『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第16講】
社長が亡くなった日、株はどうなる
― 相続と「準共有」の落とし穴:遺産分割が終わるまで、株は「みんなのもの」 ―
「父(社長)が先週亡くなりました。遺言はありません。株は父が100%持っていました。相続人は母と私と弟です。私が専務として会社を継ぐつもりですが、弟は『株は3人で分けるものだ』と言っています。来月の定時株主総会はどうすればよいですか」
「亡くなった会長が60%、私が40%を持っています。会長の相続人は疎遠な長女一人です。長女から『私が60%の株主だから、次の総会で取締役を入れ替える』と言われました。まだ遺産分割もしていないのに、そんなことができるのですか」
「株主の一人が亡くなり、相続人が4人いると聞きました。総会の招集通知は誰に送ればよいのですか。議決権は誰が行使するのですか」
この講の結論
オーナー社長が遺言なく亡くなると、その株式は相続人全員の準共有になります(民法898条、264条)。ここで最も誤解されやすいのは、株式が法定相続分に応じて当然に分割されるのではない、ということです。相続人が妻と子2人なら、1株1株が「妻2分の1・子各4分の1」の持分による共有状態になり、遺産分割が終わるまでこの状態が続きます。
準共有の株式について権利を行使するには、共有者が権利行使者1名を定めて会社に通知しなければならず(会社法106条本文)、権利行使者の指定は共有持分の過半数で決めることができます(最判平成9年1月28日)。つまり、法定相続分で過半数を押さえた相続人グループが、株式全部の議決権を掌握し得るのです。逆に相続人の意見が割れて過半数がまとまらなければ、株式の議決権は事実上凍結され、役員改選も決算承認もできない「止まった会社」になります。会社が「都合のよい相続人」の議決権行使に同意して総会を乗り切ろうとしても、その行使が民法の共有の規定(持分の過半数による決定)に従っていなければ適法にならず(最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁)、決議取消しのリスクを免れません。この事態を避ける最善策は、遺言と生前の株式移転です。準共有が生じてしまった後は、会社法と相続法の両方を見ながら、会社を止めないための手順を組むことになります。
1遺産分割が終わるまで、株は「みんなのもの」― 準共有とは何か
人が亡くなると、その財産は相続人に承継されます。相続人が複数いる場合、相続財産は相続人の共有に属し(民法898条1項)、各相続人の共有持分は法定相続分(または遺言による指定相続分)によります(同条2項)。株式は所有権の対象ではなく「株主としての地位」という財産権ですから、正確には共有ではなく準共有と呼ばれ、共有に関する民法の規定が準用されます(264条)。
準共有という言葉は難しく聞こえますが、意味するところは単純です。オーナー社長が1万株を持って亡くなり、相続人が妻と子2人であれば、1万株の一つひとつが「妻2分の1・長男4分の1・次男4分の1」の持分割合で3人の共有になる、ということです。「妻が5,000株、長男が2,500株、次男が2,500株を持つ」のではありません。誰がどの株式を取得するかは、遺産分割によって初めて決まります。遺産分割が終わるまで、株式は3人全員のものであり、同時に誰のものでもない、という状態が続きます。
この状態は、株主が一人しかいなかった会社にとって、根本的な変化です。昨日まで社長一人が決めていた株主総会の決議は、今日から「相続人全員の準共有株式の権利をどう行使するか」という問題に変わります。そして遺産分割は、争いがなければ数か月、争いがあれば数年かかります。その間、会社の意思決定機関である株主総会をどう運営するかが、本講のテーマです。
2「法定相続分で分かれる」という誤解 ― 当然分割されない財産
相続の実務では、預貯金や株式のような可分の財産が、相続開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割されるかどうかが、長く争われてきました。株式について最高裁は、株式は株主としての地位であり、剰余金配当請求権や議決権などの権利を含むものであるから、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象になると判断しています(最判平成26年2月25日民集68巻2号173頁)。同じ判決で、投資信託受益権や個人向け国債についても当然分割が否定され、その後、預貯金についても遺産分割の対象とする判断が示されています(最大決平成28年12月19日民集70巻8号2121頁)。
