広告のご相談を受けるとき、多くの経営者は「使ってはいけない言葉のリスト」を求められます。しかし、広告規制の本当の怖さは、禁止語句にあるのではありません。「言ったことを証明できないこと」にあります。景品表示法では、「効果がある」「業界No.1」などの表示について、その裏付けとなる合理的な根拠や調査の客観性が問われます。また、「今だけ半額」などの価格表示では、比較対照価格の実態が問題になります。奇抜な表現でなくても、根拠と表示が対応していなければ規制対象となり得ます。
広告規制は「4つの構造」で理解する
広告に関わる法律は多数ありますが、実務上は次の4つに整理すると見通しがよくなります。
第一は、すべての商品・サービスに横断的にかかる規制です。中心は景品表示法で、実際より著しく優良と誤認させる「優良誤認表示」(同法5条1号)、取引条件について著しく有利と誤認させる「有利誤認表示」(同条2号)、そして内閣総理大臣が指定する表示(同条3号。おとり広告、ステルスマーケティング等)を禁止します。通信販売であれば特定商取引法12条(誇大広告等の禁止)も重なります。
第二は、商品カテゴリーごとの縦割り規制です。医薬品・化粧品・医療機器には薬機法66条〜68条、健康食品には健康増進法65条、医療機関の広告には医療法6条の5、金融商品には金融商品取引法、不動産には宅地建物取引業法・不動産の表示に関する公正競争規約が、それぞれ上乗せされます。
第三は、広告の「手法」に着目した規制です。ステルスマーケティング告示(景品表示法5条3号に基づく令和5年内閣府告示第19号)、特定電子メール法、著作権法・商標法・不正競争防止法(他社との比較や他人のコンテンツ利用)がここに入ります。
第四は、民事上の責任です。行政処分がなくとも、消費者契約法4条(不実告知等による取消し)、民法709条の不法行為、そして競合他社からの不正競争防止法2条1項20号(品質等誤認表示)に基づく差止・損害賠償請求が起こり得ます。
「言えるか」ではなく「証明できるか」
景品表示法7条2項は、消費者庁が事業者に対し表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求め、提出がなければ優良誤認表示とみなすという仕組み(不実証広告規制)を置いています。提出期限は原則15日。この短期間に、表示と対応する客観的資料を揃えられるかどうかが勝負を分けます(第10講)。
違反したときに失うもの
措置命令(景品表示法7条)は消費者庁のウェブサイトで社名入りで公表され、報道されます。課徴金(同法8条)は対象商品の売上額の3%、令和6年10月以降は一定の再違反で4.5%です。さらに令和6年10月からは、優良誤認・有利誤認表示に対する100万円以下の罰金という直罰規定(同法48条)も施行されました。加えて、返金対応、広告差替え、ECモールのアカウント停止、取引先からの契約解除といった事実上の損失が、行政処分の金額をはるかに上回ることが少なくありません。
この連載で扱うこと
第Ⅰ部で規制の地図と「広告」の範囲を確認し、第Ⅱ部で景品表示法の主要論点(No.1表示、二重価格、比較広告、ステマ、打消し表示、不実証広告)、第Ⅲ部で薬機法・健康食品・美容医療の縦割り規制、第Ⅳ部で消費者庁から連絡が来た後の行政対応、第Ⅴ部で社内の広告審査体制の作り方を扱います。
実務ポイント
・広告規制の本体は「禁止語句」ではなく「根拠の有無」。掲載前に根拠資料のファイルを作る。
・横断規制(景品表示法)と縦割り規制(薬機法・健康増進法・医療法)は重畳的に適用される。どちらか一方だけの確認では足りない。
・違反の本当のコストは課徴金額ではなく、公表・返金・取引停止の連鎖にある。
作成日付:2026年9月11日