ホーム ─ 連載コラム ─ 非上場株式27講 ─ 第1講

『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第1講】

なぜ「売れない株」は争いになるのか ― 非上場株式紛争の全体地図:市場のない株式に、値段と出口をどうつけるか ―

『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第1講】

01第Ⅰ部 価格編 ― 株の値段はこう決まる第1講

なぜ「売れない株」は争いになるのか
― 非上場株式紛争の全体地図:市場のない株式に、値段と出口をどうつけるか ―

「亡くなった父の遺産に、叔父が経営する会社の株が3割ほど入っていました。配当は一度もありません。会社に買い取ってほしいと伝えると、『額面の500円で引き取る』と言われました」

「創業時に出資してくれた元役員から、株を買い取れという手紙が届きました。こちらの提示額の20倍を要求しています。放っておくと、どうなるのでしょうか」

「株式買取業者から『御社の株主から株式を買い取った』という通知が来ました。譲渡を承認しないなら会社が買い取れ、と書いてあります」

この講の結論

非上場株式が争いになる理由は、株式そのものにあります。市場がないので相場がなく、譲渡制限があるので売り先を自分で決められず、それでいて会社の価値は株式に積み上がっている。この三つが重なるために、「いくらか」と「誰に売れるか」を当事者同士で決められず、最後は会社法の手続と裁判所の判断に委ねることになります。

紛争の入口は、会社側の株主管理、相続、少数株主の換金の三つに分かれますが、出口はすべて「価格」と「手続」に収れんします。どの手続に乗るかで、同じ株式でも裁判所の決める値段が数倍から数十倍変わり得る。この構造を最初に把握しておくことが、会社側にとっても株主側にとっても、交渉と手続の起点になります。

1「非上場株式」とは何か ― 「上場していない」と「譲渡制限がある」は別のこと

国税庁の会社標本調査(令和6年度分、令和8年3月公表)によれば、日本の法人数は299万9,680社、そのうち株式会社は269万2,201社です。一方、東京証券取引所の上場会社数は、プライム・スタンダード・グロースの三市場にTOKYO PRO Marketを合わせて3,897社(2026年9月18日現在)にとどまります。株式会社の99.8%以上は、上場していない会社です。

ただし、この連載で扱う「非上場株式」は、単に取引所に上場していない株式という意味ではありません。会社法は「上場・非上場」という区分を使わず、株式の譲渡に会社の承認が必要かどうかで会社を分けています。発行する全部の株式について「譲渡による取得には会社の承認を要する」という定款の定めを置いている会社が「公開会社でない株式会社」(会社法2条5号の裏返し。実務では「非公開会社」と呼びます)であり、その承認を要する株式が「譲渡制限株式」です(同法2条17号、107条1項1号、108条1項4号)。

上場していないのに譲渡制限のない会社も存在します。その会社は会社法上は「公開会社」であり、取締役会の設置が義務づけられ、株式の発行は原則として取締役会で決められるなど、非公開会社とは規律が異なります。ご自身の会社がどちらかは、登記事項証明書(履歴事項全部証明書)の「株式の譲渡制限に関する規定」欄と定款で確認できます。中小企業の圧倒的多数はこの欄に「当会社の株式を譲渡により取得するには、株主総会(または取締役会)の承認を要する」という記載があり、本連載はこの会社の株式を中心に扱います。

譲渡の承認機関は、原則として株主総会、取締役会設置会社では取締役会ですが、定款で別の定めを置くこともできます(139条1項)。「代表取締役の承認」としている会社も少なくありません。誰が承認するかは、後の譲渡承認請求の攻防(第21講)で最初に確認する事項です。

譲渡制限は「株主を選ぶ」ための仕組み

株式は本来、自由に譲渡できる財産です(127条)。それでも譲渡制限が認められているのは、閉鎖的な会社にとって、会社にとって好ましくない者が株主として入ってくることを防ぐ利益があるからです。最高裁は、この趣旨を前提に、会社の承認を得ずにされた譲渡制限株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間では有効であると判断しています(最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁)。

この判例が意味するのは、譲渡制限は会社の「拒否権」であって、株主の「売る権利」を消すものではないということです。売りたい株主が売り先を見つけて承認を求めれば、会社は承認するか、承認しない代わりに会社自身か会社の指定する者が買い取るかを選ばなければなりません(136条以下、140条)。承認しないまま放置することは、法律上できない仕組みになっています。この「拒否できるが、拒否したら買い取る」という構造が、非上場株式紛争の背骨です。

