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『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第5講】

紛争は株主名簿から始まる ― 会社側の株主管理・基本のキ:「うちの株主が誰か分からない」をどう解消するか ―

『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第5講】

05第Ⅱ部 会社の守り編 ― 株主管理と予防設計第5講

紛争は株主名簿から始まる
― 会社側の株主管理・基本のキ:「うちの株主が誰か分からない」をどう解消するか ―

「M&Aの買い手から株主名簿の提出を求められました。うちには法人税申告書の別表二しかありません。設立時に名前を借りた親戚が3人いて、そのうち2人はすでに亡くなっています」

「株式買取業者から、元従業員の株を買い取ったので名義書換をせよという通知が来ました。株主名簿を確認しようとしたら、そもそも作っていないことが分かりました」

この講の結論

非上場株式の紛争は、価格の争いとして表面化しますが、その前に「誰が何株を持っているのか」が確定していなければ、会社は守ることも攻めることもできません。株主名簿は会社法が作成と備置きを義務づけている帳簿であり(会社法121条・125条1項)、会社が株主を確定し、通知を送り、議決権を数える唯一の公式な台帳です。

中小企業では、名簿が存在しない、名義株が残っている、亡くなった株主の名義のまま、株券発行会社なのに株券を発行していない、といった不備が重なっています。これらは平時には見えませんが、M&A・株主総会の効力争い・相続・株式買取業者からの請求という四つの場面で一度に表に出ます。株主名簿の整備は、地味ですが、第6講以下で扱うすべての少数株主対策の土台です。

1株主名簿とは何か ― 作らなければ違法な帳簿

株主名簿は、株式会社が作成しなければならない帳簿です。会社法121条は、株主の氏名または名称と住所、株式の数(種類株式発行会社では種類と種類ごとの数)、株式を取得した日、株券発行会社であれば株券の番号を「株主名簿記載事項」として記載または記録することを求めています。書面でも電磁的記録でも構いません。会社は株主名簿を本店(株主名簿管理人を置く場合はその営業所)に備え置かなければならず(125条1項)、備え置かなかったとき、記載すべき事項を記載しなかったとき、虚偽の記載をしたときは、取締役等が100万円以下の過料に処せられます(976条7号・8号)。

実務では、この義務が守られていない会社が少なくありません。「法人税申告書の別表二(同族会社等の判定に関する明細書)に株主の名前が載っているから大丈夫」という説明を受けることがありますが、別表二は税務上の判定のための書類であり、会社法上の株主名簿ではありません。記載事項も異なり(取得日や株券番号はありません)、会社法上の効力もありません。同じことは、設立時の定款に記載された発起人の一覧や、登記申請の添付書面である「株主リスト」(商業登記規則61条2項・3項)についてもいえます。これらは株主名簿を作るための手がかりにはなりますが、株主名簿そのものではありません。

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記載事項 実務上の意味 根拠
株主の氏名・名称と住所 通知・催告の宛先になる。住所が古いままだと通知が届かず、所在不明株主の問題につながる 会社法121条1号、126条
株式の数(種類株式発行会社では種類と種類ごとの数) 議決権数・配当額・持株比率の計算の基礎。少数株主権の要件(3%、10%など)の判定にも使う 121条2号
株式を取得した日 取得の経緯(設立時出資、増資、譲渡、相続)を跡づける手がかり。名義株の争いでは重要な事実になる 121条3号
株券の番号(株券発行会社で株券が発行されている場合) 株券の所在と名簿を結びつける。株券を発行していない株券発行会社では空欄になる 121条4号

図表1 株主名簿の記載事項と実務上の意味

2株主名簿の三つの機能 ― 通知・対抗要件・議決権の確定

株主名簿には、会社の運営を支える三つの機能があります。

第一に、通知の宛先を確定する機能です。会社が株主に対してする通知や催告は、株主名簿に記載された住所に宛てて発すれば足り、通常到達すべきであった時に到達したものとみなされます(126条1項・2項)。株主総会の招集通知(299条)もこの規律に乗ります。逆にいえば、名簿がなければ会社は「誰に招集通知を送ればよいか」を法律上の根拠をもって決められません。

