『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第14講】
少数株主を「合法的に」排除する
― スクイーズアウトの選択肢と価格のルール:争点は「排除できるか」ではなく「いくら払うか」 ―
「株主15人のうち13人からは買い取れました。残る2人は連絡を無視するか、法外な価格を要求してきます。後継者の持株は92%になりました。強制的に買い取る方法はありますか」
「叔父が株式買取業者に株を売ってしまいました。業者から『適正価格で買い取れ、さもなければ株主権を行使する』と言われています。業者を株主から外す方法はありますか」
「少数株主の立場です。会社から『株式併合で私の株が1株未満になり、金銭で清算する』という通知が届きました。提示価格は税務上の評価額の半分以下です。もう株主でいられないのですか」
この講の結論
買取交渉に応じない株主、所在も意思も不明な株主、株式買取業者に株式を売ってしまった株主。任意の集約が不可能な場合の最終手段が、金銭を対価として少数株主を強制的に退出させるスクイーズアウト(キャッシュアウト)です。現行法上の主な手法は、議決権の90%以上を持つ特別支配株主が株主総会を経ずに行う株式等売渡請求(会社法179条以下)と、株主総会の特別決議(3分の2)で行う株式併合(180条以下)の二つです。
いずれの手法でも、少数株主には裁判所に価格の決定を申し立てる道が保障されています。したがって真の争点は「排除できるか」ではなく、「いくら払うことになるか」です。最高裁は、公正な手続を経た価格には裁判所が原則として介入しないという考え方を示しており(最決平成28年7月1日民集70巻6号1445頁)、非上場会社でも、第三者算定書、算定過程の記録、少数株主への誠実な情報開示という手続の公正さが価格を守ります。安い対価で強行したスクイーズアウトは、価格決定手続で大幅な増額を命じられるだけでなく、差止め・決議取消し・無効の訴え・役員の責任追及にまで発展します。そしてスクイーズアウトの本質は、発動そのものより、発動できる態勢を整えておくことにあります。その態勢が、任意交渉における会社側の交渉力を決めるからです。
1任意交渉が決裂したら ― スクイーズアウトの位置づけ
第12講で見たとおり、株式集約の王道は任意の買取りです。しかし、どれほど丁寧に交渉しても、応じない株主は残ります。連絡を無視する株主、実質価値の何倍もの価格を要求する株主、株式買取業者に株式を売ってしまった株主、相続で株式を取得したが会社に関心のない相続人。こうした株主が数%でも残っていれば、株主総会の招集通知は毎年その株主にも送らなければならず、3%以上であれば帳簿閲覧請求や招集請求の権利が残り(第7講)、M&Aの場面では買い手が100%の取得を求めることがほとんどです。
スクイーズアウトは、多数派株主が、少数株主の同意なしに、金銭を対価としてその株式を取得する手法の総称です。「合法的に排除する」という表現は穏やかではありませんが、会社法はこの手法を明文で認めています。株式の自由な譲渡が保障される一方で、株式会社の運営には多数決の原理が働き、少数株主が「株式の価値に相当する金銭を受け取って退出する」ことは、少数株主の財産権を金銭で保障しつつ会社の意思決定を円滑にする仕組みとして位置づけられています。平成26年の会社法改正(平成27年5月施行)で特別支配株主の株式等売渡請求が新設され、株式併合にも少数株主保護の手続が整備されたことで、現在の実務はこの二つを軸に動いています。
図解A スクイーズアウトの三つの手法と、現在の使い分け
図解A いずれも少数株主には価格決定の申立てが保障される。違いは持株要件と手続の重さ
2二大手法の比較 ― 株式等売渡請求と株式併合
実務で使われる二つの手法を、要件と手続の面から比較します。
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| 比較項目 | 特別支配株主の株式等売渡請求 | 株式併合 |
|---|---|---|
| 条文 | 179条〜179条の10、846条の2以下 | 180条〜182条の6、234条・235条 |