← 表は横にスクロールできます →

項目 上場株式 譲渡制限株式(非公開会社の株式)
値段 取引所の市場価格が毎日つく 相場がない。当事者の合意か、裁判所の決定で初めて価格が決まる
売り方 証券会社を通じて即日売却できる 売り先を自分で探し、会社の承認を得る必要がある。承認されなければ会社または指定買取人が買い取る(会社法136条〜144条)
買い手 不特定多数の投資家 会社、オーナー一族、他の株主、指定買取人にほぼ限られる
情報 有価証券報告書・適時開示 計算書類の閲覧請求(442条3項)、3%以上の株主による会計帳簿の閲覧請求(433条)などの権利行使が必要
配当 配当政策が投資家に向けて公表される オーナーの判断で無配が続くことが多い。少数株主は配当を期待しにくい
相続時の評価 相続開始日の終値等 財産評価基本通達による評価。同族株主か否かで評価方法が変わる(第2講・第13講)
支配権 分散していて、個々の株主は支配権を持たない 数%の株式が、経営権の帰趨や特別決議の成否を左右することがある

図表1 上場株式と譲渡制限株式の違い

2「売れない」の中身 ― 出口は法律が決めた数本しかない

非上場株式は、正確には「売れない」のではなく、「売る相手と方法が法律で絞られている」財産です。少数株主が株式を現金に換える道は、大きく次の五つに整理できます。それぞれの詳細は第20講以下で扱いますので、ここでは地図として眺めてください。

図解A 非上場株式を現金に換える五つの出口

① 任意の売買会社・オーナー・他の株主に買い取ってもらう。価格は交渉次第第12講・第20講
② 譲渡承認請求第三者への譲渡を申し出て、不承認なら会社・指定買取人に買い取らせる。価格は協議、不成立なら裁判所(144条)第21講
③ 株式買取請求合併・定款変更など会社の組織再編の際に「公正な価格」での買取りを請求(116条・785条等)第22講
④ 会社側からの強制取得売渡請求(174条)、特別支配株主の売渡請求(179条)、株式併合による締出し(180条)。価格は裁判所が決め得る第14講・第17講
⑤ 解散・清算10%以上の株主による解散の訴え(833条)、任意の解散。残余財産の分配として回収第24講

①以外はすべて、最終的に裁判所が価格を決める手続につながります。②は株主が自分で始められる唯一の法定ルート、③は会社が動いたときにだけ使える受動的なルートです。

図解A 少数株主の換価ルートの全体像(詳細は第20講)

会社側から見ると、この図は裏返しになります。会社は、株主から譲渡承認請求が来れば承認か買取りかを選ばなければならず(②)、組織再編をすれば買取請求を受け(③)、相続が起きれば売渡請求という選択肢を持ち(④)、少数株主を整理したければ締出しの手続に進む(④)ことになります。株主の出口は、会社の入口でもある。この連載が会社側と株主側の双方に向けて書かれているのは、同じ手続を反対側から見ているにすぎないからです。

3なぜ争いになるのか ― 同じ株式に、数倍から数十倍の値段がつく

市場価格がない以上、非上場株式の値段は「評価」によって作られます。ところが、評価の手法は一つではありません。会社の将来の利益から逆算するDCF法、会社の資産と負債の差額から求める純資産法、配当の実績から求める配当還元法など、複数の手法があり、どれを使うか、どう組み合わせるかで結論が大きく動きます(第3講)。

これは理屈の話ではなく、裁判所の価格決定の記録に現れている事実です。会社法144条の売買価格決定事件で、裁判所が複数の手法による評価額を並べたうえで加重平均した例を見ると、同じ株式について手法ごとに次のような開きがありました。

← 表は横にスクロールできます →

裁判例 手法別の1株当たり評価額 開き 裁判所が決定した価格
札幌地決平成16年4月12日(判タ1216号274頁)・札幌高決平成17年4月26日(判タ1216号272頁) 配当還元法 600円/再調達時価純資産法 1万7,383円/DCF法 1万7,383円 約29倍 0.25:0.25:0.5で加重平均し 1万3,187円
広島地決平成21年4月22日(金判1320号49頁) DCF法 2,339円/配当還元法(ゴードン・モデル) 411円 約5.7倍 1:1で加重平均し 1,375円
東京地決平成26年9月26日(金判1463号44頁) DCF法 845円/再調達時価純資産法 997円/配当還元法 162円 約6倍 0.35:0.35:0.3で加重平均し 693円
最決令和5年5月24日(判タ1514号33頁、金判1684号9頁)の原審・広島高決令和3年12月21日 DCF法による評価額 7,524円から、市場性がないことを理由に30%減価 ― 5,266円(最高裁は、会社法144条の売買価格決定でDCF法の評価額から非流動性ディスカウントを行うことができると判断)