第二に、対抗要件としての機能です。株式の譲渡は、譲受人の氏名・住所を株主名簿に記載しなければ、会社その他の第三者に対抗することができません(130条1項。株券発行会社では会社に対して対抗できません。同条2項)。株式を買った人は、名義書換を受けるまで、会社に対して自分が株主だと主張できないということです。

第三に、権利を行使できる株主を確定する機能です。会社は基準日を定めて、その日の株主名簿上の株主を議決権や配当を受ける株主と定めることができます(124条)。また、登記の申請に添付する株主リストも、株主名簿を基礎に作成されます。株主総会で誰の議決権を数えるかは、名簿を基礎に判断されるのが原則です。

図解A 株主名簿の三つの機能と、名簿がない会社で起きること

① 通知の宛先名簿上の住所に発すれば到達したものとみなされる(126条)名簿がないと:招集通知の宛先を法的に確定できず、通知漏れ=決議取消事由(831条1項1号)の危険
② 対抗要件譲受人は名義書換をしなければ会社に株主であることを対抗できない(130条)名簿がないと:譲渡の記録が残らず、誰が株主かを会社が管理できない
③ 権利行使者の確定基準日の株主が議決権・配当を受ける(124条)。株主リストの基礎名簿がないと:議決権数の計算と定足数の判断が揺らぐ。M&Aで株式の帰属を証明できない

図解A 三つの機能はすべて「会社が株主を確定する」ことに向いている

3名簿上の株主と本当の株主が違うとき

株主名簿は、会社が株主を確定するための道具ですが、名簿に載っていることが「本当の株主であること」を保証するわけではありません。名簿上の株主と実質的な株主がずれる場合の扱いを整理しておきます。

株式を譲り受けたのに名義書換をしていない譲受人は、会社に対して自分が株主であることを主張できません(130条)。もっとも、この規律は会社を守るためのものですから、会社の側が譲渡の事実を認めて、名義書換未了の譲受人を株主として扱うことは差し支えないとされています(最判昭和30年10月20日民集9巻11号1657頁)。会社が名義書換を不当に拒んでいる場合には、譲受人は名義書換なしに株主であることを主張できると解されています。

他人の名義を借りて出資した「名義株」については、最高裁は、名義人ではなく実際に出資をした者(実質上の引受人)が株主になると判断しています(最判昭和42年11月17日民集21巻9号2448頁)。名簿上の名義がそのまま株主の地位を決めるわけではなく、誰が出資したか、誰が配当を受け、誰が株主として行動してきたかという実質が問題になります。名義株の類型と立証は第6講で詳しく扱います。

相続によって株式を取得した相続人は、譲渡ではなく一般承継ですから、名義書換をしていなくても株主です。会社法上も、相続人は名簿上の株主(被相続人)と共同することなく、相続を証する書面を添えて単独で名義書換を請求できます(133条2項、会社法施行規則22条1項4号)。ただし、遺産分割が終わるまで株式は相続人全員の準共有となり、権利行使者を定めて会社に通知しなければ議決権を行使できないという別の規律があります(106条。第16講)。

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ずれの類型 法律上の扱い 会社側の対応
譲渡を受けたが名義書換をしていない者 会社に株主であることを対抗できない(130条)。会社側が株主と認めることは可能(最判昭和30年10月20日) 譲渡制限株式であれば、譲渡承認の有無をまず確認する(134条)。承認のない譲渡は会社に対して効力がない(最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁)
名義株(他人名義で出資された株式) 実質上の引受人が株主(最判昭和42年11月17日) 出資の資金、配当の受領、議決権行使の実態などの資料を集め、名義人との合意による解消を目指す(第6講)
死亡した株主の名義のまま 相続人が一般承継により株主。遺産分割までは相続人全員の準共有(民法898条) 相続関係を確認し、権利行使者の指定を求める(106条)。定款に定めがあれば売渡請求も検討(174条・第17講)
住所が変わり通知が届かない株主 名簿上の住所に発すれば足りる(126条)。5年以上届かなければ通知不要(196条) 5年間配当も受領していなければ競売・売却の手続へ(197条。第15講)