この判例の実務的な意味は大きいものです。「相続人が3人だから、株式も3分の1ずつになったはずだ」と考えて、各相続人がそれぞれ株主として行動することはできません。相続人の一人が「自分の法定相続分の株式について議決権を行使する」と主張しても、会社はそれを認めることができません。株式は、遺産分割で帰属が決まるまで、常に「全員で一つの権利」として扱われます。
図解A 「当然分割」と「準共有」の違い
図解A 「分けたつもり」で行動した株主総会の決議は、後に取り消される
3準共有株式の議決権は誰が行使するのか ― 権利行使者の指定(106条)
会社法106条本文は、株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、その株式についての権利を行使する者一人を定め、会社に対してその者の氏名または名称を通知しなければ、その株式についての権利を行使することができないと定めています。会社の側から見れば、相続人の誰かが「権利行使者」として通知してこない限り、準共有株式の議決権は行使されない、ということです。
では、権利行使者はどのように決めるのか。最高裁は、共有株式の権利行使者の指定は、共有物の管理に関する行為として、共有者の持分の価格に従いその過半数で決することができると判断しています(最判平成9年1月28日判時1599号139頁)。全員の合意は必要ありません。妻2分の1・長男4分の1・次男4分の1の例では、妻と長男(合計4分の3)が合意すれば、次男の反対があっても権利行使者を指定できます。そして、指定された権利行使者は、共有者間の協議に拘束されず、自らの判断で議決権を行使することができるとされています(最判平成11年12月14日判時1699号156頁)。
この二つの判例を組み合わせると、実務的な帰結が見えてきます。法定相続分で過半数を押さえた相続人グループは、権利行使者を自分たちの中から指定することで、準共有株式全部の議決権を掌握できるのです。冒頭の二つ目の相談例では、会長の60%の株式を相続した長女は、相続人が一人であれば準共有は生じず、名義書換を経て60%の株主として議決権を行使できます。相続人が複数でも、長女が持分の過半数を持っていれば、自分を権利行使者に指定して60%の議決権を行使できます。「遺産分割がまだだから何もできない」というのは、少数の相続人側にとっての現実であって、過半数側にとっては違います。
反面、相続人の意見が割れて持分の過半数がまとまらない場合、権利行使者は指定できず、準共有株式の議決権は誰も行使できません。オーナーが100%株主だった会社では、これは株主総会が一切開けないことを意味します。取締役の任期が満了しても後任を選任できず、決算も承認できません。これが「議決権の凍結」です。
← 表は横にスクロールできます →
| 論点 | ルール・判例 | 実務への含意 |
|---|---|---|
| 権利行使者の指定方法 | 共有持分の価格に従い、その過半数で決定できる(最判平9.1.28)。全員一致は不要 | 法定相続分で過半数を持つ相続人グループが指定権を握る。配偶者(2分の1)は常に鍵を握る |
| 権利行使者の権限 | 指定された権利行使者は、共有者の協議に拘束されず自己の判断で議決権を行使できる(最判平11.12.14) | 権利行使者を出したグループが、株式全部の議決権を事実上支配する |
| 指定・通知がない場合 | 共有者は権利を行使できない(106条本文)。会社が同意すれば行使できるが、その行使は民法の共有規定に従っている必要がある(最判平27.2.19。次節) | 会社が勝手に「この相続人の議決権行使を認める」ことはできない |
| 訴えの提起 | 権利行使者の指定・通知を欠く共有者は、特段の事情がない限り、株主総会決議不存在確認の訴えの原告適格を持たない(最判平2.12.4民集44巻9号1165頁) | 少数の相続人側が決議を争うにも、権利行使者の指定が前提になる場面がある |
| 会社からの通知 | 共有者は通知を受領する者一人を定めて会社に通知する。定めがなければ会社は共有者の一人に通知すれば足りる(126条3項・4項) | 会社は招集通知を相続人の一人に送れば足りるが、実務では全員に送るのが無難 |
