「株主名簿にはいるが、どこにいるか分からない」
設立から数十年を経た会社では、株主名簿に記載はあるものの、通知が届かず、配当も受け取らない株主が一定数生じます。所在不明株主の存在は、株主総会の運営を不安定にするだけでなく、M&A・事業承継の場面で「発行済株式の100%を引き渡せない」という致命的な障害になります。
会社法の原則 ― 5年ルール(197条・198条)
会社法197条1項は、①会社からの通知・催告が5年以上継続して到達せず(196条1項により通知義務自体は免れますが)、かつ②その株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかった場合に、会社がその株式を競売または裁判所の許可を得た売却(会社自身による買取りを含む)により処分できると定めます。処分にあたっては、株主等が異議を述べられる公告・催告手続(198条)が必要です。
実務のポイントは、①の「5年間の通知不到達」は通知を発送し続けていた実績が前提になることです。株主総会の招集通知を送っていなかった会社は、そもそもこの制度のスタートラインに立てません。所在不明株主対策は、「まず通知を送り始めること」から逆算すると最低5年がかりのプロジェクトになります。
経営承継円滑化法の特例 ― 5年を1年に短縮
この「5年」の壁を破るのが、令和3年改正(2021年8月2日施行)で創設された経営承継円滑化法に基づく会社法特例です。非上場の中小企業者が、①代表者の高齢・健康状態等により経営の継続に支障が生じていること(経営困難要件)、②所在不明株主の株式取得が事業承継(M&Aを含む)に必要であること(円滑承継困難要件)について都道府県知事の認定を受けた場合、197条・198条の「5年」が**「1年」に短縮**されます。
通知不到達5年+無配当5年
公告・催告 → 競売/裁判所の許可を得た売却
都道府県知事の認定 + 通知不到達1年+無配当1年 + 特例上の公告・個別催告
会社法上の手続へ(大幅な時間短縮)
特例活用の実務
特例は「事業承継ニーズの高い会社」に対象を絞った制度であり、認定申請には後継者・承継計画に関する疎明資料が求められます。また、認定を得ても裁判所の売却許可手続(非訟)は必要であり、売却価格の相当性についての疎明(株価算定資料)も欠かせません。認定申請(行政手続)と売却許可申立て(裁判手続)をワンストップで設計できるかが、所要期間を左右します。
なお、株式の90%以上を確保できるのであれば、所在不明株主を含めた株式等売渡請求(179条)や株式併合による処理(第14講)のほうが早い場合もあります。所在不明株主対策は、常に他の集約手法との比較の中で最適ルートを選ぶべき問題です。