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『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第4講】

【超重要‼】非上場株式の値段は「土俵」と「理論」で決まる - 事案類型別の裁判例と最新学説(交換価値説vsプロ・ラタ価値説)の全景 -

『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第4講】

04第Ⅰ部 価格編 ― 株の値段はこう決まる第4講

非上場株式の値段は「土俵」と「理論」で決まる
― 事案類型別の裁判例と最新学説(交換価値説 vs プロ・ラタ価値説)の全景 ―

非上場株式には市場価格がありません。だからこそ、その「値段」は、どの法的手続(土俵)で争うか、そしてどの評価理論を採用するかによって、ときに数十%単位で変わります。本稿は、非上場株式の株価が問題となるすべての事案類型を整理したうえで、平成16年以降の公表裁判例を一覧し、いま学界と実務の最前線で激しく争われている「交換価値説 vs プロ・ラタ価値説」の理論対立と、その対立が現実の裁判で価格を動かした最新事例までを、一気に解説する完全保存版です。

この講の結論

非上場株式の値段は、どの手続(土俵)で争うかとどの評価理論に立つかで決まります。譲渡承認請求に伴う売買価格決定(会社法144条)では、裁判所は売主・買主の属性に応じた評価手法を選び、多くは加重平均で「交換価値」を求めてきました。組織再編に伴う株式買取請求では「公正な価格」が問題となり、市場性がないことを理由とする減価は許されません(最決平成27年3月26日)。他方、144条の場面では非流動性ディスカウントが認められ得ます(最決令和5年5月24日)。

いま学説では、裁判例の「交換価値説」に理論的基礎を与える仮定的交渉アプローチ(藤田友敬)と、企業価値の持株比率按分を売買価格とすべきとするプロ・ラタ価値説(久保田安彦)、これに反論する交換価値説の再構成(仲卓真)が正面から対立しており、京都地裁令和5年決定とその抗告審の和解のように、採用される理論次第で現実の値段が動いています。当事者は、有利な理論を主位的に据えつつ、別の理論が採られた場合に備えた個別事情の主張立証を尽くす必要があります。

1はじめに ― 非上場株式は「一物多価」である

非上場株式の価値は、評価の目的と場面に応じて算定されるほかなく、同じ会社の同じ株式であっても、置かれたシチュエーションによって株価が異なるという「一物多価」の特殊性を有します。

その要因は大きく2つあります。第1に、そもそも複数の「株価」概念が存在することです。相続税・贈与税の課税場面では財産評価基本通達(国税庁の通達)に基づく「税務上の株価」が基準となる一方、譲渡制限株式の売買価格決定申立事件などで裁判所が決定するのは、株式の実際上の価値としての「法律上の株価」です。両者は「時価」という文言こそ共通しますが、算定目的を異にするため、大きく乖離することが珍しくありません。

第2に、法律上の株価の算定においても、事案類型や当事者の属性によって、妥当する算定方法自体が変化することです。支配株主にとっての株式には「会社の経営を支配できる」という価値がある一方、数%の議決権しか有しない少数株主の株式には「配当を受けられる」程度の価値しかない――この発想が、算定方法の選択に直結します。

そして近時、この「法律上の株価」の決め方をめぐって、裁判例の採用する考え方(交換価値説)と、これに理論的基礎を与える見解(仮定的交渉アプローチ)、そして真っ向から挑戦する有力学説(プロ・ラタ価値説)とが、学界・実務の双方で正面から衝突しています。この理論対立は机上の空論ではありません。後述するとおり、現実の裁判で、採用される理論次第で株価が大きく動いた事例が現に存在します(→5-5)。

2前提知識 ― 代表的な算定方法の整理

2-1 「法律上の株価」の3つの基本類型

非上場株式の「法律上の株価」の算定方法は、大きく次の3類型に分類されます。

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評価アプローチ 着眼点 代表的手法
インカム・アプローチ 将来の利益・キャッシュフロー DCF法、収益還元法、配当還元法、ゴードン・モデル法(配当還元の一種)
ネットアセット・アプローチ
(コスト・アプローチ)
貸借対照表上の純資産 簿価純資産法、時価純資産法(再調達時価/清算処分時価)、修正簿価純資産法
マーケット・アプローチ 市場参加者の価値判断 類似上場会社法(倍率法)、類似業種比準法、取引事例法

DCF(Discounted Cash Flow)法は、会社の資産全体が生み出すフリー・キャッシュフロー(FCF)の期待値を予測し、加重平均資本コスト(WACC)で割り引いて企業の現在価値を算出し、そこから負債の価値を控除して株式価値を導く手法です。継続企業の価値評価手法として最も支持されており、近時の裁判例でも、支配株主側の株式価値の評価手法として中心的な地位を占めます。他方、①FCFの推定計算と②割引率の算定は、いずれも評価者の判断が介在する余地が広く、実務上最も争点化しやすいポイントです。

配当還元法は、株主の得るキャッシュフローである配当を現在価値に割り引く手法で、少数株主側の株式価値の評価に多用されます。ただし実際には、過去の配当実績がそのまま継続するという仮定で適用されること(実際配当還元法)が多く、無配・低配当の会社や利益の大半を再投資に回す成長企業では過小評価につながりやすいという難点が学説上つとに指摘されています。この「配当の不当な抑制」をどう扱うかは、後述する理論対立(→5)の震源地でもあります。

2-2 「税務上の株価」― 国税庁方式と法律上の株価の乖離

国税庁方式(財産評価基本通達)は、課税の公平と簡易迅速な処理のために設けられた画一的な評価基準であり、株式取得者が「同族株主等」か否かで原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式)と特例的評価方式(配当還元方式)を使い分けます。重要なのは、これはあくまで課税目的の行政基準であって、私人間の紛争解決の場面には適さないという点です。実際、会社法上の価格決定の裁判例では、かつて参照された類似業種比準法は、理論的根拠を欠くとして現在ではほとんど用いられていません。相続税申告のための財基通評価額を、そのまま遺産分割や買取交渉の前提としてしまう実務が散見されますが、収益力のある会社では税務上の株価が継続企業としての客観的交換価値を大幅に下回ることがあり、安易な依拠は禁物です。