図表2 裁判所の売買価格決定事件における、手法ごとの評価額の開き(久保田安彦「譲渡制限株式の売買価格〔上〕」商事法務2357号6頁の図表を参照して作成)

配当還元法は、配当を受け取ること以外に株式から利益を得られない少数株主の立場を映す手法で、無配や低配当の会社では極端に低い数字が出ます。DCF法や純資産法は会社の事業や資産そのものの価値を映すため、収益力や資産のある会社では高い数字が出ます。そして、少数株主の株式をどちらの発想で評価すべきかは、学説でも裁判例でも今も議論が続いています(交換価値説とプロ・ラタ価値説の対立。第4講で扱います)。

争いが生まれる構造を整理すると、次のようになります。

  • 売り手と買い手で「正しい値段」の出発点が違う。会社側は税務上の評価額や配当還元法、あるいは出資当時の額面を持ち出し、株主側は会社の実質価値を持ち出します。数倍から数十倍の開きは、誇張ではなく裁判所の記録に残る現実です。
  • 情報の非対称がある。会社の決算書、事業計画、含み益のある不動産の存在は会社側だけが知っています。株主側は閲覧請求などの権利行使(第7講)をしなければ、評価の材料すら手に入りません。
  • 配当がなく、時間が株主に不利に働く。無配の会社の少数株主は、持ち続けても利益がなく、相続が起きれば相続税だけがかかります。売り急ぐ側の弱さを、買う側が知っています。
  • 支配権の有無が価値を分ける。過半数や3分の2を握る側は会社を動かせますが、数%の株主は動かせません。同じ1株でも、誰が持つかで意味が変わります。
  • 相続が分散を強制する。創業者の株式は、遺言がなければ相続人の準共有になり(民法898条)、遺産分割で誰がいくらの株式を取るかが争点になります。会社にとっても、株主が誰かが決まらない期間が生まれます(第16講〜第19講)。

4紛争の三つの入口 ― 会社側・相続・少数株主

ご相談の入口は、立場によって三つに分かれます。

第一は、会社・オーナー側から見た株主管理の問題です。株主名簿が整っていない、名義だけの株主がいる、創業時に出資した親族や退職した元役員が株式を持ったままになっている。この状態で少数株主から買取りの申出や帳簿閲覧の請求が届き、あるいは株主総会が紛争の場に変わります。予防のための定款設計、株主間契約、従業員持株会の運用、分散した株式の集約、そして最終手段としての締出しまでが、この入口の守備範囲です(第Ⅱ部・第Ⅲ部)。

第二は、相続をきっかけとする問題です。オーナーが亡くなると、株式は相続人全員の準共有になり、遺産分割が終わるまで議決権の行使方法から争点になります(会社法106条)。後継者に株式を集めれば他の相続人から遺留分侵害額請求(民法1046条)が届き、集めなければ会社の意思決定が止まる。会社側には、定款に定めがあれば相続人に株式の売渡しを請求する手段(会社法174条)もありますが、使い方を誤ると後継者自身が株式を失う結果を招きます(第Ⅳ部)。

第三は、少数株主側から見た換金と経営権の問題です。配当もなく、売り先もなく、会社の情報も来ない株式を、どう現金に換えるか。譲渡承認請求、株式買取請求、役員の解任や解散の訴えといった手段を、持株比率と会社の状況に応じて選ぶことになります。50対50で会社が止まるデッドロックも、この入口に含まれます(第Ⅴ部)。

図解B 非上場株式紛争の全体地図

非上場株式(譲渡制限株式)市場がない / 相場がない / 売り先を自分で決められない / しかし会社の価値は株式に積み上がっている
▼三つの入口
会社・オーナー側

  • 株主名簿と株主管理(第5講)
  • 名義株の解消(第6講)
  • 少数株主権への対応(第7講)
  • 株主総会の攻防(第8講)
  • 定款・株主間契約・持株会(第9〜11講)
  • 株式の集約・税金・締出し・所在不明株主(第12〜15講)
相続の場面

  • 準共有と議決権(第16講)
  • 相続人への売渡請求(第17講)
  • 遺産分割と評価(第18講)
  • 遺留分と円滑化法の特例(第19講)
少数株主側

  • 換価ルートの総論(第20講)
  • 譲渡承認請求と価格決定(第21講)
  • 株式買取請求(第22講)
  • 役員の解任・辞任(第23講)
  • デッドロックと解散の訴え(第24講)
▼すべての入口が収れんする場所
価格と手続株の値段はどう決まるか(第1〜4講) / 裁判所に値段を決めてもらう手続の費用と期間(第25講) / 株式買取業者と大阪高裁令和6年7月12日判決(第26講) / 総括(第27講)

