措置命令や課徴金を受けた広告主が次に考えるのは、「原稿を作った代理店・制作会社に損害を負担させられないか」です。第4講で見たとおり、景品表示法上の責任は広告主に集中しますが、民事上の責任分担は契約の内容と過失の有無で決まります。この講は、広告主側・代理店側の双方の視点から、責任追及の可否を整理します。
責任の法的根拠
広告主が代理店・制作会社に責任を求める法的根拠は、①契約上の債務不履行(民法415条)、②不法行為(民法709条)です。①では、契約が「法令に適合した広告を制作する」義務を含んでいたか、②では、代理店が広告の違法性を認識し得たにもかかわらず漫然と制作したかが問われます。広告制作契約の法的性質は、業務内容により請負(民法632条)又は準委任(民法656条)等となり得ます。準委任であれば、民法656条を介して委任の善管注意義務(644条)が適用されます。他方、請負について同条の善管注意義務が当然に適用されるわけではなく、具体的な契約内容、専門性、業務上求められる注意義務等に照らして債務不履行又は不法行為責任を検討することになります。
契約書に何が書かれているか
実務上、結論を最も左右するのは契約書です。広告主に有利な条項は、①「受託者は、制作物が関係法令(景品表示法、薬機法等)に適合することを保証する」、②「受託者の法令違反に起因して委託者が処分・損害を受けた場合、受託者はこれを賠償する」、③「受託者は法令適合性の確認を行い、疑義がある場合は委託者に報告する」というものです。逆に代理店側の契約書には、①「制作物の内容の法令適合性は委託者が確認・保証する」、②「委託者が原稿を承認した時点で受託者の責任は免除される」、③「受託者の損害賠償責任は受領した対価の額を上限とする」といった条項が入っています。どちらの契約書が使われたかで、出発点が決まります。
「広告主が承認した」という反論
代理店側の最有力の反論は、広告主が原稿を確認・承認して出稿したという事実です。表示内容の決定権は最終的に広告主にあり、承認した以上、責任は広告主にあるという論理です。しかし、①代理店が「この表現で問題ない」と積極的に助言していた、②広告主に法務体制がなく代理店の専門性に依存する関係だった、③代理店が根拠資料の存在を確認しないまま効果表現を提案した、といった事情があれば、承認があっても代理店の過失が認められる余地があり、少なくとも過失相殺の問題として損害が分担される可能性があります。
損害の範囲
代理店に請求し得る損害は、①課徴金相当額、②措置命令に基づく周知徹底措置の費用(新聞広告費等)、③返金措置の費用、④広告差替え・回収費用、⑤弁護士費用、⑥売上減少・信用毀損による逸失利益、が考えられます。ただし、課徴金は「違反行為者に課される行政上の金銭負担」であるため、これを他者に転嫁することの可否には議論があり、契約に明文の負担条項がなければ認められにくいと考えるべきです。逸失利益は因果関係の立証が困難です。現実的な回収対象は②〜⑤です。
予防としての契約設計
紛争になってから契約書を読むのではなく、発注時に責任分担を決めておくことが本質的な解決です。広告主側は、①法令適合性の確認義務と報告義務、②根拠資料の確認を制作プロセスに組み込むこと、③違反時の損害負担、を契約に明記します。代理店側は、①法令チェックの範囲(一次的なチェックか、最終責任か)を明確にし、②広告主からの根拠資料の提供義務と、根拠なき表現の使用を広告主が指示した場合の免責を定めます。双方にとって、「誰が根拠資料を確認するのか」を契約で決めることが、責任分担の核心です。
実務ポイント
・代理店・制作会社への責任追及は契約書の条項で出発点が決まる。「承認した」は代理店の最有力の反論。
・課徴金の転嫁は明文の条項なしには困難。現実的な回収対象は周知費用・返金費用・差替え費用。
・「誰が根拠資料を確認するか」を発注時の契約で決めることが、紛争の予防になる。
作成日付:2026年9月16日