| 必要な持株比率 | 総株主の議決権の90%以上(定款で引き上げ可。完全子法人の保有分を含む) | 株主総会の特別決議(議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その3分の2以上。309条2項4号) |
| 誰が取得するか | 特別支配株主(個人または法人)が直接取得。対価も特別支配株主が支払う | 会社が株式を併合。端数の合計を競売または裁判所の許可を得て売却し、代金を株主に交付。会社自身が買い取ることも可(235条2項、234条2項・4項) |
| 株主総会 | 不要。対象会社の承認(取締役会設置会社は取締役会決議)で足りる(179条の3) | 必要。取締役は併合を必要とする理由を説明しなければならない(180条4項) |
| 少数株主への通知 | 取得日の20日前までに売渡株主に通知(179条の4。公告での代替不可) | 効力発生日の20日前までに株主に通知または公告(181条、182条の4第3項) |
| 事前・事後の情報開示 | 事前開示:通知の日から取得日後1年(非公開会社)まで備置き(179条の5)。事後開示:取得日から1年(非公開会社)備置き(179条の10) | 事前開示:総会の2週間前等から効力発生日後6か月まで(182条の2、施行規則33条の9)。事後開示:効力発生日から6か月(182条の6) |
| 少数株主の対抗手段 | 差止請求(179条の7)、売買価格決定の申立て(179条の8)、取得無効の訴え(846条の2) | 差止請求(182条の3)、反対株主の端数株式買取請求と価格決定の申立て(182条の4、182条の5)、決議取消しの訴え(831条) |
| 財源規制 | なし(特別支配株主が自己資金で支払う) | 会社が端数株式を買い取る場合は分配可能額の範囲内(461条1項7号) |
| 実務での使い分け | 90%を確保できる場合の最速ルート。総会不要で日程が短い | 3分の2しかない場合の標準ルート。総会と端数処理の裁判所許可が必要で日程は長い |
図表1 スクイーズアウト二大手法の比較
3特別支配株主の株式等売渡請求 ― 90%の最速ルート
特別支配株主とは、株式会社の総株主の議決権の10分の9以上を、自ら、または自らが発行済株式の全部を有する法人(特別支配株主完全子法人)とあわせて保有する者です(179条1項)。定款でこの割合を引き上げることはできますが、引き下げることはできません。特別支配株主は、他の株主全員に対し、その株式の全部を自分に売り渡すことを請求できます。株主総会の決議は要りません。
図解B 株式等売渡請求の手続の流れ
図解B 株主総会を経ないため、最短で通知から20日余りで完了する
この手続の特徴は、速さと、対象会社の関与の限定にあります。会社が行うのは承認と通知・開示だけで、対価を支払うのは特別支配株主本人です。したがって会社の分配可能額の制約(461条)は受けません。他方で、少数株主の側から見ると、株主総会がないため反対の意思表示をする場もなく、取得日の20日前の通知から、価格決定の申立てができる期間は取得日の前日までの約20日間しかありません。少数株主にとっては、通知を受けたら即座に専門家に相談しなければ、価格を争う機会を失う手続です。
差止請求(179条の7)は、①売渡請求が法令に違反する場合、②会社が通知や事前開示の規定に違反した場合、③対価の額や割当てが会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合に、売渡株主が不利益を受けるおそれがあるときに認められます。③が重要で、株式併合の差止め(182条の3。法令・定款違反に限られる)と異なり、対価の不当性そのものが差止めの理由になります。取得の無効は、非公開会社では取得日から1年以内に、訴えによってのみ主張できます(846条の2第1項)。
4株式併合 ― 3分の2の標準ルート
90%に届かないが3分の2以上を確保できる場合の標準ルートが、株式併合です。仕組みは単純で、たとえば少数株主の最大持株数が500株であれば、「1,000株を1株に併合する」という決議をすれば、少数株主の持株はすべて1株未満の端数になり、多数派だけが1株以上を持つ株主として残ります。端数の合計に相当する株式は競売または裁判所の許可を得て売却され、その代金が端数に応じて元の株主に交付されます(235条)。実務では、競売ではなく裁判所の許可を得て多数派株主または会社自身が買い取る方法がとられます。
