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『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第17講】

知らない間に社員が入れ替わっていた ― 社員名簿と入退社の紛争

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第17講 知らない間に社員が入れ替わっていた― 社員名簿と入退社の紛争

第Ⅱ部 医療法人・ガバナンス・内部紛争

社団医療法人の社員は、原則として1人1個の議決権を持ちます。誰が社員か分からなければ、定足数や決議の成立を判断できません。名簿が古い、入社の承認記録がない、退社届の作成経緯が不明といった問題は、平時から整理しておく必要があります。社員の人数だけでなく、議長や特別利害関係による議決参加の制限も確認します。

本講の社員・社員総会に関する説明は、社団医療法人を対象とします。財団医療法人の評議員会とは制度が異なります。

相続の話し合いの席で、亡くなった父の顧問だった税理士が持ってきた社員名簿に、見たことのない名前が二つ載っていました。父の古い友人と、その息子。母は「聞いたこともない」と言い、名簿の作成日は5年前になっています。
社員5人のうち家族が3人なら、頭数では過半数です。ただし、議長の扱い、特別利害関係及び定款の決議要件も含めて、実際の議決権を確認する必要があります。相続の話は、いつのまにか法人の支配の話に変わっていました。

1 社員資格のルールは定款にある

医療法は社員の資格取得・喪失について細かい定めを置かず、その多くを各法人の定款に委ねています。厚生労働省の定款例をもとにした一般的な内容は、おおよそ次のとおりです。

  • 社員になろうとする者は、社員総会の承認を得て入社する。
  • 社員は、やむを得ない理由があるときは退社できる(定款の定めによる)。
  • 死亡によって社員資格を失う。
  • 社員としての義務を果たさない者などについて、社員総会の議決により除名できる。

運営管理指導要綱は、入社と除名を社員総会の議決事項としています。ただし、死亡など、資格喪失のたびに総会決議が必要とは限りません。設立時の社員は設立資料、その後の入社は本人の意思と定款所定の承認、退社・死亡・除名はそれぞれの事由と手続により確認します。名簿の書換えだけで資格を作ったり消したりすることはできません。

行政の指導では、法人の意思決定に実際に参加できない人を名目的に社員へ選任することは適当でないとされています。一方、「名前を借りただけだった」と後から言うだけで、社員資格が否定されるわけでもありません。本人の入社意思、承認手続、その後の参加状況を調べます。

2 社員名簿は「備え置く」だけでなく「直す」もの

社団医療法人には、社員名簿を備え置き、社員の変更があるごとに更新する義務があります(医療法46条の3の2第1項)。設立時の名簿を使い続けたり、決算のたびに根拠資料と照合せず作り直したりすると、実際の資格と記載がずれるおそれがあります。

名簿と実態がずれると、入社承認の有無や退社意思について争いが生じます。名簿は重要な証拠ですが、記載だけで資格が確定するわけではありません。反対に、議事録が見つからないことだけで、承認決議が存在しなかったとも断定できません。

入社申込・同意の資料、承認を要する場合の議事録、退社届や死亡等を示す資料、更新した社員名簿を対応させて保存します。設立時の社員は設立関係書類も確認してください。年1回の定期点検は有用ですが、変更の都度の更新が必要です。書類の存在だけで手続の有効性が保証されるものではありません。

3 起きがちな三つの争い

類型実際に何が起きるか
知らない間に増えていた対立を見越した側が、自派の親族・知人を入社させて頭数を作る。争点は入社承認決議の有無と、その総会の招集手続。決議が無効・不存在なら、その社員の議決権行使を前提とした後続の決議も揺らぐ。
知らない間に減っていた本人の知らないうちに「退社した」ことにされている、あるいは長年出席していないことをもって退社扱いされている。定款所定の事由がないのに社員資格を失うことはなく、退社届の作成経緯(本人の意思、日付)が焦点になる。
相続の場面で表面化する理事長が社員を兼ね、死亡により資格を失う定款であれば、社員数も減る。後継者が相続だけで当然に社員になるわけではなく、入社手続が必要。他方、持分や死亡に伴う払戻請求権等の財産権は、定款と発生原因に応じて相続を検討する(第18講)。

相続対策では、持分や税金とともに後継者の社員資格を確認します。死亡後に入社を進められる場合もありますが、承認を得られる保証はありません。生前から本人の意思、資格、必要な決議を整え、後継者が実際に意思決定へ参加できる体制を準備してください(第121・122講)。

4 除名という手段について

除名は、定款所定の事由と手続を満たすか、具体的な事実と証拠を踏まえて検討します。単に経営方針が違うことや賛成票が集まることだけで有効になるわけではありません。持分あり法人では、相手が持分を有するか、資格喪失により払戻請求権が発生する定款かも合わせて確認します。

除名では、議題の通知、弁明の機会、定足数と決議要件を確認します。医療法46条の3の3第6項は、決議に特別の利害関係を有する社員の議決参加を禁止しています。対象者の参加資格を定款だけで判断せず、法令と具体的な議案に照らして検討してください。

5 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 社員名簿の全員について、設立資料または入社意思・承認等の資料で、資格取得の根拠を確認する
  • 過去の入退社について、承認議事録・本人の書面がそろっているかを点検する
  • 定款の社員資格・入社・退社・除名の条項を読み直す
  • 後継者を社員にする時期を、承継計画の中に書き込む

やってはいけないこと

  • 名簿だけを書き換え、資格取得・喪失の事由や必要な手続を確認しない
  • 実際に意思決定へ参加する意思や体制を確認せず、人数合わせで社員を入れる
  • 「もう何年も関わっていないから社員ではないはず」と思い込む(定款の事由がなければ資格は残ります)
  • 相続の準備で持分の話だけ進め、社員の椅子の引継ぎを忘れる

6 よくある質問

父が亡くなりました。息子の私は自動的に社員になれますか。
相続だけで当然に社員になるわけではありません。定款に従った入社手続が必要です。定款例では社員総会の承認を要しますが、既存社員全員の同意が常に必要という意味ではありません。生前の準備は有用で、死亡後も承認の可否や手続を検討します。
名簿に載っている古い知人と連絡が取れません。社員から外せますか。
定款の定めによります。連絡が取れないことだけを理由に資格を失わせる仕組みは通常なく、退社の意思を確認するか、定款の除名事由に当たるかを検討することになります。放置すると、承継や重要な決議のたびに定足数の問題が生じます。
社員総会の議事録が過去10年分ありません。今から作れますか。
開催していない総会の議事録を後から作成してはいけません。一方、実際に開催したものの記録が欠けている場合は、通知、出欠、メール等で事実を調べ、復元できる範囲を検討します。開催日と現在の作成日を分け、不明点を作り足さず、当時作成したように装わないことが必要です。過去の決議の効力と今後必要な手続は別に確認してください。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・公的資料

  1. 医療法

    社員総会、役員、管理者、医療事故調査、開設・承継に関する規定。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205

  2. 厚生労働省:社団医療法人定款例

    社員の入退社、社員総会の議長・決議、役員等に関する定款例。

    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000205243.pdf

  3. 厚生労働省:医療法人運営管理指導要綱

    医療法人の機関運営、資産・会計・人事等の指導事項。

    https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000548754.pdf

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