図表1 準共有株式の権利行使に関するルールと判例
4会社が「都合のよい相続人」の議決権行使を認めたら ― 最判平成27年2月19日
106条にはただし書があります。「株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない」。権利行使者の指定・通知がなくても、会社が同意すれば、共有者は権利を行使できるという規定です。この規定は、会社側にとって魅力的に見えます。相続人が対立して権利行使者が決まらないとき、会社が後継者である相続人の議決権行使に「同意」すれば、総会を乗り切れるように読めるからです。
最高裁は、この読み方を否定しました。事案は、株式を共同相続した姉妹(各2分の1)の間で遺産分割協議が成立しないまま、一方の姉妹が準共有株式について議決権を行使し、会社がこれに同意して取締役の選任などの決議がされた、というものです。最高裁は、106条本文は民法264条ただし書の「特別の定め」であり、同条ただし書は会社が同意した場合に本文の適用が排除されることを定めたものにすぎないから、権利行使者の指定・通知を欠いたまま共有者の一人がした議決権行使は、会社が同意しても、その行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは適法とならないと判断しました。そして、準共有株式の議決権行使は、原則として株式の管理に関する行為として、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決するべきものであるとしました(最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁)。姉妹各2分の1では過半数に達しませんから、一方の姉妹の議決権行使は違法であり、決議は取り消されました。
この判決の意味は、会社側にとって重いものです。会社が「都合のよい相続人」の議決権行使に同意しても、その相続人が持分の過半数の支持を得ていなければ、その総会決議は決議取消しの訴え(831条1項1号)の対象になります。取締役の選任決議が取り消されれば、選任された取締役は初めから取締役でなかったことになり、その取締役が招集した次の総会の決議も瑕疵を帯びます(第8講)。会社側が相続争いの一方に加担して総会を乗り切ろうとする試みは、会社の意思決定全体を不安定にします。
会社側が守るべき線 準共有株式について会社ができるのは、①権利行使者の指定・通知を待つこと、②持分の過半数による決定に基づく議決権行使であれば同意すること、③指定がない間は、その株式を「議決権を行使できない株式」として扱うこと、です。後継者側の相続人だけの求めに応じて議決権行使を認めることは、その相続人が持分の過半数を持っていない限り、決議取消しのリスクを会社が引き受けることになります。相続争いの当事者は相続人であって、会社ではありません。
5オーナー死亡後に起こること ― 時系列の全体図
オーナー社長が遺言なく亡くなった後、会社と相続人の周りで何が起きるかを、時系列で示します。
図解B オーナー死亡(遺言なし)後の三つの流れ
図解B 会社の運営・遺産分割・遺留分の三つの流れと、税務・会社法の期限が同時に走る
この図で見落とされがちなのは、三つの流れが互いに影響し合うことです。遺産分割で株式の評価額が争われれば、その間、権利行使者の指定も進みません。遺留分の請求があれば、後継者は金銭の支払いのために株式を売却または会社に買い取らせることを検討し、それが会社の資金と株主構成に影響します。相続税の納付期限(10か月)は、遺産分割の進捗を待ってくれません。相続と自社株が交わる案件は、会社法・相続法・税法の三つの時計を同時に見ながら進める必要があります。
6会社側の実務 ― 通知の宛先、名義書換、総会の運営
株主が亡くなったとき、会社の側で実際に必要になる対応を整理します。
第一に、相続の事実と相続人の確認です。会社は、株主の死亡を知ったら、戸籍謄本等により相続人を確認します。定款に相続人等に対する売渡請求の定め(174条)がある場合、会社が相続を知った日から1年以内に請求しなければならないため(176条1項)、「知った日」を記録しておくことが重要です(第17講)。