図解B 三つの入口と、価格・手続への収れん

実際の事件では、三つの入口は重なります。相続で株式を取得した相続人が少数株主として買取りを求め、会社側は名義株の主張と売渡請求で応じ、価格の攻防に入る、という流れは典型的です。相談の第一声がどの入口であっても、他の二つの入口で何が起きているかを同時に確認する必要があります。

← 表は横にスクロールできます →

相談の第一声 法律上の問題 まず読む講
「株を買い取ってほしいと言われた」「額面で買い取ると言われた」 任意買取りの価格、売買価格決定手続、税務上の時価との関係 第2講・第12講・第21講
「うちの株主が誰か、正確には分からない」 株主名簿、名義株、所在不明株主 第5講・第6講・第15講
「株主から帳簿を見せろと言われた」「総会で議案を出された」 少数株主権への対応、株主総会の運営 第7講・第8講
「社長が亡くなった。株は誰のものか」 準共有、権利行使者の指定、遺産分割 第16講・第18講
「後継者に株を集めたら、兄弟から請求が来た」 遺留分侵害額請求、株式の評価、円滑化法の特例 第19講
「配当もない株を持ち続けるしかないのか」 換価ルートの選択、譲渡承認請求 第20講・第21講
「株式買取業者から手紙が来た」 業者への譲渡の効力、会社側の対応、株主側の注意点 第26講
「50対50で何も決まらない」 デッドロック、解散の訴え、買取りによる解消 第24講

図表3 相談の第一声から読む講を探す

5すべての入口は「価格」に通じる ― 場面ごとに違う値段のルール

三つの入口のどこから入っても、最後に残る争点は「1株いくらか」です。ただし、非上場株式の価格には、場面ごとに異なる法律上の基準があります。同じ会社の同じ株式でも、譲渡承認請求の売買価格決定と、相続税の申告と、遺留分の計算とでは、根拠となる条文も、評価の時点も、裁判所や税務署が用いる考え方も違います。この「土俵の違い」を知らないまま、税務上の評価額を交渉の基準に持ち出したり、逆に相続税評価額で遺産分割をまとめようとしたりすると、後で取り返しがつかなくなります。

← 表は横にスクロールできます →

場面 根拠 価格の基準 誰が決めるか
譲渡承認請求に伴う会社・指定買取人の買取り 会社法144条 協議。不成立なら裁判所が「譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情」を考慮して決定(同条3項) 当事者の協議 → 裁判所(非訟事件)
反対株主の株式買取請求 会社法116条・117条、785条・786条など 「公正な価格」。組織再編でシナジーが生じる場合はその分配も考慮される 当事者の協議 → 裁判所(非訟事件)
相続人等に対する売渡請求 会社法174条〜177条 協議。不成立なら裁判所が「請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情」を考慮して決定(177条3項) 当事者の協議 → 裁判所(非訟事件)
特別支配株主の株式等売渡請求・株式併合による締出し 会社法179条の8、182条の4・182条の5 「公正な価格」「売買価格」の決定 裁判所(非訟事件)
遺産分割 民法906条以下 分割時の時価。相続税評価額は当然の基準ではなく、鑑定が行われることがある 相続人の協議 → 家庭裁判所(調停・審判)
遺留分侵害額請求 民法1042条〜1048条 相続開始時の時価(1043条1項) 当事者の協議 → 家庭裁判所の調停 → 地方裁判所等の訴訟
相続税・贈与税の申告 相続税法22条、財産評価基本通達178〜189 同族株主等は類似業種比準方式・純資産価額方式、それ以外の株主は配当還元方式(原則) 納税者の申告 → 税務署の調査
個人・法人間の売買の税務 所得税基本通達59-6、法人税基本通達9-1-13・9-1-14など 「時価」。著しく低い価額での譲渡はみなし譲渡・みなし贈与の問題を生む 納税者の申告 → 税務署の調査

図表4 場面ごとに異なる「価格」の法律上の基準(詳細は第2講・第4講・第13講)

第2講では、この土俵の違いを「四つの値段」として整理し、第3講で評価手法そのものを、第4講で裁判所がどの場面でどの考え方を採ってきたかを扱います。第Ⅰ部の4講は、この連載の基礎であり、どの立場の方にも先に読んでいただきたい部分です。