図解C 株式併合によるスクイーズアウトの手続の流れ
図解C 株主総会・端数処理の裁判所許可・価格決定手続の三つが日程を決める
株式併合には、株式等売渡請求と異なる注意点が三つあります。第一に、株主総会が必要であることから、第8講で見た総会手続の瑕疵が決議取消し(831条)の原因になります。招集通知の漏れ・期間不足、取締役会決議の欠如、理由説明の不足は、スクイーズアウト全体を覆します。第二に、端数処理には裁判所の許可が必要で(234条2項)、許可の申立てでは売却価格の相当性を示す資料(算定書)が求められます。第三に、反対株主の買取請求は「一株に満たない端数となるものの全部」について公正な価格での買取りを求めるもので、価格決定の申立ては効力発生日から30日の協議期間の後30日以内、つまり効力発生日から60日以内に行う必要があります(182条の5第2項)。少数株主は、総会前の反対通知、総会での反対、買取請求、価格決定の申立てという四つの段階をすべて期限内に踏まなければなりません。
5少数株主の対抗手段 ― 「排除できるか」ではなく「いくらか」
いずれの手法でも、要件と手続が整っていれば、少数株主が株主の地位を保ち続けることはできません。少数株主に保障されているのは、「公正な価格」を裁判所に決めてもらう権利です。この構造を理解すると、スクイーズアウトの争点は「排除できるか」ではなく「いくら払うことになるか」であることが分かります。少数株主側の対抗手段を、期限とともに整理します。
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| 対抗手段 | 株式等売渡請求 | 株式併合 | 効果 |
|---|---|---|---|
| 差止請求 | 法令違反、通知・開示違反、対価が著しく不当な場合(179条の7) | 法令・定款違反の場合に限る(182条の3)。対価の不当性だけでは差し止められない | 取得・併合そのものを止める。仮処分で申し立てる |
| 価格決定の申立て | 取得日の20日前の日から取得日の前日まで(179条の8)。反対通知は不要 | 総会前の反対通知+総会での反対(議決権のない株主は不要)→効力発生日の20日前から前日までに買取請求→効力発生日から30日以内に協議→整わなければ30日以内に申立て(182条の4、182条の5) | 裁判所が「公正な価格」を決定。決定価格に法定利率の利息が付く。多数派側は決定前に自ら公正と認める額を仮払いできる |
| 決議取消しの訴え | 株主総会がないため対象外 | 決議の日から3か月以内(831条)。招集手続・決議方法の瑕疵、特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議など | 決議が取り消されれば併合は効力を失う |
| 無効の訴え | 取得日から1年以内(非公開会社。846条の2)。売渡株主であった者・取締役等が提訴できる | 株式併合の無効を争う特別の訴えはなく、一般の無効主張や決議の瑕疵を争う | 取得が無効になれば株主の地位が回復する |
| 取締役の責任追及 | 対価の相当性を検討せず承認した取締役の任務懈怠(423条、429条) | 不当な価格で併合を決定・実行した取締役の任務懈怠 | 損害賠償。第三者に対する責任(429条)も問題となる |
図表2 少数株主の対抗手段と期限 ― 期限を一つ落とすと、価格を争う道が閉じる
少数株主側の実務でもっとも多い失敗は、期限の見落としです。株式等売渡請求では、通知から取得日の前日まで約20日しかありません。株式併合では、総会前の反対通知を出し忘れると買取請求ができず、買取請求をしても効力発生日から60日以内に価格決定を申し立てなければ、協議が整わない限り会社の提示価格を争う場がなくなります。通知が届いたら、その日のうちに専門家に相談し、すべての期限をカレンダーに入れることが、少数株主側の最初の仕事です。少数株主側の戦い方は第20講・第22講でも扱います。
6価格のルール ― 公正な手続が価格を守る
