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『企業内部紛争36講 ― 経営権争いの教科書 ―』【第25講】

目的に合わせて裁判手続を選ぶ

第25講 目的に合わせて、訴訟・仮処分・非訟を選ぶ|明徳法律事務所

第25講裁判・保全・刑事対応

目的に合わせて裁判手続を選ぶ

本案・仮処分・非訟の比較

明徳法律事務所 弁護士 坂本龍亮読了目安 13分

この講の結論

内紛で裁判所を使う場面は、決議の効力や役員の地位を確定させたいとき、進行中の行為を今すぐ止めたいとき、会社の資料や裁判所の許可・選任が必要なときの三つに大別できます。順に、本案訴訟、仮処分、非訟事件であり、それぞれ要件、審理の進み方、効力の範囲、期限が違います。裁判手続は「相手を困らせるため」ではなく、求める結果に合わせて選びます。仮処分は暫定的な保護にすぎず、本案の期限は仮処分の有無にかかわらず進みます。少数株主が使える役員解任の訴えや会社解散の訴えには固有の要件があり、「3%あれば解任できる」「10%あれば解散できる」という制度ではありません。同じ出来事から複数の目的が生じることを前提に、本案、保全、情報取得を過不足なく組み合わせ、勝った後の登記や業務の引継ぎまで見通した設計が必要です。

本案・保全・非訟

本案訴訟は、株主総会決議の取消し・無効・不存在、役員の地位の確認、取締役の解任、損害賠償、会社の解散といった権利関係を、判決によって最終的に確定させる手続です。判決までには通常、年単位の時間がかかります。保全手続は、判決を待っていては著しい損害や急迫の危険が生じる場合に、裁判所が暫定的な措置を命じる手続で、内紛では、役員の職務執行停止と職務代行者の選任(第26講)、違法行為の差止め(第27講)、募集株式の発行の差止め(第15講)、議決権行使の禁止(第28講)、会計帳簿の閲覧などが仮処分の対象になります。非訟事件は、裁判所が権利義務を判断するのではなく、法律の定めに基づいて選任や許可などの処分をする手続で、検査役の選任(第19講)、一時役員の選任(346条2項)、株主総会の招集許可(297条4項)、監査役設置会社等における取締役会議事録の閲覧許可(371条3項)、株式の売買価格の決定(144条)などがこれに当たります。

同じ出来事から、複数の目的が同時に生じるのが内紛の特徴です。たとえば、疑わしい株主総会で選任された取締役がいる場合、その選任決議の効力を争うことは本案訴訟、その取締役が会社の資産を売却しようとしているのを止めることは仮処分、その取締役が何を決めてきたかを取締役会議事録で確かめることは非訟の許可申立てというように、目的ごとに別の手続を使います。一つの申立てで会社の全部を止めることはできませんし、そうすべきでもありません。どの結果を、いつまでに、誰に対して得る必要があるかを整理してから、手続を選びます。

目的別の比較表

この連載で扱う主な手続を、目的から引けるように整理すると次のようになります。

表は横にスクロールできます。

目的主な手続性質効果と注意点詳細
決議の効力を争う決議取消し・無効確認・不存在確認の訴え(831条、830条)本案取消しは決議の日から3か月以内。会社を被告とし、本店所在地の地方裁判所の専属管轄第13講
役員の職務を暫定的に止める職務執行停止・職務代行者選任の仮処分(民事保全法23条2項)保全地位や解任を争う本案の請求権と保全の必要性の疎明。仮処分は登記される(917条)第26講
特定の違法行為を止める株主・監査役による差止め(360条、385条)とその仮処分本案・保全請求できる主体と要件(著しい損害か回復できない損害か)が機関設計で異なる第27講
増資を実行前に止める募集株式発行の差止め(210条)とその仮処分本案・保全効力発生前に仮処分を得なければ実効性がない。払込期日までの時間との勝負第15講
発行済みの株式の効力を争う新株発行無効の訴え・不存在確認の訴え(828条、829条)本案無効の訴えは公開会社6か月・非公開会社1年以内。判決は将来に向かって効力を生じる第16講
票の扱いを決めておく議決権行使禁止・議決権行使許容などの仮処分保全対象となる総会、株式、当事者を特定する。総会の直前に間に合うかが問題第28講
資料や調査結果を得る閲覧謄写請求の本案・仮処分、取締役会議事録の閲覧許可、検査役選任本案・保全・非訟資料ごとに要件と持株割合が異なる。閲覧の仮処分は満足的仮処分として必要性の疎明が重い第18講・第19講
会社の損害を回収する会社による損害賠償請求、株主代表訴訟(847条)本案回収先は会社。代表訴訟は提訴請求と60日の待機が原則第23講
役員を裁判で解任する役員解任の訴え(854条)本案解任議案が否決された株主総会の日から30日以内。会社と役員の双方を被告とする本講
会社を終わらせる解散の訴え(833条)本案10%の持株と、やむを得ない事由その他の固有の要件。最後の手段本講

