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『企業内部紛争36講 ― 経営権争いの教科書 ―』【第2講】

株式の過半数を持っていても決められないこと

第2講 過半数を持っていても決められないこと|明徳法律事務所

第2講全体像と初動

過半数を持っていても決められないこと

所有・議決権・機関・代表権・実務・司法

明徳法律事務所 弁護士 坂本龍亮読了目安 17分

この講の結論

持株比率は経営への影響力を測るうえで欠かせない数字ですが、それだけで会社の意思決定や代表権が決まるわけではありません。持っている株数、その議案で投票できる議決権の数、総会に出席した議決権の数、取締役の人数は、それぞれ別のものです。どの機関の、どの決議に、何が必要かを一つずつ確かめてはじめて、「過半数」の意味がわかります。

株式の帰属と名義を確かめる

最初に確かめるのは「誰の株か」です。株式の譲渡は、取得者の氏名と住所を株主名簿に記載しなければ会社その他の第三者(株券発行会社では会社)に対抗できませんから(会社法130条1項・2項)、会社に対して株主として権利を行使する場面では、株主名簿が出発点になります。ただし、株主名簿に書いてあることと、実体としての株式の帰属は別の問題です。譲渡契約の有無、対価の支払、株券発行会社であれば株券の交付、相続や遺産分割の内容が争われることは珍しくありません。

中小企業では、設立時に親族や従業員の名義を借りて出資した「名義株」が問題になります。他人の承諾を得てその名義で株式を引き受けた場合、株主になるのは名義人ではなく、実際に出資した実質上の引受人であるというのが最高裁の判断です(最判昭和42年11月17日民集21巻9号2448頁)。名義を貸した側が「自分の株だ」と主張して総会で投票しようとする事態、あるいはその逆の事態は、内部紛争の典型的な発火点です。

他方、名義書換が済んでいない譲受人について、会社の側が自らの危険において譲渡を認め、譲受人を株主として扱うことは妨げられないとされています(最判昭和30年10月20日民集9巻11号1657頁)。多数派が会社を掌握している場合、名簿の記載と実体の食い違いをどちらの方向に使うかで、総会の結果が変わることになります。

なお、株式会社の登記には、発行済株式の総数は記載されますが(911条3項9号)、個々の株主の氏名や持株数は記載されません。登記事項証明書を見ても株主構成はわからず、法人税申告書別表二(同族会社等の判定に関する明細書)は有力な手がかりになるものの、それだけで株式の帰属が確定するわけでもありません。発行済株式総数と株主名簿の株数が合っているというだけで権利関係を確定させないことが肝要です。

株数と議決権数を分ける

株主は原則として一株につき一個の議決権を持ちますが(308条1項)、株数と議決権数がずれる場合がいくつもあります。

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ずれが生じる場面内容根拠
自己株式会社が保有する自己株式には議決権がない。分母からも外れる308条2項
相互保有株式発行会社(その子会社を含む)が、株主である会社の総株主の議決権の4分の1以上を持つなど、発行会社がその株主の経営を実質的に支配できる関係にある場合、その株主は議決権を持たない308条1項、会社法施行規則67条
単元株式単元株式数を定款で定めている場合、一単元につき一個の議決権308条1項ただし書
議決権制限株式種類株式として、議決権を行使できる事項を制限できる108条1項3号
株主ごとの異なる取扱い非公開会社では、議決権について株主ごとに異なる取扱いを定款で定められる109条2項
相続などによる準共有共有者の一人を権利行使者に定めて会社に通知しなければ、原則として権利を行使できない106条
基準日基準日を定めた場合、その日の株主名簿上の株主が権利を行使する124条

相続で株式が分散した会社では、準共有の扱いが結論を左右します。遺産分割が終わるまで、相続された株式は相続人の準共有になり、権利行使者を一人定めて会社に通知しなければ、原則として議決権を行使できません(106条本文)。会社が同意すれば例外的に行使できる余地はありますが(同条ただし書)、最高裁は、共有株式の議決権行使は民法の共有物の管理に関する事項として、特段の事情のない限り持分の価格の過半数で決めるべきものであり、その手続を踏んでいない権利行使は、会社が同意しても適法にはならないと判断しています(最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁。判決は改正前の民法252条本文によるもので、現行法では252条1項に当たります)。「相続人の一人が会社の了解のもとに全部の議決権を行使した」という総会は、後から取消しの対象になり得ます。