裁判所が決める「公正な価格」は、どのように決まるのか。この点について、最高裁は上場会社の事案で重要な判断を示しています。公開買付け(TOB)で株式の大部分を取得した後、全部取得条項付種類株式を用いて残りの株主をTOB価格と同額でキャッシュアウトした事案について、最高裁は、多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在を踏まえた一般に公正と認められる手続により公開買付けが行われ、その後に同一の価格で株式が取得された場合には、取得価格を決定する裁判所は、特段の事情がない限り、公開買付価格と同額を取得価格とするのが相当であると判示しました(最決平成28年7月1日民集70巻6号1445頁)。
この決定は、裁判所が独自に株式の価値を算定して価格を決めるのではなく、手続の公正さが確保されているなら、その手続で形成された価格を尊重するという考え方を明らかにしたものです。上場会社の事案であり、市場価格と公開買付けという非上場会社にはない要素を前提にしていますが、その根底にある「手続の公正さが価格の公正さを推認させる」という発想は、非上場会社の株式併合や株式等売渡請求の価格決定でも参照されています。逆にいえば、手続が公正でなければ、裁判所は当事者が定めた価格を尊重せず、独自の算定に踏み込むということです。非上場会社では市場価格がないため、裁判所の独自算定はDCF法・収益還元法・純資産法の折衷など、第4講で見た方法で行われ、多数派が定めた対価を大幅に上回ることがあります。
図解D 非上場会社のスクイーズアウトで「価格の防御力」を決める四つの要素
図解D 四つの要素が揃えば、裁判所が対価を尊重する余地が広がる。欠けるほど独自算定に踏み込まれる
とくに④は、非上場会社で誤りやすい点です。少数株主の株式は、相続税の評価上は配当還元方式で低く評価されます(第11講・第13講)。しかし、それは相続税・贈与税の場面の評価であって、会社法上の「公正な価格」ではありません。配当還元価額でスクイーズアウトの対価を定めれば、価格決定の申立てで大幅な増額を命じられる可能性が高く、その差額に法定利率の利息が付きます。さらに、任意の買取りに応じた株主にはある価格を払い、応じなかった株主を著しく低い対価で排除するという構図は、対価の「著しく不当」(179条の7第1項3号)や決議の著しい不当性を裏づける事実になります。
7手続の瑕疵が招くもの ― 差止め・取消し・無効・役員責任
安い対価で強行したスクイーズアウト、あるいは手続を軽視したスクイーズアウトは、価格決定手続での増額だけでは済みません。会社側が負うリスクを段階別に整理します。
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| 段階 | 起きうること | 会社側への影響 |
|---|---|---|
| 実行前 | 差止めの仮処分(179条の7、182条の3) | 手続が止まる。対価の著しい不当性が認定されれば、価格を見直して再度行う必要 |
| 実行後・価格決定 | 価格決定の申立てで対価を大幅に上回る価格が決定。決定価格に法定利率の利息 | 想定外の資金負担。任意買取りに応じた株主との価格差が表面化し、その株主との関係も悪化 |
| 実行後・効力 | 株式併合:決議取消しの訴え(3か月)で決議が取り消される。株式等売渡請求:無効の訴え(1年)で取得が無効 | 排除したはずの株主が株主の地位を回復。その間に行った決議・登記・M&Aへの影響 |
| 役員の責任 | 対価の相当性を検討せずに承認・決定した取締役に対する任務懈怠責任(423条)、第三者に対する責任(429条) | 役員個人が損害賠償を負う。少数株主が代表訴訟や直接請求で追及 |
図表3 手続と価格を軽視したスクイーズアウトの帰結
非公開会社では、株主が少数で顔の見える関係にあることが多く、スクイーズアウトは「親族を金銭で追い出す」行為として受け取られます。手続上の些細な瑕疵が、感情的な対立を背景に、徹底的に争われる原因になります。手続を完璧に整えることは、法的なリスクを避けるためだけでなく、「正当な手続を経て、正当な価格を払った」という事実を残すためでもあります。
8「排除の一手」は最後に、しかし準備は最初に