第二に、名義書換です。相続は一般承継ですから、相続人は名義書換をしていなくても株主ですが、株主名簿上の記載を更新するには、相続人からの請求が必要です。遺産分割前は、相続人全員の共有名義(「亡○○相続人 ○○ほか2名」といった形)で記載するか、権利行使者・通知受領者の指定を受けて記載します。遺産分割後は、株式を取得した相続人が、遺産分割協議書や調停調書などの相続を証する書面を添えて、単独で名義書換を請求できます(133条2項、会社法施行規則22条1項4号。第5講)。
第三に、通知の宛先です。共有者は通知を受領する者一人を定めて会社に通知すべきものとされ、その通知がない場合、会社は共有者のうちの一人に通知すれば足ります(126条3項・4項)。ただし実務では、相続人の一部だけに招集通知を送ると「知らされていない」という不満と争いの種になるため、判明している相続人全員に送るのが無難です。
第四に、株主総会の運営です。権利行使者の指定・通知があれば、その者を株主として扱い、議決権を行使させます。指定がなければ、準共有株式は議決権を行使できない株式として扱います。この場合、定足数や決議要件の分母(議決権を行使できる株主の議決権)から準共有株式が除かれるのか、含まれたまま「出席しない議決権」として扱われるのかは、決議の成否に直結する問題であり、事前に弁護士と確認しておく必要があります。オーナーが100%株主であった会社では、権利行使者の指定がなければ総会は一切決議できません。
7「止まった会社」を動かす ― 権利行使者の調整、一部分割、一時取締役
相続人の対立で権利行使者が指定できず、会社の意思決定が止まった場合、動かすための手段は三つあります。
第一に、権利行使者の指定をめぐる相続人間の調整です。持分の過半数で指定できるのですから、配偶者が鍵を握ることが多くなります。配偶者2分の1・子2人各4分の1の構成では、配偶者と子の一人が合意すれば指定できます。相続争いの当事者が「会社の運営」と「遺産の分け方」を切り離して考えられるかどうかが、ここでの分岐点です。会社が止まれば株式の価値そのものが下がり、相続人全員が損をする、という説明が、調整の出発点になります。指定の内容も、「遺産分割が終わるまでの暫定的な権利行使者」「役員の任期を1年とする」「重要事項は共有者全員の同意を要する」といった条件を付けた合意にすることで、少数側の不安を減らすことができます。
第二に、遺産の一部分割です。遺産分割は、遺産の全部について一度に行う必要はなく、共同相続人の協議で一部の分割をすることができます(民法907条1項)。協議が整わないときは、家庭裁判所に一部の分割を請求することもできますが、他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合は認められません(同条2項)。株式だけを先に分割して後継者に帰属させ、預貯金や不動産の分割は後回しにすることで、会社の運営を先に安定させる方法です。ただし、株式の評価額が確定しないまま株式だけを先に分割すると、残りの遺産から他の相続人が法定相続分に応じた財産を受け取れない事態が生じうるため、他の相続人がこれに応じるには、株式の評価額の見通しと残余遺産の確認が前提になります(第18講)。
第三に、一時取締役(仮取締役)の選任です。取締役が欠けた場合、任期満了や辞任により退任した取締役は後任が就任するまで権利義務を有しますが(346条1項)、死亡による退任にはこの規定は働きません。オーナー社長が唯一の取締役であった会社では、社長の死亡により取締役が不在になり、権利行使者が指定できなければ後任も選任できません。この場合、利害関係人の申立てにより、裁判所が一時取締役の職務を行うべき者を選任することができます(346条2項)。一時取締役は、会社の日常業務を維持しつつ、株主総会を招集して正規の取締役を選任する道を開きます。相続人・従業員・取引先・債権者などが申立人になり得ます。
← 表は横にスクロールできます →
| 手段 | 内容・根拠 | 使える場面と限界 |
|---|---|---|
| 権利行使者の指定(過半数合意) | 持分の過半数で権利行使者を指定し会社に通知(106条、最判平9.1.28)。暫定的な条件付き合意も可能 | 過半数がまとまれば最速。少数側の不安を条件で緩和する。遺産分割とは切り離して合意する |
| 遺産の一部分割 | 株式だけを先に分割し帰属を確定(民法907条1項・2項) | 株式の評価額と残余遺産の見通しがなければ他の相続人が応じにくい。審判では他の相続人の利益を害するおそれがあれば不可 |