なお、この財産評価基本通達そのものについて、会計検査院の令和5年度決算検査報告における指摘を受け、国税庁は令和8年4月から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催し、同年8月20日の第5回会議では、会社規模区分と類似業種比準方式を廃止して簿価純資産に数年分の超過収益を加える方式(残余利益方式)を主軸とし、配当還元方式は対象株主の範囲を見直したうえで存置するという方向性が示されました(改正通達の適用は早ければ令和10年からとされています)。課税実務の評価水準が変われば、民事上の交渉実務にも影響が及び得るため、動向を注視すべき局面です。

2-3 単独法と折衷法

裁判所による評価の方法として、1つの算定方法のみに依拠する「単独法」と、複数の算定方法の結果に一定の折衷割合(加重平均)を乗じる「折衷法」があります。例えば、DCF法による評価額が100円、配当還元法による評価額が20円の場合に、50%:50%で折衷すれば株価は60円となります。裁判実務上は折衷法が非常に多用されていますが、その「真の意味」は単なる誤差の縮小ではありません(→4-3)。

3非上場株式の株価が問題となる事案類型の全体像

3-1 非訟事件以外の場面

  • ① 任意の買取交渉:実務上最も多い場面です。DCF法に基づく評価額と国税庁方式による評価額とを参考にしつつ、買主側の資金力を勘案して交渉が行われます。売主に株価について誤解を生じさせる説明は避けるべきで、後日「安く売らされた」と主張され紛争化するリスクがあります。
  • ② 会社内部紛争に関する裁判上の和解協議:少数株主との裁判手続の終局的解決として、少数株式を買い取る形での和解が協議される場面です。裁判所もこの形の和解を勧めることが少なくなく、基本的にはDCF法に基づく評価額をベースに協議される傾向にありますが、「和解」という性格上、そこから大幅に減額された額で成立することも珍しくありません。
  • ③ 遺産分割・遺留分侵害額の算定:非上場会社のオーナーに相続が発生した場面です。株式を手放す場面の法理をそのまま持ち込むことには慎重であるべきですが、継続企業の評価手法として最も支持されるDCF法は無視できず、会社法上の裁判例・学説は強力な参照枠組みとなります。

3-2 非訟事件(裁判所による価格決定)

  • ④ 譲渡等承認請求に伴う売買価格決定申立事件(会社法144条2項・7項):非上場株式の価格をめぐる非訟事件として最も多い紛争類型であり、裁判例の集積も最も厚い類型です(→4)。
  • ⑤ 反対株主の株式買取価格決定申立事件(会社法117条2項、182条の5、470条、785条・786条、797条・798条、806条・807条等):株式併合・定款変更・事業譲渡・組織再編等に反対する株主が「公正な価格」での買取りを請求する場面です。
  • ⑥ 全部取得条項付種類株式に関する株式取得価格決定申立事件(会社法172条)
  • ⑦ 特別支配株主による株式等売渡請求に関する売買価格決定申立事件(会社法179条の8):総株主の議決権の10分の9以上を有する特別支配株主によるキャッシュアウトの場面です。
  • ⑧ 相続人等に対する売渡請求に関する株式売買価格決定申立事件(会社法177条2項):定款の定めに基づき、相続等で譲渡制限株式を取得した者に売渡しを請求する場面です。

以下、まず最重要の④を掘り下げ(→4)、その理論的核心(→5)を検討したうえで、⑤〜⑧のスクイーズ・アウト系(→6)とディスカウント論点(→7)を整理します。

同じ株式でも争う土俵によって値段が変わることを示す事案類型マップ

図解A:株価が問題となる「土俵」の全体像 ― 土俵選びが最初の戦略判断

4最重要類型:譲渡等承認請求に伴う売買価格決定(会社法144条)

4-1 裁判所は何を決めているのか ― 判断枠組み

譲渡制限株式の譲渡等承認請求を会社が不承認とし、会社または指定買取人が買い取る場合において、当事者間で売買価格の協議が調わないとき、当事者は裁判所に売買価格の決定を申し立てることができます(会社法144条2項・7項)。裁判所は「譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮」して価格を定めます(同条3項)。

近時の裁判例の判断枠組みは、次のように整理できます。

【近時の裁判例における判断枠組み】

① 売主(譲渡等承認請求者)と買主(会社または指定買取人)の属性分析
② 各当事者の立場から見た株式価値を算定するのに適した評価手法の特定(支配株主側→DCF法・収益還元法〔純資産法の併用あり〕、少数株主側→配当還元法が典型)
③ 両者の評価額を一定の割合で加重平均(折衷法)
④ 売主・買主の立場に同質性が認められる場合には、共通の算定方法による評価(単独法)

注目すべきは、支配株主か非支配株主かを形式的に二分するのではなく、事案の特殊性を踏まえた「グラデーションのある属性認定」がなされている点です。例えば、大阪地決平成25年1月31日(判時2185号142頁)は、売主が18.99%の少数株主であった事案において、いずれの株主グループも単独で支配可能な議決権保有割合を有していないこと等を考慮し、売主の属性について「支配株主としての側面を否定することはできない」と判断しました。また、東京地決平成26年9月26日(金判1463号44頁)は、指定買取人である買主が支配株主から資料提供等の支援を受けていたことから「支配株主と一体の立場に立つ買主」と認定し、売主についても24.4%の議決権割合を理由に「支配株主と一般株主の中間的な立場に位置する株主」と判断しています。

4-2 平成16年以降の公表裁判例15件

この類型については、最近約20年間(平成16年以降)の公表裁判例15件を一覧整理した学説の研究があります(藤田友敬「譲渡制限株式の評価方法に関する一視点」商法学の再構築〔有斐閣、2023〕95頁、久保田安彦「譲渡制限株式の売買価格〔上〕〔下〕」商事法務2357号4頁・2358号62頁〔2024〕)。これらの分析を踏まえ、主要な情報を一覧にすると次のとおりです。

