ホーム ─ 連載コラム ─ 病院・クリニック経営150講 ─ 第22講

『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第22講】

医師を狙う悪質な開業コンサル ― 典型的な囲い込みパターン

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第22講 医師を狙う悪質な開業コンサル― 典型的な囲い込みパターン

第Ⅲ部 不動産・開業コンサル・取引業者

一体型の開業支援では、物件、内装、機器、事務業務、資金の契約が重なります。署名した契約書だけを見ていると、別の取引で生じる負担を見落とすおそれがあります。口頭やメールで契約が成立する場合もあるため、署名の有無だけでは判断できません。

確認するのは、契約の成立、支払額の決め方、誰に発注権限があるか、解約したときの負担です。まだ決まっていない条件は明確にし、既存の義務と新たな提案を分けて検討しましょう。

例えば、次のような場面を考えてみてください。
契約書にサインしたのは2本だけでした。区画を借りる賃貸借と、事務長業務を任せる業務委託。
ところが開業準備が進むにつれ、身に覚えのない負担が積み上がっていきます。内装費は「内装賃料」という名目で毎月払うことになっている。医療機器は支援会社が買って、上乗せした金額でリースされるという。運転資金が足りなければ貸してくれるらしい。
どれも契約書は交わしていません。それなのに、機器はすでに発注済みだと言われました。

1 五つの契約でできている

一体型の開業支援では、例えば次の五つの取引を確認します。事業者によって組合せは異なり、五つすべてがあるとは限りません。

取引確認する条件
① 建物賃貸借普通借家・定期借家の別、賃料、期間、解約条件
② 業務委託業務範囲、報酬、発注権限、更新・終了
③ 内装・設備工事や賃貸の当事者、仕様、負担額、追加費用
④ 医療機器リース支払総額、期間、所有者、中途解約・満了時の扱い
⑤ 運転資金の借入れ金利、返済、担保・保証、貸付けの条件
図1 一体型開業支援で整理する五つの取引。署名の有無だけでなく、口頭・メール等の合意と支払条件を確認します。

2金額が不明な請求 ― 合意と算定根拠を確かめる

賃料やリース料は重要な条件ですが、具体的な金額が書面にないだけで、契約が未成立になるとは限りません。口頭・メール・行動による合意や、金額の算定方法、取引の経緯も確認します(民法522条)。

契約書が「内装・設備の賃料は別紙による」としているのに、その別紙が見当たらない場合があります。まず、別紙を交付されたか、他の資料で条件が決まっているか、別途の合意を成立の条件にしたかを確認してください。別紙がないことと、一切の合意がないことは同じではありません。

相手が後から通知した金額が、当然に合意済みの報酬になるわけではありません。別紙がない場合は、報酬の決定方法、過去の説明、依頼した業務及び履行状況を確認して請求の根拠を問い、必要に応じて相当額を協議します。

機器の発注について「大丈夫です」と返信すると、文脈によっては発注や費用負担の承諾と評価されます。金額が示されていなかったことだけで、支払義務を否定できるわけではありません。返信がない場合も、それ以前の委託や取引経緯を確認します。誰が誰の名で発注したか、購入・リース・調達代行のどれなのかを整理してください。

委任・準委任の費用償還(民法650条・656条)や、商人が営業の範囲内で他人のために行為した場合の相当報酬(商法512条)が問題になることもあります。契約交渉を打ち切った経緯によっては、損害賠償の主張もあり得ます。請求額をそのまま認める必要はありませんが、「署名していないから無償」とも決めつけないでください。

3 「後出し」には順番がある

条件が後から示されると、準備が進むほど判断の自由が狭くなります。次は、そのリスクを整理するための例です。すべての支援会社がこの順序で進めるという意味ではありません。

段階何が起きるか
①関係づくり紹介会社経由で支援会社と出会う。物件を見て、図面を引き、機器を選ぶ。数か月かけて、時間と気持ちが投じられていく。
②契約賃貸借と業務委託にサイン。費用の全体像は事業計画書の月額1行だけで、内装の見積りも内訳も出ていない。
③発注の進行金額の提示なしに「発注してよいか」と聞かれ、承諾が積み上がる。求人が始まり、内定が出る。行政手続の日程も動く。
④変更の負担が増える勤務先に退職を申し出る。収入や予定が動き、計画を変更する負担が増す。
⑤条件の開示ここで初めて、リースの上乗せ率、期間後も支払が続くこと、転リースの可能性、内装の総額が示される。見積りの内訳は「当社と施工会社の契約だから」と開示されない。

重要なのは、条件の提示と承諾の前後関係です。条件を知らないまま退職・発注等を進めた事情は、説明義務違反を検討する資料になり得ます。ただし、説明義務、違反、損害との因果関係などの要件を満たす必要があり、順序だけで責任が決まるわけではありません(第21講)。