図表2 名簿上の株主と実質的な株主がずれる四つの類型

4中小企業で起きている五つの症状

少数株主対策のご相談で最初に確認するのは、株主名簿です。そして相当数の中小企業で、次のような症状が見つかります。

第一の症状は、株主名簿が存在しない、または長年更新されていないことです。別表二だけで株主を管理してきた会社、設立時の名簿から一度も書き換えていない会社が珍しくありません。

第二の症状は、名義株です。平成2年の商法改正前は、株式会社の設立に7名以上の発起人が必要でした(改正法は平成3年4月1日施行)。この時代に設立された会社には、頭数を揃えるために親族や知人の名義を借りた株式が高い確率で残っています。設立から30年以上が経ち、名義人の相続が2代進んでいることもあります。

第三の症状は、亡くなった株主の名義がそのままになっていることです。相続人が誰かを会社が把握しておらず、招集通知を故人宛てに送り続けている例もあります。

第四の症状は、株券発行会社なのに株券を発行していないことです。会社法施行前に設立された会社は、定款に株券を発行しない旨の定めがなければ株券発行会社とみなされており(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律76条4項)、その多くが株券を発行したことがありません。この状態が株式譲渡の効力に影響することは、第6節で扱います。

第五の症状は、過去の増資・譲渡・承認の記録がないことです。株主総会や取締役会の議事録に譲渡承認の決議が残っていない、譲渡契約書や払込証明が見つからない、という状態では、現在の株主構成がどのような経緯で形成されたのかを証明できません。

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症状 放置した場合に起きること 関連する講
株主名簿がない・更新されていない 過料(976条7号・8号)。M&Aのデューデリジェンスで指摘され、価格の減額や取引中止の原因になる。招集通知の宛先が確定できない 本講
名義株が残っている 名義人やその相続人が株主権を主張し、株主権確認訴訟に発展する。時間の経過とともに出資の証拠が散逸する 第6講
死亡株主の名義のまま 準共有状態が放置され、議決権の扱いが不安定になる。相続人の一部が少数株主として権利行使を始める 第16講・第17講
株券発行会社なのに株券未発行 過去の株式譲渡の効力が争われる。株券発行を請求されると発行義務が生じる(215条) 本講第6節
増資・譲渡・承認の記録がない 株式の帰属と変遷を立証できない。承認のない譲渡の有効性が争われる 第6講・第21講
連絡のつかない株主がいる 特別決議の成立に必要な議決権が集まらない。株式の集約ができない 第15講

図表3 株主管理の症状と、放置した場合のリスク

5不備が表に出る四つの場面

株主名簿の不備は、平時には誰も困りません。配当がなく、株主総会が書面だけで済まされている会社では、株主が誰かを厳密に確定する必要が生じないからです。しかし、次の四つの場面で一気に表面化します。

場面① M&A・事業承継

会社を売却する、あるいは後継者に株式を集める場面では、買い手や金融機関、税理士が株主名簿と株式の変遷を確認します。名簿がない、名義株がある、相続処理が済んでいないという状態は、株式譲渡契約の表明保証の対象となり、価格の減額、契約条件の追加、場合によっては取引の中止につながります。株式を100%取得するつもりの買い手にとって、誰が株主か分からない会社は買えない会社です。

場面② 株主総会決議の効力が争われるとき

株主の一部に招集通知を送っていなければ、招集手続の法令違反として決議取消しの訴えの対象になります(831条1項1号)。長年、招集通知を送らずに議事録だけを作ってきた会社では、そもそも総会が開かれていないとして決議不存在(830条1項)が主張されることもあります。株主名簿が整っていなければ、会社は「全株主に通知した」ことを証明できません。総会決議の効力をめぐる争いは、兄弟連載『企業内部紛争36講』の第12講・第13講・第14講で扱っています。

場面③ 相続

オーナーや株主が亡くなると、その株式は相続人全員の準共有になります。会社は、誰が相続人で、誰が権利行使者かを確認しなければ議決権を数えられません。名義株の名義人が亡くなった場合には、名義人の相続人が「自分たちが株主だ」と主張し始めることがあり、出資の経緯を知る人がいなくなった後では立証が難しくなります。