| 一時取締役の選任 | 取締役が欠けた場合に、利害関係人の申立てで裁判所が選任(346条2項)。報酬は裁判所が定める(同条3項) | 取締役不在の会社を維持する緊急措置。株主構成の対立そのものは解決しない |
| 遺産分割調停・審判 | 家庭裁判所での手続。株式は鑑定により評価(第18講) | 終局的な解決だが年単位。その間の会社運営は上の三つで支える |
図表2 「止まった会社」を動かす四つの手段
8生前の備え ― 遺言・生前移転・種類株式・遺留分特例
本講で見た事態を避ける最善策は、準共有を生じさせないことです。方法は明確です。
第一に、遺言です。「会社の株式全部を長男に相続させる」という遺言(特定財産承継遺言。民法1014条2項)があれば、株式は相続開始と同時に長男に帰属し、準共有は生じません。遺言執行者を指定しておけば、名義書換などの手続も円滑に進みます。公正証書遺言にするか、自筆証書遺言なら法務局の保管制度を使うことで、遺言の存在と有効性をめぐる争いを減らせます。ただし、遺言で株式を後継者に集中させれば、他の相続人の遺留分を侵害する可能性が高く、遺留分侵害額請求(民法1046条)という別の紛争が待っています(第19講)。
第二に、生前の株式移転です。生前贈与や売買で後継者に株式を移しておけば、相続財産から外れます。贈与税・譲渡所得税と、特別受益としての持戻し(民法903条)、遺留分算定の基礎への算入(1044条)を考慮した設計が必要です(第13講・第19講)。
第三に、種類株式・属人的株式です。後継者以外の相続人に渡す株式を無議決権株式にしておけば、相続による準共有が生じても、経営への影響は限定されます(第9講)。第四に、経営承継円滑化法の遺留分特例(除外合意・固定合意)です。後継者に贈与した株式を遺留分算定の基礎から除外するか、その価額を合意時の価額に固定することで、遺言や生前贈与に伴う遺留分紛争を予防します(第19講)。
これらの備えは、いずれも社長が元気なうちにしかできません。認知症などで判断能力が失われれば遺言も贈与もできず、死亡すれば本講の状況になります。「まだ早い」と考えている社長ほど、この備えが必要です。
PRACTICE NOTE
社長死亡後90日の行動表
オーナー社長が遺言なく亡くなった場合に、会社側・後継者側で行うべきことを、時期別に整理します。当事務所が初動でお渡しするものです。
← 表は横にスクロールできます →
| 時期 | 会社側の作業 | 相続人・後継者側の作業 |
|---|---|---|
| 死亡直後〜2週間 | 代表者不在の確認。他に取締役がいれば取締役会で代表取締役を選定し登記(915条)。取締役が一人もいなければ一時取締役の申立て(346条2項)を検討。金融機関・主要取引先への連絡。相続を知った日の記録(176条の1年の起算) | 遺言の有無の確認(公証役場・法務局の遺言書保管所)。戸籍の収集と相続人の確定。株主名簿・定款・直近決算書の確保 |
| 〜1か月 | 定款の確認(売渡請求条項、種類株式、議決権の定め)。株主構成と準共有株式の持分割合の整理。定時総会の時期と取締役の任期の確認 | 相続放棄の要否の判断(3か月。民法915条)。相続人間で「会社の運営」と「遺産分割」を切り分ける話し合いの開始。権利行使者の暫定的な指定の協議 |
| 〜3か月 | 権利行使者の指定・通知を受けて株主総会を招集。指定がなければ準共有株式を議決権不行使として扱う方針を弁護士と確認。都合のよい相続人の議決権行使に同意しない | 権利行使者の指定(持分過半数)。暫定的な条件付き合意の書面化。株式の評価の準備(税務上の評価と実質価値の両方)。一部分割の検討 |
| 〜10か月 | 相続人からの帳簿閲覧等の請求への対応(第7講)。売渡請求の定めがあれば1年以内の請求の可否と価格の検討(第17講) | 相続税の申告・納付(10か月)。遺産分割協議。まとまらなければ調停の申立て。遺留分の請求があればその対応(第19講) |
| その後 | 遺産分割の結果に基づく名義書換(133条2項、施行規則22条1項4号)。株主構成の確定と、再分散を防ぐ設計(第9講・第10講) | 相続株式を会社に売る場合は申告期限後3年以内の特例(第13講)。後継者への集約(第12講) |
この表の中で最も重要なのは、最初の1か月で「会社の運営」と「遺産の分け方」を切り分けて話し合う流れを作ることです。両者が絡み合ったまま対立が固まると、会社の運営が遺産分割の交渉材料になり、会社が止まる期間が年単位に延びます。
実務チェック
