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『スポーツ・エンタメ団体紛争32講 ― 選手・団体・事務所がもめた日の教科書 ―』【第27講】

日本スポーツ仲裁機構(JSAA)の仲裁はどこまで使えるか

選手が競技団体の決定に不服があるとき、国内で最も利用されている専門的な紛争解決手続が、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(JSAA)のスポーツ仲裁です。2000年のシドニー五輪代表選考をめぐり日本の選手がCASに申し立てた件などを契機に、国内にもスポーツ紛争の専門機関が必要であるとの認識が広がり、JSAAは2003年に設立されました。「どの紛争に使えるか」「相手方が応じなければどうなるか」を押さえることが、利用の出発点です。

対象となる紛争

JSAAのスポーツ仲裁規則に基づく仲裁は、競技団体が競技者等に対して行った決定(代表選考、強化指定、懲戒処分、登録の拒否等)を対象とします。競技中の審判の判定そのものは、原則として対象外とされています。ドーピングに関する紛争は、別の規則(ドーピング紛争に関するスポーツ仲裁規則)で扱われます。金銭の支払をめぐる紛争など、上記以外のスポーツに関する紛争は、当事者の合意(特定仲裁合意)に基づく別の手続や、スポーツ調停の対象となり得ます。

申立期限

申立ては、競技団体の決定を知った日から6か月以内、知らなかった場合には決定がなされた日から1年以内に行う必要があります。代表選考のように時間が限られる紛争では、期限内であっても実質的に間に合うかを別途考える必要があります。

仲裁合意と「自動応諾条項」

仲裁は当事者の合意に基づく手続であるため、相手方の競技団体が仲裁に応じることが必要です。そこで重要なのが自動応諾条項です。競技団体が、自らの規程に「当団体の決定に対する不服申立は、JSAAのスポーツ仲裁規則に従って行う」といった条項を設けていれば、選手が申し立てた時点で仲裁合意が成立し、団体は仲裁に応じなければなりません。多くの中央競技団体がこの条項を採択しており、ガバナンスコードも採択を求めています。採択していない団体に対しては、個別に仲裁への応諾を求めることになりますが、応じない場合は仲裁を利用できません。

判断の基準

JSAAの仲裁パネルは、競技団体の決定について、①団体の規則に違反している場合、②規則には違反していないが著しく合理性を欠く場合、③決定に至る手続に瑕疵がある場合、④規則自体が法秩序に違反し、もしくは著しく合理性を欠く場合に、決定を取り消すことができるという基準を用いています(第24講)。団体の専門的判断を尊重しつつ、規則の遵守と手続の適正を中心に審査する枠組みです。したがって、「選考委員の評価が間違っている」という主張だけでは認められにくく、選考基準の事前公表の有無、基準の適用の一貫性、手続の公正さを具体的に主張することが重要です。

手続の特徴

①仲裁人は、スポーツ法に通じた弁護士・研究者などから選ばれる。②審理は比較的迅速で、大会が迫っている場合には緊急の手続も用意されている。③仲裁判断は確定判決と同一の効力を持ち(仲裁法45条)、原則として不服申立はできない。④仲裁判断はJSAAのウェブサイトで公開されるのが通例であり、先例として参照できる。⑤費用は訴訟に比べて低額に抑えられており、手続費用の支援制度もある。

限界

JSAAの仲裁は万能ではありません。①自動応諾条項のない団体には原則として使えない、②エンタメ分野の事務所と実演家の紛争は対象外、③損害賠償の請求には通常の仲裁(特定仲裁合意)や訴訟が必要となる場合が多い、④団体の決定を取り消しても、代わりの決定(例えば代表選手に選ぶこと)を仲裁パネルが直接行うとは限らない、といった点です。

実務ポイント

・JSAAの対象は競技団体の決定(選考・処分・登録等)。審判の判定は原則対象外。申立ては決定を知った日から6か月以内。

・自動応諾条項の採択の有無が利用可能性を左右する。まず団体の規程を確認する。

・判断基準は規則違反・著しい不合理・手続の瑕疵・規則自体の違法。選考の評価そのものより、基準と手続を争う。

作成日付:2026年9月28日

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