4 契約書には、有利な条項が隠れていることもある

不利な条項を探す目で契約書を読むと、見落とすものがあります。実務では、次のような条項が先生を助けることがあります。

責任財産を限定する条項。特定の資産だけを請求の引当てとする合意があれば、その適用範囲を検討します。ただし、個人開業では「クリニックの資産」と個人資産の区別が曖昧になりやすく、対象財産・債権・当事者を特定する必要があります。債務自体が消えるわけではなく、別の債権者や保証人に当然に同じ制限が及ぶわけでもありません。

他の契約を連動して解約できる条項。一つの契約が終わると他の契約も解約できる場合は、対象となる契約、通知期限、違約金や精算金を確認します。相手方が別会社なら、その会社との契約にも根拠が必要です。「業務委託は1年だから、すべて1年で無償解約できる」とは限りません。

いずれも、契約書を最後まで読まなければ見つかりません。不利な条項を探すためだけでなく、使える条項を探すために読む。これは、すでに契約してしまった先生にとって、いちばん現実的な出発点です。

5 やめる場合、いくらかかるのか

開業計画を中止する場合は、契約ごとに終了できる条件と費用を確認します。予約段階の取消料や、賃貸借開始後の残期間の賃料相当額などを定めている場合もあります。支払済み金額の返還と、追加の支払義務は分けて整理してください。

違約金は、まず条項の適用条件と計算方法を確認します。損害賠償額の予定であれば、実損より高いというだけで当然に減額されるものではありません(民法420条)。著しく過大な条項が公序良俗違反等として制限される場合はありますが、一律に「賃料何か月分まで有効」という基準はありません。事業目的の契約では消費者契約法を当然には使えない点にも注意が必要です。

交渉では、支払済み金額と返還条件、発注の取消し可能性、物品の転用・転売、次の入居者の見込みを整理します。損失を抑える方法があれば精算の協議に役立ちますが、違約金が自動的に消えるわけではありません。また、未払いの方が有利だとして、支払期限が来た既存債務を放置してはいけません。

6 おかしいと気づいたときの五つの行動

違和感があれば、新しい約束を増やす前に資料をそろえます。次の五つを意識してください。

保存版 違和感を持ってから相談するまでの五原則

  1. 新たな発注には、価格・仕様・解約条件を確認してから回答する。検討中なら「確認中であり、発注はまだ承諾していません」と明確に伝える。すでにした承諾の効力は別に確認する。
  2. 不明な新規支払いや立替えは、根拠を確認してから判断する。既存の契約で支払義務があり期限が来ている金額まで、一律に支払停止しない。争いのある請求は早めに相談する。
  3. 採用と開業準備の工程を見直す。先行きが不明なまま新たな内定を出さず、応募者にも予定の変更を適切に伝える。すでにした内定の取消しは別の法的問題になるため、慎重に対応する。
  4. やり取りを保存する。メッセージ、メール、録音、見積書を、都合の悪い内容も含めて残す。証拠を改変せず、日時や前後関係が分かる形で整理する。
  5. 面談の説明を記録する。議事メモを相手にも確認し、録音する場合はプライバシーや秘密情報の取扱いに配慮する。無断で他人の端末・アカウントへアクセスせず、記録を不用意に公開しない。

退職の申出についても、費用の上限、未確定事項、延期時の収入と支出を整理したうえで判断してください(第21講)。

7 よくある質問

もう契約書にサインしています。手遅れですか。
署名済みの契約と、その後の口頭・メール等による合意をまとめて確認します。成立済みの義務は無視できませんが、未合意の条件の交渉や、請求の根拠・計算方法を争う余地はあります。解除や取消しが可能かも含め、契約書一式と記録をそろえて相談してください。
すでに機器が発注されてしまいました。支払うしかないのでしょうか。
発注者、代理権・調達委託の有無、価格や算定方法についての合意によります。「大丈夫です」という返信も承諾と評価され得ます。発注書・見積書・メールを確認し、取消しや転用が可能かを調べます。金額を明示されていなかったという一点だけでは判断できません。
途中でおかしいと気づいたのに、断れませんでした。私が悪いのでしょうか。
診療と並行して専門外の契約を判断するのは負担が大きいものです。まず契約書とやり取りを集め、過去に何を承諾したか、今後どの費用が生じるかを整理しましょう。自分を責めるだけでは、解決にはつながりません。
交渉が長引いています。待てば有利になりますか。
時間が経つほど有利になるとは限りません。退職日、工事・機器の発注期限、資金残高、解約の通知期限を並べ、回答期限を設けて協議します。急いで解約すると損害が増える場合もあるため、継続・変更・終了を比較して判断してください。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・公的資料

  1. 民法

    契約、委任、責任、相続・財産分与。768条の改正を含む。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

  2. e-Gov法令検索:消費者契約法

    2条。事業目的の契約と消費者の定義。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061
  3. e-Gov法令検索:商法

    512条。商人の報酬請求権。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/132AC0000000048

病院・クリニック経営150講 目次へ戻る