場面④ 株式買取業者や第三者からの請求

少数株主から株式を買い取った第三者が、譲渡承認請求や名義書換請求をしてくる場面です。会社は、請求者が主張する譲渡人が本当に名簿上の株主か、譲渡制限株式の承認を経ているか(134条)、株券発行会社であれば株券の交付があったか(128条)を確認して応答しなければなりません。名簿がなければ、この確認の起点がありません。第1講で触れた大阪高判令和6年7月12日(判タ1530号86頁)のように、業者による譲受けの効力そのものが争われることもあります(第26講)。

6株券発行会社という落とし穴

会社法は、株券を発行しないことを原則とし、定款で定めた場合にだけ株券を発行する会社(株券発行会社)としました(214条)。ところが、会社法施行(平成18年5月1日)前に設立された会社は、定款に株券を発行しない旨の定めがなければ、株券を発行する旨の定款の定めがあるものとみなされています(整備法76条4項)。その結果、設立が古い中小企業の多くは、株券を一枚も発行したことがないまま、法律上は株券発行会社であり続けています。登記事項証明書に「当会社の株式については、株券を発行する」という記載があれば、この状態です。

この状態には、二つの法律上の意味があります。第一に、株券発行会社では、株式の譲渡は株券を交付しなければ効力を生じません(128条1項)。株券が発行されていなければ、株券の交付もできませんから、株券発行前にされた譲渡は会社に対して効力を生じないのが原則です(同条2項)。最高裁は、会社が株券の発行を不当に遅滞し、信義則に照らして株券発行前であることを理由に譲渡の効力を否定することが許されないような状況では、株券なしの譲渡も会社に対して有効と判断していますが(最大判昭和47年11月8日民集26巻9号1489頁)、それは例外的な救済です。過去に株券なしで行われた株式譲渡が、後になって「無効ではないか」と争われる原因が、ここにあります。

第二に、公開会社でない株券発行会社は、株主から請求がある時までは株券を発行しないことができます(215条4項)。逆にいえば、株主が請求すれば会社は株券を発行しなければならず、紛争の相手方となった株主が株券の発行を請求してくることもあります。

解決策は、株券を発行する旨の定款の定めを廃止することです。株主総会の特別決議で定款を変更し(466条、309条2項11号)、効力発生日の2週間前までに公告と株主への通知を行います(218条1項)。株式の全部について株券を発行していない会社であれば、公告は不要で、株主への通知(または公告)で足ります(同条3項・4項)。変更後は登記も必要です(915条1項)。株主名簿を整備する作業と併せて行うのが通例です。

図解B 株券発行会社かどうかの確認と、廃止までの流れ

登記事項証明書の「株券を発行する旨の定め」を確認記載があれば株券発行会社。会社法施行前設立の会社は、定款に不発行の定めがなければ株券発行会社とみなされる(整備法76条4項)
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株券を発行していない場合過去の譲渡は株券交付がなく、会社に対して効力を生じないのが原則(128条2項)。例外は最大判昭和47年11月8日の信義則による救済過去の譲渡の有効性を個別に検討し、必要なら当事者間で確認書を作成
株券を発行している場合譲渡には株券の交付が必要(128条1項)。株券の所在確認と株券番号の名簿記載(121条4号)紛失があれば株券喪失登録(221条以下)を検討
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株券発行の定めの廃止株主総会の特別決議で定款変更(466条、309条2項11号)→ 効力発生日の2週間前までに公告・通知(218条1項。全株未発行なら通知のみで足りる。同条3項)→ 変更登記(915条1項)

図解B 株券発行会社の確認から廃止まで

7名義書換の実務 ― 誰が、何を持って請求できるか

株式を取得した者が株主名簿の記載を求める手続が名義書換請求です(133条1項)。請求は、原則として名簿上の株主(またはその相続人等)と共同で行わなければなりません(同条2項)。共同請求を要しない例外は法務省令で定められており、株式取得者が相続その他の一般承継を証する書面を提供して請求する場合、指定買取人が売買代金の全額を支払ったことを証する書面を提供して請求する場合、名義書換を命じる確定判決を得た場合などがこれに当たります(会社法施行規則22条1項)。株券発行会社では、株券を提示して請求すれば単独で請求できます(同条2項1号)。

