『税理士法人・社労士法人の内部紛争30講 ― 共同経営「解消」の教科書 ―』【第8講】
問題社員を「追い出す」
― 除名の訴えの要件・手続と、2人法人の除名という難問 ―
ここまでの講は、相手が「辞める」と言ってきた場面を扱ってきました。第8講は逆です。辞めてほしい相手が、辞めてくれない。法人の資金を私的に使い、法人名義で勝手に受任し、業務を放り出しているのに、社員の地位に居座っている。株式会社なら株主総会で役員を解任すればよいのですが、士業法人に「解任」という制度はありません。あるのは「除名」、しかも裁判所の判決を要する除名だけです。
本講では、除名の訴えの要件と手続、近時の裁判例が示した認容と棄却の分かれ目、そして「社員2名の法人で1名が1名を除名できるのか」という古くからの難問を扱います。あわせて、除名の訴えが残る側にもたらす副作用と、現実的な使い方についても率直に書きます。
1 除名は「訴え」である ― 決議だけでは完結しない
税理士法48条の21第1項と社労士法25条の25第1項は、会社法859条から862条までを、社員の除名と業務執行権・代表権の消滅の訴えについて準用しています。会社法859条の骨格は、次のとおりです。
持分会社の社員について一定の除名事由があるときは、当該持分会社は、対象社員以外の社員の過半数の決議に基づき、訴えをもって対象社員の除名を請求することができる。
3つの要素が組み合わさっています。第一に、除名事由の存在。第二に、対象社員を除いた社員の過半数による決議。第三に、法人を原告、対象社員を被告とする訴えの提起と、その認容判決です。決議だけでは何も起きません。決議は訴えを起こすための手続要件にすぎず、社員の地位を奪うのは裁判所の判決です。
株式会社の役員解任との違いを、表にしておきます。
| 項目 | 株式会社の役員解任 | 士業法人の社員の除名 |
|---|---|---|
| 決め方 | 株主総会の決議で完結(理由は不要。正当な理由がなければ損害賠償の問題になるだけ) | 他の社員の過半数の決議+除名事由+裁判所の判決 |
| 原告・被告 | ― | 原告は法人、被告は対象社員(会社法861条) |
| 管轄 | ― | 法人の主たる事務所の所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄(会社法862条) |
| 効力発生 | 決議の時 | 判決の確定時。確定後は法人が脱退(変更)の登記を申請する |
| その後 | 株主の地位は残る | 社員の地位を失い、法人から持分の払戻しを受ける(会社法611条) |
ここから、実務上の重い帰結が導かれます。訴訟が係属している間、相手は社員のままです。業務執行権も代表権も持ち続け、法人名義で行動できます。判決までには通常、1年前後かそれ以上かかります。相手の暴走を止める手段は、除名の訴えとは別に考えなければなりません(第9講)。
| 段階 | 要点 |
|---|---|
| 決議 | 対象社員以外の社員の過半数 |
| 提訴 | 法人が原告。除名事由と必要性を示す |
| 審理・保全 | 業務維持と損害拡大防止を並行して検討 |
| 判決確定 | 除名による脱退。人数・登記等を処理 |
| 払戻計算 | 611条2項の提訴時基準と、その後の損益・相殺を整理 |
図1 除名の訴えの流れと基準時
2 除名事由の5つの類型と、士業法人での当てはめ
会社法859条は、除名事由を5つ掲げています。税理士法・社労士法への準用にあたっては、2号の「第594条1項(競業の禁止)の規定に違反したこと」が、それぞれ「税理士法48条の14第1項」「社会保険労務士法25条の18第1項」の規定に違反したこと、と読み替えられています。つまり、第5講で見た競業禁止違反は、明文で除名事由に組み込まれています。
| 除名事由(会社法859条) | 士業法人での典型的な当てはめ |
|---|---|
| 1号 出資の義務を履行しないこと | 定款で定めた金銭出資を払い込まない。労務出資を約束しながら業務に従事しない(補講②)。 |
| 2号 競業禁止(税48条の14第1項/社25条の18第1項)に違反したこと | 社員のまま個人名義・新法人名義で顧問先を受任する。他の税理士法人・社労士法人の社員になる。 |
| 3号 業務を執行するに当たって不正の行為をし、又は業務執行権がないのに業務の執行に関与したこと | 法人資金の私的流用、架空経費の計上、顧客からの預り金の費消、無資格者に業務を行わせる(名義貸し)。 |
| 4号 法人を代表するに当たって不正の行為をし、又は代表権がないのに法人を代表して行為をしたこと | 法人名義で自己の利益のために契約する。定款で代表権を限定されているのに法人名義で解約通知を出す。 |