なお、令和8年5月21日から改正民事訴訟法が全面施行され、弁護士が訴訟代理人となる本案訴訟では、訴えの提起や書面の提出はオンラインで行うことが義務づけられています(民事訴訟法132条の11第1項1号)。他方、保全事件と会社非訟事件は、本稿の時点ではこのオンライン申立ての対象外で、申立書は紙で提出します(令和10年6月までに対象となる予定です)。同じ紛争でも手続ごとに提出方法と期限管理の前提が異なる点に注意が必要です。

少数株主による役員解任の訴え

役員の解任は株主総会の決議で行うのが原則ですが(339条1項)、多数派がその役員を守っている場合には決議は通りません。会社法854条は、役員の職務の執行に関し不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、その役員を解任する議案が株主総会で否決されたとき、または解任の決議が、定款で必要とされる種類株主総会の決議を欠くため効力を生じないとき(323条)に、一定の株主が、その株主総会の日から30日以内に、訴えをもってその役員の解任を請求できるとしています。総会で解任議案を出して否決されることが、訴えの前提です。

原告となれる株主は、総株主の議決権の3%以上の議決権を有する株主、または発行済株式の3%以上の数の株式を有する株主(いずれも定款で割合を引き下げられます)で、公開会社では6か月前からの継続保有が必要です(854条1項・2項)。分母の計算には固有の規律があり、議決権の基準では、その解任議案について議決権を行使できない株主と解任の対象となる役員である株主の議決権が、株式数の基準では、会社が保有する自己株式と対象役員が保有する株式が、それぞれ分母から除かれます。この訴えは、会社とその役員の双方を被告とし(855条)、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄です(856条)。判決が確定すれば役員は解任され、登記は裁判所書記官の嘱託で行われます(937条1項1号ヌ)。「3%あればいつでも裁判で解任できる」制度ではなく、不正行為または重大な法令・定款違反という実体要件、総会での否決という手続要件、30日という期限の三つが揃って初めて使える手段です。総会前から、否決された場合に備えて証拠と訴状の準備を進めておきます。

仮処分の共通要件

内紛で使う仮処分の多くは、争いがある権利関係について債権者に生じる著しい損害または急迫の危険を避けるために必要なときに発せられる、仮の地位を定める仮処分です(民事保全法23条2項)。申立人は、保全すべき権利(被保全権利)の存在と、保全の必要性を疎明しなければなりません(13条2項)。被保全権利は、取締役の地位の不存在、差止請求権、閲覧請求権など、本案で認められるべき権利そのものです。保全の必要性は、判決を待っていては著しい損害または急迫の危険が生じることを、具体的な事実で示す必要があり、「違法な行為だから困る」という説明だけでは足りません。相手方が会社の資産を処分しようとしている、株主総会が目前に迫っている、資料が廃棄されるおそれがあるといった、時間の経過によって失われるものを特定して示します。

仮の地位を定める仮処分は、相手方に重大な影響を及ぼすため、口頭弁論または債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ発することができません。ただし、その期日を経ることによって仮処分の目的を達することができない事情があるときは、この限りではありません(23条4項)。したがって、相手方に知られずに発令される仮差押えとは異なり、原則として相手方の反論を聞いたうえで判断されます。審理にかかる期間は、総会の予定日、会社の規模、証拠の量、相手方の反論によって変わり、数週間で決まることもあれば数か月かかることもあります。「申し立てればすぐ止まる」と依頼者に約束することはできません。また、総会の直前に申し立てても間に合わないことは珍しくありません。

