「1株いくらか」に唯一の正解はない
「うちの株はいくらですか」――非上場株式のご相談で必ず受ける質問ですが、答えは「目的によって違う値段が複数ある」です。同じ1株に、まったく異なる4つの「値段」が併存します。ここを誤解したまま交渉に入ると、会社側も株主側も大きく判断を誤ります。
図表:同じ株式に併存する「4つの値段」
| 値段の種類 | 典型的な水準 | 使われる場面 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| ① 額面・出資額 | 1株500円〜5万円 | 心理的な基準(法的意味はほぼ喪失) | 平成13年商法改正で額面株式は廃止 |
| ② 税務上の評価額 | 会社・株主の属性で大きく変動 | 相続税・贈与税の申告、同族間売買 | 財産評価基本通達178〜189(取引相場のない株式)、所得税基本通達59-6等 |
| ③ 会計上の簿価純資産 | 決算書から機械的に算出 | 社内的な目安、簡易な合意 | 会社の貸借対照表 |
| ④ 裁判所が決定する価格 | DCF法・時価純資産法等による「実質価値」 | 売買価格決定(会社法144条)、株式買取請求(同116条・785条等) | 「一切の事情を考慮」(会社法144条3項等) |
なぜ4つも値段があるのか
①額面は歴史的な名残にすぎません。「出資したときは1株5万円だったから5万円で買い取る」という提案は、法的にはまったく根拠がありません。
②税務評価は、課税の公平のために国税庁が定めた画一的なルール(財産評価基本通達)による評価です。特に少数株主(同族株主以外)に適用される配当還元方式は、実質価値の数分の一から数十分の一という低額になることが珍しくなく、これが後述の「価格ギャップ」紛争の温床になります。
④裁判所が非訟手続で決定する価格は、企業価値評価の専門的手法(DCF法・時価純資産法・配当還元法等)を用いて算定される「実質的な企業価値を反映した適正な価格」です。大阪高判令和6年7月12日(判タ1530号86頁)も、会社法144条の売買価格決定手続について「実質的な企業価値を反映した適正な価格(実質価格)を算定すべきもの」と整理しています。
紛争は「値段のギャップ」から生まれる
実務で紛争になるのは、会社側が②や①をベースに低い価格を提示し、株主側が④の実質価格を求める場面です。1株1万円(配当還元)対1株100万円(DCF)といった数十倍〜百倍のギャップは、決して誇張ではありません。第26講で詳述する大阪高裁令和6年判決の事案でも、指定買取人側の提示は1株約60万円、公認会計士算定の実質価格は1株356万4162円と、約6倍の開きがありました。
このギャップの存在を前提に、どの手続を選べばどの値段に近づくのか――それが本シリーズを貫くテーマです。次回は、その価格を算出する評価手法の中身に立ち入ります。