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No. 裁判例 評価方法・決定価格 当事者の属性等
① 最決令和5年5月24日
判タ1514号33頁・判時2582号95頁・金判1684号9頁(③の許可抗告審)
DCF法によって算定された譲渡制限株式の評価額から非流動性ディスカウントを行うことができる旨を判示し、30%の減価を行った原決定を是認して許可抗告を棄却 ―
② 京都地決令和5年4月25日
(令和3年(ヒ)第6号・第7号、判例集未登載)
清算処分時価純資産法による評価額5,309円から30%の非流動性ディスカウントを行い1株3,716円 売主の持株比率10.86%、買主は会社の監査役(指定買取人)
※抗告審で和解成立(→5-5)
③ 広島高決令和3年12月21日
金判1684号21頁(④の抗告審)
X1株式:DCF法による評価額7,524円から30%の非流動性ディスカウントを行い1株5,266円/X2株式:同6,448円から30%を減価し1株4,514円 売主(3名)の議決権比率は計18.8%・計10.67%(非支配株主)、買主は会社
④ 広島地福山支決平成30年5月25日
金判1684号26頁
X1株式:時価純資産法により1株1万678円/X2株式:同5,300円 同上
⑤ 東京地決平成27年11月12日
金判1517号54頁
売買価格について合意があったとして1株500円と決定 売主は従業員持株会(会員全12名に譲渡しようとして承認請求)、買主は会社
⑥ 大阪地決平成27年7月16日
金判1478号26頁
A社株式:標準配当還元法により1株2,195円/B社株式:時価純資産法により1株1,298円(いずれも単独法) 売主(投資ファンド)の議決権比率2.17%・0.21%、B社は総資産の大部分がA社株式の資産管理会社
⑦ 東京地決平成26年9月26日
金判1463号44頁
DCF法845円:再調達時価純資産法997円:配当還元法162円を0.35:0.35:0.3で加重平均し1株693円 売主の議決権比率24.4%(中間的立場)、買主(一般社団法人・指定買取人)は支配株主と一体の立場
⑧ 大阪地決平成25年1月31日
判時2185号142頁
配当還元法300円:収益還元法3,000円を2:8で加重平均し1株2,460円 売主の持株比率18.99%、買主は会社および指定買取人(本件株式取得後24.73%→37.75%)
⑨ 福岡高決平成21年5月15日
金判1320号20頁(⑪の抗告審)
DCF法22万6,485円と純資産法5万450円を3:7で加重平均し1株10万3,261円 売主の持株比率47%、買主(会社の親会社)の持株比率51%(取得後98%)
⑩ 広島地決平成21年4月22日
金判1320号49頁
DCF法(平均2,339円):配当還元法のうちゴードン・モデル方式(平均411円)を1:1で加重平均し1株1,375円 売主ら(2名)の議決権比率は計26.17%、買主は会社と指定買取人(会社の代表取締役)
⑪ 福岡地決平成20年4月8日
金判1320号27頁(⑨の原審)
純資産法を採用し、平成17年3月期決算に基づく1株当たり純資産額(10万25円)と平成18年3月期決算に基づく額(5万450円)の中間値(7万5,000円) 同⑨
⑫ 東京高決平成20年4月4日
判タ1284号273頁(⑬の抗告審)
収益還元法を用いて1株1万2,929円(単独法) 売主の持株比率40%、買主の持株比率60%(売買後全株保有)
⑬ 東京地決平成20年1月22日
判タ1284号278頁(⑫の原審)
収益還元法を用いて1株1万2,929円 同上
⑭ 札幌高決平成17年4月26日
判タ1216号272頁(⑮の抗告審)
配当還元法600円・再調達時価純資産法2万184円・DCF法1万383円を0.25:0.25:0.5で加重平均し1株1万387円 売主の持株比率6.56%、買主は会社
⑮ 札幌地決平成16年4月12日
判タ1216号274頁(⑭の原審)
同上の3手法を0.25:0.25:0.5で加重平均し1株1万387円 同上

4-3 裁判例から読み取れる5つの傾向

(1)「複数手法の併用」の真の意味 15件のうち単一の評価手法によるものは5件、複数手法を併用し加重平均をとるものが9件(残る1件は当事者の合意価格による)です。かつては「複数の手法を併用すれば結果的に誤差が少なくなり客観性が保たれる」という説明もありましたが、一つ一つをとると信頼できない数値を複数寄せ集めても信頼できる数値にはならない、という批判が学説上有力です。現在の裁判例の多くが複数手法を併用する真の理由は、売り手にとっての株式価値と買い手にとっての株式価値の双方を勘案し、その各々に適した評価手法を用いて算定したうえで加重平均をとるという判断構造にあります。同じ「併用」でも、その理論的意味はまったく異なるのです。

(2)属性のグラデーション認定 前述のとおり(→4-1)、支配/非支配の二分論ではなく、議決権比率・他の株主グループとの関係・支配株主からの支援の有無等を踏まえた実質的な属性認定がなされています。売買価格決定を有利に進めるには、この属性の性格づけをめぐる主張立証が第一の勝負どころです。

(3)加重平均割合に規則性はない ― しかし1:1が多い 売主側評価と買主側評価の折衷割合は、1:1とするもの(⑦の売主側内部、⑩等)が目立つ一方、当事者の属性を折衷割合の側で考慮して買主側評価80%:売主側評価20%とした例(⑧)もあり、規則性を見出すことはできません。なぜ1:1なのかについて、裁判例は「売主と買主の双方が対等の立場にあることを前提とすべき」といった一般論を述べるにとどまり、理論的根拠が必ずしも明示されていないことが、学説から指摘されています。逆にいえば、交渉力の強弱を基礎づける事実(売主が売却に至った経緯、資金需要の切迫度等)の主張立証によって、この割合を動かす余地があるということです。

(4)国税庁方式はほぼ用いられない 類似業種比準法は、課税のための画一的手法であって理論的根拠を欠くとして、現在の裁判例ではほとんど用いられていません。

(5)DCF評価額と配当還元評価額の著しい乖離 上表を見ると、同一会社についてDCF法(収益還元法)による評価額と配当還元法による評価額との間に、845円対162円(⑦)、3,000円対300円(⑧)、2,339円対411円(⑩)、1万383円対600円(⑭⑮)という数倍〜十数倍の乖離が生じています。これは、株主全体に帰属すべきフリー・キャッシュフローのうち、ごく一部しか実際には配当されていないことを意味します。この「配当の不当な抑制」をどう評価に取り込むかが、次章の理論対立の核心です。