- 株主が亡くなったとき、その株式が相続人全員の準共有になること、法定相続分で当然に分かれるわけではないことを、会社・相続人の双方が理解しているか。
- 相続人と法定相続分(共有持分)を戸籍で確認したか。持分の過半数を構成できる相続人の組合せを把握しているか。
- 権利行使者の指定・通知を受けるまで、準共有株式の議決権行使を認めない方針を会社が確認しているか。一部の相続人の求めに応じて「同意」していないか。
- 代表取締役の死亡後、代表者不在の期間を放置していないか。取締役が一人もいない場合、一時取締役の申立てを検討したか。
- 定款の売渡請求条項(174条)の有無と、相続を知った日から1年の期限を確認したか。
- 相続人間で、会社の運営(権利行使者の暫定指定)と遺産分割を切り分けて話し合う場を設けたか。一部分割の可能性を検討したか。
- 相続税の申告期限(10か月)と、相続株式を会社に売る場合の特例の期限(申告期限後3年)を把握しているか。
- 生前の備えとして、社長の遺言(特定財産承継遺言)、生前の株式移転、種類株式、遺留分特例を検討したか。
よくある質問
父(社長・100%株主)が遺言なく亡くなりました。相続人は母と私と弟です。来月の定時株主総会はどうすればよいですか。
父の株式は、遺産分割が終わるまで母2分の1・あなた4分の1・弟4分の1の持分で3人の準共有になります(民法898条、264条)。この株式について議決権を行使するには、共有者が権利行使者1名を定めて会社に通知する必要があり(会社法106条本文)、権利行使者の指定は持分の過半数で決めることができます(最判平成9年1月28日)。母とあなたが合意すれば(合計4分の3)、弟の反対があっても権利行使者を指定でき、総会で取締役の選任などの決議ができます。指定ができないまま、会社があなたの議決権行使に同意して総会を開くことは、その行使が持分の過半数による決定に基づいていない限り違法となり、決議が取り消されます(最判平成27年2月19日)。まず母と話し合い、遺産分割とは切り分けて「暫定的な権利行使者」を指定することが、会社を止めない最初の一手です。
亡くなった会長(60%)の相続人は長女一人です。長女は遺産分割前でも60%の株主として議決権を行使できますか。
できます。相続人が一人であれば準共有は生じず、長女は相続開始と同時に60%の株式を単独で取得しています。相続は一般承継ですから、名義書換をしていなくても長女は会社に対して株主であることを主張でき、相続を証する書面を添えて単独で名義書換を請求できます(会社法133条2項、施行規則22条1項4号)。したがって、長女は次の株主総会で60%の議決権を行使し、取締役を選任・解任することができます。会社側(あなた・40%)がこれを止める会社法上の手段は限られ、定款に相続人等に対する売渡請求の定め(174条)があれば、会社が相続を知った日から1年以内に、株主総会の特別決議で長女に株式の売渡しを請求することができます(この決議で長女は議決権を行使できません。175条2項)。これが第17講で扱う「相続クーデター」の構図であり、逆に長女側から見れば、売渡請求の定めがあるかどうかが最初に確認すべき点です。
相続人同士が対立して権利行使者が決まりません。取締役の任期が切れます。会社はどうなりますか。
任期満了で退任した取締役は、後任が就任するまで取締役としての権利義務を有しますので(会社法346条1項)、直ちに会社が機能を失うわけではありません。ただし、死亡により退任した取締役にはこの規定は働かず、社長が唯一の取締役だった会社では取締役が不在になります。この場合、相続人・従業員・債権者などの利害関係人の申立てにより、裁判所が一時取締役の職務を行うべき者を選任できます(346条2項)。株主総会の決議は、権利行使者が指定されない限りできませんから、相続人間の調整(持分の過半数による暫定的な指定)、株式だけを先に分ける一部分割(民法907条)、遺産分割調停の申立てを並行して進めることになります。会社が止まれば株式の価値も下がり、相続人全員が損をするという説明が、調整の出発点です。
会社としては、後継者である長男の議決権行使を認めて総会を進めたいのですが、問題ありますか。
