生成AIによる広告コピー・商品説明・SNS投稿の作成は、すでに日常業務になっています。しかし、AIは「根拠のある表現」と「根拠のない表現」を区別しません。AIが生成するのは統計的に自然な文章であり、その文章が景品表示法上の根拠を持つかどうか、薬機法上許容される範囲かどうかは、AIの出力には反映されていません。この講では、AI生成コピーに固有のリスクと、その使い方を整理します。
リスク1:責任はすべて広告主にある
AIが生成したコピーであっても、それを採用して表示した事業者について景品表示法上の責任が生じ得る点は、人が作成した広告と変わりません。もっとも、薬機法66条が「何人も」を主体とするなど、法令ごとに責任主体は異なります。したがって、AIを利用したことによって各法上の責任主体が変わったり、免責されたりするものではない、という理解が正確です。「AIが作った」という事情だけで広告表示の適法性に関する責任を免れることはできません。AIツールの利用規約上も、出力の利用について利用者側に責任を負わせる定めが置かれていることが多いため、利用規約を個別に確認する必要があります。
リスク2:AIは「根拠のない事実」を自然に書く
AIは、学習データ中の広告表現のパターンをもとに文章を生成します。その結果、①「顧客満足度98%」「業界No.1」といった存在しない数値・順位、②「◯◯賞受賞」「医師監修」といった存在しない権威付け、③「臨床試験で実証」といった存在しない根拠、④「シミが消える」「免疫力アップ」といった薬機法上使用できない効能効果、が、きわめて自然な文章の中に紛れ込みます。これらは人間が書いた場合より発見しにくいという特徴があります。人間のコピーライターは「盛っている」自覚があるため注記を付けますが、AIの出力にはその自覚がありません。
リスク3:AIは表示の「態様」を設計しない
強調表示と打消し表示の関係、スマートフォンでの見え方、動画の表示時間といった「態様」の問題(第9講)は、テキスト生成の範囲外です。AIが打消し表示の文言を生成しても、それがデザイン上どこに、どの大きさで置かれるかは人間が決めます。
リスク4:著作権・商標
AI生成コピーが、既存の広告コピーや他社のキャッチフレーズと類似する可能性があります。短いキャッチコピーは著作物性が否定されることが多いものの、他社の登録商標と同一・類似の表現を商品名や見出しに用いれば商標権侵害となり得ます。また、AIが生成した画像を用いる場合、既存の著作物との類似性、実在の人物との類似性(肖像権・パブリシティ権)の確認が必要です。生成AIの出力自体に著作権が発生するかについては、人間の創作的寄与の有無によるとされており、自社コピーの他社による模倣を防ぐ観点からも、AI出力に人間が手を加えるプロセスに意味があります。
安全な使い方
(1)根拠を先に用意し、プロンプトに与える。「この商品の効果を魅力的に書いて」ではなく、「以下の試験結果(要約)と届出表示の範囲内で、以下の禁止表現を使わずに書いて」と指示します。根拠のない主張が生成される余地を、入力の段階で減らします。
(2)出力を「新人が書いた原稿」として審査する。AI出力は、チェックリスト(第22講)の全項目を通します。とくに項目1〜3(主張の分解・根拠の存在・対応)を、人間が一文ずつ行います。AIに「この原稿は景品表示法上問題ないか」と尋ねることは補助にはなりますが、AIの回答も根拠を検証していない点で、審査の代替にはなりません。
(3)数値・順位・権威・根拠に関する記述は、すべて出典を確認する。AI出力中の具体的な数字・順位・受賞歴・監修者名は、社内資料と照合し、照合できないものは削除します。
(4)商品分類別の禁止表現リストをプロンプトと審査の双方に組み込む。化粧品の56項目、46通知の医薬品的効能効果、医療広告の禁止事項を、AIへの指示文に含めると同時に、出力の審査でも確認します。
(5)生成のログを保存する。プロンプト・出力・修正履歴を残しておけば、審査プロセスの記録(第21講)として機能し、「相当の注意」の証拠にもなります。
現時点では、生成AIを用いて作成した広告であること自体を理由とする一般的・横断的な広告規制が設けられているわけではなく、AI生成物についても景品表示法、薬機法、医療法、著作権法等の既存ルールを前提に審査することが基本です。社内ルールを設ける場合には、①生成AIへの入力可否(機密情報・個人情報等)、②根拠資料の参照方法、③出力中の数値・固有名詞・受賞歴等の事実確認、④商品分類別の禁止表現チェック、⑤人による最終承認、⑥プロンプト・出力・修正履歴の保存、などを定めることが考えられます。AI生成広告に関する行政事例を紹介する場合には、AI利用の事実が公表資料で確認できるかを個別に確認すべきです。
実務ポイント
・AIを利用しても各法上の責任主体が変わったり免責されたりするものではない。AI出力は人による法令・根拠確認を経て使用する。
・存在しない数値・順位・受賞・根拠・効能効果が「自然な文章」で生成される。数値と権威付けは全件照合する。
・根拠と禁止表現をプロンプトに与え、出力は人間がチェックリストで審査し、ログを保存する。
作成日付:2026年9月16日