任意交渉が決裂したら
買取交渉に応じない少数株主、所在も意思も不明な株主、買取業者に株式を売ってしまった株主――。任意の集約が不可能な場合の最終手段が、金銭を対価として少数株主を強制的に退出させる**スクイーズアウト(キャッシュアウト)**です。現行法上の主な手法は2つです。
図表:スクイーズアウト2大手法の比較
| 特別支配株主の株式等売渡請求 | 株式併合 | |
|---|---|---|
| 条文 | 会社法179条〜179条の10 | 180条〜182条の6 |
| 必要な持株比率 | 議決権の90%以上 | 総会特別決議(議決権の3分の2以上) |
| 株主総会 | 不要(取締役会承認等) | 必要(特別決議+事前・事後の情報開示〔182条の2、182条の6〕) |
| 少数株主の対抗手段 | 売買価格決定の申立て(179条の8)、差止め(179条の7) | 端数株式の買取請求・価格決定(182条の4・182条の5)、差止め(182条の3) |
| 実務での使い分け | 90%を握れる場合の最速ルート | 3分の2しかない場合の標準ルート |
いずれの手法でも、少数株主には裁判所に対する価格決定申立ての途が保障されており、「排除できるか」ではなく「いくら払うことになるか」が真の争点になります。
価格のルール ― 公正な手続が価格を守る
キャッシュアウト価格については、二段階買収の事案に関する最高裁平成28年7月1日決定(民集70巻6号1445頁・JCOM事件)が、「一般に公正と認められる手続」により公開買付けが行われ、その後に同一価格でキャッシュアウトされた場合には、裁判所は特段の事情がない限り公開買付価格と同額を「公正な価格」としてよい旨を判示しています。上場会社の判例ですが、その根底にある「手続の公正さが価格の公正さを推認させる」という発想は、非上場会社の株式併合等でも参照されます。
非上場会社の実務に引き直せば、①第三者算定機関による株価算定書の取得、②算定の前提資料・プロセスの記録化、③少数株主への丁寧な情報開示と説明、④税務評価額ではなく実質価値ベースの誠実な価格設定、が価格決定手続での「防御力」を決定づけます。安い対価で強行したスクイーズアウトは、価格決定手続で大幅な増額を命じられるだけでなく、非公開会社では総会決議取消し・差止め・役員の損害賠償責任(任務懈怠)まで発展し得ます。
「排除の一手」は最後に、しかし準備は最初に
スクイーズアウトは、発動そのものよりも、発動できる態勢を整えておくことに意味があります。90%ラインの確保、分配可能額・資金の手当て、算定書の準備。これらが整っているという事実自体が、任意交渉における会社側の交渉力を劇的に高めるからです。攻めの手続に見えて、その本質は交渉のための布陣である――これが実務の感覚です。