『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第24講】
50対50で会社が止まった
― デッドロックと解散の訴えという最終兵器:交渉・圧力・解散の三段階と、近時の高裁判決が示した分水嶺 ―
「共同創業者と株を50%ずつ持っています。経営方針で決裂し、去年から株主総会で何も決まりません。取締役の任期はとうに切れているのに、二人とも取締役のまま、給料も決められず、決算も承認できていません。会社は普通に営業しているのですが、このままでよいのでしょうか」
「父の会社の株を兄と私で半分ずつ相続しました。兄が社長で私は専務でしたが、兄が私を役員から外そうとし、私は兄の解任を提案し、どちらも否決。銀行から『役員の登記が古いままだ』と指摘されています。解散の訴えという手段があると聞きました」
「(会社側から)50%株主の元共同経営者から『会社を解散する訴えを起こす』という通知が来ました。会社は黒字で従業員も20人います。本当に解散させられるのでしょうか。何をすれば防げますか」
この講の結論
共同創業者2人で50%ずつ、兄弟で半分ずつ相続。美しい平等に見えるこの資本構成は、会社法上、最悪の紛争構造です。株主総会の普通決議には出席株主の議決権の過半数が必要ですから(会社法309条1項)、50対50で対立すれば取締役の選任すらできず、任期満了後も退任役員が権利義務者として居残り(346条1項)、意思決定が凍結されたまま会社だけが時を刻みます。これがデッドロックです。
打開策には序列があります。第1段階は交渉による資本関係の解消で、一方が他方の株式を買い取って50対50を解消するのが本筋であり、株主間契約にデッドロック解消条項があればそれが最優先で機能します。第2段階は法的手続による圧力で、一時取締役の選任申立て、帳簿閲覧、検査役、責任追及、仮処分を組み合わせて相手の経営継続コストを高め、交渉のテーブルに引き戻します。第3段階が会社解散の訴え(833条1項)です。議決権または発行済株式の10%以上を有する株主は、会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り回復できない損害が生じるおそれがあるときなどに、「やむを得ない事由」があれば解散を請求できます。ただし、近時の高裁判決は、株主が50対50で対立しているという事実だけでは足りず、意思決定の不能によって会社の業務そのものが著しく停滞し、回復困難な損害が生じていることを要すると判断しており(大阪高判令和4年3月24日、東京高判令和6年10月9日)、黒字で日常業務が回っている会社の解散請求は棄却される傾向にあります。解散の訴えの実務上の意味は、判決を取ることより、「このままなら双方が会社の価値を失う」という現実を突きつけて、買取り・分社化などの出口合意を成立させることにあります。使わないことに意味がある武器を、いつ、どの温度で持ち出すかが、この分野の腕の見せどころです。
1「平等」が生む最悪の機能不全 ― デッドロックの構造と症状
株主総会の普通決議は、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数で成立します(309条1項)。50対50で両者が出席して対立すれば、賛成50・反対50で、どの議案も可決されません。取締役の選任・解任(341条)、計算書類の承認(438条2項)、剰余金の配当(454条1項)、役員報酬の決定(361条1項)、いずれも普通決議ですから、会社の基本的な意思決定がすべて止まります。取締役会も同じで、取締役会の決議は議決に加わることができる取締役の過半数の賛成が必要ですから(369条1項)、2対2で割れれば代表取締役の選定も重要な業務執行の決定もできません。可否同数の場合に議長が決する旨を定款や取締役会規程に定める例がありますが、369条1項の過半数要件に反し無効と解するのが一般的です。
止まった会社は、次のような症状を示します。
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| 症状 | 法的な状態 | 実害 |
|---|---|---|
| 役員の任期が切れたのに後任を選べない | 退任役員が権利義務取締役として残る(346条1項)。代表取締役も同様(351条1項)。登記は任期満了時のまま | 登記と実態のずれ。金融機関・取引先からの指摘。役員の責任は続く |
| 計算書類が承認されない | 定時株主総会の承認(438条2項)が得られず、計算書類が確定しない | 確定決算を前提とする法人税の申告実務に支障。金融機関への決算報告ができない |
| 役員報酬・配当が決められない | 361条1項・454条1項の決議ができない | 既存の報酬決議の範囲内でしか支払えない。配当ゼロが続く |