決議の成否を数えるときは、①その議案について議決権を行使できる議決権の総数、②出席した議決権の数、③賛成した議決権の数、の三つを分けて数えます。「100株のうち60株を持っている」ことと、「その議案について行使できる議決権の60%を持っている」ことは同じではありません。また、欠席と反対は効果が異なります。定足数を満たしたうえで出席者の多数が賛成すれば決議は成立しますから、反対したいなら出席して反対票を投じる必要があり、欠席は定足数を割らせる場合にしか意味を持ちません。具体的な数え方は第14講で扱います。

株主総会――過半数と3分の2の読み方

普通決議は、定款に別段の定めがない限り、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数で成立します(309条1項)。定款で定足数を外している会社も多く、その場合は出席した議決権の過半数で決まります。ただし、役員の選任・解任には特則があり、定足数を定款で引き下げても議決権の3分の1未満にはできません(341条)。

特別決議は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数(定款で3分の1以上の割合まで引き下げ可能)を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を要します(309条2項)。定款変更、事業譲渡、解散のほか(同項11号)、非公開会社での募集株式の発行(同項5号)、監査役の解任や累積投票(342条)で選任された取締役の解任(同項7号)がこれに当たります。「全株式の3分の2を持たなければ特別決議は可決できない」という説明は不正確です。分母は出席した議決権であって発行済株式ではありません。逆に、3分の1を超える議決権を持っていれば、出席して反対する限り特別決議を否決できますが、欠席すれば可決されることがあります。

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よくある言い方実際に確認すること
51%あれば役員を替えられるその議案で行使できる議決権の数、定款による要件の加重、種類株主総会の要否、招集手続の適法性、選任・解任の特則(341条)。解任には正当な理由がなければ損害賠償の問題が残る(339条2項)
40%あれば特別決議を止められる当該議案の議決権数、出席して反対票を投じること、定款の定足数。欠席では可決される場合がある
50%対50%なら何もできない総会の定足数と双方の出欠、現在の取締役会の構成と代表権の所在、既に決定済みの事項と日常業務の執行。株主総会で新しい決議ができなくても、会社は止まらない

総会を開かない決議の方法もあります。取締役または株主が提案した事項について、議決権を行使できる株主の全員が書面または電磁的記録で同意すれば、その提案を可決する総会決議があったものとみなされます(319条1項)。また、招集手続を欠いていても、株主全員がその開催に同意して出席した総会の決議は有効とされています(最判昭和60年12月20日民集39巻8号1869頁)。どちらも「全員」が要件です。一人でも反対する株主がいれば、正規の招集手続を踏むほかありません。

取締役会――株数ではなく人数

取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その出席者の過半数で決まります(369条1項。定款で引き上げ可能)。ここでは株数は関係がなく、一人一票です。大株主であっても取締役でなければ取締役会に出席も投票もできませんし、取締役の一人であれば持株がゼロでも一票を持ちます。

決議について特別の利害関係を持つ取締役は議決に加われません(369条2項)。代表取締役の解職の決議において、解職される当人がこれに当たるというのが最高裁の判断です(最判昭和44年3月28日民集23巻3号645頁)。3人の取締役のうち代表取締役1人と他の2人が対立している場合、解職決議は当人を除く2人で行うことになり、その2人の一致で可決されます。

取締役会は各取締役が招集できますが、定款や取締役会で招集権者を定めている場合、他の取締役は招集権者に招集を請求し、5日以内に、請求日から2週間以内の日を会日とする通知が発せられなければ自ら招集できます(366条)。招集通知は会日の1週間前まで(定款で短縮可能)に各取締役と、監査役設置会社では各監査役に発しなければならず、全員の同意があれば招集手続を省略できます(368条)。一部の取締役に通知を出さずに開いた取締役会の決議は、特段の事情がない限り無効ですが、その取締役が出席しても結果に影響がなかったと認められる特段の事情があれば有効とされます(最判昭和44年12月2日民集23巻12号2396頁)。対立する取締役を呼ばずに開いた取締役会は、後から効力を争われる可能性が高いと考えておくべきです。

取締役会設置会社では取締役は3人以上でなければなりません(331条5項)。取締役が2人しかいない会社で「取締役会決議」と称する書面が作られていることがありますが、そもそも取締役会を置く会社でないなら、その会社の業務は取締役の過半数で決め(348条2項)、代表取締役は定款、定款に基づく取締役の互選、または株主総会の決議で定めます(349条3項)。取締役会があるかないかで、意思決定の仕組みも、株主総会で決められる事項の範囲も変わります(295条1項・2項)。登記事項証明書の「取締役会設置会社に関する事項」の欄で確認できます。