6新しい登場人物 ― 株式買取業者と大阪高裁令和6年判決

近年、非上場株式の紛争に新しい登場人物が現れました。少数株主から譲渡制限株式を買い取り、発行会社に譲渡承認請求をして、不承認なら会社または指定買取人に買い取らせ、売買価格決定の申立てで価格を争う、という事業を行う「株式買取業者」です。少数株主にとっては、売り先のなかった株式を買ってくれる存在に見えます。会社にとっては、見知らぬ第三者が株主権を主張して現れる事態です。

この事業のやり方について、大阪高等裁判所は令和6年7月12日の判決(判例タイムズ1530号86頁)で、一つの判断を示しました。同事件では、業者が少数株主から親族経営の会社の譲渡制限株式を買い受け、譲渡承認請求と売買価格決定の申立てに進んでいましたが、高裁は、業者の行為が「他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とする」ことを禁じる弁護士法73条に反するとして、株式の譲受けを無効と判断しました。業者から譲渡承認請求を受けた会社にとっても、業者に株式を売ろうとする株主にとっても、取引の前提が覆り得ることを示した裁判例です。

この判決は、株式買取業者の存在そのものを違法としたものではなく、事案の具体的な事情を踏まえた判断です。しかし、会社側は業者からの請求に対して「譲受けの有効性」という反論の入口を持ち、株主側は「業者に売ったつもりが、譲渡が無効とされ、受け取った代金の処理や株主の地位が不安定になる」危険を知っておく必要があります。第26講で、事案の経過と判断の枠組み、当事者ごとの実務上の注意点を詳しく扱います。

7非上場株式の紛争には期限がある

非上場株式の手続の多くには、法律で日数が決まっています。とくに譲渡承認請求の手続は、会社が期限を一つ落とすと承認したものとみなされ(145条)、株主が期限を一つ落とすと裁判所で価格を争う機会を失う(144条2項・5項)という、双方にとって厳しい仕組みです。全体地図の段階で、主要な期限を一覧にしておきます。

← 表は横にスクロールできます →

手続 期限 落とした場合 根拠
譲渡承認請求に対する会社の承認・不承認の通知 請求の日から2週間以内(定款で短縮可) 承認したものとみなされる 会社法139条2項、145条1号
不承認の場合の会社による買取りの通知 不承認通知の日から40日以内(定款で短縮可)。指定買取人による通知は10日以内 承認したものとみなされる 141条1項、142条1項、145条2号
売買価格決定の申立て 買取りの通知があった日から20日以内 協議が成立していなければ、1株当たり純資産額に株式数を乗じた額が売買価格になる 144条2項・5項・7項
反対株主の株式買取請求 効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日まで 買取請求権を行使できない 116条5項
株式買取請求後の価格決定の申立て 効力発生日から30日以内に協議が調わないとき、その期間満了の日後30日以内 60日以内に申立てがなければ、株主はいつでも買取請求を撤回できる 117条2項・3項
相続人等に対する売渡請求 相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内 売渡請求ができなくなる 176条1項
売渡請求後の売買価格決定の申立て 請求の日から20日以内 協議が成立していなければ、売渡請求は効力を失う 177条2項・5項
所在不明株主の株式の競売・売却 通知・催告が5年以上到達せず、かつ5年間配当を受領していないこと。経営承継円滑化法の認定を受けた会社は1年に短縮 要件を満たすまで手続に入れない 197条、経営承継円滑化法15条
遺留分侵害額請求 相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年、相続開始から10年 請求権が時効・除斥期間で消滅する 民法1048条
相続税の申告・納付 相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内 無申告加算税・延滞税。株式の評価が固まらなくても期限は動かない 相続税法27条1項

図表5 非上場株式に関する主要な期限

この表のうち、会社側にとって最も危険なのは145条のみなし承認です。「取締役会を開く日程が合わなかった」という理由で2週間を過ぎれば、それだけで会社は好ましくない譲受人を株主として受け入れなければならなくなります。株主側にとって最も危険なのは、144条2項の20日です。会社から買取りの通知を受けて協議を続けているうちに20日が過ぎると、裁判所で価格を争う道が閉ざされ、原則として簿価ベースの純資産額で売買価格が決まります。交渉中であっても、法定の期限は別に管理しなければなりません。

8この連載の歩き方 ― 6部27講と、立場別に最初に読む講

本連載は6部27講で構成しています。価格の決まり方(第Ⅰ部)を土台に、会社側の守り(第Ⅱ部)、株式の集約(第Ⅲ部)、相続との交錯(第Ⅳ部)、少数株主の戦い方と経営権紛争(第Ⅴ部)、手続の現実と最重要判例(第Ⅵ部)へと進みます。