| 取締役会が機能しない | 2対2で決議不成立(369条1項)。代表取締役の選定・解職ができない | 重要な業務執行(多額の借財、重要財産の処分。362条4項)が決定できない |
| 相互の解任提案がすべて否決 | 解任は普通決議(341条)。50対50では可決も否決もされない状態 | 相手を退かせることも、自分が退かされることもない。解任の訴え(854条)は「不正の行為」等が要件で、対立だけでは使えない |
| 日常業務だけが続く | 代表取締役(権利義務者)が従前の権限で日常業務を継続 | 会社は営業を続けるが、新規投資・事業承継・組織再編はできない。近時の裁判例では「業務が著しく停滞していない」と評価される要因になる(第7節) |
図表1 デッドロックの症状 ― 「会社は回っている」ことが、逆に解散請求の壁になる
2デッドロックが生まれる四つの経路 ― 創業、相続、離婚、合弁
図解A 50対50が生まれる典型的な経路
図解A いずれも「対立を想定していなかった」ことが共通する
いずれの経路でも、50対50を選んだ時点では対立は想定されていません。問題が顕在化するのは、経営方針の相違、片方の親族の経営参加、報酬の不均衡、私的流用の疑い、相続や離婚といった家族関係の変化が起きたときです。第1講で見たとおり、非上場株式の紛争は「売れない株」と「決められない会社」の組み合わせで起きますが、50対50はその極端な形です。株式の保有割合がわずかでも異なれば(51対49)、少なくとも普通決議は通り、取締役は選任できます。その代わり49%側は少数株主として第Ⅴ部の各講で見た戦い方をとることになり、紛争の性質が変わります。
3打開策の序列 ― 交渉、圧力、そして解散
デッドロックの打開策は、金銭的・時間的コストの低い順に、①交渉による資本関係の解消、②法的手続による圧力、③会社解散の訴え、と並びます。①で解決できればそれが最善で、②は①のテーブルに相手を引き戻すため、③は②でも動かない相手に「共倒れ」の現実を突きつけるためのものです。③まで進んでも、実際には審理の過程で①に戻り、株式の買取りや会社分割による和解で終わることが多くあります。
図解B デッドロック打開のロードマップ
図解B 第3段階の目的は判決ではなく、第1段階の合意を成立させること
4第1段階 資本関係の解消 ― 買取交渉とデッドロック解消条項
デッドロックの根本的な解消は、50対50をやめることです。一方が他方の株式を買い取るのが本筋で、ここでも争点は「1株いくらか」に帰着します(第2講〜第4講)。50対50の場合、どちらが買う側でどちらが売る側かが決まらないことが、価格以前の問題として現れます。買う側は事業を続ける意思と資金が必要で、売る側は換価して離脱します。双方が「自分が残る」と主張すれば、次に述べる解消条項がなければ、価格をつけて相手を降ろす交渉になります。
株主間契約のデッドロック解消条項。共同創業や合弁の際に株主間契約(第10講)を結んでいれば、デッドロック時の解消方法が定められていることがあります。これらの条項は、裁判所を使わずに強制的に50対50を解消する仕組みであり、あれば最優先で機能します。
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| 条項の類型 | 仕組み | 特徴 |
|---|---|---|
| 売るか買うかの選択権(ロシアン・ルーレット型) | 一方が1株の価格を提示し、他方はその価格で「自分の株を売る」か「相手の株を買う」かを選ぶ | 提示者は高すぎれば買わされ、安すぎれば売らされるため、公正な価格を提示する動機が働く。資金力に差があると機能しにくい |
| 封印入札型(テキサス・シュートアウト型) | 双方が買取価格を封印して提出し、高い価格を出した側が相手の株を買う | 資金力のある側が有利。価格発見の機能は高い |
| 第三者評価による買取り | あらかじめ定めた評価機関が価格を算定し、定められた側(または協議)が買い取る | 評価手法(第3講)を契約で特定しておくことが重要。評価に時間と費用がかかる |
| プット・オプション/コール・オプション | 一定の事由(デッドロックの継続、契約違反、離職)が生じたとき、一方に売る権利または買う権利を与える | 行使価格の算定式を契約で定める。第10講で見たとおり、譲渡制限株式の譲渡には会社の承認が必要なので、承認の手続も契約に織り込む |
| 協議・エスカレーション条項 | 一定期間の協議、第三者(顧問・調停人)の関与、それでも解消しない場合の上記いずれかへの移行 | 単独では解消力がなく、最終手段と組み合わせる |
図表2 デッドロック解消条項の類型 ― 「対立したときどうするか」を対立する前に決めておく