譲渡制限株式については、さらに重要な制限があります。譲渡制限株式の取得者は、会社の承認を受けている場合、指定買取人である場合、相続その他の一般承継により取得した場合などでなければ、名義書換を請求できません(134条)。会社の承認を得ていない譲受人からの名義書換請求は、会社は拒むことになります。第1講で触れたとおり、承認のない譲渡は当事者間では有効でも、会社に対する関係では効力を生じないからです(最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁)。

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取得の原因 名義書換請求の要件 会社が確認する書類の例
譲渡(承認済み) 譲渡人と共同で請求(133条2項)。譲渡承認を受けていること(134条1号・2号) 株式譲渡契約書、譲渡承認の議事録・通知書、譲渡人・譲受人の印鑑証明書。株券発行会社では株券
指定買取人による買取り 売買代金の全額を支払ったことを証する書面を提供すれば単独で請求可(施行規則22条1項3号、134条3号) 指定の決議、買取通知、代金支払の証明
相続・合併などの一般承継 一般承継を証する書面を提供すれば単独で請求可(施行規則22条1項4号、134条4号) 戸籍・法定相続情報一覧図、遺言書または遺産分割協議書、合併の登記事項証明書
名義書換を命じる確定判決 判決の内容を証する書面を提供すれば単独で請求可(施行規則22条1項1号・2号) 判決書正本と確定証明書
承認のない譲渡 請求できない(134条)。承認請求の手続に戻る 会社は名義書換を拒み、譲渡承認請求の有無を確認する

図表4 取得原因ごとの名義書換請求の要件

8株主名簿の閲覧謄写請求を受けたとき

株主と債権者は、営業時間内であればいつでも、請求の理由を明らかにして株主名簿の閲覧・謄写を請求できます(125条2項)。会社が拒めるのは、請求者が権利の確保・行使に関する調査以外の目的で請求したとき、業務の遂行を妨げまたは株主の共同の利益を害する目的で請求したとき、知り得た事実を利益を得て第三者に通報するために請求したとき、過去2年以内にそのような通報をしたことがあるとき、の四つに限られます(同条3項)。会計帳簿の閲覧請求(433条2項3号)とは異なり、株主名簿については「請求者が会社と競業関係にあること」は拒絶事由になっていません。この事由は平成26年の会社法改正で削除されました。

正当な理由なく閲覧を拒めば過料の対象になり(976条4号)、株主は閲覧謄写を求める訴えや仮処分に進むことができます。他方、株主名簿は他の株主の氏名・住所という個人情報を含みますから、請求の理由が権利行使と結びついているかを確認したうえで応じるのが実務です。少数株主が他の株主に働きかけて委任状を集めようとする場面(第8講)や、株式買取業者が譲渡先候補を探す場面では、この請求が最初の一手になります。少数株主権への対応全般は第7講、閲覧請求の範囲と拒絶事由の詳細は兄弟連載『企業内部紛争36講』の第18講で扱っています。

PRACTICE NOTE

株主名簿を整備する七つの手順

株主構成を法的に確定する作業を、当事務所では「株主デューデリジェンス」と呼んでいます。事業承継やM&Aの準備として行う場合も、紛争の初動として行う場合も、手順は変わりません。

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手順 作業 使う資料・確認する条文
① 資料を集める 設立から現在までの株式の動きを示す資料を、社内・顧問税理士・司法書士から集める 原始定款・現行定款、登記事項証明書(閉鎖事項を含む)、法人税申告書別表二(各期)、株主総会・取締役会議事録、増資の払込証明、株式譲渡契約書、譲渡承認の記録、配当の支払記録、株券台帳
② 株式の変遷表を作る 設立時の出資から増資・譲渡・相続を時系列に並べ、各時点の株主と株式数を再構成する 各期の別表二を並べると、いつ誰から誰へ株式が動いたかの手がかりになる。動きの根拠書類がない箇所を洗い出す
③ 名義株を洗い出す 出資金の出所、配当の受領者、株主総会への関与を確認し、名義だけの株主を特定する 最判昭和42年11月17日の実質説を前提に、名義人との合意による解消を目指す(第6講)
④ 相続未処理を整理する 死亡した株主の相続人を確認し、権利行使者の指定通知や遺産分割の状況を確認する 106条、民法898条。定款に売渡請求の定めがあれば1年の期限に注意(176条1項。第17講)
⑤ 所在不明株主を確認する 通知が到達しない期間と配当の受領状況を記録する 196条、197条。経営承継円滑化法の認定を受ければ5年が1年に短縮(第15講)
⑥ 名簿と定款を整える 確定した株主構成で株主名簿を作成し、株券発行の定めの廃止、相続人等に対する売渡請求の定め、株主名簿管理人の設置などを検討する 121条、125条、174条、214条、218条、123条
⑦ 運用ルールを決める 譲渡承認・名義書換・相続発生時の対応手順を文書化し、毎期の株主総会前に名簿を確認する 133条〜134条、139条、施行規則22条

