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『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第98講】

オンライン診療を始める前に ― 対面診療との違い

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第98講 オンライン診療を始める前に― 対面診療との違い

第Ⅹ部 医療広告・美容医療・自由診療・オンライン診療

令和8年4月1日、オンライン診療が医療法に位置づけられました。映像と音声を相互に送受信して行う診療の定義が置かれ、医師等の診療上の基準、管理者の責務、実施の届出等が法令に定められています。オンライン診療指針も同年4月2日に改訂されました。法令上の義務と、指針の具体的な運用を併せて確認する必要があります。

オンライン診療は、患者の希望と医師の判断に基づいて、対面診療と適切に組み合わせて行います。初診や遠方の患者への診療が一律に禁止されるわけではありませんが、必要な情報、処方の条件、対面へ切り替える体制を満たすことが必要です。アプリを契約するだけでは、この準備は整いません。

例えば、内科クリニックの院長は、システム会社の営業から提案を受けました。「アプリを入れれば、明日からオンライン診療ができます。初診も対応可能です。全国から患者さんが来ますよ」
院長は事務長に聞きました。「保健所に何か出す必要はあるのか」
事務長は答えました。「去年までは、指針を守って、研修を受ければよかったはずです。でも、今年の4月から法律が変わったと聞きました」。

1 用語 ― 何がオンライン診療で、何がそうでないか

用語内容
オンライン診療

内容:医師-患者間で、情報通信機器を通して患者の診察・診断を行い、診断結果の伝達や処方等の診療行為をリアルタイムに行うこと。医療法2条の2は、映像と音声の送受信により相互に状態を認識しながら通話できる方法による診療と定義する。

指針の適用:全面適用

オンライン受診勧奨

内容:問診等に基づき、疑われる疾患を判断して受診すべき診療科を選択するなど、患者の状態に応じた最低限の医学的判断を伴う受診勧奨。疾患名を挙げて罹患している旨や治療方針を伝えること、一般用医薬品の具体的な使用指示、処方は、オンライン診療に当たるので、受診勧奨としては行えない。

指針の適用:処方・診療計画等を除き適用

診療前相談

内容:かかりつけの医師以外が初診からオンライン診療を行おうとする場合に、映像を用いたリアルタイムのやりとりで症状と医学的情報を確認する行為。診断・処方を含まない。

指針の適用:適用

遠隔健康医療相談

内容:一般的な医学的情報の提供や一般的な受診勧奨にとどまり、個別の状態を踏まえた診断等の医学的判断を伴わないもの。

指針の適用:適用なし

チャットで患者の状態を判断し、診断や処方を伝える行為は、名称を「相談」としても診療行為になり得ます。しかし、文字だけでは、医療法上のオンライン診療に必要なリアルタイムの映像・音声の要件を満たしません。医師法20条の無診察治療等の問題も生じます。問診票や画像の送信は、診察を補うために使います(第95講)。

2 令和8年4月の法制化で変わったこと

項目内容
法律上の定義医療法2条の2第1項にオンライン診療の定義。診療所の定義(1条の5第2項)からオンライン診療受診施設を除く整理。
法令上の診療基準医療法14条の3と医療法施行規則9条の6の2〜21等に、診療の基準と管理者の責務が定められた。法令違反には所定の是正命令等があり得る。指針の全記載が、そのまま同一の法的義務になったわけではない。
開設者の届出と管理者の措置開設者が、所属する医師等によるオンライン診療の実施の有無を届け出る。管理者は、実施する医師等に必要な知識・技能を習得させる措置を講じる。届出者と研修等の管理責任を混同しない。
オンライン診療受診施設設置者が業として、オンライン診療を行う医師の勤務する医療機関に対し、患者がオンライン診療を受ける場所として提供する施設(2条の2第2項)。診療所より簡素な要件・手続(設置後10日以内の届出制)で、公民館や郵便局等を活用して設置できる。立入検査の対象(第89講)。
急変時の体制患者が速やかにアクセスできる医療機関で対面診療を受けられる体制を整える。自院で対応できない場合の連携や、かかりつけ以外の医師が診療前相談を経て初診を行う場合の地域連携等、患者と診療内容に応じた具体的な準備が必要。

