者に帰属しやすい。
・ファンクラブの会員情報は個人情報。本人同意なしの移転はできず、会員自身の再登録で移行する。
作成日付:2026年9月28日