スクイーズアウトは、発動そのものよりも、発動できる態勢を整えておくことに意味があります。90%ライン(または3分の2)の確保、対価を支払う資金の手当て(会社が買い取るなら分配可能額の確認)、第三者による算定書の準備。これらが整っているという事実自体が、任意交渉における会社側の交渉力を決めます。
任意交渉の場面で、少数株主側が「売らない」と言えるのは、売らなくても株主でいられるからです。会社側が90%を確保し、算定書を持ち、「応じていただけない場合は、株式等売渡請求により算定書の価格で取得することになります」と示すことができれば、少数株主にとっての選択は「売るか、売らないか」ではなく、「今、この価格で合意して売るか、手続を経て裁判所が決める価格で売るか」に変わります。多くの株主は、この段階で合意に至ります。逆に、態勢のない会社が「売ってくれなければ困る」と頼み込む交渉は、少数株主に価格を吊り上げる余地を与え続けます。
攻めの手続に見えて、その本質は交渉のための布陣である。これが実務の感覚です。そして布陣を整える作業は、第5講の株主名簿の確定から始まります。誰が何株を持っているかが確定していなければ、90%も3分の2も計算できません。
PRACTICE NOTE
スクイーズアウトの実行スケジュール
株式等売渡請求と株式併合について、当事務所が会社側で実行する際の標準的な工程を示します。日数は法定の最短期間であり、実際には算定書の取得と裁判所の許可手続に相応の時間を見込みます。
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| 工程 | 株式等売渡請求(90%) | 株式併合(3分の2) |
|---|---|---|
| 準備① 株主構成の確定 | 株主名簿の確定、名義株・相続未処理・所在不明株主の整理(第5講・第6講・第15講)。持株比率の計算(議決権ベース) | |
| 準備② 算定書の取得 | 独立した第三者による株価算定書。複数の評価方法と採用理由。任意買取りの価格との整合を確認 | |
| 準備③ 資金と財源 | 特別支配株主の自己資金(借入れを含む)。財源規制なし | 会社が端数株式を買い取る場合は分配可能額の確認(461条1項7号)。多数派株主が買い取る場合はその資金 |
| 準備④ 定款・株券の確認 | 定款で90%を引き上げていないか | 発行可能株式総数(非公開会社は4倍規制なし。180条3項)。株券発行会社なら株券提出の手続(219条) |
| 実行① 決定 | 特別支配株主が対価・取得日等を定めて会社に通知(179条の2、179条の3)。会社は取締役会で承認 | 取締役会で併合割合・効力発生日・総会招集を決定。事前開示書面の作成(施行規則33条の9) |
| 実行② 通知・開示 | 取得日の20日前までに売渡株主に通知(179条の4)。事前開示書面の備置き(179条の5) | 総会の招集通知(1週間〜2週間前)。効力発生日の20日前までに株主に通知(181条、182条の4第3項)。事前開示書面の備置き(182条の2) |
| 実行③ 決議 | 不要 | 株主総会の特別決議。取締役による理由説明(180条4項)。議事録の作成 |
| 実行④ 少数株主の対抗期間 | 取得日の20日前〜前日:価格決定申立て(179条の8)、差止請求 | 効力発生日の20日前〜前日:買取請求(182条の4)、差止請求。決議の日から3か月:取消しの訴え |
| 実行⑤ 効力発生 | 取得日に特別支配株主が全株式を取得(179条の9)。対価の支払い。名義書換 | 効力発生日に併合。端数処理のための裁判所の許可申立て(234条2項)と売却・代金交付(235条) |
| 実行⑥ 事後 | 事後開示書面の作成・1年間備置き(179条の10)。無効の訴えの期間(1年)を管理 | 事後開示書面の作成・6か月備置き(182条の6)。価格協議(30日)と価格決定申立て(その後30日)への対応。登記(発行済株式総数の変更) |
準備①から④を終えてから実行①に入ることが、この工程表の要点です。準備段階で見つかった名義株や相続未処理の株式は、持株比率の計算を揺るがし、実行後に「実は90%に達していなかった」という事態を招きます。準備②の算定書は、実行前に少数株主への最終提案(任意買取り)にも使えます。
実務チェック