この届出は「管理者が開始前に許可を取る」制度ではありません。病院・診療所の開設者が、開設や届出事項の変更から原則10日以内に届け出ます。令和8年4月1日時点で既に実施している医療機関には、令和9年3月31日まで変更届を要しない経過措置があります。実際の様式・提出先は所在地の自治体で確認してください。研修、安全管理、患者対応の準備は、届出期限や経過措置とは別に実施前から整えます。

3 最低限遵守する事項 ― 対面診療との違い

合意と説明

医師側の都合だけでオンライン診療に切り替えてはいけません。触診等ができず得られる情報に限りがあること、対面診療が必要となる場合があること、実施のたびに医師が適否を判断すること、診療計画の内容を説明します。そのうえで、患者がオンライン診療を希望することを明示的に確認し、合意を記録します。

初診 ― かかりつけの医師が原則

初診からのオンライン診療は、原則として「かかりつけの医師」(日頃より直接の対面診療を重ねている等、患者と直接的な関係が既に存在する医師)が行います。例外は二つです。①既往歴・服薬歴・アレルギー歴等の医学的情報を過去の診療録、診療情報提供書、健診結果、お薬手帳、PHR等から把握でき、症状と合わせて医師が可能と判断した場合(事前に得た情報を診療録に記載する)。②かかりつけの医師以外が診療前相談を行ったうえで実施する場合。②は、かかりつけの医師がオンライン診療をしていない、患者にかかりつけの医師がいない、専門医療機関への紹介やセカンドオピニオン、といった場面が想定されており、実施後に確実に対面診療につなげられる体制(患者の所在地の医療機関との連携、対面受診が必要な場合の連絡・情報提供)が求められます。

日本医学会連合の「オンライン診療の初診に適さない症状」を踏まえて可否を判断し、適さなければ対面診療(他院の紹介を含む)を行います。急病急変患者は原則として対面です。

診療計画と保存期間

原則として、対面で十分な医学的評価を行い、オンライン診療の開始前に診療計画を定めます。初診からオンラインで実施する場合は、診察後に方針を説明し、継続診療の見込みがあれば速やかに計画を作ります。計画には、疾病・治療内容、対面診療や検査との組合せ、診療時間、通信機器、対面に切り替える条件、患者に求める協力、急変時の対応先、複数医師の分担、セキュリティ上の役割等を記載します。

診療計画の2年間の保存は、その患者のオンライン診療が完結した日から数えます。診療録と一体で作成することも可能ですが、診療録には医師法24条の5年間の保存義務があります。計画の2年という数字を理由に診療録を廃棄しないでください。指針Q&Aは、計画も診療録と合わせて5年間保存することが望ましいとしています。

本人確認

医師と患者の双方が身分確認書類で本人確認をします。初診では、原則として顔写真付きの身分証明書(マイナンバーカード、運転免許証、パスポート等)で確認します。医師の側も、なりすまし防止のため、原則として顔写真付きの身分証明書で氏名を示し、医籍登録年を伝えるなど、患者が医師資格を確認できる環境を整えます。

顔写真付きの身分証明書を持たない患者には、他の身分証明書を用いる方法等があります。書類をそろえられない事情も考慮し、指針とQ&Aに沿った代替方法で確認します。本人確認を省略することと、代替方法を使うことを区別してください。

処方 ― 初診と、対面診療を経ていない再診

医療法施行規則9条の6の13第3項は、「初診でない場合で、その症状等について対面診療を経ている場合」を除いて、次の処方を禁止しています。初診から再診までオンラインだけで行う患者にも、初診と同様の制限が続きます。単に2回目の受診になれば外れる制限ではありません。

8日分以上と特に安全管理が必要な薬の制限は、基礎疾患等の情報を把握できていない患者についての条件付きです。既往歴、服薬歴、アレルギー歴等を、過去の診療録、診療情報提供書、お薬手帳、PHR等から確認します。指針Q&A21は、初診・再診をすべてオンラインで実施した診療録は、この確認に用いる「過去の診療録」に含まれないとしています。また、新たな症状等の診察なども、指針上の初診に含まれる場合があります。