③と④は、時間が経てば経つほど難しくなります。設立時の出資の経緯を知る人が亡くなり、名義人の相続人が権利を主張し始めた後では、合意による解消の余地は狭まり、株主権確認訴訟という重い手続に進まざるを得なくなります。株主デューデリジェンスは、紛争が起きてから始めるより、事業承継の準備の一環として平時に始めるほうが、費用も時間も少なく済みます。

実務チェック

  • 会社法121条の記載事項をすべて備えた株主名簿が本店に備え置かれているか。別表二や株主リストで代用していないか。
  • 登記事項証明書に「株券を発行する旨の定め」があるか。ある場合、株券を実際に発行しているか、過去の譲渡が株券の交付なしに行われていないか。
  • 設立時の発起人・出資者のうち、名義だけを貸した者がいないか。出資金の出所を示す資料が残っているか。
  • 亡くなった株主の名義がそのままになっていないか。相続人と権利行使者を把握しているか。
  • 過去の株式譲渡について、譲渡承認の記録(議事録・通知)と譲渡契約書が揃っているか。
  • 通知が届かない株主について、到達しなくなった時期と配当の受領状況を記録しているか。
  • 株主名簿の閲覧謄写請求や名義書換請求を受けたときの対応手順(確認事項・期限)が決まっているか。

よくある質問

法人税申告書の別表二に株主が載っているので、株主名簿はなくても問題ないのではありませんか。

問題があります。別表二は同族会社の判定のための税務書類であり、会社法上の株主名簿ではありません。株主名簿は会社法121条が作成を義務づけ、125条1項が本店への備置きを義務づけている帳簿で、これを欠くと取締役等は100万円以下の過料の対象になります(976条7号・8号)。また、株主名簿には取得日や株券番号など別表二にない記載事項があり、通知の宛先の確定(126条)や名義書換の対抗要件(130条)といった会社法上の効力は、株主名簿にしか認められません。別表二は株主名簿を作るための資料として使うものです。

登記に「株券を発行する」と書かれていますが、株券を見たことがありません。過去の株式譲渡は無効なのですか。

株券発行会社では、株式の譲渡は株券を交付しなければ効力を生じず(会社法128条1項)、株券発行前の譲渡は会社に対して効力を生じないのが原則です(同条2項)。ただし、最高裁は、会社が株券の発行を不当に遅滞している場合に、株券発行前であることを理由に譲渡の効力を否定することは信義則上許されないとしています(最大判昭和47年11月8日民集26巻9号1489頁)。過去の譲渡の効力は個別の事情によりますが、当事者間で譲渡の事実を確認する書面を整え、株券発行の定めを廃止する定款変更を行うのが通常の対処です。

株主から株主名簿を見せろと言われました。他の株主の住所が載っているので断りたいのですが。

株主は請求の理由を明らかにすれば株主名簿の閲覧・謄写を請求でき(会社法125条2項)、会社が拒めるのは同条3項の四つの事由に当たる場合に限られます。他の株主の個人情報が含まれていることは、それだけでは拒絶事由になりません。また、会計帳簿の閲覧請求とは異なり、請求者が競業者であることも株主名簿については拒絶事由ではありません。正当な理由なく拒めば過料の対象になり(976条4号)、閲覧を命じる裁判に進むこともあります。請求の理由が権利の確保・行使のための調査といえるかを確認し、該当すれば応じる必要があります。