4-4 時間との闘い ― みなし承認・供託・20日

この類型では、価格論と同じくらい手続進行が重要です。会社は、譲渡等承認請求の日から2週間以内に不承認の通知をしなければ「みなし承認」となり(会社法145条1号)、さらに会社が買い取る場合は不承認通知から40日以内、指定買取人の場合は10日以内に、買取通知と併せて「1株当たり純資産額×株式数」の供託を証する書面を交付しなければ、やはり「みなし承認」となります(同法141条2項、142条2項、145条2号・3号)。取締役会非設置会社では承認機関が株主総会となるため(同法139条1項)、極めてタイトなスケジュールを強いられます。

最終的な売買価格は当事者間の協議によりますが(同法144条1項)、協議が調わない場合の価格決定申立ては買取通知から20日以内に行う必要があり、期間内に申立てがなく協議も調わなければ、1株当たり純資産額に株式数を乗じた額が売買価格となります(同条5項・7項)。会社が買い取る場合には自己株式取得の財源規制(同法461条1項1号)の問題もあります。単に定款で譲渡制限を付しておくだけでは、好ましくない者による株式取得を回避することはできません。平時からの株価把握と、有事に直ちに弁護士へ相談できる体制の構築が不可欠です。

5【本コラムの核心】「売買価格」とは何か ― 交換価値説・仮定的交渉アプローチ・プロ・ラタ価値説の三つ巴

ここからが本コラムの核心です。会社法144条2項の「売買価格」として、裁判所はいったい何の価値を算定すべきなのか。この根本問題をめぐって、近時、第一線の商法学者による重厚な論文が相次いで公表され、理論状況は一変しました。しかもこの対立は、現実の裁判の帰趨を左右しています。順に見ていきましょう。

交換価値説・仮定的交渉アプローチ・プロ・ラタ価値説の理論対立の相関図

図解B:三つ巴の理論対立 ― 誰が何を主張し、どう応酬しているか

5-1 裁判例の立場:交換価値説

裁判例の多くは、144条2項の「売買価格」を、譲渡制限株式が取引される場合における取引価格(交換価値)、すなわち「譲渡等承認請求時における株式の客観的な交換価値」であると解しています。前述の判断枠組み(売主・買主の属性に応じた評価手法の選択と加重平均)は、この交換価値の探求として行われているものです。最高裁も、令和5年5月24日決定(→7-1)において、会社法144条2項に基づく売買価格決定手続が「譲渡を希望する株主に当該譲渡に代わる投下資本の回収の手段を保障するために設けられたもの」であることを判示しており、交換価値説と親和的な理解を示したものと受け止められています。

5-2 仮定的交渉アプローチ(藤田友敬教授)― 裁判例に理論的基礎を与える

もっとも、裁判例のいう「客観的な交換価値」とは何か、なぜ売主側評価と買主側評価を(多くの場合1:1で)加重平均してよいのかについて、裁判例自身の理論的説明は必ずしも十分ではありませんでした。この空隙を埋めたのが、藤田友敬教授の提唱する「仮定的交渉アプローチ」です(藤田友敬「譲渡制限株式の評価方法に関する一視点」松井秀征ほか編『商法学の再構築』〔有斐閣、2023〕95頁)。

その骨子は次のとおりです。会社法144条は、売買価格を一義的には当事者の協議に委ねています(同条1項・7項)。本来であれば売主(譲渡等承認請求者)と買主(会社・指定買取人)の合意により定まるはずの価格の決定が裁判所に求められているのですから、裁判所の行うべき作業は、両者が十分な時間をかけて合理的に交渉を行ったとすれば合意されたであろう価格(仮定的交渉価格)を求めることである、と捉えるのです。

売買の価格は、一般に、売り手の留保価格(それ以下では売らない下限額)と買い手の留保価格(それ以上では買わない上限額)の間で、両者の交渉力の強弱に応じて決まります。この枠組みからは、裁判例のいう「売り手にとっての株式の価値」「買い手にとっての株式の価値」とは、各々の留保価格を意味しており、両者を一定割合で加重平均することは仮定的交渉価格の算出として理解できることになります。具体的には――

  • 売り手の留保価格は、売却せずに保持した場合に享受できる経済的価値です。少数株主であれば原則として配当還元法によることになりますが、過去の実績配当に基づく配当還元法だけに限定する必要はなく、例えば売り手が役員であり、譲渡しなければ役員報酬を受け取り続ける蓋然性が高い場合には、その利益も留保価格に含まれ得ます(実際、裁判例⑫⑬は、役員報酬を配当の変形とみなして配当還元法に加算する処理を行っています)。
  • 買い手の留保価格は、取得により得られる経済的利益です。取得後に会社の支配権を有する状態になるのであれば、支配株式の評価に用いられるDCF法等によることが原則となります。会社自身が買主となる場合(会社法140条1項)は、株式が分散保有されている場合を除き、支配株主による取得と同視されます。買い手が形式的には少数株主でも、親族等の持株を総合すると実質的に支配しているといえる場合や、指定買取人が支配株主と実質的に一体視できる場合も同様です。
  • 加重平均割合(余剰の分配)は、両者の交渉力の強弱で決まるべきものです。交渉力を基礎づける証拠(とりわけ売り手が売却に至った事情)が提出されていない場合には対等と推定して1:1とする扱いが、理論的裏付けを維持しつつ実際に適用可能な現実的ルールとされます。
仮定的交渉アプローチにおける売り手・買い手の留保価格と交渉領域の図

図解C:仮定的交渉アプローチの価格決定メカニズム ― 2つの留保価格と余剰の分配

この見解の大きな魅力は、譲渡制限株式の売買価格決定を「仮定的交渉の結果の探求」と性格づけることで、公正な条件で組織再編がなされた場合やキャッシュアウトの場面で「公正な手続を経て当事者が決定したであろう価格」を尊重する近時の判例法理(→6)とも、一貫した視点から理解できる点にあります。

5-3 プロ・ラタ価値説(久保田安彦教授)― 少数株主保護からの挑戦

これに対し、裁判例の枠組みそのものに再検討を迫るのが、久保田安彦教授の主張する「プロ・ラタ価値説」です(久保田安彦「譲渡制限株式の売買価格〔上〕〔下〕―裁判例の分析・評価を中心にして―」商事法務2357号4頁・2358号62頁〔2024〕)。

プロ・ラタ価値とは、株主全体に帰属する企業価値に持株比率を乗じて算定される価値をいい、基本的には、会社のフリー・キャッシュフローを基礎としてDCF法により評価した株式価値がこれに当たります。同説は、売買価格の決定に当たり、売主・買主の交渉力を考慮した加重平均などによるのではなく、このプロ・ラタ価値をもって売買価格とすべきであると主張します。