条項がない場合の交渉材料。株主間契約がない場合(相続や、契約を結ばずに創業した場合の多く)、交渉の材料になるのは、①会社の評価額と買取資金の調達可能性、②第2段階の法的手続による相手側のコスト、③第3段階の解散の訴えによる「共倒れ」の現実、の三つです。買取りの価格は、任意交渉なら税務上の評価額から実質価値までの幅の中で決まりますが(第2講)、交渉が決裂して法的手続に進んだ場合の帰結(第21講の売買価格決定、または解散による清算価値)が、双方の交渉の下限と上限を画します。
50%株主も譲渡承認請求ができる。見落とされがちですが、第21講の譲渡承認請求は「少数株主」に限られた手段ではありません。50%株主も、譲受人候補を立てて譲渡承認請求をし、会社が不承認なら会社または指定買取人による買取りと売買価格決定(144条)に進むことができます。ただし、承認・不承認の決定は株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議ですから、デッドロック下ではその決議自体ができず、2週間以内の通知がなければ承認したものとみなされます(145条1号)。つまり、デッドロックの会社では、譲渡承認請求は「みなし承認」に至りやすく、譲受人候補が実際に買う意思と資金を持っていれば、相手方の同意なく50%株式を第三者に譲渡できることになります。相手方にとっては、見知らぬ第三者が50%株主として入ってくる事態であり、これを避けるために交渉に応じる動機が生まれます。
買取り以外の解消方法。①会社分割で事業を二つに分け、それぞれが一方の会社を持つ(兄弟で店舗や事業部門を分ける場合に使われる。分割の決議は特別決議で、双方の同意が前提)、②第三者に会社ごと売却し(M&A)、代金を分ける(双方が経営から離れることに同意できる場合)、③任意の解散決議(471条3号。特別決議で双方の同意が必要)による清算、があります。いずれも双方の合意が要りますが、「どちらが残るか」で折り合えない場合に、「どちらも残らない」という解が合意を可能にすることがあります。
5第2段階 法的手続による圧力 ― 一時取締役、閲覧、検査役、責任追及、仮処分
交渉が動かないとき、法的手続を使って、会社の機能停止を一部でも解消し、あるいは相手方の経営継続コストを高めます。50%株主は、少数株主権のすべての持株要件を満たしていますから、第7講で見た手段をすべて使えます。
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| 手段 | 根拠 | デッドロック下での機能 | 限界 |
|---|---|---|---|
| 一時取締役(仮取締役)・一時代表取締役の選任申立て | 346条2項、351条2項 | 役員が欠けた(法定員数を欠く)状態で、利害関係人の申立てにより裁判所が中立の一時役員(弁護士等)を選任する。凍結した取締役会を動かし、総会招集や決算承認の手続を進める。双方が申し立てる例もある | 権利義務取締役がいる場合に「必要があると認めるとき」の判断が争われる。一時役員は中立で、どちらの味方にもならない |
| 計算書類・会計帳簿の閲覧謄写 | 442条3項、433条 | 相手方が握る会社の財務情報を取得し、私的流用・過大報酬・関連取引を把握する。買取価格の算定と、次の手続の証拠になる | 拒絶事由(433条2項)の主張。拒否されれば閲覧請求訴訟・仮処分(第7講) |
| 検査役の選任申立て | 358条(3%) | 業務執行に不正の疑いがあるとき、裁判所が選任した検査役が会社の業務・財産を調査し報告する。中立の第三者による事実認定として重い | 「不正の行為又は法令定款違反の重大な事実を疑うに足りる事由」の疎明。費用は会社負担だが時間がかかる(企業内部紛争36講・第19講) |
| 総会招集請求・自己招集 | 297条 | 相手方が総会を開かない場合に、裁判所の許可を得て自ら招集する。議案は否決されるが、否決の記録が解任の訴えや解散の訴えの前提事実になる | 50対50では可決はできない |
| 役員の責任追及(代表訴訟)・違法行為差止め | 847条、360条 | 相手方の私的流用・任務懈怠を会社への損害賠償として追及する。相手方個人の財産リスクを生じさせる | 提訴請求から60日。立証負担。勝っても会社に金銭が戻るだけで、自分の換価にはならない |
| 役員解任の訴え・職務執行停止の仮処分 | 854条、民事保全法23条2項・56条 | 相手方に不正行為・重大な法令定款違反がある場合、解任議案の否決後30日以内に提訴し、職務執行停止と職務代行者選任の仮処分で相手方を経営から外す(第23講、企業内部紛争36講・第26講) | 対立や方針相違だけでは使えない。不正の証拠が必要 |
図表3 第2段階の手段 ― それぞれ単独では決着しないが、組み合わせて相手のコストを上げる