長男が持分の過半数の支持を得ていない限り、問題があります。会社法106条ただし書は、会社が同意すれば権利行使者の指定・通知なしに共有者が権利を行使できると定めていますが、最高裁は、その権利行使が民法の共有の規定(管理行為として持分の価格の過半数で決する。民法252条)に従ったものでないときは、会社が同意しても適法にならないと判断しました(最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁)。この事案では、姉妹各2分の1の相続人の一方が議決権を行使し会社が同意した取締役選任決議が取り消されています。会社が一方の相続人に加担して総会を進めれば、決議取消しの訴え(831条)の対象になり、その決議で選任された取締役が招集した次の総会の決議にも瑕疵が及びます。会社ができるのは、持分の過半数による決定に基づく権利行使であることを確認した上で同意することまでです。
準共有の間、配当はどうなりますか。株主総会の招集通知は誰に送りますか。
剰余金の配当も株式についての権利ですから、権利行使者の指定・通知がなければ、共有者は配当を受領する権利を単独では行使できません。実務では、権利行使者または共有者全員の合意に基づく受領者に支払うか、指定がなければ支払いを留保し、遺産分割後に帰属が確定した相続人に支払うという扱いになります。招集通知については、共有者が通知を受領する者一人を定めて会社に通知すべきものとされ、その通知がなければ会社は共有者のうち一人に送れば足ります(会社法126条3項・4項)。ただし、相続人の一部にしか通知が届いていないことは、後の紛争で「知らされていなかった」という主張の材料になりますので、判明している相続人全員に送るのが実務上は安全です。
おわりに ― 会社法と相続法が正面から交わる場所
社長の死亡は、会社にとっては代表者の交代の問題であり、家族にとっては遺産の分け方の問題です。非上場会社では、この二つが「株式」という一つの財産の上で重なります。会社法は「権利行使者を決めなさい」と言い、相続法は「遺産分割で帰属を決めなさい」と言い、税法は「10か月で申告しなさい」と言う。三つの時計を同時に見ながら、会社を止めず、相続人の対立を深めず、期限を落とさない。これは、会社法か相続法か、どちらか一方の知見だけでは対応できない領域です。
明徳法律事務所(大阪市西区)では、株主の死亡直後の会社側の初動(代表者の選定、一時取締役の申立て、株主総会の運営方針)、相続人間の権利行使者の調整、遺産の一部分割や調停の代理、そして本講の事態を生じさせないための遺言・生前移転・種類株式・遺留分特例の設計を、両分野を日常的に扱う立場からお引き受けしています。
この講の主な根拠条文・裁判例・資料
- 会社法〔e-Gov法令検索〕106条、126条3項・4項、133条2項、174条〜176条、346条1項〜3項、831条1項1号、915条
- 会社法施行規則〔e-Gov法令検索〕22条1項4号(一般承継による株主名簿記載事項の記載の請求)
- 民法〔e-Gov法令検索〕252条、264条、898条、903条、904条の3、907条、915条、1014条2項、1044条、1046条、1048条
- 最判平成2年12月4日民集44巻9号1165頁権利行使者の指定・通知を欠く共有株主は、特段の事情がない限り株主総会決議不存在確認の訴えの原告適格を有しないとした判例
- 最判平成9年1月28日判時1599号139頁共有株式の権利行使者の指定は、持分の価格に従いその過半数で決することができるとした判例
- 最判平成11年12月14日判時1699号156頁権利行使者は共有者間の協議に拘束されず自己の判断で議決権を行使できるとした判例
- 最判平成26年2月25日民集68巻2号173頁株式・投資信託受益権・個人向け国債は相続開始と同時に当然に分割されず遺産分割の対象となるとした判例
- 最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁権利行使者の指定・通知を欠く共有者の議決権行使は、会社が同意しても民法の共有規定(持分の過半数による管理行為の決定)に従ったものでなければ適法とならないとした判例
- 最大決平成28年12月19日民集70巻8号2121頁預貯金債権も遺産分割の対象となるとした判例
- 加藤真朗編著『非上場株式の相続と会社法 ― 評価・遺産分割・換価・経営参加の法律実務』(新日本法規、2025年)第4章
条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例は掲載誌の巻号頁を記載しています。
公開日 2026年8月24日/改訂日 2026年9月22日