| 5号 前各号のほか、重要な義務を尽くさないこと | 長期の業務放棄、忠実義務違反(計画的な従業員引抜き、顧客データの持出し)、他の社員への財産状況の報告拒否。 |
ただし、後述する裁判例が示すとおり、これらの事由に形式的に当てはまる事実があるだけでは、除名は認められないことがあります。除名は、社員の意思に反してその地位を強制的に奪う制度であるため、裁判所は慎重です。
3 裁判例の分かれ目 ― 棄却された夫婦の会社、認容された資金流用
以下の合同会社の裁判例は、同じ会社法859条の解釈を考える材料です。ただし、士業法人には資格者による業務執行、無限責任、税理士法人の社員数不足による解散という違いがあります。個々の行為の重大性と、排除後の業務継続体制を分けて検討します。
棄却例 ― 東京地裁令和元年7月3日判決(金融・商事判例1577号29頁)
夫が個人で営んでいた事業を法人化した合同会社で、社員は夫と妻の2名。事業の実務はほぼ夫が担っていました。夫婦関係が破綻して離婚訴訟に至る中で、妻が決議し、会社が夫の除名を求めて提訴しました。主張された除名事由は、妻に給与を支払っていないのに支払ったとする架空の経費計上、その資金の私的な用途への充当、妻の署名押印を偽造した決算書類の作成、妻からの業務・財産状況の報告要求の無視など、かなり具体的なものでした。
それでも裁判所は、請求を棄却しました。判決は、除名は社員をその意思に反して会社から強制的に排除するものであるから、問題とされる行為が形式的に除名事由に該当するというだけでは足りず、その行為によって社員間の信頼関係が損なわれる等により会社の活動が成り立たなくなる(事業の継続に著しい支障がある)ため、当該社員を排除することがやむを得ないといえるような事情を要する、という枠組みを示しました。そのうえで、夫の行為により信頼関係が一定程度損なわれたとしても、会社の事業は夫の日常的な業務に依存しており、むしろ夫を除名すれば事業の継続に支障が生じる、と評価したのです。控訴審(東京高裁令和元年12月11日判決・金融・商事判例1594号28頁)も、この判断を維持しました。
認容例 ― 東京地裁令和3年11月29日判決(金融・商事判例1641号50頁)
不動産取得のために設立された合同会社で、社員は株式会社と一般社団法人の2名。一方の社員(一般社団法人)の職務執行者が、特定の目的で預けられた2億8,000万円のうち少なくとも1億5,800万円を、本来の目的と関係のない不動産取引に使い、他方の社員には「全額が残っている」と事実に反する報告をしていました。一部は返還されたものの、2億2,700万円が未返還で、返還の見通しも立っていませんでした。
裁判所は、職務執行者が資金の本来の目的を認識したうえで半分を超える額を故意に目的外に使ったこと、金額、当初の報告内容、返還の状況と見通しを総合して、会社法859条3号(業務執行における不正行為)に該当すると認め、除名を認容しました。
分かれ目はどこか
両事件では、不正行為の内容、金額、返還状況、社員の役割等が異なります。裁判例の事実評価を、すべての除名事件に共通する追加要件へ拡張してはいけません。859条各号の要件に加えてどの事情を重く見るかは、文献でも議論があります。
小菅成一「社員2名から構成される合同会社において1名の社員の除名が肯定された事例」(嘉悦大学研究論集66巻1号、2023年)70〜71頁は、事業継続性を重視する立場と、その基準によって主要社員の除名が事実上不可能になることを批判する立場を整理しています。小菅自身は、不正行為者が残る結果を避けるため859条各号に即した判断を重視します。批判の対象は単に基準が「厳しすぎる」ことではなく、不正をした主要社員を排除できなくなる点です。
4 2人法人で除名はできるのか
除名の訴えは「対象社員以外の社員の過半数の決議」を要します。社員が2名なら、対象社員以外の社員は1名です。1名の「過半数」とは何か。そもそも2名の法人で除名は認められるのか。この問題には、古い歴史があります。
旧商法の時代、大審院は否定的でした。合名会社について明治42年10月13日の判決(民録15輯772頁)、合資会社について大正12年1月20日の決定(民集2巻8頁)が、社員が3名以上いなければ除名は認められない旨を判示しています。当時の商法では社員が1人になると会社は直ちに解散したため、除名によって社員を1人にすることは、会社の存続を前提とする除名制度の趣旨に反する、という理由でした。
現行859条は対象社員を除く社員の過半数の決議と裁判所の判断を求めています。小菅・前掲67〜68頁は、2名会社での利用を肯定する文献と、山形地裁酒田支部平成3年12月17日判決、令和3年東京地裁判決等を整理しています。本稿では、残る1名による決議と裁判所の審査、1名になった場合の法人存続の制度を根拠に検討します。