代表権――契約する権限は別に確認する

取締役会設置会社では、取締役会が取締役の中から代表取締役を選定し、解職します(362条2項3号・3項)。取締役会を置かない会社では各取締役が会社を代表するのが原則で、定款や取締役の互選、株主総会の決議によって代表取締役を定めることができます(349条1項〜3項)。非公開会社であれば、取締役会設置会社であっても、取締役会のほかに株主総会の決議でも代表取締役を定められる旨を定款に置くことができ、その定めは有効とされています(最決平成29年2月21日民集71巻2号195頁)。定款にこの定めがあれば、株主総会の多数派は取締役会を経ずに代表取締役を選定できます。もっとも、この決定が有効とした定款の定めは代表取締役を「定める」ことに関するものであり、総会で新たな代表取締役を選定しても、それによって現在の代表取締役の代表権が当然に失われるわけではありません。定款の確認を欠かすことはできません。

代表取締役は会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を持ち、これに制限を加えても善意の第三者には対抗できません(349条4項・5項)。株主であること、「社長」「会長」という呼称、会社の実印を保管していることは、いずれも代表権の根拠にはなりません。もっとも、代表権のない取締役に社長などの名称を付していた場合、会社はその取締役の行為について善意の第三者に責任を負うことがあります(354条)。対外的な信頼の問題と、内部での権限の問題は、分けて考える必要があります。

株式を一株も持たない代表取締役も適法に選定できます。所有と経営が分かれていること自体は、違法でも権限の欠如でもありません。「株を持っていないのだから社長の資格がない」という主張は、原則として法律上は成り立ちません。ただし、非公開会社では取締役を株主に限る旨を定款で定めることができますから(331条2項ただし書)、定款にその定めがある会社では別です。

資金・情報・業務――事実上の管理を可視化する

金融機関のインターネットバンキングの利用者権限、電子契約サービスの署名権限、会計システムや給与システムの管理者アカウント、ドメインやメールサーバーの管理者権限、主要な取引先との窓口担当は、役員の交代や代表権の移転によって自動的に切り替わるものではありません。法律上の代表権を得ても、これらを一つずつ切り替えなければ会社を動かせません。

逆に、管理者アカウントを握っていることは、それを自由に使う権限や、他の役員を締め出す権限の根拠にはなりません。代表権を失った元代表者が銀行の権限を使って送金を続ければ、権限のない行為として損害賠償や刑事の問題になり得ます。会社の実印についても同様で、印鑑を登記所に提出している会社では、印鑑証明書によって代表者の印であることを証明できますが、印鑑そのものを誰が保管しているかと代表権の所在は別の問題です。

紛争の初期に、誰が、どの根拠で、何を管理しているか、誰がそれを代行できるかを一覧にしておきます。紛争の最中も、給与の支払、納税、システムの保守、取引先への納品は続けなければなりません。権限の適法性を確かめながら、事業を止めない引継ぎを組み立てていきます。

株主から総会を招集する経路

株主総会は原則として取締役が招集します(296条3項)。取締役会設置会社では、招集の決定は取締役会の決議によります(298条4項)。多数派株主であっても、取締役会が招集を決めない限り総会は開かれません。そこで会社法は、株主の側から総会を開かせる経路を用意しています。

総株主の議決権の3%以上(定款で引き下げ可能)を持つ株主は、総会の目的事項と招集の理由を示して、取締役に総会の招集を請求できます(297条1項)。公開会社では6か月前からの継続保有が必要ですが、非公開会社には期間の要件がありません(同条2項)。分母となる総株主の議決権からは、その目的事項について議決権を行使できない株主の議決権を除きます(同条3項)。

請求後に遅滞なく招集の手続が行われない場合、または請求日から8週間(定款で短縮可能)以内の日を会日とする招集通知が発せられない場合には、請求した株主は裁判所の許可を得て自ら総会を招集できます(297条4項)。「必ず8週間待ってから裁判所へ行く」という制度ではなく、会社側が招集の手続に着手しないことが明らかであれば、その時点で許可を申し立てられます。許可の申立ては会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に対して行い(868条1項)、許可を得た株主は、自らが招集者として総会の日時・場所や目的事項を定め(298条1項)、招集通知を発します。通知は会日の2週間前まで、非公開会社では原則として1週間前までに発しなければなりません(299条1項)。