  • 麻薬および向精神薬の処方
  • 基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する、特に安全管理が必要な薬品(薬剤管理指導料の「1」の対象薬剤)の処方
  • 基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する8日分以上の処方

転売や不適正使用が疑われる場合に処方してはいけません。指針は、医学的な必要性に基づかない体重減少目的に使われ得る糖尿病治療薬等を例示しています。また、ED治療薬等を、禁忌の確認に必要な情報を得ずに処方することも不適切です。一方、十分な医学的評価ができる場合まで、オンライン問診による禁忌確認を禁止する趣旨ではありません。具体的な判断は第100講で扱います。

診察方法 ― リアルタイムの映像と音声

可能な限り多くの診療情報を得るため、リアルタイムの視覚・聴覚情報を含む手段を採ります。画像や文字は補助的に使えますが、文字、写真、録画動画のみのやりとりで完結してはなりません。同時に複数の患者を診療してはならず、医師以外の医療従事者が同席する場合は都度患者の同意を得ます。十分な情報が得られないと判断したら、速やかに中止して対面に切り替えます。

4 提供体制 ― 医師の所在・患者の所在・通信環境

項目最低限遵守する事項
医師の所在医療機関に所属し、所属と問い合わせ先を明らかにする。急病急変時に患者が速やかにアクセスできる医療機関で対面診療を行える体制。騒音や不安定な通信の場所で行わない。診療録等を参照し医療機関にいる場合と同等の情報を得られる体制。物理的に外部から隔離された空間で行う。ホームページや院内掲示で、指針を遵守してオンライン診療を実施している旨を具体的に公表する(チェックリストの公表が例示されている)。
患者の所在医療提供施設や患者の居宅等で、清潔・安全とプライバシーを確保する。療養生活を営める職場等も認められる。患者を集める施設を事業として設ける場合には、オンライン診療受診施設の届出や診療所の開設に当たるかを、施設の実態に応じて整理する。
通信環境システム事業者から説明を受け、セキュリティ対策と責任分界点を確認する。電子カルテ端末でオンライン診療システムを直接起動するなど医療情報システムに影響を及ぼす使い方をするなら、医療情報安全管理関連ガイドラインに沿った対策を併せて行う。患者にセキュリティリスクを説明し、合意を診療録に記載する。多要素認証が望ましい。汎用のビデオ通話サービスを使う場合は、医療機関側から発信し、管理者権限を患者に委譲せず、端末起動時に操作者認証を行う。録音・録画は同意なく行わない。
医師の研修オンライン診療を実施する医師は、厚生労働省が定める研修を受講しなければならない(令和2年4月以降)。

5 始める前の手順

オンライン診療を始める前に

  1. 目的を決める 誰に(既存の慢性疾患の患者か、新規か)、何を(再診の一部代替か、追加か)。指針が「適切な例」として挙げるのは、生活習慣病等の慢性疾患について対面診療の一部を代替する、または追加する使い方。
  2. 開設者の届出 所在地の自治体に、実施の届出様式と期限を確認する。既存施設の経過措置の対象かも整理する。
  3. 医師の研修 実施する医師全員が厚生労働省の研修を受講し、修了を記録する。
  4. システムの選定 事業者から、セキュリティ対策、責任分界点、医療情報システムへの影響の有無、第三者認証の有無について説明を受ける。汎用サービスを使うなら、その分の対策は医療機関の責任であることを理解する。
  5. 院内の運用文書 診療計画の様式、説明文書(オンライン診療の限界、セキュリティリスク、責任分界点)、本人確認の手順、初診の可否判断の基準、対面への切替え基準、急変時の対応先。
  6. 対面診療への移行体制 患者の所在地と診療内容に応じて、自院で対応できるか、地域の医療機関との事前合意等が必要かを判断する。初診の診療前相談を経る場合の連携体制と緊急時の相談窓口も整える。
  7. 公表 ホームページ等で、指針を遵守して実施している旨をチェックリスト等で具体的に公表する。
  8. 診療報酬 保険診療で行うなら、情報通信機器を用いた診療に係る施設基準の届出(第85講)。
  9. 広告 初診・全国対応という言葉だけで判断せず、実際の対応範囲と条件を示す。「必ずオンラインだけで完結する」と誤認させる表示を避け、対面診療が必要になる場合を説明する。