社労士法人は1名でも存続できるため、この点で合同会社と共通します。税理士法人は1名になった直後には解散せず、6か月以内の社員補充が可能です。859条の準用に社員3名以上という限定もないため、本稿は2名税理士法人でも除名請求を利用し得ると解します。ただし、これは条文と制度からの解釈であり、合同会社判決が税理士法人について直接判断したものではありません。後任の確保と払戻資金をあわせて準備します。
そして、税理士法人の残る側にとってより実際的な問題は、除名に勝った瞬間に6か月ルールが起動することです。判決確定で相手が脱退すれば、社員は自分1人。6か月以内に後任を迎えなければ、法人は解散します。除名の訴えを起こす税理士法人は、訴訟の準備と並行して、後任社員の確保も進めておかなければなりません。
5 基準時の戦術 ― 除名なら払戻しは「提訴時」で計算する
除名された社員も、脱退した社員として持分の払戻しを受けます(会社法611条1項)。ここに、残る側が知っておくべき特則があります。611条5項は、社員が除名により退社した場合、払戻しの計算の基準となる「退社の時」を「除名の訴えを提起した時」と読み替えています。
通常の脱退では、払戻額は退社の時点の法人財産の状況で計算されます。除名の場合、判決確定まで1年以上かかることがありますが、その間の法人財産の変動――たとえば相手の行為が原因で顧客が離れ、法人の財産が減ったこと――は、払戻額に反映されません。計算は提訴の日で固定されます。
611条5項により提訴時に計算基準が固定されるため、その後の財産変動との関係を整理できます。ただし、高い価値で払戻額が固定されれば残る側の支払負担が増える場合もあります。提訴後の損害賠償請求、利益分配等と重複しない計算が必要であり、早い基準日を無条件の利益と評価しません。
611条6項は、提訴の日後の法定利率による利息を付して払い戻すことを定めます。判決までの期間は一律ではありません。払戻元本と利息の資金手当てを併せて見積もります。
6 除名の副作用と、現実的な使い方
除名の訴えは、残る側にとって強力な手段ですが、副作用も小さくありません。隠さずに整理しておきます。
第一に、訴訟中も相手は社員であり、各自代表として動けることです。除名の訴えを起こしたことで相手との関係は決定的に悪化しますが、相手の権限は判決確定まで何も変わりません。相手が法人名義で顧客に解約通知を出す、預金を動かす、といった事態に備えるには、業務執行権・代表権の消滅の訴え(会社法860条)や、職務執行停止の仮処分を併せて検討する必要があります(第9講)。
訴訟中も顧客と職員への業務提供を継続する必要があります。公表する説明は必要な範囲の事実と窓口に絞り、相手の違法性を未確定のまま断定しません。訴訟期間を「1年以上」と一律に見積もらず、争点と手続の進行に応じて更新します。
第三に、前述の税理士法人の6か月ルールです。勝った翌日から、法人の存続が問題になります。
除名事由と資料がそろえば提訴を検討します。協議で解決する場合も、根拠のない除名の威嚇をせず、相手の反論、手続費用、権限の暫定整理、後任の確保を比較します。除名の申立てが必ず早期合意をもたらすわけではありません。
それでも合意に至らなければ、提訴します。その場合は、第3節で見た裁判例の水準を意識して、相手の行為が法人の財産と信用を具体的に損なっていることを、金額と時系列で示せる証拠を揃えてください。「信頼関係が壊れた」という言葉だけでは、裁判所は動きません。
残る側の視点で押さえておくこと
除名は他の社員の決議だけでは完結せず、訴えと判決の確定が必要です。859条の事由を具体的な資料で示し、事業継続性をめぐる文献の対立も踏まえて主張を整理します。提訴時の評価固定には支払負担と利息が伴い、2名税理士法人では後任確保も必要です。
【本講で引用した主な法令・裁判例】税理士法48条の14・48条の18・48条の21/社会保険労務士法25条の18・25条の25/会社法611条・641条・859条〜862条/組合等登記令/東京地裁令和元年7月3日判決(金融・商事判例1577号29頁)・東京高裁令和元年12月11日判決(同1594号28頁)/東京地裁令和3年11月29日判決(金融・商事判例1641号50頁)/山形地裁酒田支部平成3年12月17日判決(判例タイムズ783号231頁)/大審院明治42年10月13日判決(民録15輯772頁)・大審院大正12年1月20日決定(民集2巻8頁)
【補充文献】小菅成一・嘉悦大学研究論集66巻1号(2023年)63〜74頁。2名会社の除名は67〜68頁、除名基準への賛否は70〜71頁と脚注25〜29。引用先の基本書・評釈自体を直接確認した扱いにはしない。