ホーム ─ 連載コラム ─ 病院・クリニック経営150講 ─ 第29講

『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第29講】

開業コンサルが人材まで連れてくる ― 職業紹介・派遣・支配の境界

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第29講 開業コンサルが人材まで連れてくる― 紹介・派遣と採用の主導権

第Ⅲ部 不動産・開業コンサル・取引業者

開業支援会社による採用支援は、募集や日程調整の負担を減らす助けになります。ただし、紹介・派遣・募集代行では、必要な許可や届出、医療機関との関係が異なります。どの業務を委ねるのかを先に整理してください。

医療には派遣できる業務・場所に固有の制限もあります。外部の力を使いながら、採用判断、労働条件、職員情報の管理は医療機関が責任を持って行うことが大切です。

例えば、次のような場面を考えてみてください。「採用もお任せください。看護師も受付も、こちらで手配します」
面接の日程を組んだのも、履歴書を集めたのも、当日同席したのも支援会社の担当者でした。院長は提示された候補者の中から選ぶだけ。
半年後、その看護師が辞めました。理由を聞くと「紹介会社の方から、もっと条件の良いところがあると連絡がありまして」。
そして、また同じ紹介会社から請求書が届きます。次の看護師の紹介手数料として。

1職業紹介・派遣・募集代行を区別する

求人と求職の申込みを受け、雇用関係の成立をあっせんする有料職業紹介事業には、厚生労働大臣の許可が必要です(職業安定法4条・30条)。候補者の選定や連絡調整にどこまで関与するかなど、実態に即して判断します。「開業コンサル料に含まれる」「採用事務の代行」という名称だけで規制を外せるわけではありません。

紹介事業者名と許可番号を確認し、人材サービス総合サイトの情報と照合してください。有料職業紹介の番号は「13-ユ-○○○○○○」などの形式です。表示があるだけでなく、契約相手と許可を受けた事業者が一致するか、現在の許可の状況を確認します。

提携する紹介会社を取り次ぐ場合は、実際に紹介する会社、契約相手、手数料の支払先、支援会社の役割を明確にします。候補者の情報を誰に渡すかも確認してください。

単なる求人情報の提供、職業紹介、労働者派遣、委託募集は別の制度です。無料紹介にも原則として許可が必要で、学校等には例外があります。外部への有償の委託募集には原則として許可、無償の委託募集には届出の制度があります(職業安定法33条・36条等)。採用代行の契約は、実際の業務を労働局に説明して必要な手続を確認します。

2医療関係業務の派遣は、業務・場所・例外を確認する

職業紹介では、紹介された人を医療機関が直接雇用します。労働者派遣では、派遣会社が雇用し、医療機関の指揮命令で働きます。この違いが出発点です。

病院・診療所等における医師・看護師等の一定の医療関係業務は、原則として労働者派遣が禁止されています(労働者派遣法4条、同法施行令2条)。資格の名前だけでなく、実際にする業務と就業場所で判断します。病院のあらゆる業務が禁止されるわけではありません。

紹介予定派遣や、産前産後休業・育児休業・介護休業等の代替には例外があります。へき地についても例外がありますが、対象となる職種・業務が限られます。例えば看護師・准看護師の業務は対象となり得ますが、へき地ならすべての医療職を派遣できるわけではありません。医師には地域医療確保のための別の例外もあります。所在地・業務・派遣理由ごとに、労働局等で要件を確認してください。

禁止業務への派遣は、派遣元だけの問題ではありません。派遣先にも従事させてはならない義務があり(4条3項)、違法な受入れでは労働契約申込みみなし制度が問題になります(40条の6。違法であることを知らず、かつ無過失の場合等を除く)。受付・医事事務など規制対象外の業務でも、派遣事業の許可や受入れのルールは必要です。「業務委託」という名目でも、指揮命令の実態によって派遣に当たる場合があります。

3 紹介会社との付き合い方 ― 近年整備された三つのルール

人材紹介の分野は、この数年でルールが整備されました。医療機関にとって実益のあるものを三つ挙げます。

お祝い金等による勧誘の規制。職業紹介事業者が、求職申込みの勧誘のため、社会通念上相当な程度を超えて金銭等を提供することは禁止されています。名称だけでなく、金額、目的、提供条件を確認します。すべての少額の記念品等を一律に禁止するという意味ではありません。

転職勧奨の禁止。自らの紹介で無期雇用に就いた人には、就職日から2年間、転職を勧めてはいけません。2025年1月1日以降の許可・更新では、お祝い金等の規制とともに許可条件へ追加されています。職員本人の転職の自由を制限する制度ではなく、同じ会社を通じて転職した事実だけで、違反があるとは断定できません。