6 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 開設者の届出の要否・期限と経過措置を確認し、実施医師の研修修了を記録する
  • 患者ごとの診療計画と、診療録を含む保存期間の運用を確認する
  • 初診と対面診療を経ていない再診について、麻薬・向精神薬の禁止、情報不足時の特定薬剤・8日分以上の処方制限を点検する
  • ホームページに指針遵守の公表があるかを確認する

やってはいけないこと

  • 必要な研修や診療体制を整えずに開始し、届出期限も管理しない
  • チャットやメールだけで診断・処方する
  • かかりつけの医師でない患者に、診療前相談も医学的情報の把握もなく初診からオンライン診療を行う
  • 医療情報システムへの影響や安全対策を確認せず、電子カルテ端末で汎用のビデオ通話アプリを使用する
  • 同意なく録画する、複数の患者を同時に診る

7 よくある質問

電話だけの診療はオンライン診療ですか。
医療法上のオンライン診療は、映像と音声を相互に送受信する方法によるため、電話だけでは該当しません。コロナ禍の電話診療の時限的特例も終了しています。ただし、既に診療している患者からの電話相談や、所定の電話再診の取扱いまで一律に禁止する意味ではありません。診療内容と医師法・診療報酬上の条件を区別して確認します。
看護師が患者の側にいて、医師が遠隔で指示する形は可能ですか。
「D to P with N」と呼ばれる方法が認められています。医師が患者の同意を得て、診療計画・訪問看護指示書等に基づき、予測された範囲で、各資格法が認める診療補助を指示します。医療法施行規則9条の6の12は、同じ医療機関の看護師等のほか、指示書等を受けた訪問看護ステーション等の職員も対象としています。患者側に看護師がいるだけで、対面診療に切り替える必要がなくなるわけではありません。
職場の会議室から受診したいという患者がいます。
指針は、患者の勤務する職場等も療養生活を営むことのできる場所として認められるとしています。ただし、プライバシーが保たれ、物理的に外部から隔離される空間であることが必要です。オープンスペースやカフェは不可です。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・参考資料

  1. 医療法

    開設・管理者、医療安全、立入検査・監督、医療法人の役員資格・機関等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205

  2. 医療法施行規則

    オンライン診療の基準、開設者の届出、管理者の責務、診療計画、処方制限等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050

  3. 医師法

    4条の相対的欠格、7条の戒告・医業停止・免許取消しと手続、7条の2の再教育等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201

  4. 厚生労働省:オンライン診療のルール

    医療法上のルールと指針・Q&Aの位置づけ。

    https://www.mhlw.go.jp/stf/index_0024_00004.html

  5. 厚生労働省:オンライン診療指針(2026年4月改訂)

    初診、処方、患者の基礎疾患等の把握、オンラインと対面の組合せ。

    https://www.mhlw.go.jp/content/001685701.pdf

  6. 厚生労働省:医療法改正の施行通知(オンライン診療関係)

    2026年4月施行の制度と届出の経過措置。

    https://www.mhlw.go.jp/content/001681277.pdf

  7. 厚生労働省:美容医療に関する取扱いについて

    令和7年8月15日医政発0815第21号。無資格者、看護師、医師、管理者の責務と行政の対応。条番号等は現行法も併せて参照。

    https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001586600.pdf
  8. 厚生労働省:オンライン診療指針に関するQ&A(令和8年4月改訂)

    初診、対面移行、本人確認、ED薬の禁忌確認、再診の処方制限。特にQ18〜21。

    https://www.mhlw.go.jp/content/001686805.pdf

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