これらの手続は、いずれもデッドロックそのものを解消するものではありません。一時取締役が選任されても、株主総会は50対50のままです。しかし、相手方にとっては、中立の第三者が会社に入り、財務情報が開示され、私的流用があれば個人の責任を問われる、という状態が続くことになり、「このまま会社を握り続けるコスト」が可視化されます。第2段階の目的は、この可視化によって第1段階の交渉に相手を引き戻すことです。
6第3段階 会社解散の訴え ― 要件・手続・判決の効果
原告適格。総株主の議決権の10分の1以上、または発行済株式(自己株式を除く)の10分の1以上を有する株主です(833条1項。定款で引下げ可)。50%株主は当然に満たします。持株要件は他の少数株主権(3%、1%)より重く、解散という結果の重大さを反映しています。
解散事由。次のいずれかに当たり、かつ「やむを得ない事由」があることが必要です(833条1項)。
図解C 解散の訴えの要件(833条1項)
図解C 1号または2号の事由と、やむを得ない事由の両方が必要
手続。被告は会社です(834条20号)。会社の本店所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄で(835条1項)、被告会社は、原告の訴え提起が悪意によるものであることを疎明して、相当の担保を立てるよう命じることを申し立てることができます(836条1項・3項。原告が取締役等である場合を除く)。認容判決が確定すれば第三者に対しても効力を有し(838条)、会社は解散します(471条6号)。
判決の効果。解散判決による解散は、株主総会の決議による解散(471条3号)と異なり、株主総会の決議で会社を継続することができません(473条は471条1号〜3号の解散に限って継続を認めています)。清算人は、取締役がそのまま就任するのではなく、裁判所が利害関係人・法務大臣の申立てまたは職権で選任します(478条3項)。清算人が会社の財産を換価し、債務を弁済し、残余財産を株主に分配して(504条以下)、会社は消滅します。事業の継続価値は失われ、株主が受け取るのは清算価値です。このことが、解散の訴えを「共倒れの武器」たらしめています。
7裁判例の分水嶺 ― 「業務の著しい停滞」が認められるか
解散の訴えの認容例は多くありません。ただ、中小規模の同族会社で50対50のデッドロックに至った事案について、下級審は一時期、比較的柔軟に解散を認める傾向を見せ、近時の高裁判決がその要件を厳格に絞る、という流れになっています。
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| 裁判例 | 事案 | 結論 | 判断のポイント |
|---|---|---|---|
| 東京地判平成28年2月1日(判例集未登載) | 50対50の同族会社。両者が代表取締役に就任し、任期満了後に選任決議ができず、双方が一時取締役の選任を申し立てるなど対立が継続 | 認容 | 実質的に50%ずつの保有で相互の対立・不信が極めて強く、正常な運営に必要な意思決定ができない状態として1号事由を認め、相当な買取価格の提示があっても解散以外の方法で打開できないとしてやむを得ない事由を認めた。株主としての利益と無関係な目的で会社の利益を害する特段の事情がなければ権利濫用ではない |
| 東京地立川支判平成29年12月26日金判1566号51頁(控訴審・東京高判平成30年6月27日も認容を維持) | 30株ずつを保有する2名の株主の対立 | 認容 | 株主間の対立が根深く、株主総会・取締役会を円滑に開催できない状態が継続していることから、やむを得ない事由を認めた |
| 大阪高判令和4年3月24日金判1668号39頁 | 50対50(各100株)。平成24年以降対立し、株主総会は開かれず役員の再任もない | 棄却 | 1号事由には、デッドロック等により会社の運営上必要な意思決定ができないことで業務そのものが著しく停滞し、かつこれに起因して回復困難な損害が生じ又はそのおそれがあることを要する。本件では取締役の構成はデッドロックを免れ、業務執行が継続されているとして要件を否定 |
| 東京高判令和5年3月9日金判1674号28頁 | 50対50(法人株主と個人株主)の合弁会社。事業方針の対立から営業権の移管が実施されず、令和2年度以降赤字、売上ゼロの年度が続き、預金が減少 | 認容 | 業務の執行において著しく困難な状況に至り、回復できない損害が生じ又は生じるおそれがあると認定。株式の移譲も困難で、株主の正当な権利を保護するには解散して清算を受けるほかないとしてやむを得ない事由を認めた |