総会を開けても、そこで何が決議できるかは別問題です。取締役会設置会社では、株主総会は法律と定款に定めた事項しか決議できませんから(295条2項)、例えば代表取締役の選定を総会で行いたいなら、前述の定款の定めが必要になります。取締役の選任と解任は法律上の総会決議事項ですから(329条1項、339条1項)、取締役の構成を変えることを通じて代表者を変えるのが、定款に特別の定めがない会社での通常の道筋です。

司法――権利の確認と暫定的な保護

裁判所は「経営権一式」をまとめて誰かに与える機関ではありません。総会決議の効力、取締役や代表取締役の地位、特定の行為の差止め、帳簿や議事録の閲覧、損害賠償といった請求を、一つずつ判断します。「会社を返してほしい」という請求はなく、どの権利の確認や実現を求めるのかを、請求ごとに組み立てることになります。

判決を待てない場面では仮処分を使いますが、仮処分にも、保全されるべき権利(被保全権利)と、争いのある権利関係について著しい損害または急迫の危険を避ける必要性(保全の必要性)の疎明が求められます(民事保全法13条2項、23条2項)。取締役の職務執行停止や職務代行者の選任、株主総会の開催禁止や特定の議決権行使の禁止、新株発行の差止めなどが、内部紛争で使われる仮処分の典型です。

副題に掲げた六つの視点からの整理を踏まえて、機関と権限の問題は第7〜14講、資産と情報の問題は第15〜24講、救済の選び方は第25〜30講へ進んでください。

PRACTICE NOTE

60%を持つ株主でも、代表権は別に確認する

【設例】Aが60%、Bが40%の株式を持ち、取締役会設置会社で、取締役はA、B、Cの3人、代表取締役はBとします。Aは、Bが会社の資金を私的に使っている疑いを持ち、Bを代表者から外したいと考えています。

Aが株主として過半数を持つことと、Aが会社名で銀行に送金を指示できることは別です。現時点で会社を代表して契約や送金ができるのはBだけであり、Aが単独で「Bを代表取締役から解職した」と通知しても、取締役会の決議に代わることはありません。

Aが取れる道筋は二つあります。一つは取締役会です。取締役会でBの解職を決議する場合、Bは特別利害関係を持つ取締役として議決に加われませんから(369条2項、最判昭和44年3月28日)、AとCの2人で決議することになり、Cが賛成すれば可決されます。Cが賛成しなければ、この道は使えません。取締役会の招集権者がBと定められている場合でも、Aは招集を請求し、所定の期間内に通知が発せられなければ自ら取締役会を招集できます(366条2項・3項)。

もう一つは株主総会です。Aは60%の議決権を持ちますから、普通決議(341条)でBを取締役から解任すれば、Bは取締役の地位を前提とする代表取締役の地位も失います。取締役会設置会社では取締役が3人以上必要ですから(331条5項)、同じ総会で後任を選任し、新しい取締役会で代表取締役を選定します。Bを解任せずに、定款の員数の範囲で取締役を増員し、取締役会の多数を得てBを解職するという進め方もあります。定款に株主総会でも代表取締役を定められる旨の定めがあれば、総会で別の代表取締役を選定することも可能ですが、それだけではBの代表権は失われず、Bを外すには取締役会での解職か取締役からの解任が必要です。なお、取締役の解任に正当な理由がなければ、解任された取締役から会社に対する損害賠償請求が残ります(339条2項)。Bの資金流用が裏付けられれば正当な理由に当たり得ますが、疑いの段階での解任は、この点の争いを残すことになります。

株主総会の道筋では、総会の招集は取締役会の決議によりますから(298条4項)、取締役会が招集を決めなければ、Aは招集請求と裁判所の許可という経路(297条)を使うことになります。この間にBによる違法な送金が目前に迫っているなら、役員交代の手続とは別に、その送金を対象とする差止めの仮処分の要否を判断します。手続にかかる期間と資金が流出する速さを比べ、どちらを先に動かすかを決めます。