担保と起訴命令

裁判所は、保全命令を発するにあたり、担保を立てさせ、または担保を立てさせないで発することができます(民事保全法14条1項)。担保は、仮処分が後に取り消された場合に相手方が被る損害の賠償を確保するもので、職務執行停止や資産の処分禁止のように相手方や会社への影響が大きい仮処分では、相応の金額が定められます。監査役が取締役の行為の差止めを求める仮処分については、担保を立てさせないものとする特則があります(会社法385条2項)。株主による差止めの仮処分(360条)にはこの特則がなく、担保の要否は裁判所の判断によります。

仮処分が発令された後、相手方は、裁判所に対し、申立人に一定の期間内に本案の訴えを提起してその証明書面を提出するよう命じることを求めることができます(起訴命令。民事保全法37条1項)。この期間は2週間以上で定められ(同条2項)、申立人が期間内に書面を提出しなければ、相手方の申立てにより仮処分は取り消されます(同条3項)。起訴命令が出るかどうかにかかわらず、決議取消しの3か月、新株発行無効の6か月または1年、役員解任の訴えの30日といった本案固有の期限は、仮処分の有無とは無関係に進みます。仮処分を得たことで安心して本案の期限を徒過することが、内紛の事件で最も避けるべき失敗の一つです。

管轄と当事者を間違えない

会社の組織に関する訴え(決議取消し、新株発行無効、解散の訴えなど)は会社の本店所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄であり(835条1項)、株主代表訴訟(848条)、役員解任の訴え(856条)も同様です。専属管轄の訴えを別の裁判所に提起しても、移送されて時間を失うだけです。保全事件は、本案の管轄裁判所または仮に差し押さえるべき物もしくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄します(民事保全法12条1項)。非訟事件も、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所が原則です(868条1項)。東京地方裁判所では商事部(民事第8部)がこれらの事件を集中的に扱っており、他の裁判所でも会社関係の事件を担当する部が定まっていることが多いので、申立先の運用を事前に確認します。

当事者も、求める命令によって異なります。決議取消しの訴えの被告は会社(834条17号)、役員解任の訴えの被告は会社と役員(855条)、職務執行停止・職務代行者選任の仮処分の相手方(債務者)は、東京地裁商事部の記載例では会社と当該役員の双方とするのが実務上の取扱いとされています。取締役の行為の差止め(360条、385条)の仮処分の相手方は当該取締役、募集株式発行の差止め(210条)の仮処分の相手方は会社、代表訴訟の被告は役員個人です。相手方を間違えれば、命令を得ても相手に効力が及びません。また、裁判所の命令が出ても、登記の是正、銀行への届出、取引先への説明、業務の引継ぎは裁判の外で行わなければなりません。命令が誰に対してどの範囲で働くかを確認し、求める実務上の結果まで届く設計にします(第10講)。

解散の訴えは固有の要件を確認する

株主の対立が深刻で、会社の運営そのものが立ち行かなくなったとき、最後の手段として会社の解散の訴えがあります。総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主、または発行済株式の10分の1以上の数の株式を有する株主は、株式会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、会社に回復することができない損害が生じ、または生ずるおそれがあるとき(833条1項1号)、または株式会社の財産の管理または処分が著しく失当で、会社の存立を危うくするとき(同項2号)において、やむを得ない事由があるときに、訴えをもって会社の解散を請求できます。被告は会社であり(834条20号)、本店所在地の地方裁判所の専属管轄です(835条1項)。原告が取締役・監査役・執行役・清算人のいずれでもない株主である場合、被告会社は、訴えの提起が悪意によることを疎明して、相当の担保を立てるよう命じることを申し立てることができます(836条1項・3項)。

典型的な事案は、株式を50%ずつ持つ二人の株主が対立し、株主総会で何も決められなくなったいわゆるデッドロックです。しかし、近年の裁判例は、役員の選任ができないというデッドロックの状態だけでは足りず、会社の業務そのものが著しく停滞し、回復困難な損害が生じ、または生ずるおそれがあることを要するとして、権利義務取締役のもとで取締役会が開かれ業務が続いている事案(大阪高判令和4年3月24日金判1668号39頁)や、代表取締役の権利義務を有する者が日常の業務を単独で決定でき、従業員と取引先を抱えて利益を上げている事案(東京高判令和6年10月9日金判1708号38頁)では、解散請求を棄却しています。他方、唯一の事業を失って売上がなくなり、預金が減り続けているのに株主間の膠着が解消される見込みがなく、株式の譲渡も困難な事案では、清算によって株主の資産に対する正当な権利を保護するほかないとして、解散が認められました(東京高判令和5年3月9日金判1674号28頁)。「やむを得ない事由」は、株主間の対立を打開する他の手段がないことを意味し、株式の買取りや会社の分割(第33講)といった代替手段が現実にあるかどうかが判断を分けます。

