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『スポーツ・エンタメ団体紛争32講 ― 選手・団体・事務所がもめた日の教科書 ―』【第32講】

総括 ― 「強い団体」ではなく「壊れない団体」をつくる

全32講の最後に、この連載で繰り返し述べてきたことを一つの考え方にまとめます。スポーツ・エンタメの団体や事務所が目指すべきは、構成員を強い力で統制する「強い団体」ではなく、対立や不祥事が起きても手続によって解決でき、組織として存続し続ける「壊れない団体」です。

「強い団体」が壊れる理由

強いリーダーシップを持つ会長が長期にわたって団体を率い、少数の役員が意思決定を独占し、規程よりも慣行と人間関係で物事が決まる――このような「強い団体」は、平時には効率的に見えます。しかし、①リーダーへの批判が生じたときに、それを受け止める手続がない、②処分や選考が「誰が決めたか」で正当化され、「どう決めたか」を説明できない、③不祥事が起きても内部で処理され、外部への説明ができない、という脆さを抱えています。そして一度対立が表面化すると、理事会の分裂、会員の離反、補助金の停止、スポンサーの撤退、国際団体による資格停止へと連鎖し、団体そのものが機能を失うことがあります(第5講・第9講)。

「壊れない団体」の三つの条件

条件1:手続で決める。役員の選任、処分、選考、移籍の可否を、事前に定めた規程と手続に従って決め、その過程を記録する。手続の正統性が、結論への納得を支えます(第4講〜第7講、第10講)。

条件2:争いの出口を用意する。団体内の不服申立、JSAAの自動応諾条項、通報窓口、第三者委員会――対立や告発を受け止める「出口」があれば、紛争は団体を壊さずに処理できます(第22講〜第24講、第27講)。

条件3:個人の権利を尊重する。選手・実演家の移籍・独立の自由、肖像・SNSに関する権利、報酬の透明性。個人の権利を尊重する団体・事務所には、優れた人材が集まり、公取委やファンの厳しい視線にも耐えられます(第12講〜第20講)。

選手・実演家の側から

選手・実演家にとっても、この連載の要点は明確です。①契約書・規程は署名・登録の前に読み、不明な点は確認する。②記録を残す(通知、メッセージ、精算書)。③期限を意識する(JSAAは6か月、CASは原則21日、決議取消しは3か月)。④手続の瑕疵を主張する準備をする。⑤一人で抱え込まず、早い段階で専門家に相談する。

団体・事務所がいま取り組むべき三つのこと

第一に、第31講のチェックリストで規程と契約を点検する。第二に、懲罰規程・公表基準・通報制度・自動応諾条項という「争いの出口」を整える。第三に、選手・実演家との契約を、芸能指針・公取委の考え方・フリーランス法に照らして見直す。いずれも、紛争が起きる前であれば、比較的少ない負担で実施できます。

弁護士に相談すべきタイミング

この分野で弁護士が役立つのは、紛争が起きた後だけではありません。①定款・規程・懲罰規程・選挙規程の整備、②選手契約・マネジメント契約の設計と見直し、③不祥事の告発を受けた直後の初動と調査体制の構築、④処分・選考を争う(あるいは争われた)場面でのJSAA・仮処分・訴訟の選択、⑤移籍・独立の交渉と退所合意、⑥誹謗中傷への削除・開示・責任追及。とりわけ③④⑥は、最初の数日の判断がその後を大きく左右します。

実務ポイント

・目指すのは「強い団体」ではなく、手続で決め、争いの出口を持ち、個人の権利を尊重する「壊れない団体」。

・選手・実演家は、契約を読む・記録を残す・期限を意識する・手続を主張する・早く相談する。

・団体・事務所は、チェックリストでの点検、争いの出口の整備、契約の見直しの三つから始める。

作成日付:2026年9月28日

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