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『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第15講】

理事を解任したい ― 親族理事・共同経営医師との対立

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第15講 理事を解任したい― 親族理事・共同経営医師との対立

第Ⅱ部 医療法人・ガバナンス・内部紛争

医療法人の理事は、社員総会の決議によって、いつでも解任できます(医療法46条の5の2第1項)。条文だけ読めば簡単そうに見えるところが、この制度の落とし穴です。「いつでも解任できる」ことと、「代償なく解任できる」ことは、まったく違います。正当な理由なく解任された理事は、法人に対して損害賠償を請求できると法律が明記しているからです(同条2項)。

解任を検討するときは、適法な決議ができるか、法人にどのような負担が生じるか、診療と役員体制を維持できるかを確認します。解任のほか、不再任、合意退任、職務分担の見直しも比較します。

本講の社員・社員総会に関する説明は、社団医療法人を対象とします。財団医療法人では評議員会が役員を選任し、解任にも別の要件があります。

理事に名を連ねている義弟が、ここ半年、理事会に一度も出てこない。それでいて役員報酬は毎月満額。妻からは「実の弟なんだから穏便に」と言われ、事務長からは「あの人の決裁待ちで案件が止まっています」と言われる。
あるいは、共同経営してきた同期の医師。方針の対立が続き、先月は職員の前で怒鳴り合いになった。もう一緒にはやれない。

1 解任の手続 ― 決めるのは社員総会

社団医療法人の理事の解任は社員総会の決議事項です。医療法46条の3の3では、法令・定款に別段の定めがない場合、総社員の過半数の出席と、出席者の議決権の過半数による決議が基本です。この通常の議決では議長は社員として議決に加わらず、可否同数のときに決します。特別の利害関係を持つ社員も議決に加われません。議案ごとに参加資格と票数を確認してください。

解任対象者が社員でもある場合、その解任議案について特別の利害関係を持つか、議決からの除外や定足数・賛成数にどう影響するかを事前に検討します。株式会社の株主総会と同じ扱いだと決めつけず、社員名簿上の人数だけで成立を判断しないでください。

なお、監事の解任だけは要件が重くなっており、出席者の3分の2以上の賛成が必要です(46条の5の2第3項。定款でこれを上回る割合を定めることもできます)。チェック機関である監事を、多数派が普通決議で外せてしまっては困るという趣旨で、監事の独立性を法が一段強く守っている箇所です。

2 「正当な理由」がなければ、法人が賠償を払う

医療法46条の5の2第2項は、正当な理由なく解任された役員が、解任によって生じた損害の賠償を法人へ請求できると定めています。残任期の役員報酬相当額が問題となることはありますが、常にその全額が自動的に認められるわけではありません。報酬の根拠、残任期、契約内容、実際の損害等を確認します。任期は2年以内です。

解任理由は具体的な事実と証拠で整理します。資金流用、法令違反、職務の懈怠等の内容と程度、本人の説明、是正の経緯を確認してください。書面がないと主張できないわけではありませんが、立証は難しくなり得ます。欠席についても、招集の適法性、病気等の理由、職務への影響を調べ、回数だけで判断しないことが必要です。

理事と法人は委任関係にあり、理事は善管注意義務等を負います。任務違反があれば、法人から理事への賠償請求も検討できます。ただし、解任の正当な理由があることと、法人側の損害・因果関係等を立証できることは別です。反訴等を行う場合も、請求の根拠と、理事との訴訟で法人を誰が代表するかを確認します。

3 その解任で、診療は回るのか

医療法46条の5第6項本文により、医療法人は原則として各施設の管理者を理事に加えます。複数施設を開設する場合、一部を理事に加えない知事認可の例外があります。同条7項により、この管理者としての理事が管理者の職を退くと、理事の職も失います。対象者がどの根拠で理事に加わったのかを、選任資料とともに確認してください。

管理者を続けさせたまま理事だけを解任し、管理者を理事に加える法令上の要請を放置してよいわけではありません。管理者交代、理事としての地位、後任の要件、雇用関係をまとめて検討します。また、理事3人以上・監事1人以上が原則で、理事の員数には知事認可による例外があります。理事または監事の定数の5分の1を超える欠員が生じた場合は、1か月以内の補充が必要です(46条の5の3第3項)。

任期満了・辞任で必要員数を欠く場合には後任就任まで権利義務が続く制度がありますが、解任・死亡を同じように扱うことはできません。欠員時の法人業務への影響と、一時役員等の制度の適用も確認してください。