手数料実績と違約金規約。2025年4月から、有料職業紹介事業者には取扱職種ごとの平均手数料率等の公開が求められています。対象職種や実績件数による掲載省略もあり、すべての取引の価格が分かる制度ではありません。また、違約金の規約がある場合は、求人申込みの際に、金額、発生条件、解除方法を含む契約内容を分かりやすく明示する必要があります。

早期退職時の返戻金は、対象期間、返戻率、除外事由、請求期限を確認します。早く辞めたから当然に全額が返るわけではありません。返戻制度の有無と内容を把握し、採用条件とともに比較してください。

4 採用を丸投げすることの代償

規制の話とは別に、実務として申し上げたいことがあります。

誰を雇い、どの条件で働いてもらうかは、医療機関の判断です。募集や面接調整を委託する場合も、選考基準と最終承認の担当者を決め、候補者の資格・経験と自院の体制への適合を確認します。

労働条件の説明を外部担当者に任せる場合は、その権限と説明内容を確認します。雇用主は個人開業なら開設者、法人ならその法人です。法定の労働条件明示を行う責任は使用者にあり、院長がすべて自分で説明する必要はありませんが、無権限の約束や説明の食い違いを防ぐ管理が必要です。労働条件通知書等を医療機関側でも確認し、本人へ適切に交付してください。

求人原稿は掲載前に確認します。募集主体、業務・就業場所とその変更範囲、賃金、契約期間、連絡先等を正確に示してください。履歴書等へのアクセス権限、支援会社からの返却・削除、他社への提供条件も決めておきます。

内定を出す前に、開業時期、費用の上限、未確定事項、延期時の対応を整理します。内定で労働契約が成立する場合があり、開業計画を変えたから自由に取り消せるわけではありません。すべての準備が確定するまで待つという意味ではなく、採用時期と工程を調整し、候補者にも必要な説明をしてください。

5 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 紹介・派遣・募集代行のどの業務かを区別し、必要な許可・届出と契約相手を確認する
  • 手数料率、早期退職時の返戻金、違約金の定めを、複数社で比較する
  • 「派遣で手配します」と言われたら、どの例外に当たるのかを確認する
  • 求人原稿を掲載前に自分で確認する(特に問い合わせ先)
  • 雇用主、提示する労働条件、説明担当者の権限を明確にし、法定の明示を行う

やってはいけないこと

  • 許可の有無を確認しないまま、紹介の話を進める
  • 面接から条件提示まで、すべてを支援会社に任せる
  • 開業の見通しや延期時の対応を整理せず、内定を出す
  • 紹介手数料を「相場だから」と比較せずに受け入れる

6 よくある質問

紹介してもらった看護師が、同じ紹介会社経由で他院に移りました。
自ら紹介して無期雇用に就いた人への2年間の転職勧奨は禁止されています。ただし、本人が自発的に相談した場合などは、転職の事実だけでは違反を判断できません。連絡日時と勧誘内容を、本人のプライバシーにも配慮して確認し、紹介会社や労働局に相談します。違反の有無と、手数料返還・賠償が認められるかは別の問題です。
看護師を派遣で確保したいのですが。
看護業務は原則禁止ですが、紹介予定派遣、所定の休業代替、へき地等の例外があります。職種・業務・場所・理由によって範囲が異なるので、自院の条件を労働局等へ具体的に確認してください。受付等の事務への派遣と区別し、事務として受け入れた人に医療行為をさせないことも必要です。
紹介手数料が高いと感じます。交渉できますか。
適用される手数料表と契約条件を確認し、複数社へ見積りを求めて協議できます。公開される平均手数料率は比較資料ですが、法定の相場や上限を示すものではありません。予定年収の算定、返戻金、違約金、追加費用を含む負担で比べてください。
支援会社が社労士や税理士も連れてきました。そのまま頼んでよいでしょうか。
資格・経験・業務範囲とともに、誰から依頼を受け、どの立場で助言するかを確認します。紹介されたことだけで独立性がないとはいえませんが、支援会社との契約を検証する際は、利益相反の有無を確認し、必要なら別の専門家にも相談してください。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・参考資料

  1. e-Gov法令検索:職業安定法

    職業紹介の定義、許可、委託募集等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000141
  2. e-Gov法令検索:労働者派遣法

    4条・40条の6等。禁止業務、派遣先の義務等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/360AC0000000088
  3. e-Gov法令検索:労働者派遣法施行令

    2条。医療関係業務の制限と例外。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/361CO0000000095
  4. 厚生労働省:職業紹介事業の許可条件の追加

    2025年1月から。転職勧奨、お祝い金等の規制。

    https://www.mhlw.go.jp/content/001327688.pdf
  5. 厚生労働省:職業紹介事業者・募集情報等提供事業者のルール改正

    2025年4月から。手数料実績の公開、違約金規約の明示等。

    https://www.mhlw.go.jp/content/001328410.pdf

病院・クリニック経営150講 目次へ戻る