その問題意識の出発点は、前記4-3(5)で見た評価額の著しい乖離にあります。DCF法による評価額と配当還元法による評価額との数倍〜十数倍の差は、株主全体に帰属すべきフリー・キャッシュフローのごく一部しか配当されていないこと、すなわち会社の内部留保や、支配株主が事実上の配当ないし私的利益(持株比率を超えた高額の役員報酬等)を得ている構造の存在を推測させます。そうした状況下で、実際の低い配当実績を前提とする配当還元法によって少数株主側の株式価値を評価し、これを(例えば1:1で)折衷した額を売買価格とすることは、配当の不当な抑制という問題を是正するどころか、追認し助長することにならないか――これが同説の核心的な批判です。同説によれば、プロ・ラタ価値説の下では、支配株主が配当を不当に抑制するほど交換価値との差が拡大して自らに不利に働くため、不当な配当抑制へのインセンティブが抑止されるという政策的な利点も期待できます。

同説に対しては、①譲渡承認をしないと常にプロ・ラタ価値(交換価値より高額になることが多い)を支払う必要が生じ、会社の閉鎖性維持が困難になる、②指定買取人が純然たる少数株主である場合に酷である、③会社が予備的動機で保有する現預金まで評価に織り込まれる、といった批判が想定されますが、久保田教授はこれらへの応答も展開しており、単なる問題提起にとどまらない体系的な主張となっています。

5-4 交換価値説からの応答(仲卓真准教授)

このプロ・ラタ価値説に対して、株式譲渡制限制度の趣旨・手続構造から正面から反論し、交換価値説を理論的に基礎づけたのが、仲卓真准教授(大阪公立大学)の論文です(仲卓真「譲渡制限株式の売買価格決定における『売買価格』の解釈」民商法雑誌159巻6号768頁〔2024〕)。その反論の骨子は次のとおりです。

(1)買取りの制度的位置づけ 会社法は、原則として株式譲渡自由(会社法127条)により株主に投下資本回収の手段を保障しつつ、会社の閉鎖性維持のために譲渡制限を認めています。会社・指定買取人による買取りは、会社が譲渡を承認しなかった場合に当該譲渡に代わる投下資本回収の手段を保障するためのものです。そうであれば、通常の取引における株式の譲渡によって回収することができたであろう株式の価値、すなわち交換価値を保障すれば足りるのであって、それを超えるプロ・ラタ価値までを保障すべき制度的根拠はない、というのです。この理解は、前掲・最決令和5年5月24日の判示(投下資本回収手段の保障)とも整合します。

(2)「抑圧インセンティブ」論への批判 交換価値説を採用すると支配株主が少数株主を抑圧して保有株式を売却するように仕向けるインセンティブが生じる、というプロ・ラタ価値説の根拠に対しては、①支配株主は経営支配権の行使によって(買取りをするまでもなく)私的利益を得られる立場にあること、②一般的な株式買取請求制度が存在しない日本では、少数株主は売却したいと考えても、まず株式の譲受人となる者を自ら見つけて譲渡等承認請求をしなければ売買価格決定手続に進めないこと、③抑圧された少数株主の直接的な救済策(公正価格での買取申立て等)が制度上用意されているニューヨーク州の判例(マイノリティ・ディスカウント否定の文脈でしばしば引用されるもの)を、制度の異なる日本にそのまま持ち込むのは適切でないことなどから、現実的な想定ではないと批判します。

(3)関係者インセンティブの分析 さらに同論文は、どちらの説を採用するかが譲渡承認をめぐる関係者の行動に与える影響を分析します。プロ・ラタ価値説の下では、少数株主には、会社に承認をさせずに買取り・価格決定手続へ進ませることで(任意の譲渡では得られない)プロ・ラタ価値を得ようとするインセンティブが生じ、極端にいえば、会社にとって好ましくない者をあえて譲渡の相手方に選ぶインセンティブすら生じ得ます。他方、会社側は、高額のプロ・ラタ価値の支払いや、それを引き受けてくれる指定買取人の確保が困難となり、本来は承認したくない譲渡を承認せざるを得なくなる。これは、会社の閉鎖性維持という株式譲渡制限制度の趣旨をかえって損なう、と指摘します。加えて、プロ・ラタ価値説は、少数株式を安く買い集めたうえで譲渡等承認請求を行い、会社・指定買取人にプロ・ラタ価値で買い取らせて差額を得ようとする非上場株式買取業者の関与を誘発しやすい、という実務的な懸念も示されています。

なお同論文は、交換価値説を採用する場合にも、マイノリティ・ディスカウントを売買価格にどのように反映させるべきか、買取業者をどう評価すべきか、相続人等売渡請求(会社法177条2項)の「売買価格」をどう解すべきか等を、なお残された課題として率直に指摘しており、この論争が現在進行形であることを示しています。

5-5 実戦報告:京都地裁令和5年決定と抗告審の和解 ― 理論対立が「現実の値段」を動かした事件

ここまでの理論対立は、決して学者の論文の中だけの話ではありません。採用される理論次第で現実の株価が動いた、注目すべき最新事例があります。

前掲一覧表②の京都地決令和5年4月25日は、売主の持株比率10.86%・買主が会社の監査役(指定買取人)という事案において、清算処分時価純資産法による評価額5,309円から30%の非流動性ディスカウントを行い、1株3,716円を売買価格と決定しました(マイノリティ・ディスカウントは採用していません)。同決定は、学説上、プロ・ラタ価値説に親和的な判示を行った裁判例と位置づけられています(仲・前掲771頁注2参照。なお同注によれば、仲准教授自身が本件抗告審において指定買取人側の依頼を受けて意見書を提出しています)。

ところが、本件の抗告審(大阪高裁)では、指定買取人側が交換価値説の立場から反論を展開したところ、裁判所からプロ・ラタ価値説に否定的な心証が示され、最終的に、実際の配当実績に基づく配当還元法8:時価純資産法2の加重平均に整合する1株1,100円での裁判上の和解が成立した――この経過は、指定買取人の代理人を務めた古家野彰平弁護士による実務報告(「株式売買価格決定申立てにおける譲渡制限株式の売買価格の評価はどうあるべきか(覚え書き)」弁護士法人古家野法律事務所ウェブサイト・令和6年5月9日)によって公表されています。

