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『スポーツ・エンタメ団体紛争32講 ― 選手・団体・事務所がもめた日の教科書 ―』【第23講】

第三者委員会は誰のために設置するのか

重大な不祥事が発覚したとき、団体は「第三者委員会を設置して徹底的に調査します」と発表します。しかし、第三者委員会は万能の解決策ではなく、設置の仕方を誤れば、かえって団体の信頼を損ないます。出発点となる問いは、第三者委員会は誰のために、何のために設置するのかです。

日弁連ガイドラインの考え方

日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(平成22年策定・同年改訂)は、第三者委員会を、経営者等自身のためではなく、すべてのステークホルダーのために調査を実施し、それを通じて、企業等の信頼と持続可能性を回復することを目的とするものと位置づけています。スポーツ・エンタメ団体に当てはめれば、ステークホルダーとは、選手・実演家、会員、ファン、スポンサー、補助金の交付機関、そして社会です。

第三者委員会の要件

同ガイドラインは、第三者委員会に求められる要素として、①独立性(委員は団体と利害関係のない者から選任し、調査報告書の起案権は委員会に専属する)、②調査範囲の決定権(調査対象・方法を委員会が決める)、③事実認定と原因分析(関係者の責任の評価を含む)、④調査報告書の開示(原則として全文を公表し、非開示部分があればその理由を示す)、⑤団体の協力義務(資料提供・役職員への協力指示)、などを挙げています。団体の顧問弁護士や、役員と個人的関係のある者が委員となる委員会は、「第三者」委員会とはいえないと評価されるおそれがあります。

内部調査委員会との使い分け

すべての不祥事に第三者委員会が必要なわけではありません。事実関係が比較的単純で、役員の関与がない事案であれば、外部専門家を含む内部調査委員会で足りる場合も多いといえます。他方、①団体のトップや役員の関与が疑われる、②組織的・長期的な問題である、③社会的注目度が高く、団体自身による調査では信頼が得られない、④補助金の交付機関や統括団体から第三者による調査を求められている、といった場合には、第三者委員会の設置が適切です。

設置の際の実務

①委嘱の範囲:調査対象となる事実、期間、関係者の範囲を明確にする(狭すぎる委嘱は「調査範囲の限定による隠蔽」と批判される)。②委員の選任:弁護士、公認会計士、競技・業界の実情に通じた有識者などから、利害関係のない者を選ぶ。③費用:費用は団体が負担するが、報酬の額が調査結果に左右されない形とする。④スケジュール:大会日程や社員総会との関係を考慮しつつ、調査の十分さを優先する。⑤報告書の受領後:提言を受けた再発防止策の策定と実施状況の公表。

調査対象者の立場から

第三者委員会の調査対象となった選手・役員の側から見ると、第三者委員会には法的な強制権限がなく、聴取への協力は任意です。ただし、協力を拒否すれば、報告書でその旨が記載され、事実認定上不利に扱われる可能性があります。聴取には弁護士の同席を求めることが考えられ、報告書で自身に関する記載が事実と異なる場合には、反論の機会を求めることも検討します。報告書の記載が名誉毀損となり得るかは、第25講の問題でもあります。

実務ポイント

・第三者委員会はすべてのステークホルダーのために設置するもの(日弁連ガイドライン)。

・独立性・調査範囲の決定権・報告書の開示が要件。顧問弁護士や役員の知人が委員の委員会は第三者性を疑われる。

・トップの関与・組織的問題・高い社会的注目がある場合に設置し、それ以外は外部専門家を含む内部調査も選択肢。

作成日付:2026年9月28日

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