実務チェック

  • 株主名簿とは別に、議案ごとに「行使できる議決権数・出席数・賛成数」を書き込める議決権表を作る。
  • 定款の定足数、決議要件、種類株式、属人的な定め、代表取締役の選定方法を原文で確認する。
  • 取締役会設置会社かどうか、取締役の人数、各取締役の選任日と任期、代表者の選定方法を一覧にする。
  • 相続で株式が分散している場合は、権利行使者の指定と通知の有無を確かめる。
  • 銀行、電子契約、会計・給与システム、ドメインの管理者を、法律上の権限と結び付けて記録する。

よくある質問

60%の株主は、残り40%の反対を押し切って増資できますか。

非公開会社で第三者に募集株式を割り当てる場合、募集事項の決定は株主総会の特別決議によります(199条2項、309条2項5号)。40%の株主が出席して反対すれば、出席議決権の3分の2に届かず可決できません。ただし、株主総会の決議で募集事項の決定を取締役会に委任することができ(200条1項・3項。払込期日が決議の日から1年以内の募集に限られます)、また株主割当ての方法によるときは別の規律になります(202条)。持株比率だけでなく、過去の総会で委任決議がされていないか、定款に株主割当てに関する定めがないかを確認する必要があります。法令や定款に違反する発行、著しく不公正な方法による発行は、株主が不利益を受けるおそれがあるときに差し止めることができます(210条)。

実印を取り戻せば経営権も戻りますか。

戻りません。実印の保管と代表権は別の問題です。代表権は取締役会の決議、または定款・取締役の互選・株主総会の決議で定まり、登記によって第三者に対抗できるようになります(908条1項)。実印を持っていても代表権がなければ会社を代表する行為はできませんし、逆に代表権があれば印鑑を改めて登記所に提出し直すこともできます。役員の地位、登記、金融機関への届出、電子認証の各段階を整合させることが必要です。

50%対50%で対立しています。何も決められないのですか。

株主総会で新しい決議はできませんが、会社の活動が止まるわけではありません。現在の取締役の任期が続く間は、取締役会または取締役の過半数による業務執行の決定と、現在の代表取締役による対外的な行為は続きます。取締役の任期が満了して後任を選任できない場合、退任した取締役は新しい取締役が就任するまで引き続き権利義務を持ちます(346条1項)。こうした状態が長引く場合の出口は、株式の売買や事業の分割、解散の訴え(833条1項)などの検討になります。

株主総会を開かずに、書面だけで決議したことにできますか。

議決権を行使できる株主全員が書面または電磁的記録で同意した場合に限り、総会の決議があったものとみなされます(319条1項)。多数派だけの同意で「書面決議」とすることはできません。対立する株主が一人でもいる会社では、正規の招集手続を踏んだ総会を開く必要があります。

この講の主な根拠条文・裁判例

  • 会社法〔e-Gov法令検索〕106条、108条、109条、124条、130条、199条、200条、202条、210条、295条、296条〜299条、308条、309条、319条、329条、331条、339条、341条、342条、346条、348条、349条、354条、362条、366条、368条、369条、833条、868条、908条、911条
  • 会社法施行規則〔e-Gov法令検索〕67条
  • 民事保全法〔e-Gov法令検索〕13条2項、23条2項
  • 民法〔e-Gov法令検索〕252条1項
  • 最判昭和30年10月20日民集9巻11号1657頁名義書換未了の譲受人を会社が株主として扱うことは妨げられないとした判例
  • 最判昭和42年11月17日民集21巻9号2448頁他人名義で株式を引き受けた場合、名義人ではなく実質上の引受人が株主になるとした判例
  • 最判昭和44年3月28日民集23巻3号645頁代表取締役の解職決議について、当該代表取締役は特別利害関係を有する取締役に当たるとした判例
  • 最判昭和44年12月2日民集23巻12号2396頁一部の取締役への招集通知を欠く取締役会決議は特段の事情のない限り無効だが、その取締役が出席しても結果に影響がないと認めるべき特段の事情があれば有効とした判例
  • 最判昭和60年12月20日民集39巻8号1869頁招集手続を欠いても、株主全員がその開催に同意して出席した総会の決議は有効とした判例
  • 最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁共有株式の議決権行使は持分の価格の過半数で決めるべきものであり、これに従わない権利行使は会社が同意しても適法にならないとした判例
  • 最決平成29年2月21日民集71巻2号195頁取締役会設置会社である非公開会社において、株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の定めを有効とした決定

条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例の原文は、裁判所ウェブサイトの裁判例検索で裁判年月日から確認できます。旧商法下の判例は、判断の前提と現行法との違いに注意してお読みください。

公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日

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