この事件から読み取るべき実務上の教訓は、少なくとも3つあります。

教訓①:理論選択が価格を数十%単位で動かす。プロ・ラタ的評価(企業価値の持株比率按分)と、実際配当還元法を織り込んだ折衷評価とでは、前記4-3(5)で見た乖離の大きさからして、結論が大きく異なり得ます。
教訓②:非訟事件も多くは和解で終わる。売買価格決定申立てが行われても、裁判所の決定に至るケースは比較的少なく、和解での解決が多い傾向にあります。和解協議では、裁判所の心証(どの理論・手法に親和的か)を早期に見極めることが決定的に重要です。
教訓③:一本槍の主張は危険。第一審でプロ・ラタ親和的な判断を得ても、上級審で覆り得るのが現在の理論状況です。売主側・買主側いずれの立場でも、自説と異なる理論が採用された場合に考慮されるべき個別事情(配当実績・配当政策、役員報酬の状況、市場性の欠如の程度、売却に至った経緯等)について、予備的な主張立証を尽くしておくことが安全です。

5-6 当事者はどう闘うべきか ― 理論選択の実務戦略

以上の理論状況を前提とすると、当事者の主張戦略は概ね次のように整理できます。

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立場 主張の基本方針
売主側
(少数株主)
主位的にはプロ・ラタ価値説的な評価(DCF法による企業価値の持株比率按分)や、配当の不当な抑制の是正(標準配当還元・ゴードン・モデル、役員報酬の配当変形視〔裁判例⑫⑬〕、フリー・キャッシュフローに着目した株式価値評価)を主張しつつ、交換価値説を前提とした場合にも、①自らの属性が単純な少数株主でないこと(グラデーション認定)、②交渉力が劣位でなかったこと(売却を急ぐ事情がないこと等)、③非流動性ディスカウントの不適用(算定過程で市場性考慮済み=二重減価)を予備的に主張する。
買主側
(会社・指定買取人)
交換価値説(+仮定的交渉アプローチ)を理論的支柱に、①制度趣旨(投下資本回収手段の保障で足りること)、②売主の属性(配当期待にとどまる地位)、③売主側評価手法としての実際配当還元法の合理性、④売主の交渉力の弱さ(売却に至った経緯・換価の必要性)、⑤非流動性ディスカウント(最決令和5年5月24日)を体系的に主張する。指定買取人が少数株主である場合は、プロ・ラタ価値説の難点(仲説の指摘)を強調できる。

いずれの立場でも、評価理論の主張は、財務資料(計算書類、事業計画、配当政策、役員報酬の水準等)の裏付けがあって初めて説得力を持ちます。公認会計士等の評価専門家との早期の連携が不可欠です。

6スクイーズ・アウト系の類型 ―「公正な価格」とDCF重視

反対株主の株式買取請求(類型⑤)は、組織再編等を強行する会社から少数株主を離脱させるための救済であり、その制度趣旨は会社から強制的に退出させられる少数株主の利益保障にあります。この趣旨から、譲渡等承認請求型とは異なり、「買主にとっての株式価値と売主にとっての株式価値を折衷する」という考え方は採られていません。裁判所が定める「公正な価格」は、①組織再編によりシナジー等の企業価値増加が生じない場合には買取請求権行使日における「ナカリセバ価格」、②企業価値が増加する場合には公正な再編比率であったならば有していたと認められる価格(増加分を含む価格)と理解されています。

非上場株式に関する裁判例は少数ですが、DCF方式あるいは収益還元方式が重視される傾向にあり、①収益還元方式を単独採用するとともに非流動性ディスカウントを否定した最決平成27年3月26日(民集69巻2号365頁。→7-1)、②DCF法による評価を基礎としつつ修正簿価純資産方式による評価を下支えとして採用した東京高決平成28年9月14日(判タ1433号134頁)があります。

全部取得条項付種類株式の取得価格決定(類型⑥)および特別支配株主の売渡請求に係る売買価格決定(類型⑦)も、強制的に退出させられる少数株主の利益保障を制度趣旨とすることから、反対株主の株式買取請求と同じく「公正な価格」を意味すると理解されており、基本的にはDCF方式が重視されるものと考えられます。公正な手続を経たMBO・キャッシュアウトの場面では、公開買付価格を尊重する最決平成28年7月1日(民集70巻6号1445頁・JCOM事件)の枠組みも視野に入ります。なお、仮定的交渉アプローチの立場からは、これらの「公正な手続を経て当事者が決定したであろう価格」の探求と、144条の売買価格決定における仮定的交渉価格の探求とを、一貫した視点から捉えることができると指摘されています(→5-2)。

相続人等に対する売渡請求の売買価格決定(類型⑧・会社法177条2項)は、条文の文言こそ144条3項と同様ですが、譲渡等承認請求が株主の側からなされるのと異なり、売渡請求は会社の側から相続人株主に対してなされるという構造上の違いがあります。紛争実態は強制的な締出しに類似する一方、会社側は株式の相続の開始を左右できず、その意味では譲渡等承認請求を待つほかない144条の場面と同様であるとの指摘もあり、「売買価格」の解釈として交換価値説を採るべきか否かは、学説上もなお検討課題とされています。非上場会社に関する公表裁判例は執筆時点で見当たらず、実務上は両様の主張を想定した準備が必要な領域です。

7ディスカウントの判例法理 ― 平成27年決定と令和5年決定の交差点

7-1 非流動性ディスカウント:2つの最高裁決定

算定方法の選択とは別に、算定結果に減額(ディスカウント)を加えるか否かという論点があります。非流動性ディスカウントは、非上場株式には市場性がなく容易に現金化できない性質を反映して減額する考え方であり、株式取引の実務上は20〜30%程度の幅で設定されることが多いものです。この点について、実務家が必ず参照すべき最高裁決定が2つあります。