← 表は横にスクロールできます →

部 テーマ 講
第Ⅰ部 価格編 株の値段はこう決まる 第1講 全体地図/第2講 四つの値段/第3講 評価手法と株価鑑定書/第4講 事案類型別の裁判例と学説
第Ⅱ部 会社の守り編 株主管理と予防設計 第5講 株主名簿/第6講 名義株/第7講 少数株主権への対応/第8講 株主総会の攻防/第9講 定款・種類株式/第10講 株主間契約/第11講 従業員持株会
第Ⅲ部 株式集約編 分散した株を取り戻す 第12講 任意買取りと自己株式取得/第13講 株式と税金/第14講 スクイーズアウト/第15講 所在不明株主
第Ⅳ部 相続・事業承継編 株と相続が交わるとき 第16講 準共有と議決権/第17講 相続人等に対する売渡請求/第18講 遺産分割と評価/第19講 遺留分
第Ⅴ部 少数株主・経営権紛争編 戦い方の技術 第20講 換価ルート総論/第21講 譲渡承認請求と価格決定/第22講 株式買取請求/第23講 役員の解任・辞任/第24講 デッドロックと解散の訴え
第Ⅵ部 実戦編 手続の現実と最重要判例 第25講 価格決定手続の費用・期間・鑑定/第26講 株式買取業者と大阪高裁令和6年7月12日判決/第27講 総括

図表6 全体構成(6部27講)

立場別に、最初に読む講

順に読んでいただくのが本来ですが、いま渦中にいる方には、立場に応じて次の順序をお勧めします。

← 表は横にスクロールできます →

立場 最初に読む講 理由
会社・オーナー側で、少数株主から買取りや閲覧の請求を受けた 第2講 → 第7講 → 第21講 → 第14講 値段の土俵を知り、請求への法的な対応を整え、譲渡承認請求が来たときの期限管理と、最終的な集約の選択肢を把握する
相続人・後継者で、遺産に非上場株式がある 第16講 → 第18講 → 第19講 → 第13講 遺産分割までの議決権の扱い、分け方と評価、遺留分、そして税務を順に確認する
少数株主で、株式を現金に換えたい 第20講 → 第21講 → 第25講 → 第26講 使える出口を比べ、正攻法の手続と費用対効果を知り、業者への売却の危険を理解する
共同経営者と対立し、会社の意思決定が止まっている 第24講 → 第23講 → 兄弟連載『企業内部紛争36講』第1講 デッドロックの打開策と役員人事の規律を押さえたうえで、経営権紛争の初動を別連載で確認する

図表7 立場別の読み順

兄弟連載との関係

当事務所では、会社をめぐる紛争を三つの連載に分けて書いています。本連載『非上場株式27講』は、株式そのものの帰属・評価・譲渡・相続・換金を扱います。『企業内部紛争36講』は、役員の解職、決議の効力、仮処分、責任追及といった、紛争が起きたときの会社の動かし方と手続を扱います。『税理士法人・社労士法人の内部紛争30講』は、株式会社とは異なる持分会社型の法人における共同経営の解消を扱います。各講の末尾に隣接する講への案内を置いていますので、必要に応じて行き来してください。

PRACTICE NOTE

最初の相談までに手元に置きたい資料

非上場株式の相談では、会社の基本資料が揃っているかどうかで、初回の打合せで方針の大枠まで話を進められるかが決まります。会社側と株主側で入手できる資料は異なりますが、手元にないものがあっても構いません。「誰が持っているか」「なぜ手元にないか」自体が、状況を示す情報になります。

← 表は横にスクロールできます →

資料 確認できること 株主側の入手方法
登記事項証明書(履歴事項全部証明書) 譲渡制限の有無と承認機関、機関設計、発行済株式総数、役員の変遷 法務局で誰でも取得できる
定款(最新のもの) 譲渡承認機関、相続人等に対する売渡請求の定め、種類株式・属人的定め、取締役の任期 株主は閲覧・謄写を請求できる(会社法31条2項)
株主名簿 株主と持株数、名義株の疑い、所在不明株主の有無 株主は請求の理由を明らかにして閲覧・謄写を請求できる(125条2項)
直近3期分の計算書類・勘定科目内訳書・法人税申告書 純資産、含み損益のある資産、役員報酬・役員貸付金、配当の履歴 計算書類は株主が閲覧・謄写を請求できる(442条3項)。内訳書・申告書は会計帳簿閲覧請求(433条、3%以上)の対象となり得る
株主総会・取締役会の議事録、招集通知 配当決議、役員選任、譲渡承認の履歴 株主総会議事録は株主が閲覧・謄写を請求できる(318条4項)
株式の取得経緯を示す資料 設立時の出資払込み、譲渡契約書、譲渡承認の記録、相続関係の資料、贈与税・相続税の申告書 自分の側の資料を集める。名義株が争点になる場合は特に必要
相続関係資料(相続の場面) 戸籍、遺言書、遺産分割協議書、相続税申告書(株式の評価明細書を含む) 相続人であれば取得・請求できる
相手方からの通知・手紙・メール 買取りの申出、提示価格、期限、根拠として示された評価の考え方 日付入りで保存する。口頭のやり取りは日時と内容をメモに残す