| 東京高判令和6年10月9日金判1708号38頁 | 50対50の夫婦株主。別居後に対立が激化し、計算書類の承認や役員の再任決議ができない | 棄却 | 1号事由の解釈は大阪高判令和4年と同旨。従業員9名程度、取引先105社程度を擁し、純利益は減少傾向でも利益を上げる資産超過の会社であることから、業務の執行において著しく困難な状況に至ったとはいえないとした |
図表4 解散請求をめぐる近時の裁判例 ― 分岐点は「業務そのものが止まっているか」
分水嶺。五つの裁判例はすべて50対50のデッドロック事案ですが、結論は分かれています。分岐点は、株主・役員レベルの意思決定が止まっているだけか、それによって会社の業務そのものが著しく停滞し、赤字や資金流出といった回復困難な損害が生じているかです。大阪高判令和4年と東京高判令和6年は、日常業務が回り利益が出ている会社について、株主総会が開けず役員の再任ができない状態を「業務執行の著しい困難」とは認めませんでした。東京高判令和5年は、売上ゼロ・預金減少という業務停止の実態があったからこそ認容されています。従業員や取引先というステークホルダーがいる会社を株主間の対立だけで解散させることに、裁判所は慎重です。
「やむを得ない事由」の内実。やむを得ない事由は、解散以外の方法で状況を打開できないことを意味し、株式の買取り、一時取締役の選任、役員の交代などで解決できるなら否定されます。持分会社の解散請求に関する最高裁判例は、除名などによって打開の途がある場合にはやむを得ない事由に当たらないとし(最判昭和33年5月20日民集12巻7号1077頁)、他方で、社員間の信頼関係が破壊され多数派が利己的な業務執行を続ける場合には解散事由に当たり得るとしています(最判昭和61年3月13日民集40巻2号229頁)。株式会社の解散請求でも、被告会社側から「相当な価格での買取りを提案している」という主張がされ、原告がこれを拒んでいる場合には、やむを得ない事由が否定される方向に働きます。東京地判平成28年は買取提案があっても認容しましたが、近時の高裁の傾向を踏まえると、原告側は、買取交渉を尽くしたがまとまらなかった経過を証拠化しておく必要があります。
8「終わらせるため」の武器 ― 戦略的な使い方と被告会社側の対応
原告側の使い方。解散の訴えの実務的な意味は、判決を取ることより、「このままなら双方が会社の価値を失う」という現実を相手に突きつけ、買取り・分社化などの出口合意を成立させるところにあります。核兵器は使わないことに意味がある、という比喩が当てはまる制度です。もっとも、脅しとして中途半端に振り回せば、関係修復の余地を焼き払うだけです。近時の高裁判決が要件を絞った結果、黒字で業務が回っている会社では「訴えても棄却される」ことを被告側も知っていますから、実態のない予告は交渉力を持ちません。原告側は、①第2段階の手続で会社の財務と業務の実態(赤字、資金流出、取引先の離反、金融機関の対応)を証拠化し、②買取交渉を尽くしたがまとまらなかった経過を記録し、③解散判決が確定した場合に自分が受け取る清算価値と、買取りで受け取れる価格を比較した上で、④「いつ、どの温度で」解散の訴えを持ち出すかを、事案全体の出口設計の中で決めます。訴えを提起した後も、裁判所は和解を勧めることが多く、審理の過程で株式の買取価格が形成されていきます。
被告会社側の対応。解散の訴えを予告・提起された会社側(実際には相手方株主側)の対応は、①業務が停滞していないこと(売上、利益、従業員、取引先、金融機関との関係)を客観的に示す、②相当な価格での買取り提案を書面で行い、解散以外に打開の途があること(やむを得ない事由の不存在)を示す、③一時取締役の選任申立てなど、意思決定の凍結を解消する手段を自ら講じる、④原告の訴え提起が悪意によるものと疎明できる場合には担保提供命令を申し立てる(836条)、⑤原告の目的が株主としての利益と無関係な会社の利益侵害である場合には権利濫用を主張する、の五つです。②は、原告側が第21講の譲渡承認請求に進んだ場合の売買価格決定と同じ土俵ですから、第3講・第4講の評価理論に基づく価格でなければ、「相当な価格」とは評価されません。
そもそも50対50を作らない デッドロックの最良の対策は予防です。共同創業なら51対49にして株主間契約で49%側の利益(役員指名権、拒否権事項、退出時の買取価格)を保護する、相続なら遺言で後継者に過半数を集め他の相続人には代償金や種類株式(第9講)で対応する、合弁なら契約にデッドロック解消条項を必ず入れる(図表2)、がそれぞれの経路での基本です。既に50対50である会社は、対立が起きていない今のうちに、株主間契約でデッドロック解消条項を合意しておくことができます。属人的株式(109条2項)で一方に議決権を1株分だけ多く与える、役員選任権付種類株式(108条1項9号)で取締役の指名権を分ける、といった定款の工夫も、対立前であれば全株主の同意で導入できます。