  • 最決平成27年3月26日(民集69巻2号365頁):非上場会社の組織再編に反対した株主の株式買取請求の事案で、収益還元法により算定された価格から非流動性ディスカウント(原審は25%を適用し1株80円としていた)を行うことはできないと判断し、原決定を破棄して1株106円と自判。
  • 最決令和5年5月24日(判タ1514号33頁・判時2582号95頁・金判1684号9頁):譲渡制限株式の譲渡が承認されず、会社法144条2項に基づき裁判所が売買価格を決定した事案で、DCF法により算定された評価額から非流動性ディスカウントを行うことができると判断し、30%の減価を行った原審(広島高決令和3年12月21日金判1684号21頁)の判断を是認して抗告を棄却。会社法144条2項の手続は「譲渡を希望する株主に当該譲渡に代わる投下資本の回収の手段を保障するため」のものであるから、市場性がないことを理由に減価を行うことが相当と認められるときは、任意に譲渡される場合と同様に非流動性ディスカウントを行うことができる、というのがその理由です。

結論が正反対に見えますが、矛盾ではありません。反対株主の株式買取請求は強制的な締出しの場面で少数株主を保護する制度であり、市場性の欠如という不利益を株主に負担させるべきではない。他方、144条2項の手続は、譲渡を希望する株主に当該譲渡に代わる投下資本回収の手段を保障するものであり、任意譲渡であれば市場性の欠如が価格に反映されるのと同様に考えることができる――手続の趣旨の違いに基づく整合的な区別です。

7-2 判例法理の現在形

もっとも、令和5年決定は、譲渡制限株式の評価額の算定過程において市場性がないことが既に十分に考慮されている場合に、当該評価額から更に非流動性ディスカウントを行うことは「二重の減価」として相当でない旨も判示しています。学説上は、両決定を踏まえた現在の判例法理を、次のように整理する見解が示されています(藤田・前掲115頁以下〔追記〕参照)。

(a) 株式買取請求事件:(用いる評価手法にかかわらず)評価額に対して非流動性ディスカウントを加えることは許されない。
(b) 譲渡制限株式の売買価格決定事件(144条):評価額の算定過程において市場性の欠如が既に十分に考慮されている場合には、重ねてのディスカウントは許されない(考慮されていない場合には許される)。

非流動性ディスカウントの可否を判定するフローチャート(平成27年決定と令和5年決定)

図解D:非流動性ディスカウントの判定フロー ― 2つの最高裁決定の交通整理

実務的には、鑑定書・意見書において、採用した割引率(資本還元率)やその他のパラメータに市場性の欠如がどこまで織り込まれているかを丁寧に主張立証することが、ディスカウントの可否・幅を左右する主戦場となります。広島地決平成21年4月22日(前掲⑩)のように、DCF法の算定過程において非流動性ディスカウントを織り込んだ例もあり、どの段階で減価を織り込むかは主張・立証上の重要な設計ポイントです。単純に「常に3割引ける」わけではありません。

7-3 マイノリティ・ディスカウント

マイノリティ・ディスカウント(少数株主の株式は経営支配権を有しないことを理由とする減額)については、裁判例上、明示的に採用されることは少ない傾向にあります。例えば前掲・大阪地決平成25年1月31日は、少数株主の企業価値に対する支配が基本的には配当という形でしか及ばないことは、配当還元方式を一定の折衷割合で考慮することにより考慮できるとして、それに加えてさらに少数派であることを理由とするディスカウントを行うべきではないと判断しています。もっとも、少数株主の株式の評価に配当還元法を用いること自体が実質的なマイノリティ・ディスカウントとして機能しているとの見方も可能であり、これを売買価格にどのように反映させるべきかは、学説上もなお残された課題と指摘されています(仲・前掲803頁以下)。

8実務への示唆 ― 5つの行動指針

第1に、平時における株価の把握。株式の集約(買取交渉)を成功させるには、集約に要するコスト、すなわち株式の価値について見通しを持っておくことが不可欠です。買取交渉が決裂して非訟手続に至ったところ、想定外の高額決定により集約を断念せざるを得なくなった例は実務上少なくありません。具体的には、①DCF法に基づく評価額と、②財産評価基本通達に基づく相続税評価額の2つを平時から把握しておくことが有効かつ合理的です。

第2に、手続選択(土俵選び)の戦略。会社側は、譲渡承認拒否→会社買取り・指定買取人ルート(144条)で対応できれば非流動性ディスカウントを主張する余地が生まれます。株主側は、組織再編・株式併合等の局面をとらえた買取請求(116条、182条の4、785条等)のほうが、減価なしの「公正な価格」を得やすい。同じ株式でも、どの土俵で争うかによって2〜3割の差が生じ得ます。

第3に、理論選択と予備的主張。交換価値説・仮定的交渉アプローチ・プロ・ラタ価値説の対立状況(→5)を踏まえ、自らの立場に有利な理論を主位的に据えつつ、裁判所が別の理論に立った場合に備えた個別事情の主張立証(属性・交渉力・配当政策・役員報酬・市場性等)を怠らないこと。京都地裁事件の抗告審の経過(→5-5)は、この点の重要性を雄弁に物語っています。

第4に、初動の速度。譲渡等承認請求が届いた瞬間から、2週間・40日(または10日)・20日という厳格な期間制限のカウントが始まり、一つでも遅れれば「みなし承認」により望まぬ株主の登場を許すことになります。供託資金の手当て(必要に応じた金融機関への融資打診)を含め、直ちに弁護士に相談できる体制を平時から整えておくべきです。

第5に、株式分散の予防と少数株主への誠実な対応。経営に関与しない株主の換価ニーズが放置されると、非上場株式の買取業者への売却を通じて譲渡等承認請求・売買価格決定手続に巻き込まれるリスクが高まります。近時は、買取業者が関与した株式譲渡契約が弁護士法73条違反により無効とされた裁判例(大阪高判令和6年7月12日判タ1530号86頁)も現れており、株式の分散防止(遺言・株主間契約・種類株式・売渡請求条項等の設計)と、少数株主の換価ニーズへの誠実な対応は、株式評価の問題と表裏一体の経営課題です。

9おわりに

非上場株式の価格の争いは、①どの事案類型(土俵)で争うかという手続選択の争いであり、②交換価値かプロ・ラタ価値かという評価理論の争いであり、③当事者の属性・交渉力をどう性格づけるかという主張立証の争いであり、そして④みなし承認の期間制限との時間の争いです。判例・学説はまさに現在進行形で動いており、最新の理論状況を踏まえた戦略設計の巧拙が、そのまま「値段」に跳ね返ります。