- 株主名簿が確定し、多数派の持株比率(議決権ベース)を正確に計算できるか。90%または3分の2の要件を、名義株・相続未処理株式の扱いを含めて確認したか。
- 多数派株主から独立した第三者による株価算定書を取得したか。複数の評価方法と採用理由が記載されているか。
- 対価は税務上の評価額ではなく実質価値に基づいているか。任意買取りに応じた株主に払った価格と整合しているか。
- 会社が端数株式を買い取る場合、分配可能額(461条1項7号)を確認したか。特別支配株主が支払う場合、資金の手当てができているか。
- 通知の期限(取得日・効力発生日の20日前)、事前開示・事後開示の備置き期間、株式併合なら総会の招集手続を、日程表に落としているか。
- 株式併合の場合、取締役が総会で説明する「併合を必要とする理由」を準備したか。事前開示書面に端数処理の方法・買取者の資金確保・交付見込額の相当性を記載したか。
- 少数株主からの差止め・価格決定申立て・取消しの訴え・無効の訴えの各期限を把握し、対応の準備をしているか。
- 実行前に、算定書の価格を示した最終的な任意買取りの提案を行ったか。
よくある質問
後継者の持株が92%になりました。残る2人の株主を強制的に買い取れますか。
できます。総株主の議決権の90%以上を保有する株主は「特別支配株主」として、他の株主全員に対し、株式の全部を売り渡すことを請求できます(会社法179条1項)。株主総会の決議は不要で、対象会社の承認(取締役会設置会社では取締役会決議。179条の3)と、取得日の20日前までの売渡株主への通知(179条の4)、事前・事後の情報開示(179条の5、179条の10)を経て、取得日に特別支配株主が全株式を取得します。対価は特別支配株主が支払い、会社の分配可能額の制約は受けません。ただし、売渡株主は取得日の前日までに裁判所に売買価格の決定を申し立てることができ(179条の8)、対価が著しく不当な場合は差止めも請求できます(179条の7)。独立した第三者の算定書に基づく実質価値ベースの対価を定めることが、この手続を安全に完了させる条件です。
持株は70%です。90%に届きませんが、少数株主を排除する方法はありますか。
株式併合が使えます。株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上。会社法309条2項4号)で、少数株主の持株がすべて1株未満の端数になる割合の併合を決議し、端数を金銭で処理します(180条以下、235条)。ただし手続は株式等売渡請求より重く、株主総会での取締役による理由説明(180条4項)、効力発生日の20日前までの通知、事前開示書面の備置き(182条の2、施行規則33条の9)、端数処理のための裁判所の許可(234条2項)が必要です。反対株主は端数株式の買取請求と価格決定の申立てができ(182条の4、182条の5)、招集手続や決議方法に瑕疵があれば決議取消しの訴え(831条)の対象になります。会社が端数株式を買い取る場合は分配可能額の範囲内でなければなりません(461条1項7号)。70%から任意買取りで90%まで積み上げ、株式等売渡請求に切り替える選択肢も、あわせて検討する価値があります。
少数株主です。株式併合の通知が届きました。提示価格は税務上の評価額の半分以下です。どうすればよいですか。
期限を一つも落とさないことが最初の仕事です。①株主総会に先立って、会社に株式併合に反対する旨を書面で通知する。②株主総会に出席して反対の議決権を行使する(議決権のない株主は①②不要)。③効力発生日の20日前の日から前日までに、端数となる株式の買取りを「公正な価格」で請求する(会社法182条の4)。④効力発生日から30日以内に会社と価格を協議し、整わなければその後30日以内に裁判所に価格決定を申し立てる(182条の5)。裁判所が決める「公正な価格」は、税務上の配当還元価額ではなく、会社の実質的な価値に基づいて算定されるのが通常で、決定価格には法定利率の利息が付きます。あわせて、招集手続や決議方法に瑕疵があれば、決議の日から3か月以内の決議取消しの訴え(831条)、法令・定款違反があれば差止め(182条の3)も検討します。事前開示書面(182条の2)の閲覧・謄写を請求して、算定の根拠を確認してください。通知を受けた日のうちに専門家に相談することをお勧めします。