PRACTICE NOTE
デッドロック案件の初動と出口設計
当事務所が50対50の対立のご相談を受けたとき、最初に確認する項目と、出口設計の順序です。
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| 確認項目 | 内容 | なぜ必要か |
|---|---|---|
| ① 本当に50対50か | 株主名簿、名義株、準共有株式(相続未分割)、自己株式、議決権制限株式の有無を確認する(第5講・第6講・第16講) | 1株でも差があれば普通決議は通る。相続未分割なら準共有株式の権利行使者指定(106条)で局面が変わる |
| ② 株主間契約・定款の確認 | デッドロック解消条項、譲渡制限の承認機関、属人的株式・種類株式、取締役の員数・任期 | 条項があれば最優先。承認機関が取締役会なら譲渡承認請求はみなし承認に至りやすい |
| ③ 会社の機能停止の程度 | 役員の任期満了と登記、計算書類の承認状況、報酬・配当の決議、取締役会の開催状況、金融機関・取引先の反応、業績・資金の推移 | 解散の訴えの1号事由(業務の著しい停滞)の見通しを立てる。黒字で業務が回っていれば解散請求は棄却される傾向 |
| ④ 依頼者の出口の希望 | 残って経営したいのか、売って離脱したいのか、どちらも残らない(売却・清算)でよいのか。資金力 | 「どちらが買うか」が決まらなければ価格交渉に入れない。資金力がなければ売る側になる |
| ⑤ 株式の価値の把握 | 計算書類の取得、簿価純資産、私的鑑定(第3講)、清算価値の試算 | 買取価格の交渉レンジと、解散した場合の受取額を比較する |
| ⑥ 相手方の不正の有無 | 私的流用、過大報酬、関連取引、競業。会計帳簿閲覧・検査役で証拠化 | あれば第2段階(責任追及・解任の訴え・仮処分)が使え、交渉力が変わる。なければ純粋な価格交渉 |
| ⑦ 段階の設計 | 第1段階(買取交渉・分割・売却)→第2段階(一時取締役・閲覧・検査役・責任追及)→第3段階(解散の訴え)の順序、時期、各段階で相手方に示す情報 | 解散の訴えを最初に持ち出すと関係修復の余地を失う。段階ごとに相手方のコストを上げる |
| ⑧ 和解の設計 | 買取価格・支払方法・保証の解除・役員退任・競業避止・秘密保持・口外禁止(企業内部紛争36講・第35講) | 解散の訴えの審理中に和解が成立することが多い。実行できる和解の条項を事前に用意する |
デッドロック案件では、法的手続の知識よりも、依頼者と相手方のどちらが会社に残るのか、残らないのか、という出口の見極めが先です。出口が定まれば、価格と手続はそこに向けて組み立てられます。出口を定めないまま手続を始めると、相手方のコストを上げるだけで、自分のコストも上がり続けます。
実務チェック
- 株主名簿・名義株・準共有株式・自己株式を確認し、本当に議決権が50対50かを検証したか。
- 株主間契約・定款にデッドロック解消条項、属人的株式、種類株式、譲渡承認機関の定めがあるかを確認したか。
- 役員の任期満了・登記の状態、計算書類の承認、報酬・配当の決議、取締役会の機能を確認し、会社の機能停止の程度と業績・資金の推移を把握したか。
- 依頼者が会社に残るのか、離脱するのか、双方離脱(売却・清算)でよいのか、出口の希望と資金力を確認したか。
- 買取価格の交渉レンジ(第2講〜第4講)と、解散した場合の清算価値を試算し、比較したか。
- 一時取締役の選任申立て、閲覧請求、検査役選任、責任追及、仮処分のうち、事案に適した第2段階の手段を選び、順序を決めたか。
- 解散の訴えについて、業務そのものの著しい停滞と回復困難な損害を裏づける証拠があるか、近時の高裁判決の基準に照らして見通しを立てたか。
- 買取交渉を尽くしたがまとまらなかった経過を証拠化し、やむを得ない事由の主張に備えたか。
- (被告側)業務継続の実績を示す資料と、相当な価格での買取提案を用意し、担保提供命令・権利濫用の主張の可否を検討したか。
- 和解の条項(価格・支払・保証解除・退任・競業避止・口外禁止)を事前に設計し、審理中の和解に備えたか。
よくある質問
共同創業者と50%ずつで対立し、総会で何も決まりません。会社は黒字で営業は続いています。解散の訴えは認められますか。