会社側は、これらのほかに、株式の分散の経緯(誰に、いつ、なぜ株式を渡したか)を時系列で整理しておくと、名義株や持株会をめぐる争点の見通しが早くつきます。株主側は、配当の履歴と、会社から届いた招集通知の有無を確認してください。長年招集通知が来ていない事実は、株主総会の運営に問題があることの手がかりになります(第8講)。

実務チェック

  • 会社が「公開会社でない株式会社」か、譲渡承認機関はどこかを、登記事項証明書と定款で確認する。
  • 自分の立場(会社・オーナー側、相続人、少数株主)と、相手方の立場を書き出し、三つの入口のどこに当たるかを整理する。
  • 争点になっている価格が、どの場面(売買価格決定、買取請求、遺産分割、遺留分、税務)の価格かを特定する。
  • すでに始まっている手続について、法定の期限(2週間、40日、20日、1年、10か月など)を一枚の時系列に並べる。
  • 登記事項証明書、定款、株主名簿、直近の計算書類、株式の取得経緯を示す資料を確保し、手元にないものは誰が持っているかを記録する。
  • 株式買取業者からの通知や勧誘があれば、返答する前に内容を保存し、第26講を確認する。

よくある質問

会社から「額面の500円で買い取る」と言われました。従わなければならないのですか。

従う義務はありません。額面株式の制度は平成13年の商法改正で廃止されており、「額面」は現在の法律上、株式の価値を示すものではありません。会社に買取りの義務が生じる場面(譲渡承認請求に対する不承認、相続人等に対する売渡請求など)では、価格は協議で決め、協議が調わなければ裁判所が「一切の事情」を考慮して決定します(会社法144条、177条)。裁判所が額面や出資額をそのまま採用することはなく、会社の資産状態や収益力を踏まえた評価が行われます。任意の交渉の段階でも、額面を基準にする法的根拠はありません。詳細は第2講で扱います。

配当もなく、売り先もない株式を持ち続けることに意味はありますか。

持ち続けるだけでは、配当がない限り経済的な利益は生じません。一方で、相続が起きれば相続税の課税対象になります。ただし、株式には議決権、計算書類の閲覧請求権、持株比率に応じた少数株主権(3%以上で会計帳簿の閲覧請求、10%以上で解散の訴えなど)が付いており、これらを行使することで会社との交渉の土台を作ることができます。現金化の道は第20講で整理していますが、いずれの道も、会社の情報を把握することから始まります。

会社が株式の譲渡を承認してくれません。売ることはできないのですか。

会社は承認を拒むことができますが、拒む場合には会社自身が買い取るか、指定買取人を指定して買い取らせなければなりません(会社法140条)。承認も買取りの通知もしないまま期限を過ぎれば、承認したものとみなされます(145条)。つまり、譲渡先を見つけて承認請求をすれば、会社は「承認する」か「買い取る」かのどちらかを選ばざるを得ない仕組みです。価格は協議で決め、協議が調わなければ買取りの通知から20日以内に裁判所に売買価格の決定を申し立てます(144条2項)。手続の流れと注意点は第21講で扱います。

株式買取業者から「株を買います」という手紙が届きました。売っても問題ありませんか。

慎重に検討する必要があります。大阪高裁令和6年7月12日判決(判タ1530号86頁)は、少数株主から譲渡制限株式を買い取って発行会社に譲渡承認請求と売買価格決定の申立てをすることを業とする行為が弁護士法73条に反するとして、業者による株式の譲受けを無効と判断しました。譲受けが無効とされれば、売った側の株主の地位や受け取った代金の処理が不安定になります。また、業者の提示額が、裁判所の手続で得られる価格を大きく下回っていることも少なくありません。業者に売る前に、自分で譲渡承認請求の手続を取る選択肢(第21講)と比べることをお勧めします。第26講で詳しく扱います。