解散は、継続企業としての価値を失わせ、従業員と債権者に大きな影響を与えます。解散の訴えを、相手方に株式の買取りを強いるための威迫として使うことは、権利の濫用と評価されるおそれがあるだけでなく、上記の裁判例の傾向からして認容の見込みも高くありません。解散を求める前に、権利救済としての必要性と、代替手段の有無を検討します。持分会社(合同会社を含みます)の解散請求(833条2項)は、株式会社とは要件が異なり、補講1で扱います。

実務チェック

  • 求める結果(確定、停止、情報取得)を分け、それぞれに対応する本案・保全・非訟の手続と裁判所に求める主文を一致させる。
  • 当事者(会社か役員か)、専属管轄、本案固有の期限(3か月、30日、6か月・1年)、持株要件と分母の計算、担保の見込みを申立て前に確認する。
  • 仮処分は審尋を経るのが原則であり、総会や払込期日から逆算して申立ての時期を決める。
  • 仮処分を得ても本案の期限は進むことを前提に、起訴命令の有無にかかわらず本案の提起を予定に入れる。
  • 発令・勝訴後の登記、銀行、取引先、業務の引継ぎまで担当者と手順を決めておく。

よくある質問

仮処分だけで紛争を終わらせられますか。

仮処分は暫定的な措置であり、権利関係を確定するものではありません。仮処分が出たことで相手方が交渉に応じ、和解で終わることはありますが、そうならなければ本案訴訟で決着をつける必要があります。起訴命令が出れば本案の提起を迫られますし、仮処分の効力がいつまで続くのか、どのように終了させるのかも別に整理しておかなければなりません。

裁判を増やすほど有利になりますか。

なりません。手続を増やせば費用が増え、各手続での主張の整合性を保つ負担が増え、会社の業務への影響も大きくなります。裁判所も、同じ紛争から派生した多数の申立てを別々に判断するわけではなく、全体の経緯を見ています。必要な権利救済に絞り、複数の手続を一つの事件として管理することが、結果的に有利に働きます(第29講)。

株式を半分ずつ持っていて何も決まりません。解散を請求すれば認められますか。

50%ずつの対立というだけでは足りません。近年の裁判例は、役員の選任ができない状態にとどまらず、会社の業務そのものが著しく停滞して回復困難な損害が生じるおそれがあることを求め、株式の譲渡や買取りなど対立を打開する他の手段があるかどうかも考慮しています。業務が続いていて利益が出ている会社では棄却される傾向にあり、解散よりも、株式の買取りや会社の分割による解決を先に検討することになります。

この講の主な根拠・判例原文

  • 会社法〔e-Gov法令検索〕144条、210条、297条4項、323条、339条1項、346条2項、360条、371条3項、385条、828〜831条、833〜836条、847〜848条、854〜856条、868条1項、917条、937条1項1号ヌ
  • 民事保全法〔e-Gov法令検索〕12条1項、13条2項、14条1項、23条2項・4項、37条
  • 民事訴訟法〔e-Gov法令検索〕132条の11(電子情報処理組織による申立て等)
  • 大阪高判令和4年3月24日金判1668号39頁、東京高判令和6年10月9日金判1708号38頁50%ずつの株主の対立で役員の選任ができない状態にあっても、業務が継続している会社について、833条1項1号の「業務の執行において著しく困難な状況」に当たらないとして解散請求を棄却した裁判例
  • 東京高判令和5年3月9日金判1674号28頁事業を失って売上がなくなり預金が減少し続ける会社について、株主間の膠着が解消される見込みがなく株式の譲渡も困難であるとして、やむを得ない事由を認め解散請求を認容した裁判例
  • 最判昭和61年3月13日民集40巻2号229頁合名会社について、多数派社員による不公正な業務執行で少数派社員が恒常的な不利益を被り、打開の手段がない場合にはやむを得ない事由があるとした判例

条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例のうち裁判所ウェブサイトに掲載されているものは、裁判例検索で裁判年月日から原文を確認できます。旧商法下の判例は、判断の前提と現行法との違いに注意してお読みください。

公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日

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