近時の高裁判決の基準では、難しいと見るべきです。会社法833条1項1号の「業務の執行において著しく困難な状況」は、株主総会や取締役会で意思決定ができないという事実だけでは足りず、それによって会社の業務そのものが著しく停滞し、赤字や資金流出のような回復困難な損害が生じ又は生じるおそれがあることを要する、というのが大阪高判令和4年3月24日と東京高判令和6年10月9日の判断です。黒字で従業員も取引先も維持されている会社の解散請求は、この基準では棄却される傾向にあります。ただ、これは「打つ手がない」ことを意味しません。①一時取締役の選任申立て(346条2項)で凍結した取締役会を動かす、②会計帳簿閲覧や検査役で相手方の業務執行を検証する、③譲受人候補を立てて譲渡承認請求をする(デッドロック下では2週間以内の不承認通知ができず、みなし承認に至りやすい。第21講)、といった手段で相手方のコストを上げ、買取交渉に引き戻すのが現実的な道筋です。また、対立が長引いて業績が悪化し、業務停止の実態が生じれば、解散請求の見通しは変わります。いずれにしても、依頼者が会社に残りたいのか離脱したいのかを先に決め、そこに向けて段階を設計します。
(会社側)50%株主から解散の訴えを起こすと通知されました。従業員20人の黒字会社です。防げますか。
防げる可能性は高いですが、準備は必要です。第一に、業務が停滞していないことを客観的に示す資料(売上・利益の推移、従業員数、取引先数、金融機関との取引状況、日常業務の継続)を整えます。近時の高裁判決は、利益を上げ資産超過を維持している会社について、株主総会が開けず役員の再任ができなくても、業務執行の著しい困難には至っていないと判断しています(東京高判令和6年10月9日)。第二に、解散以外の打開手段があることを示すため、相当な価格での株式買取りの提案を書面で行います。この「相当な価格」は、第3講・第4講の評価理論に基づく実質的な価値でなければ意味を持たず、額面や税務上の評価額の提示では、かえって「打開の途を閉ざしている」と評価されかねません。第三に、一時取締役の選任申立てなど、意思決定の凍結を解消する手段を自ら講じます。第四に、原告の訴えが悪意によるものと疎明できるなら担保提供命令(836条)を、原告が株主としての利益と無関係な目的で会社を害しようとしている場合には権利濫用を主張します。もっとも、解散の訴えを退けても50対50の構造は残ります。訴訟を、買取りによる資本関係の解消に向けた交渉の場として使うことを考えるべきです。
兄と半分ずつ相続しましたが、まだ遺産分割が終わっていません。この場合も50対50のデッドロックですか。
違います。遺産分割が終わるまで、相続した株式は相続人全員の準共有であり(民法898条、会社法106条)、共有者は権利を行使する者1人を定めて会社に通知しなければ、原則として議決権を行使できません(106条本文)。権利行使者の指定は共有持分の価格の過半数で決まりますが(最判平成9年1月28日)、兄弟2人で持分が半分ずつなら、権利行使者も決められないことになります。この場合、会社が同意すれば共有者の一部が議決権を行使できますが(106条ただし書)、共有者間の意思が異なる場合の会社の同意には制約があります(最判平成27年2月19日。第16講)。つまり、遺産分割前は「50対50で否決される」のではなく、「相続株式の議決権がそもそも行使できない」状態であり、他に株主がいなければ株主総会自体が機能しません。出口は、遺産分割で株式の帰属を決めることです。遺産分割の協議・調停・審判(第18講)で、株式を一方に集め他方に代償金を支払う、あるいは共有分割を避ける、という設計をします。遺産分割で50対50に分けてしまうと、その時点から本講のデッドロックが始まりますから、分割の段階で株式の帰属を一方に寄せるか、株主間契約とデッドロック解消条項をセットで合意しておくことをお勧めします。
解散判決が出たら、会社はどうなりますか。私の株はいくらになりますか。
解散判決が確定すると会社は解散し(会社法471条6号)、清算手続に入ります。株主総会の決議で解散した場合と異なり、解散判決による解散は株主総会の決議で会社を継続することができません(473条)。清算人は取締役がそのまま就任するのではなく、裁判所が選任します(478条3項)。清算人は会社の財産を換価し、債権者に弁済し、残った財産を株主に持株数に応じて分配します(504条以下)。あなたが受け取るのは、この残余財産の50%、すなわち清算価値です。事業を続けていれば生まれたはずの収益力(継続企業価値)は失われ、資産の処分価格は帳簿価額を下回ることも多く、従業員の退職金や解約違約金などの清算費用も差し引かれます。第2講の「四つの値段」でいえば、清算価値は多くの場合、継続企業としての実質価値より低くなります。だからこそ、解散の訴えは「双方が損をする」武器であり、審理の過程で、清算価値より高く継続価値より低い価格での株式買取りという和解が成立しやすいのです。解散請求を検討する際には、清算価値の試算を先に行い、買取りで受け取れる価格と比較してください。
これから友人と会社を作ります。50%ずつにしたいのですが、問題ありますか。