相続した非上場株式は、相続税の申告書に書いた評価額で分ければよいのですか。

相続税評価額は、相続税の計算のために財産評価基本通達で定められた画一的な評価であり、遺産分割の基準として当然に用いられるものではありません。遺産分割では分割時の時価が基準となり、相続人間で評価が合わなければ、家庭裁判所の手続で鑑定が行われることがあります。また、後継者に株式を集中させる場合は、他の相続人の遺留分の計算でも株式の時価が争点になります。相続税評価額と時価の開きが大きい会社ほど、この点が争いになりやすいといえます(第18講・第19講)。

裁判所に価格を決めてもらう手続は、どれくらいの費用と時間がかかりますか。

売買価格決定の申立ては非訟事件で、訴訟とは手続が異なります。裁判所が鑑定人を選任する場合、鑑定費用は数百万円に及ぶことがあり、申立てから決定まで1年を超えることも珍しくありません。持株数が少なければ、費用が回収額を上回る「コスト倒れ」の判断も必要になります。費用・期間の目安と、鑑定を含めた手続の実際は第25講で扱います。

おわりに ― 地図を持って交渉の席に座る

非上場株式の紛争は、会社法、民法(相続法)、税法、企業価値評価が一つの株式の上で交錯する領域です。会社側は「株主を選べる」という譲渡制限の利益を持ちながら、拒んだ以上は買い取らなければならないという義務を負い、株主側は「売る相手を選べない」という制約を負いながら、会社に買取りを迫る手続を持っています。どちらの側も、相手が何を持ち、何を恐れているかを知ったうえで交渉の席に座るかどうかで、結果は大きく変わります。

明徳法律事務所(大阪市西区)は、非上場会社の株主間紛争、事業承継、相続と会社法が交錯する事件を継続的に取り扱っています。会社側・株主側・相続人側のいずれの立場からのご相談にも対応していますが、最も選択肢が多いのは、紛争が表面化する前、あるいは相手方から最初の通知が届いた直後です。お心当たりのある経営者、株主、相続人の方は、期限の管理が必要になる前の段階でご相談ください。

次回 第2講「あなたの会社の株には『四つの値段』がある ― 額面・税務・簿価・裁判所」では、本講で触れた「土俵の違い」を、同じ株式に併存する四つの値段として整理し、それぞれがどの場面で使われ、なぜ数十倍の開きが生じるのかを解説します。

この講の主な根拠条文・裁判例・資料

  • 会社法〔e-Gov法令検索〕2条5号・17号、31条2項、106条、107条1項1号、108条1項4号、116条、117条、125条2項、127条、136条〜145条、174条〜177条、179条、179条の8、180条、182条の4・182条の5、197条、318条4項、433条、442条3項、785条・786条、833条
  • 民法〔e-Gov法令検索〕898条、906条、1042条〜1048条
  • 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律〔e-Gov法令検索〕12条1項1号ホ、15条(所在不明株主の株式の競売及び売却に関する特例)
  • 相続税法〔e-Gov法令検索〕22条、27条1項
  • 財産評価基本通達(国税庁)178〜189(取引相場のない株式の評価)
  • 最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁会社の承認を得ない譲渡制限株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間では有効であるとした判例
  • 最決令和5年5月24日判タ1514号33頁、金判1684号9頁(令和4年(許)第8号)会社法144条2項の売買価格決定において、DCF法により算定された譲渡制限株式の評価額から非流動性ディスカウントを行うことができるとした決定。原審は広島高決令和3年12月21日
  • 大阪高判令和6年7月12日判タ1530号86頁譲渡制限株式を譲り受けて発行会社に譲渡承認請求と売買価格決定の申立てをすることなどによって権利の実行をすることを業とする行為が弁護士法73条に反するとして、株式買取業者による株式の譲受けを無効とした判決
  • 札幌地決平成16年4月12日判タ1216号274頁・札幌高決平成17年4月26日判タ1216号272頁、広島地決平成21年4月22日金判1320号49頁、東京地決平成26年9月26日金判1463号44頁図表2に掲げた売買価格決定事件
  • 久保田安彦「譲渡制限株式の売買価格〔上〕〔下〕」商事法務2357号4頁・2358号平成16年以降の公表裁判例の評価手法・決定価格の一覧を含む論稿
  • 国税庁「令和6年度分 会社標本調査」(令和8年3月)法人数299万9,680社、うち株式会社269万2,201社
  • 日本取引所グループ「上場会社数・上場株式数」2026年9月18日現在3,897社(TOKYO PRO Market 188社を含む)

条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例は掲載誌の巻号頁を記載しています。最高裁の裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で裁判年月日から原文を確認できます。

公開日 2026年8月24日/改訂日 2026年9月22日

非上場株式27講 目次へ戻る