上場株式とはまったく別のいきもの
日本の株式会社は約280万社。そのうち上場会社は約4,000社にすぎず、99.8%以上は非上場会社です。そして非上場会社のほとんどは、定款で「株式の譲渡には会社(取締役会・株主総会)の承認を要する」と定めた譲渡制限株式(会社法2条17号・107条1項1号)を発行しています。
譲渡制限株式には、証券取引所のような市場がありません。売りたいときに売れず、値段も相場もない。それでいて、会社が成長していれば株式の実質的な価値は何千万円、何億円にも膨らんでいる――。この「換金できないのに高額」という性質こそが、非上場株式があらゆる紛争の火種になる理由です。
紛争の典型パターンは3つ
第一に、少数株主と会社(オーナー側)の対立です。創業時に出資してくれた親族・元役員・従業員持株会OBなどが「株を買い取ってほしい」と申し出て、価格が折り合わずに紛争化するパターン。近時は、少数株主から株式を買い取って会社に高値売却を迫る「株式買取業者」の登場により、このパターンが先鋭化しています(第26講で詳述する大阪高判令和6年7月12日・判例タイムズ1530号86頁は、この文脈で出た極めて重要な裁判例です)。
第二に、相続をきっかけとする紛争です。オーナーが亡くなると株式は相続人間の準共有となり(民法898条)、遺産分割・遺留分・議決権行使のすべてが争点になります(会社法106条、民法1046条)。
第三に、役員間・株主間の経営権紛争です。50対50のデッドロック、取締役の解任、株主総会の攻防など、株式の保有割合そのものが武器になる争いです。
図解:非上場株式紛争の全体地図
非上場株式(譲渡制限株式)
市場なし・相場なし・売れない
このシリーズで扱うこと
本シリーズは全27講・6部構成で、①株価はどう決まるのか(第Ⅰ部)、②会社側の守りと予防設計(第Ⅱ部)、③株式集約の実務(第Ⅲ部)、④相続・事業承継との交錯(第Ⅳ部)、⑤少数株主の戦い方と経営権紛争(第Ⅴ部)、⑥手続の現実と、株式買取業者に関する大阪高裁令和6年7月12日判決(第Ⅵ部)を、最新の裁判例(最決令和5年5月24日ほか)を踏まえて体系的に解説します。
非上場株式の紛争は、会社法・民法(相続法)・税法・企業価値評価が交錯する、弁護士業務の中でも屈指の専門領域です。当事務所は、非上場会社の株主間紛争・事業承継を中核業務とし、質権が設定された振替株式への差押え・換価という先例のない案件を解決した実績も有しています。お心当たりのある経営者・株主の方は、紛争が顕在化する前の段階でこそ、ご相談ください。