明徳法律事務所(大阪市西区)は、非上場株式・株主間紛争を主要業務分野とし、譲渡等承認請求への対応(みなし承認回避・供託実務)、株式買取交渉、売買価格決定申立事件における評価理論の主張立証(公認会計士等の評価専門家との連携を含みます)、そして株式分散を予防する事業承継設計まで、一貫してサポートしています。自社株式の承継、少数株主対応、保有株式の適正価格での換価にお悩みの経営者・株主の方は、どうぞお気軽にご相談ください。

よくある質問

譲渡承認請求の売買価格決定と、合併などに反対したときの株式買取請求とでは、同じ株式でも値段が違うのですか。

違い得ます。前者(会社法144条)では、裁判所は売主・買主それぞれの立場から見た株式価値を算定して加重平均する方法をしばしば採り、市場性がないことを理由とする非流動性ディスカウントも認められ得ます(最決令和5年5月24日)。後者(785条等)は会社の組織再編によって退出を強いられる株主を保護する制度であり、「公正な価格」の決定に際して非流動性ディスカウントを行うことはできません(最決平成27年3月26日)。どの手続に乗るかが値段を左右する、というのが本講の趣旨です。

少数株主の株式は、会社の価値を持株比率で按分した金額で買い取ってもらえるのですか。

裁判例の多くはそう考えていません。会社法144条の「売買価格」は、株式が取引される場合の交換価値であり、少数株主の株式は配当還元法など少数株主の立場に即した手法で評価され、支配株主側の評価と加重平均されるのが一般的です。企業価値の持株比率按分(プロ・ラタ価値)を売買価格とすべきだという学説は有力ですが、これに反対する学説もあり、京都地裁令和5年決定の抗告審では裁判所がプロ・ラタ価値説に否定的な見解を示したと報告されています。持株比率按分の金額を当然に受け取れると考えて交渉に入ることは危険です。

非流動性ディスカウントは、いつでも30%引かれるのですか。

いつでもではありません。最決令和5年5月24日は、市場性がないことを理由に減価を行うことが相当と認められるときに非流動性ディスカウントを行うことができるとしたもので、評価額の算定過程で市場性がないことがすでに十分に考慮されている場合に重ねて減価することは「二重の減価」として相当でないとしています。減価の幅も事案ごとの判断であり、同事件で30%とされたのは鑑定の結果によるものです。また、株式買取請求の場面では減価そのものが許されません。

この講の主な根拠条文・裁判例・資料

  • 会社法〔e-Gov法令検索〕116条、117条、127条、136条〜145条、172条、177条、179条の8、182条の4・182条の5、461条1項、469条・470条、785条・786条、797条・798条、806条・807条
  • 最決平成27年3月26日民集69巻2号365頁(道東セイコーフレッシュフーズ事件)収益還元法により買取価格を決定する場合、非流動性ディスカウントを行うことはできないとした決定
  • 最決令和5年5月24日判タ1514号33頁、判時2582号95頁、金判1684号9頁(令和4年(許)第8号)会社法144条2項の売買価格決定において、DCF法による評価額から非流動性ディスカウントを行うことができるとした決定。原審は広島高決令和3年12月21日金判1684号21頁、原々審は広島地福山支決平成30年5月25日金判1684号26頁
  • 最決平成23年4月19日民集65巻3号1311頁、最決平成28年7月1日民集70巻6号1445頁株式買取請求・取得価格決定における「公正な価格」の意義に関する決定
  • 図表に掲げた売買価格決定事件京都地決令和5年4月25日/東京地決平成27年11月12日金判1517号54頁/大阪地決平成27年7月16日金判1478号26頁/東京地決平成26年9月26日金判1463号44頁/大阪地決平成25年1月31日判時2185号142頁/福岡高決平成21年5月15日金判1320号20頁/広島地決平成21年4月22日金判1320号49頁/福岡地決平成20年4月8日金判1320号27頁/東京高決平成20年4月4日判タ1284号273頁/東京地決平成20年1月22日判タ1284号278頁/札幌高決平成17年4月26日判タ1216号272頁/札幌地決平成16年4月12日判タ1216号274頁
  • 東京高決平成28年9月14日判タ1433号134頁株式交換に反対する株主の買取請求について、DCF法を基礎に修正簿価純資産法を下支えとして「公正な価格」を決定
  • 大阪高判令和6年7月12日判タ1530号86頁株式買取業者による譲渡制限株式の譲受けを弁護士法73条違反により無効とした判決
  • 藤田友敬「譲渡制限株式の評価方法に関する一視点」松井秀征ほか編『商法学の再構築 ― 岩原紳作先生・山下友信先生・神田秀樹先生古稀記念』95頁(有斐閣、2023年)仮定的交渉アプローチの提唱。115頁以下の追記で両最高裁決定を踏まえた判例法理を整理
  • 久保田安彦「譲渡制限株式の売買価格〔上〕〔下〕 ― 裁判例の分析・評価を中心にして」商事法務2357号4頁・2358号62頁(2024年)プロ・ラタ価値説の主張と、平成16年以降の公表裁判例の一覧
  • 仲卓真「譲渡制限株式の売買価格決定における『売買価格』の解釈」民商法雑誌159巻6号768頁(2024年)交換価値説の理論的基礎づけとプロ・ラタ価値説への反論。803頁以下に残された課題
  • 古家野彰平「株式売買価格決定申立てにおける譲渡制限株式の売買価格の評価はどうあるべきか(覚え書き)」(弁護士法人古家野法律事務所ウェブサイト、2024年5月9日)
  • 加藤真朗編著『株主管理・少数株主対策ハンドブック』(日本加除出版、2022年)、同編著『弁護士・公認会計士の視点と実務 中小企業のM&A〔第2版〕』(日本加除出版、2023年)
  • 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第5回(2026年8月20日)資料

条文のリンクは法令本文へ移動します。裁判例は掲載誌の巻号頁を記載しています。最高裁の裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で裁判年月日から原文を確認できます。本講は公開時点の法令・裁判例・学説に基づく一般的な解説であり、個別の事案への適用については必ず弁護士にご相談ください。

次回 第5講「紛争は株主名簿から始まる」から第Ⅱ部・会社の守り編に入ります。価格の争いの前に、そもそも誰が何株を持っているのかを会社が把握しているか。株主名簿の整備が、すべての少数株主対策の土台になることを扱います。

公開日 2026年8月24日/改訂日 2026年9月22日

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