また、理事を解任しても、その人が勤務医として雇用されているなら、雇用契約は別に残ります(第12講の「四つの帽子」)。役員報酬は止まっても給与は続く、という状態を想定していない法人は少なくありません。

4 解任の前に検討すべき三つの道

解任が最も適切な場合もありますが、他の方法との比較が必要です。資金流用や安全上の問題が続いているなら、改選を待つ損害も考えます。次の選択肢について、手続、費用、事業への影響を比べてください。

選択肢向いている場面と注意点
①任期満了で再任しない改選期が近い場合の選択肢。ただし、必要員数を欠く場合の権利義務の継続や後任選任を確認する。不再任なら必ず紛争がなくなるわけではなく、危険な行為が続く場合に待つ不利益も比較する。
②辞任の合意退任時期、未払報酬、退職金、貸付金、社員としての退社と持分等、個人保証、雇用・診療の引継ぎを分けて交渉する。金銭の法的根拠と必要な決議、競業制限の合理性を確認する。合意までの期間は一律には見込めない。
③職務分掌の変更法人の機関権限と各理事の職責を踏まえ、担当業務や決裁権限を見直す。報酬減額は、規程や決議だけで当然にできるとは限らず、既に成立した報酬請求権や本人の同意の要否も別に検討する。

親族理事の退任では、将来の相続や家族関係への影響も整理します。共同経営の医師が相手なら、患者の自由な選択、職員の雇用、情報の適法な引継ぎが重要です。解任後も社員・勤務医・債権者等の地位が残り得るため、関係がすべて終わると考えず、残る権利と義務を確認してください。

5 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 社員資格と議案ごとの参加資格、定足数・決議要件、次の役員改選期を確認する
  • 問題行動の記録を、日付・事実・対応の形で残し始める(評価や感情は書かない)
  • その理事が管理者を兼ねていないか、解任後に役員の員数を割らないかを確認する
  • 役員報酬規程・退職慰労金規程の有無を確認する(交渉のときに必ず要る)

やってはいけないこと

  • 「いつでも解任できる」を「代償なく解任できる」と読む
  • 理由の記録がないまま、勢いで解任の議案を出す(残任期の報酬請求を招きます)
  • 役員報酬を先に一方的に止める、鍵やIDだけ先に取り上げる
  • 職員や患者に対立の中身を語る(院内が割れ、離職と風評に直結します)
  • 後任の診療体制を決めずに、管理者を兼ねる理事を外す

6 よくある質問

解任の「正当な理由」とは、具体的にどの程度のものですか。
法人の資金の私的流用、法令違反、長期の職務放棄のように、客観的な事実として示せるものが典型です。「性格が合わない」「経営方針が違う」だけでは足りないと考えて準備してください。判断は事案ごとですので、記録を持って一度ご相談いただくのが確実です。
理事を解任すれば、その人は社員でもなくなりますか。
理事の解任だけで社員の地位が消えるわけではありません。社員として残る場合は、議案ごとの参加資格に従って議決権を行使します。持分あり法人の持分や、勤務医としての雇用も別に確認します(第12講)。
役員報酬を下げる方法で退任を促すのはどうでしょうか。
役員報酬について既に具体的な請求権が成立している場合は、規程変更や決議だけで本人の同意なく減額できるとは限りません。報酬の決定経緯・契約・任期を確認してください。勤務医としての賃金は労働法上の問題もあります。退任を迫るために先に支払いを止めず、権限の見直しと報酬の変更を分けて検討します。
解任の決議をしたのに、本人が「登記も届出も認めない」と言っています。
理事の変更は行政への届出が必要ですが、代表権のない理事の氏名は通常、法人登記の対象ではありません。理事長も交代するなら代表者の変更登記が別に必要です。本人の同意がないことと決議が無効であることは同じではありませんが、必要な証明書類をそろえ、決議の有効性が争われる場合は手続・証拠と暫定的な対応を検討します。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・公的資料

  1. 医療法

    社員総会、役員、管理者、医療事故調査、開設・承継に関する規定。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205

  2. 厚生労働省:社団医療法人定款例

    社員の入退社、社員総会の議長・決議、役員等に関する定款例。

    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000205243.pdf

  3. 厚生労働省:医療法人運営管理指導要綱

    医療法人の機関運営、資産・会計・人事等の指導事項。

    https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000548754.pdf

  4. e-Gov法令検索:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律

    医療法により準用される理事会の決議等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000048

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