叔父が株式買取業者に株を売りました。業者を株主から外せますか。
二つの段階で考えます。第一に、譲渡制限株式であれば、会社の承認のない譲渡は会社に対して効力を生じません(最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁)。業者から譲渡承認請求がされれば、会社は不承認とし、会社または指定買取人が買い取ることができます(第4講・第21講)。業者による譲受けの効力自体が争われた裁判例(大阪高判令和6年7月12日判タ1530号86頁)については第26講で扱います。第二に、業者が適法に株主となった場合でも、多数派が90%以上を確保していれば株式等売渡請求、3分の2以上なら株式併合により、業者を含む少数株主全員を金銭で退出させることができます。業者は価格決定の申立てで争う前提で株式を取得していますから、対価の設定と手続の公正さがとくに重要になります。業者との交渉に応じて高値で買い取る前に、この二段階の見通しを立てることが必要です。
スクイーズアウトで排除した株主から、後で訴えられることはありますか。
あります。株式等売渡請求では、取得日から1年以内(非公開会社)に取得無効の訴えを提起できます(会社法846条の2)。株式併合では、決議の日から3か月以内の決議取消しの訴え(831条)や、手続の瑕疵に基づく無効の主張が考えられます。いずれも、通知・開示の漏れ、持株要件の不充足、総会手続の瑕疵といった手続上の問題が原因になります。また、対価の相当性を検討せずに承認・決定した取締役に対しては、任務懈怠責任(423条)や第三者に対する責任(429条)が追及される可能性があります。手続を完璧に整え、独立した算定書に基づく対価を定め、事前・事後の開示を法定の期間備え置くことが、これらの訴えを防ぐ唯一の方法です。排除した株主との間で、価格決定の申立てとは別に紛争が続くことを避けるためにも、実行前の最終的な任意買取りの提案は必ず行うべきです。
おわりに ― 最終手段を持つ者が、最終手段を使わずに済む
スクイーズアウトは、株式集約の最終手段です。しかし実務の経験からいえば、この手段を実際に発動する場面は、態勢が整っている会社ほど少なくなります。90%の確保と算定書の準備ができた会社の提案に、多くの少数株主は合意します。強制的な手続は、使わないために整えるものです。逆に、態勢のないまま「排除する」と口にする会社は、少数株主の警戒を強め、任意の合意を遠ざけます。
明徳法律事務所(大阪市西区)では、会社側・多数派株主側からは、株主構成の確定、算定機関との協働、株式等売渡請求・株式併合の手続設計と実行、価格決定手続の対応を、少数株主側からは、期限管理、差止め・買取請求・価格決定申立ての代理、公正な価格の主張立証をお引き受けしています。どちらの立場でも、通知が届く前、あるいは届いた日にご相談いただくことが、結果を大きく変えます。
この講の主な根拠条文・裁判例・資料
- 会社法〔e-Gov法令検索〕108条1項7号、171条〜173条、179条〜179条の10、180条〜182条の6、219条、234条、235条、309条2項4号、423条、429条、461条1項7号、831条、846条の2以下
- 会社法施行規則〔e-Gov法令検索〕33条の9(株式の併合に関する事前開示事項)
- 最決平成28年7月1日民集70巻6号1445頁一般に公正と認められる手続により公開買付けが行われ、その後に同一価格で株式が取得された場合、特段の事情がない限り公開買付価格と同額を取得価格とするのが相当とした判例(JCOM事件)
- 最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁会社の承認を得ない譲渡制限株式の譲渡は会社に対する関係では効力を生じないとした判例
- 大阪高判令和6年7月12日判タ1530号86頁株式買取業者による譲渡制限株式の譲受けを弁護士法73条違反により無効とした判決(第26講)
- 加藤真朗編著『株主管理・少数株主対策ハンドブック』(日本加除出版、2022年)
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公開日 2026年8月24日/改訂日 2026年9月22日