本講で見たとおり、50対50は対立したときに会社が止まる構造です。それでも対等を選ぶなら、対立していない今のうちに株主間契約を結び、デッドロック解消条項(一方が価格を提示し他方が売るか買うかを選ぶ方式、第三者評価による買取り、など。図表2)を必ず入れてください。あわせて、役員の指名権、拒否権事項、退職時の株式買取り(プット・コール)、譲渡制限の承認手続との整合、競業避止を定めます(第10講)。51対49にして49%側の利益を株主間契約で保護する方法もあり、これなら少なくとも取締役の選任はでき、会社は止まりません。定款でも、属人的株式(109条2項)で一方に議決権を1株分多く与える、役員選任権付種類株式(108条1項9号)で取締役の指名権を分ける、といった設計が可能です。任期は原則の2年とし、10年に伸ばさないことも、対立時の柔軟性を保ちます(第23講)。対立は起きないと思って始める共同経営が、対立したときに最も高くつきます。
おわりに ― 使わないために持つ武器
50対50の対立は、会社法が用意した多数決という解決装置が働かない、例外的な状況です。法は最終手段として解散の訴えを用意しましたが、近時の裁判所は、従業員と取引先を抱えて利益を上げている会社を、株主の対立だけで消滅させることに慎重です。したがってこの武器は、判決を取るためではなく、双方に「共倒れ」の現実を見せて、株式の買取りという出口に向けた合意を成立させるために持つものです。その温度と時期を誤れば、関係修復の余地を焼き払い、自分のコストも上げ続けることになります。デッドロック案件こそ、株主間紛争の全手続を知り、出口から逆算して段階を設計する弁護士の腕が問われる領域だと考えています。
明徳法律事務所(大阪市西区)では、50対50の対立について、株式の帰属と議決権の確認、株主間契約・定款の検討、買取価格の算定(公認会計士との協働)、一時取締役の選任申立てから閲覧・検査役・責任追及・仮処分までの第2段階の手続、解散の訴えの提起と防御、審理中の和解の設計、そして対立前の予防(株主間契約・定款設計)まで、原告側・被告側いずれの立場でもお引き受けしています。共同経営を終わらせる方法の全体像は、企業内部紛争36講・第33講もあわせてご覧ください。
この講の主な根拠条文・裁判例・資料
- 会社法〔e-Gov法令検索〕106条、108条1項9号、109条2項、144条、145条1号、297条、309条1項、341条、346条、351条、358条、360条、361条1項、362条4項、369条1項、433条、438条2項、442条3項、454条1項、471条、473条、478条3項、504条以下、833条〜838条、847条、854条
- 民法〔e-Gov法令検索〕898条
- 民事保全法〔e-Gov法令検索〕23条2項、56条
- 最判昭和33年5月20日民集12巻7号1077頁合資会社の解散請求について、除名により打開の途がある場合にはやむを得ない事由に当たらないとした判例
- 最判昭和61年3月13日民集40巻2号229頁合名会社の解散請求について、社員間の信頼関係の破壊と多数派の利己的な業務執行が解散事由に当たり得るとした判例
- 東京地判平成28年2月1日(判例集未登載)50対50の同族会社の解散請求を認容し、買取提案があってもやむを得ない事由を認め、権利濫用を否定した裁判例
- 東京地立川支判平成29年12月26日金判1566号51頁(東京高判平成30年6月27日)2名の株主の根深い対立により総会・取締役会が開催できない状態が継続していることからやむを得ない事由を認めた裁判例
- 大阪高判令和4年3月24日金判1668号39頁833条1項1号の事由には業務そのものの著しい停滞とこれに起因する回復困難な損害を要するとして、50対50のデッドロック事案の解散請求を棄却した裁判例
- 東京高判令和5年3月9日金判1674号28頁50対50の合弁会社について、赤字・売上ゼロ・預金減少の実態から業務執行の著しい困難を認め、解散請求を認容した裁判例
- 東京高判令和6年10月9日金判1708号38頁50対50の夫婦株主の対立事案について、利益を上げる資産超過の会社であることから業務執行の著しい困難を否定し、解散請求を棄却した裁判例
- 最判平成9年1月28日判時1599号139頁、最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁準共有株式の権利行使者の指定と会社の同意(第16講)
- 加藤真朗編著『株主管理・少数株主対策ハンドブック』(日本加除出版、2022年)、近藤光男・加藤真朗編著『リーガル・フロンティア 取締役の辞任と解任』(商事法務、2025年)
条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例は掲載誌の巻号頁を記載しています。
公開日 2026年8月24日/改訂日 2026年9月22日