株主が亡くなりました。相続人から連絡はありません。招集通知はどこに送ればよいですか。

相続人が誰かを把握していない場合でも、株主名簿上の住所に宛てて通知を発すれば、通常到達すべきであった時に到達したものとみなされます(会社法126条1項・2項)。ただし、これは会社を免責する規律であり、相続人の関与なしに重要な決議を重ねることが望ましいわけではありません。株式は相続人全員の準共有になっており(民法898条)、相続人が権利行使者を定めて会社に通知しなければ議決権を行使できません(会社法106条)。会社の側から相続人に連絡を取り、相続関係の資料と権利行使者の指定を求めるのが実務です。定款に相続人等に対する売渡請求の定めがある場合は、相続を知った日から1年の期限(176条1項)にも注意が必要です(第17講)。

株式買取業者から「株主から株式を買い取ったので名義書換をせよ」と通知が来ました。応じなければならないのですか。

直ちに応じる必要はありません。譲渡制限株式の取得者は、会社の承認を受けている場合などでなければ名義書換を請求できず(会社法134条)、承認のない譲渡は会社に対して効力を生じません(最判昭和48年6月15日)。会社としては、譲渡人が名簿上の株主か、譲渡承認請求がされているか、株券発行会社であれば株券の交付があったかを確認し、承認請求がされている場合には2週間以内の決定通知など法定の期限(139条2項、145条)を守って対応することになります。買取業者による譲受けそのものの効力が争われた裁判例(大阪高判令和6年7月12日判タ1530号86頁)もあり、対応は第26講で扱います。

おわりに ― 守りを固めてから、攻める

少数株主対策というと、スクイーズアウト(第14講)のような攻めの手法が注目されがちです。しかし、株主構成を正確に確定できていない会社が攻めの手法を使えば、手続の瑕疵を突かれて無効を招く危険と隣り合わせになります。株主名簿の整備、名義株の解消、相続処理の完了という地味な作業が、すべての少数株主対策の土台です。

明徳法律事務所(大阪市西区)では、株主構成の法的な確定(株主デューデリジェンス)から、名義株の解消交渉、株券発行の定めの廃止を含む定款整備、株主権確認訴訟の対応まで、会社側の株主管理をお引き受けしています。事業承継やM&Aの準備段階でのご相談にも対応しています。

次回 第6講「その株、本当にあなたのものですか」では、本講で症状の一つとして挙げた名義株について、類型論・立証構造・解消の実務と株主権確認訴訟の全景を扱います。

この講の主な根拠条文・裁判例・資料

  • 会社法〔e-Gov法令検索〕106条、121条〜126条、128条、130条、133条、134条、139条、145条、174条、176条、196条、197条、214条、215条、218条、221条以下、299条、309条2項11号、433条、466条、830条、831条、915条、976条
  • 会社法施行規則〔e-Gov法令検索〕22条(株主名簿記載事項の記載又は記録の請求の例外)
  • 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律〔e-Gov法令検索〕76条4項(株券発行会社とみなされる旧会社)
  • 商業登記規則〔e-Gov法令検索〕61条2項・3項(株主リスト)
  • 民法〔e-Gov法令検索〕898条
  • 最判昭和30年10月20日民集9巻11号1657頁名義書換未了の株式譲受人を会社の側から株主として扱うことは差し支えないとした判例
  • 最判昭和42年11月17日民集21巻9号2448頁他人名義で株式を引き受けた場合、名義人ではなく実質上の引受人が株主になるとした判例
  • 最大判昭和47年11月8日民集26巻9号1489頁会社が株券の発行を不当に遅滞している場合、株券発行前であることを理由に株式譲渡の効力を否定することは許されないとした判例
  • 最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁会社の承認を得ない譲渡制限株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間では有効であるとした判例
  • 大阪高判令和6年7月12日判タ1530号86頁株式買取業者による譲渡制限株式の譲受けを弁護士法73条違反により無効とした判決
  • 加藤真朗編著『非上場株式の相続と会社法 ― 評価・遺産分割・換価・経営参加の法律実務』(新日本法規、2025年)、同編著『株主管理・少数株主対策ハンドブック』(日本加除出版、2022年)

条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例は掲載誌の巻号頁を記載しています。

公開日 2026年8月24日/改訂日 2026年9月22日

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